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H×H!  作者: 霧間ななき
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13.

13.

「なぁ、こんなことって、現実にあるのか……?」

「ゆぅちゃん、どういうこと、なの?」

「こんなことって、あるんだね」


 いつごろの新聞から調べたものかと悩んだ俺たちは仕方ないのでだいたい六年ごとに分けて新しいところから調べていっていた。

まぁそうやって棚に収められていたから調べやすかったと言うこともあったし、大体同じくらいの分量になるだろうから。


 一番可能性の低そうで量も少ない現在から四年半ほどをミナギに調べてもらっていた。

 どうせ見つけるなら俺たち姉弟が見つけたい。

まぁ、絶対と言うわけではないのでミナギが終わり次第残りが多い方を手伝ってもらおうと言うことになっていた。ミナギもその気持ちを汲んでくれて従ってくれる。



 そして俺は四年半前からの六年間。俺が十一歳から五歳まで。一番可能性が高そうな範囲だ。

何せ料理ができる程度に育っていなかったとすればそれまで料理を教えてくれる誰かがいなければまず暮らしていけないはずなのだ。

 そんな人がいた記憶はない。つまり料理を教えてもらったあとで両親が亡くなったと考えるのが妥当なわけである。

 しかし、それくらいなら普通もうすでに物覚えが付いているから覚えてるだろうと思うかもしれないが子供にとって両親を失うということがどれだけショッキングな出来事か、今の自分で考えてみればわかる。


 正直なところ姉貴の反応が普通だ。怖くなる。当然のこと。

もう何もかもぐちゃぐちゃになってしまっていたんだろう。

 何せ両親を失ってしまったことを忘れてしまっているほどだ。

 ショックで忘れてしまっていても不思議ではない。


 まぁそれを言ったら本当にいつ失ったかと言うのはわからないわけではあるのだが。

 だからこそ、ミナギには最新の新聞から調べてもらうのだ。

さすがにここ数年ってことはありえないと思ってはいるが。

姉貴は十年半前から俺たちが生まれた辺りまで。

 赤ちゃんのうちってことはないと思うが。


 しかし可能性としては範囲内にあれば見つけるのが一番早いだろう時期だ。

俺が五歳からなのだから、その辺りが一番怪しいと思う。

 ただの勘だがその辺になれば料理ができるようになる子供も普通にいるわけだ。小学生一年程度。

 昨日の姉貴の状態を見ていると正直俺が見つけてやりたいところではあるのだが。

 それでも、俺たちは乗り越えなくてはならないのだから姉貴にもきちんと受け止めてほしい。


 誰が見つけたとしてもその気持ちは変わらない。姉貴にもきちんとそのことは告げてある。

やっぱり怖いのは変わらないけどそれでも、姉貴は気丈にうなずいてここにいた。

 俺たちは独りじゃないんだ。姉弟二人、一緒にいる。

 それだけじゃない。ミナギもいてくれるのだから。この儀式を越えて、これからも三人でうまくやっていこう。

 これだけ大切に想ってくれる友達がいるんだ。それだけでもう、十分すぎるくらい幸せなことだろう?だから、俺たちはきっと大丈夫。



 そんなことを思いながら調べ始めた矢先の出来事だった。


 その記事は俺が調べ始めた四年半前の十一月の出来事。そんなに大きな記事ではなかった。

しかし、それは俺に衝撃を与えて声を上げさせてしまうほどの記事だったのだ。


「ハジメ先輩が、死んでる!?」

「そ、そんなのありえない、よ?おかしいって、ゆぅちゃん」

「死んだ人が歩いている、わけがないよね」

 その記事を三人で見ていく。記者にとってはそこまで興味を引く内容ではなかったのかあまり細かく書かれているわけではなかった。

 しかし、そこから読み取れるのはハジメ先輩はもうすでに自殺した少年であると言うこと。


 四年半前の十一月二十日前後。

 海から地元漁師によって発見された遺体。身元はカタリ ハジメ(13)、付近の中学に通う普通の学生。遺書もなく、海への投身自殺。いじめか他殺か。

 事件性がある可能性があると警察では調べられたらしい。しかしその後の記事に事件の発展の記事は全くなかった。


「これはいったい……?」

 死んだ人が歩いているだなんてなんの冗談だよ。ホラーの世界の出来事じゃないか。ここは紛れもない現実だ。そんなことが起きるわけがないだろ?


「調べてみようか」

「何を言ってるんだ、ミナギ」

「少し、気になることがあるの」

「みぃちゃん……?」

「二人はご両親の記事探してて」

「え、おい!?」

「みぃちゃん!?」

 そう言い残してミナギはそのまま外へと走っていってしまった。

いったいどうしたって言うんだ?

 何か当てでもあるのか?こんな、ありえないことに?


 いや、そうだよ。俺は何を勘違いしてるんだ。ここは現実だぞ?

ありえないことが起きるわけがないんだ。

 だから、この事件だって俺たちの理解の範疇におさまる真実があるはず。

それに関してはミナギに任せておけばいい。


「姉貴、ミナギに従おう。あいつにはあいつの考えがある」

「え、うん。いいの、かな?」

「俺たちはそのために来たんだよ。だから、いいんだ」

 そうして俺たちは再び両親の載る記事がないか調べていく。




 昼食を取ろうと思ってミナギに連絡するが電話には出ず、メールにも返答がなかった。

どうしたものかと思いつつ連絡がないのではどうしようもない。

 まぁその辺で適当に食べておくか。


「姉貴、ファミレス行ってみるか?」

「ミナギちゃんはいいの?」

「連絡がないしな。あいつ集中し始めると周りが見えなくなるから何かやってるんだろ」

「あー、邪魔しちゃ悪いしね」

 結局二人でファミレスに入る。休日と言うこともあったしお昼時なのでやはり店内は混雑していた。

 俺たちはあまり外食をしない。してもいいのではあるがなんとなくしていなかった。

ちょっと入ってみたいという気持ちが姉貴にもあったのか少し嬉しそう。



「オムハヤシ!」

「叫ぶなよ。俺はミートドリアで。あとドリンクバー二つ」

 メニューを吟味して作ってみたいものを選んでみた。姉貴は普通に食べたいだけだろうが朝も食べたのにまたオムライスかよ。


「卵食いすぎるなよ」

「おいしいからいいの♪」

「そういう問題じゃねぇんだけどな。まぁ、たまにはいいか」

 ドリンクバーで飲み物を入れてから席に戻ってようやく一息吐く。

姉貴は様々な飲み物を混ぜて遊んでいた。あんなケミカルな色の飲めるのかよ。


 結局今のところめぼしい記事は見つかっていない。

まぁ、そんなものだろうけど。あまり進んだとも言えないレベルだった。

 休刊日があるとは言えほぼ毎日発行されるわけだ。


 これは結構根気のいる作業になりそうだな。今日だけで一月分見切れるかどうか。

事故とかってあまり大々的に記事になるもの少ないし、細かく見ていかないといけないから結構時間がかかるのだ。

 休みの日じゃないとさすがにこんなに調べられないだろうし、平日は家事がある。

寄って見ていくのも難しいだろう。


 いや、部活の時間削ってもいいか。どの道俺たちの研究に関連しないというわけでもないし。

それでも部活時間だけでは正直数週間も見れないだろう。

 これでもし見つからなかったらさすがに少し堪えるかもしれない。

事故とかだとすれば載っていない可能性もあるし。

 いやそもそも事故でない可能性だってある。それはないか。

 二人同時に死んでいるのだとすれば、だが。



 待てよ。なんでうち両親の写真が全くない?

俺たちの写真しかないってどういうことだよ?普通結婚写真とかあるよな。

誰かが処分したのか?だとしたらなんのため?これは死因と何か関係するのか?


 早計になるな、ユウリ。そんな風に考えてしまうのはフィクションの読みすぎだ。

そう、さっきもそうだが考えてみろ。ここは現実だ。ありえないことは起きない。

 だとすれば、結果が出ている以上原因があるはずだ。


 写真を隠す意味。自分だったら何があったら写真を隠す?知られたくないものが写っていたら。

他には何がある?見られたくない、恥ずかしいから。

 それで全部隠しはしないよな。アルバムすら俺たちのものしかない。


 だとしたら誰が隠した?両親が隠した、なんてことはないだろう?

だとしたら誰が。俺たち自身?何故?怖かったから。

 何かを思い出してしまって、怖かったから。

 俺たちは何を見た?記憶をたどれ。思い出せ。

 いったい何が起きた?どうして思い出せない?


 俺たちはまさか、両親が死んだその場に居合わせたのか?

それを見てしまったから写真を見るたびに思い出してしまって隠した?

 それで説明はつく。写真はきっと両親の死に居合わせてしまった俺たちがその写真を見るたびに怖がったのだろう。何歳ごろだろうか?


 もし予想通りだとすれば小学一年生程度の自分がそれを処分するときに両親の棺おけに入れたりするだろうか?しないだろうな。何もできないはずだ。

 だとすれば、俺たちの様子を見た誰かが隠してくれた、と考える方が妥当だ。

 では誰が?


 いや、答えなんてもう考えるまでもない。

 俺たちが現在知り合いの大人なんてリキヤおじさんしかいない。

後見人でいろいろと俺たちによくしてくれる。

 後見人、そうだよ。もっと早く気付くべきだったじゃないか。

親がまだ生きているなら後見人なんて要らない。

彼は俺たちが自分たちで気付くまで待ってくれていたんだ。



「姉貴」

「ん、どしたの?」

「リキヤおじさんのところへ行こう」

「へ?自分たちで調べるんじゃないの?」

「そう思ってた。けど、リキヤおじさんと話したほうがいい気がするんだ」

「面倒になった、わけじゃなさそうだね。わかった、ゆぅちゃんがそう決めたならわたしも行くよ」

「ありがとう。理由は行く道で話すよ」

「ん♪」

 これでいい。

 ようやく俺たちは知るべきときが来たんだ。

 きっとリキヤおじさんはそれを待っていてくれた。

あの人が誰なのか、まだわからないけど、それでも大切にしてくれている。

 それだけで十分だ。


 さぁ、会いに行こう。俺たちの両親へと繋がる道を知る人に。















『ユウリ君たちのご両親とハジメ先輩の自殺、繋がったよ』

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