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H×H!  作者: 霧間ななき
5/14

5.

5.

「ゆ、ゆぅちゃん、ちょっと、見てほしいものがあるんだけど」

「あぁん?まだ準備中だからあとにしろよ姉貴――、って何青い顔してるんだ」

 突然晩ご飯の準備中だった俺のところへやってきたと思ったらやたらと青ざめた顔をしていた。しかも冗談じゃなくガチっぽい。

 たまーにこういう性質の悪い冗談をやる姉貴ではあるのだが今回は本気らしい。


「何かあったのか?」

「え、えっとね?私がやったわけじゃないんだよ?本当に」

「要領を得ないな。何の話だ」

「う、うん。とりあえず、今、大丈夫?」

「……仕方ないな。とりあえず中断できるとこまでやったら行くから待ってろ」

「ありがとう」

 姉貴がこうも気が動転していると言うのはあまり見たことがない。天然で鈍感でいつものんびりぽんやり、がうちの姉貴の売りみたいなものだし。なんかそれはそれで微妙だけどな。とりあえず火を止めても大丈夫なところまで調理を済ませて振り返る。


「いいぞ。何があった」

「あ、うん。とりあえず部屋に行こう?」

「部屋?」

「うん。私たちの部屋」

「ふむ」

 俺たちの部屋でいったい何があったと言うのか。


 ちなみにこの家には寝室が二つしかない。いや、客間もあるがあれは別だろうし。

 両親の部屋は空けてある。いつ戻ってくるかわからないから。いや、戻ってくるのか?よくわからないがまぁ、そう決めている。


 となると部屋は一つしかないわけで。当然俺たちは同じ部屋で過ごしているのだった。まぁ健全な高校男児としてはぶっちゃけ勘弁願いたい環境ではあるのだが。アレの時はトイレで悶々とするしかない。


 部屋の扉を開いた。いつも通りの部屋に見える。

「特に変わったところは見受けられないんだが?」

「え?」

「あ?なんだ?」

「あ、ううん、あれ?おかしいなぁ」

「は?どうした?説明しろよ、わけがわからん」

「あ、えっと、ね?変な話だよ?」

「もったいぶるなよ。別に引いたりしないから言ってみろ」

 そこから姉貴の口で語られたことは正直要領を得ていなかったのだが内容を鑑みると仕方ない気もした。要点をまとめて説明することにする。


 姉貴は俺が食事の準備に取り掛かってから部屋に一度戻って着替えようとした。部屋に戻った瞬間、姉貴は変なものを中で見てしまったらしい。それは正直なところ信じるかどうかも怪しいような、おかしな話。

 と言うか、姉貴じゃなかったらアホか、ふざけんなと思うような話である。いや、姉貴でもそう思うが。


 部屋は一面赤に染まっていた。夕焼けの赤だと思う。その赤色はぬめって見えた。ただの錯覚だ。光の反射も見えた。カーペットは反射しない。気のせいだろう。部屋の真ん中には誰かがいた。誰かがいるわけがない。一人は寝転がっていて、二人はひざ立ちになっていた。正確に言えばもう一人は一人によって支えられているような状態だったらしい。

 そして、おいしそうな指が姉貴の前に差し出される。それは、下を指差した。

 次の瞬間には姉貴は倒れていたらしい。


 ただ、それだけだった。白昼夢のような出来事だったのかもしれない。

 起きて気が動転したまま俺に助けを求めて戻った時にはそんなものはなくて、部屋は夕焼けに照らされているだけで誰もいなかった。いるわけがない。今この家には俺と姉貴しかいないはずだ。それにもしいたとしたら姉貴が無事なわけがない。

 じゃあいったいなんだったと言うのか。わけがわからなかった。


「しかし、またそこでおいしそうな指が出てきたって言うのがなんなのか」

「だって~……」

「姉貴の指基準だから指見れば誰かわかったんじゃないのか……」

「あーそうかも」

「姉貴がおいしそうって言うのって俺の指くらいじゃないのか?」

「んー、あれはゆぅちゃんの指じゃなかったよ」

「ふぅん」

 なんかそれはそれでもやっとするな。誰なんだそいつ。て言うかそもそも姉貴はいったい何を見た?部屋一面の赤って、血か?でもそんなのなかったし。

 寝転がっていた人とひざ立ちの二人。そして指まではっきりと見えていたってことは現実、なのか?さすがに夢で個人が特定できるほどはっきりしてない、よなぁ?


「姉貴、夢で指を判別できたことはあるか?」

「うんー?どういうこと?」

「夢で出てきた人の指で個人を判別できたことはあるのか?」

「んー、夢ってあんまり細部まではっきりわかんなくない?」

「だよなぁ。じゃあなんだったんだろうな」

「うんー、なんか怖いよー」

「ちょっと一人にならないほうがいいかもしれないな」

「どうしよう、私まだ着替えてないよ?」

「あー、俺出てるから着替えていいぞ」

「やだよ、怖いよ……」

「気持ちはわからんでもないが声出せばすぐ入るから」

「無理、やだ」

「わがまま言うなよ……。じゃあどうしろって言うんだ」

「中にいてよー……」

「冗談はやめてくれ!?」

「冗談じゃないよー?ゆぅちゃんなら別にいいからそこにいてよぅ」

「俺はよくねぇええええ!」

「え、だって私はゆぅちゃんのお姉ちゃんだよ?」

「姉貴は姉貴だが女だ!」

「ゆぅちゃんはお姉ちゃんに欲情する変態さんなの?」

「男ならこんなかわいい姉貴いたらするわ!」

「え」

「あ」

 やたら気まずくなる。俺今何漏らした……?姉貴が照れている!?


「えっと、ゆぅちゃんいつもごめん、ね?」

「何を謝っているんだ」

「無防備にさらす度ゆぅちゃんに我慢させてた、から?」

「そんな気の使い方はされたくない!」

「え、見たいの?」

「そういう意味じゃねぇよ!」

「じゃあどういう意味ー?」

「別に姉貴に少しは欲情するが本気でそういうことを考えたりはしないから心配するな」

「ん、そっか。ありがとね、ゆぅちゃん」

「なんの礼なんだよそれ」

「ゆぅちゃんがやさしいから」

「どこからどう見たらそうなる……」

「そんなゆぅちゃんが大好きだよ、お姉ちゃんは」

「あーはいはい、あんがとよー」

「じゃあ着替えるから」

「じゃあ外でま――」

「ヤダ」

 即答だった。捕まえられていた。そして縛られた。


「待て、なんだそれ!?なんだこれ!?」

「怖いからそこで待ってて?」

「今までの長い会話はすべてこの振りなのか!?」

「その通りなのです」

「勝手に決めんなー!」

「ぬぎぬぎ~♪」

「マジで脱ぐなよ!?ってかこの状態じゃ後ろすら向けないじゃねぇか!!」

 本棚に縛り付けられているため動けない。このままではガチでヤバい!


「ゆぅちゃんはお姉ちゃんの身体を見ても少ししか欲情しないから大丈夫なんだよねー?」

「俺はそれに対してどんな反応をすればいいんだよ!?」

「身体で反応してくれれば」

「お前は最低の姉だ!」

「あはは~♪」

「ちょ、ま、おまっ」

「ゆぅちゃんも着替えよっかー」

「同時に俺まで脱がそうとするんじゃねぇ!本気でやめろ!?」

「お姉ちゃんの下着姿興奮するー?」

「しねぇよ!この状況でしたら俺はもう二度とお前に会いたくねぇ!」

「だよねー、えへへ。あむっ」

「ぎぃやぁああああああああああ!?」

「んちぷっ、にゅるっ、れりゅっ」

「変な音立てんな!消えろ!もうお前の顔なんか二度と見たくねぇ!やめろ!」

「みぉー、ゆぅひゃんっれゎひぁひゅふぁひふぁりりゅらりやにぁんらふぁりゃー」

「恥ずかしがり屋とかそういう問題じゃねぇんだよ!音だけ聞いたらやたらと卑猥だからガチで指くわえるのやめろ!」

「あ、ゆぅひゃん、ふぁりゃりゃはんにぉうひひぇひふぁー?」

「俺の身体はそんなことに反応したくねぇ!てかさっさと着替えやがれクソ姉貴が!」

「ふぁーい、りゅりっちゅぷっ」

 ようやく着替えを再開するド変態。もうヤダ。俺この家でやっていける自信がないよ。


「ゆぅちゃん、ごめんね」

「あぁ?」

 俺を縛っていた紐を解きながら姉貴が突然謝ってくる。


「悪ふざけしすぎたよー……。ゆぅちゃん男の子なのに無神経に遊んじゃってごめんね」

「はぁ……」

 謝るくらいなら最初からやるなっつの。ホント散々な目に遭った。けどなんだかんだで俺はこの姉貴が嫌いじゃないんだろう。しょうがないとか思ってしまうわけだ。


「もう本気でやめてくれよ。そうじゃなきゃそのうち出て行くぞ、俺」

「ご、ごめんなさい。本当にもうしないよ~」

「次やったら出て行くことを考えるからな」

「もう絶対にしない!ゆぅちゃんいなくなるのやだもん」

「今回は不問にしといてやるよ。気が動転してたんだろ、さっき見たよくわからない白昼夢みたいなので」

「ごめんね」

「いいよ。けど怖いなら怖いからって普通に頼ってくれよ。お前怖いのをごまかす方向に長けすぎで変態っぽくなってんだよな。俺だったら考えすぎて黙り込んじゃうだろうが」

「ゆぅちゃんもゆぅちゃんで抱え込みすぎるから心配だけど~」

「まぁ、お互いできるだけ素直に話すようにしておこう。正直毎度こんなことされちゃたまったもんじゃない」

「うん。ありがとね、ゆぅちゃん」

「ん。そんじゃ、飯にするか」

「わーい、ごはんごはん~♪」

「ったく」

 切り替えの早い奴だ。

まぁ、だからこそ俺も助かってる部分はあるわけで。姉貴がいなかったら親がいないこの状況には絶対に耐えられない。

だから、出て行けるわけがないのだ。俺だって、怖いんだ。

姉貴も俺も結局、なんだかんだで親がいないこの状況、頼れる相手がお互いしかいなくていつも不安で。姉貴は俺の指をなめると言うへんてこな性癖で俺から離れようとしなくて。

俺は嫌がりながらもなんだかんだでそれを受け入れてしまう。


 それが例え周りに揶揄されるような悪しきことでも、俺たちにはそうするしかなかったのだ。

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