第10怪 メリコンドル兄貴(ついにホラー回だよ)
メリコンドル兄貴を知っているだろうか。
海に面した宵ヶ浜市に住む学生の間でささやかれる、都市伝説的存在である。宵ヶ浜の都市伝説は、大体がただの不審者情報なのだが、今回はどちらかというと本当に霊的な話である。
ついに本物のオカルトなの? 勘弁してほしい。
友人で、実家が寺の相模金剛曰く、メリコンドル兄貴は、一見優男風で金髪イケメンの風貌だが、宵ヶ浜市最北端の桜庭トンネルに下半身がめり込んでいるかわいそうな幽霊だとまことしやかにささやかれているのだとか。
金剛も一度見てきたが、めり込んでいるだけで霊障とかもないらしく、放置しているそうだ。
その話を聞いた僕は、金剛が霊視と除霊をできるというところにビビりつつも、高校生のくせに一人称が小生なだけあるな、と感心した。
ちなみに世界滅ぼしたい系女子である瑠璃子は、いくら霊でも、めり込んでいたら世界は滅ぼせないよね、と興味がなかった。
そこは興味をもってやれよ。
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今回はガチのオカルト案件っぽいので、調査するにあたり、実家が寺で、霊能力をもっているという金剛に一応確認を取った。
めり込んでいるだけだから、見に行っても問題ないとお墨付きをもらったオカルト研究会の三人は、今日も都市伝説の取材に向かう。
宵ヶ浜市最北端の桜庭トンネルには、公共交通機関で行くことが難しい。
バスで近所まで行くことも可能だが、最寄りのバス停から徒歩で三十分かかる。
よって、今回、僕こと才谷勇児、水川瑠璃子、円子多恵の三人は自転車で向かうのであった。
「ひぃ、ひぃ、きついでござる」
「……はぁ、はぁ」
上り坂に苦戦する女性陣に申し訳なく思いながら、僕は地図アプリで現在地を確認する。
現在地から目的地までを計算して、と。
「あと300メートル行くと残りは下り坂らしいから、もうちょっと頑張って。そこまで行ったら、いったん休憩にしよう」
病弱に見える瑠璃子は、文句を言う元気がないのか無口だが、途中で脱落することなくついてきた。体力はあるようだ。
きっと、日々のストーカーのたまものだな、ははは。
はぁ。
上り坂を終えた。
予定より早いが、坂の上で十五分ほど休憩をとることにした。
上り坂では無口だった瑠璃子が、水分補給して少し元気になったのか、口を開く。
「疲れたから、勇児成分補給を要求する」
「何それ」
僕は何かの成分を排出しているらしい。
彼女のお願いに困惑する。
「ギューってして」
「えっ、あっはい」
ああ、いちゃつきたかっただけね。
瑠璃子と僕は、道路脇に自転車を止め、しばらくハグをした。
シャンプーを変えたのか、今日の瑠璃子は姉と違うにおいがする。
姉を思い出さない異性のにおいにドキドキした。ずっと嗅いでいたいと思った。
瑠璃子の長い髪が風に揺れている。
「ごちそうさまでござる」
多恵はそう言って自転車にもたれかかって目をつむり、休憩を始めた。
瑠璃子が満足して休憩が終わったのは、出発予定時刻より、十分ほど経ってからだった。
下り坂になってからは女性陣も楽になったのかペースが速く、休憩地点から十分ほどで目的地の桜庭トンネル前にたどり着いた。
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桜庭トンネルの中央、緊急連絡用の電話が置かれている避難所の壁に、それはいた。
幽霊なので足はないらしいのだが、下半身がめり込んでいるので、普通の人間と区別がつかない。若干透けて見えるらしいが、トンネル内の暗さで、言われれば多少透けて見えるかな、という程度である。
「某は近頃メリコンドル兄貴と呼ばれている、地縛霊である」
金髪イケメンにもかかわらず一人称が某である。
というか、メリコンドル兄貴、普通にオカルト研究会に話しかけてきたな。
しかし、某か。
「まじか。多恵とちょっとキャラ被っているな」
「キャラ被りはこわいでござるな」
金剛が安全を保証したからか、オカルト研究会の面々は霊的な存在と会話していることを特に気にしていない。
メリコンドル兄貴も、今回のような見物人がたまに来るからか、単に良い霊なのか、怖がらせようとしてくることもない。
「某が人間だったころ、どういう人間だったのか、あまり覚えていない。死因だけはわかる。アルコールに頼りすぎたのか、霊とはそういうものなのか。それゆえ心残りが何かも、てんでわからぬ」
かわいそうだな。
僕らは、メリコンドル兄貴に地縛霊になった経緯を聞き、今後どうなりたいか、などを聞いていく。
一通り終わったところで、メリコンドル兄貴から要求があった。
「ところで、インタビューに答えた代わりと言っては何だが、ストロングなアルコールを買ってきてくれないだろうか」
「高校生には無理ですね」
「左様か」
幽霊もアルコールを欲するらしい。
めり込んでいて動けないし、人を恐怖のどん底に叩き落したいという欲求もないそうなので、アルコールですべてを忘れるくらいしか楽しみがないのかもしれない。
かわいそうに思ったので、メリコンドル兄貴と約束を交わす。
「次来ることがあれば、アルコールを姉に買っておいてもらって持ってきますよ」
「かたじけない」
メリコンドル兄貴の好感度が上がった!
武士キャラが若干被っている多恵は、終盤、会話に参加することはほとんどなかった。
メリコンドル兄貴との会話を終え、オカルト研究会の面々は再び山道に戻る。帰り道では、上り坂は短いので、女性陣も問題なく旅程を終えた。
なお、途中で瑠璃子からハグ休憩を要求されたことは想像に難くない。
「ぎゅー」
「はいはい」
もはや、ぎゅー、としか言わなくなったが、抱きしめてやる。
こうしてメリコンドル兄貴の調査は終了した。
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後日、僕は姉にストロングなアルコールを買ってもらい、金剛とともに桜庭トンネルに向かった。
アルコールを摂取した地縛霊が悪霊化しないとも限らないので、今回は念のため金剛についてきてもらった。
メリコンドル兄貴は、アルコール摂取後、このトンネルで全裸になって寝ていたところを警察に保護され、全裸マンとして大学で有名になった。
その後、社会が怖くなって引きこもりを数年した後、自宅近くの交差点で、事故に遭って亡くなったらしい。
桜庭トンネルは死因にはあまり関係がなかったな。
原因ではあるが。
人に害を与えるつもりはないし、もうしばらくしたら、どうにかして成仏するつもりらしい。
ストロングなアルコールを三本渡した。
メリコンドル兄貴は一本目のストロングなアルコール摂取後、悪酔いすることもなく、すぐに寝てしまった。
「本当に怖いのは、アルコールに頼らざるを得ない、この社会そのものなのかもしれませんね」
「そうだな」
金剛が合掌しながら肯定する。
金剛はツッコミ属性ではないため、今回の取材にオチをつけようとしても、ツッコミを入れる者はいない。
僕にはそれが一番こわかった。
続く
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
ちゃんとしたホラー回、いかがでしたでしょうか。※ストロングゼロ文学回
今回の怪異
メリコンドル兄貴:無害な金髪イケメン地縛霊。アル中。
アルコールに頼らざるを得ない現実:一番の恐怖。




