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第1怪 「世界滅ぼすぞ」おじさん

 「『世界滅ぼすぞ』おじさん」を知っているだろうか。


 海に面した宵ヶ浜市に住む学生の間でささやかれる、都市伝説的存在である。


 宵ヶ浜の都市伝説は、尾ひれをつけて面白おかしくオカルト風味で語られているものの、突き詰めれば大体がただの不審者情報なのだが。

 一風変わった不審者情報を娯楽として楽しめる宵ヶ浜は、平和な田舎町である。


 ************************☆彡 ☆彡 ☆彡************************


 その日、僕、才谷(さいたに)勇児(ゆうじ)は帰宅途中にあるゲームセンターで、太鼓のゲームの練習をして体力増強にいそしんでいた。

 健全な帰宅部高校生らしい日課と言えるだろう。


 そもそも、帰宅部が健全じゃないって? それは触れないでほしい。


 ゲームの最高難度を数クレジットこなし、満足した僕は、カバンをつかんで出口に向かった。

 手動ドアをガラガラと開ける。


 本来は自動ドアだが、故障していて手動で動かす必要がある。

 ここ一か月の間、直される気配はない。

 金がないのかな。

 田舎にはよくある話だ。


 ゲームセンター特有のがやがやした音を背にして、自転車置き場に向かった。


 ふと、通りの反対側を見ると、飲み屋とボクシングジムの間の小路(こみち)で、宵ヶ浜北高校の制服を着た女子高生の姿が見えた。

 腰までの長さがあるツインテールの女子高生は、ザ・おじさんといった風貌(ふうぼう)の男性と話している。


 おじさんは白いタンクトップに茶色いよれよれのステテコという、今時アニメでも見ない絶滅危惧種のような、ステレオタイプなスタイルである。


「まるで『世界滅ぼすぞおじさん』みたいだな」

 僕はつぶやく。


 宵ヶ浜では、主に口コミで都市伝説がささやかれている。

 インターネットが広く一般的になった現代でも、口コミの力が強く残っているのは地方都市ならではの感覚だろう。

 僕も友人との会話で、都市伝説「『世界滅ぼすぞ』おじさん」の内容を知っていた。


 僕は太鼓のゲームへの情熱以外は普通がとりえの男子高校生である。

 スクールカーストトップに位置する陽気な集団には入れないものの、数人の友人とそれなりの関係を築けている。


 友人曰く、一見普通のザ・おじさんという風貌の中年男性が、「世界滅ぼすぞ」と声をかけてくる事案が発生していると、まことしやかにささやかれているのだとか。

 事案って言っちゃってるから、もうただの不審者だよね。


 都市伝説というか、ただの不審者情報であることに、みんな気づいてはいる。ただ、平和な宵ヶ浜での会話のネタとしては悪くはなかった。

 それに、「『世界滅ぼすぞ』おじさん」は不審者ではあるが、声掛けをしてくるだけで、それ以上に事件性のある展開になったことはないらしい。


 目の前の(おじさん)が噂の「『世界滅ぼすぞ』おじさん」かどうかはわからないが、腰まで髪が長い女子高生は宵ヶ浜高校ではほとんどいない。


 おそらく1年C組のクラスメートだ。


 一応、不審者や酔っ払いの(たぐ)いでないか、近くに行って確かめるのが、知り合いを見かけた男子高生の責務だろう。


 自転車のカギを外し、信号が変わるのを待って、自転車を押しながら、近づいていく。女子高生とおじさんの様子を遠巻きに伺う。


 おじさんは、女子高生と何かを話しているようだが、だんだんと興奮してきたのか、身振り手振りが大きくなってきている。


「酔っ払いかな。ちょっとまずそうか」


 駆け足で自転車を押していく。

 近づくにつれて、おじさんの声が聞こえてくる。


「世界、世界、世界を滅ぼすぞ。一緒に世界を滅ぼそう!」


 思わず、うわぁ、と声を出してしまう。

 都市伝説の男、「『世界滅ぼすぞ』おじさん」が実在していると知った瞬間だった。



 ここまで来て引くのはカッコ悪いので、内心ビビりながら、二人に向かって、というか主におじさんに向けて、声をかける。


「おじさんも世界を滅ぼそうとしているんですか?」

「世界、世界、一緒に世界を、なんだ? 少年。君も世界を滅ぼしたいのか?」

「えぇ、まぁ」


 愛想笑いを浮かべながら、不自然にならないよう気を付けて、おじさんと女子高生の間に割り込んだ。

 左に女子高生、中央に僕、右に自転車をはさんで、おじさんが並んだ格好だ。


 おじさんに聞かれないよう右手で口元を隠しながらクラスメート、水川(みずかわ)瑠璃子(るりこ)にこっそりと声をかける。


「水川さん、知り合い?」

 水川さんは首を振る。

 動作にやや遅れてツインテールが揺れるのが見える。


「そっか。ならここは僕に任せて」


 そう言いながら、水川さんに向けて、左目で慣れないウインクをしたが、僕がイケメンでないからか、意図が伝わらなかった。

 これでは、自分がイケメンだと思っている痛い奴っぽいではないか。


 気を取り直して、おじさんから見えない位置に左手を動かし、シッ、シッ、と距離を取るよう指示を出す。

 水川さんは困惑した表情を浮かべていたが、やがて、納得したような表情に変わった。そのまま駆けて行く。


 小刻みに揺れる黒髪を見ながら、気が抜けた僕は、人生で一度も言うことはないと思っていた、主人公っぽい台詞を発してしまった。


「やれやれ」


 この発言がフラグであったのかはわからないが、おじさんは、満足するまで話を聞かざるを得ない圧力で視線を向けてきたので、世界滅ぼす発言を黙って最後まで聞くことになった。

 やれやれ。


 ちなみに、おじさんが静かになるまでには、一時間かかりました。

 校長先生もびっくりするレベルだ。


 ****


 翌日になった。

 教室に入るなり、水川さんが駆け寄ってくる。


「昨日はびっくりした。まさか才谷が世界を滅ぼそうとする同志だったとは思わなかったよ。ね、オカルト研究会、入ってくれない?」


「大したことはないよ。水川さんが無事でよかっ……、なんて?」

 鈍感系主人公ではないので聞こえてはいたが、思わず聞き返してしまった。


 水川さんからお礼を言われたら、かっこよく返そうと、あらかじめ練習していたのに、予想だにしない台詞が来たな。

 ウッキウキで練習していた昨夜の僕を殴り倒したい。


「まさか才谷が世界を滅ぼそうとする同志だったとは思わなかったよ。ね、オカルト研究会、入ってくれない?」

 彼女は律儀に一字一句違えずに発言を繰り返した。

 ロボットかな?


 いや、しかし、こういう展開じゃないだろ、とラブコメの神様を恨みながら、僕は質問をする。


「あれ、もしかして、『世界滅ぼすぞおじさん』との会話を邪魔しちゃった?」

 だとしたら悪いことをしたな。


「いや? おじさん、世界滅ぼすぞ、しか言わないからちょっと飽きてきたところだったんだよね。ナイスタイミングだったよ。ありがとう」


「え、あ、そう。どういたしまして」


 水川さんとはあまり話したことはなかったし、色白で病弱に見えるため、気の弱い子だと思っていたが、案外、度胸があるらしい。

 用意していた返答も頭から飛んだので、無難な返事になってしまう。


 困惑していたところに、水川さんが僕に向かって一歩踏み出してくる。

 ツインテールが大きく前後に揺れる。


「それで、才谷はオカルト研究会、入ってくれる? 世界を滅ぼしてくれる?」


 姉と同じシャンプーのにおいがするな、と残念な感想を抱きながら、どうにか断りの文句をひねり出す。

 ロマンスの欠片もない感想だが、そもそもこの会話自体、色気ないからな……。


 あと、オカルト研究会とか初めて聞いたわ。

 そんな部活あるんだ。


「世界は滅ぼさないし、僕は帰宅部で忙しいから、オカルト研究会はちょっと……」


「そ、残念。でも、オカ研はいつでもウェルカムだから、気が変わったら声かけてね」


 水川さんはあっさり引き下がり、廊下側中央にある自分の席に戻っていく。


「水川さんって、ちょっとヤバい人だったんだな」


 水川さんの予想外のキャラクターに驚きつつ、自分の席に向かい、友人たちとの会話に興じた。

 クラスメートとはいえ、もうかかわることはないだろう。

 このときはそう思っていた。


 この日以降、水川さんは毎日のように世界滅亡計画とオカルト研究会に誘ってくるようになった。


 メンタル強すぎない?



 続く


出オチをかましてそのまま半分くらいおじさんの話題が続くラブコメをお読みいただきありがとうございます。ラブコメどころか、おじコメを名乗るべきな気がいたします。


恋愛がメインテーマなのと、ホラー要素が薄いので現実世界恋愛に投稿していますが、カテエラとの意見があれば変更するかもしれません。

話の展開にもよりますが、一日5話くらいずつ更新すると思います。


それでは、ヤンデレ娘とイチャイチャするホラーラブコメディ、開幕です。よろしくお願いいたします。


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