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H×H!  作者: 霧間ななき
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12.

12.

 朝食を俺が作っていた。いや情けないことなんだが初めてな気がする。

朝めちゃくちゃ弱いので基本的に姉貴が作ってくれていた。

 あぁ、いや、姉貴が風邪のときは作ったことがあるか。

しかしそう言った非常時を除けば俺は休日も朝遅いので姉貴が作ってくれる。


 では何故俺が今日作っているかと言えば、まぁ姉貴がまだ寝ているからなのだが。

泣き疲れたのか昨日の夜俺にしがみついて寝てからまだ起きていない。

今日は休みだから構わないのだが十時からミナギと図書館に行く約束がある。

 もちろん両親のことを調べるためだ。それまでには姉貴を起こさないといけないわけだが。


 現在八時半ちょいすぎ。

 姉貴は幸せそうな顔で寝ていた。起こすのがもったいないくらいあどけなくて、起こす気が失せてしまう姿。

俺のほうが早く起きること自体が珍しいので新鮮で。


 まぁそんな感じなので俺が朝食を作っているわけだ。ミナギに姉貴がまだ寝ているというメールをしたら写メを催促される。

 送ったら即電話がかかってきてそっちに行ってもいいかと言う、朝からハイテンションなミナギだった。

 どっちでもいいがと応えたらすぐ行くと電話が切れて今に至る。たぶんそのうち着くだろう。

仕方ないのでミナギの分の朝食も用意していた。

 朝からオムライス作っているのだが女の子には少し多いか?まぁ食べれなかったら俺が食うからいいのだが。



「お邪魔しまーす♪」

「いらっしゃい。おはよう」

「おはよ。エプロン姿の男子ってちょっときゅんとするね」

「普段は朝やらんぞ」

「ていうかあたしは料理するときにエプロンしないからびっくり」

「しないのか。俺はいつもしてるかもしれない」

「しぃちゃんもしてるの?」

「制服のときはしてるな。部屋着だとしていない気がする」

「制服についちゃうとまずいしねー。あたしは朝パンだからエプロンとか置いてないよー」

「姉貴がおそろいエプロンほしいというので買ったな。その辺にかけててくれ。今用意する」

「え?あたしの分もあるの?」

「ん、朝食ってきたなら俺が食うからいいが」

「いただく!朝まだだからおなかすいてるし。あ、その前にしぃちゃん見てきていい?」

「構わん。静かに見る限りはな」

「もちろんだよ。じゃあ行ってきまーす」

「おぅ」

 ミナギはすでに行く準備をしてから来たのか私服がえらく気合が入っていた。

調べものに行くだけって格好ではなかったが大丈夫なのか?


 デザインの凝ったワンピースにセットなのかよく似合ったベスト。

色はパステルに黒いラインだったのでメリハリが強くかなり綺麗に見えた。

いつもは後ろで一つにくくっているが今日はポンパドールと言うのか、前髪を上にあげてまとめた髪型。

 肌が白くて綺麗なミナギなので額を見せたその髪形がよく似合っていてかわいい。

姉貴は結構毎日髪型を変えて遊んでいるのだがミナギの違う髪形は結構新鮮だった。

 出かけるから気合が入っているのか、女の子はそういうものなのかわからないが。


「うし、できた。あとは来たらだな」

 レストランなんかでよくあるオムレツを上に載せて食べる直前に開いてやる、とろとろ卵のオムライス。姉貴が喜ぶのでたまに作っている、俺の得意料理の一つ。


「うー、かわいかったー♪」

「おかえり。準備できてるぞ」

「うわー、すっごーい!それお店とかであるやつだよね!」

「姉貴が喜ぶんでたまにやるんだ」

「ユウリ君本当に料理できるんだねぇ」

「意外か?」

「そうだね、ちょっと意外。だってユウリ君って見た目不良さんみたいなんだもん」

「笑うなよ。割と気にしてるんだ。髪は地毛なんだがな、姉ともども」

「すごいよねぇ、しぃちゃんの髪」

「姉貴は似合ってるけどな」

「ユウリ君も似合ってるよ?まぁ、目つきで不良にしか見えなくなっちゃうわけだけど」

「嬉しくねぇ似合い方だな」

「ごめんね。でも、かっこいいよ」

「まぁ、それは普通に嬉しい」

「あ、照れてる」

「席に着けよ。冷める前に食べるぞ」

「そうだね」

 オムライスと軽いサラダ、カフェオレを用意してある。ミナギの味の好みは大体把握しているので大丈夫だとは思うが。


「砂糖とミルク、飲んでみてまだほしいようだったらこれを使っていいから」

「うん、ありがと」

「んじゃ、食べるか」

「はーい」

 そう言って手を合わせようとした瞬間、


「ゆぅちゃん、どこー!?」


 姉貴の叫び声が上から上がった。

「叫んでるね」

「叫んでるな」

「どこにも行かないって言ったのにー!」

「ここにおるわ!恥ずかしいこと叫ぶな!?」

「そんなこと言ったの?」

「下?下にいるの?」

「降りて来い!朝飯あるから!確かに言ったけどな」

「え、告白?」

「なわけあるか……」

「じゃあ行くー♪」

「現金なやつめ。もう元気になったか」

「さすがしぃちゃんだねー。あぁ、大体わかった」

「察しが良くて助かるよ」

 今のちょっとした変化で大体本気でわかっているだろうところがミナギのすごいとこだった。

 昨日俺と話したところだしタイミング的にもわかりやすいかもしれないがこの程度でそこまで悟れるやつは普通いない。


「あ、みぃちゃんおはよー?なんでいるの?待ち合わせまだだよね?」

「おはよ、しぃちゃん。しぃちゃんがまだ寝てるから遅れる可能性があるってユウリ君からメールもらってしぃちゃんの寝顔観察に参上しましたっ」

「何故わたしの寝顔!?」

「かわいかったよーほくほく」

「ゆ、ゆぅちゃんの寝顔ならかわいいけどわたしなんて……!」

「いやいや、ユウリ君もかわいかったけどしぃちゃんもかわいかったよ!」

「いや待て聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだがお前いつ俺の寝顔見た」

「え?休みの日にたまにしぃちゃんと一緒にっ」

「そんないい笑顔で親指突き出しながら言うことじゃねぇ!覗くなアホ!」

「その片棒かついだゆぅちゃんが言う?」

「待て、俺より前に片棒担いだ姉貴もそれを言ったら言えないだろ!?」

「お互い様ってことかなぁ」

「そうだねー、二人ともかわいかったしヨシとしておこうよ」

「待て、お前が一番悪いじゃないか」

「さすがに今回はかばいきれないね、みぃちゃん」

「二人とも笑顔が怖いよー、あはは」

「問答無用!」

「わたしもやるー♪」

 二人でくすぐりの刑。ギブアップするまで三人で笑いまくって。

ミナギは本当にすごいなと感心させられる。


 姉貴が何を感じたのか大体想像してそれを和らげるために今のやり取りだろう。

 みんなで笑い合ってそれをうまく流す。笑顔で誰もがいられるように。

そのためにいろんなところを見ていろんなことを考えて。

きっとミナギも辛いこととかあるだろうに。

 いつかミナギの辛さとかを俺たちで受け止めて上げられる日が来ればいいのだが。


「さて、冷めないうちに朝飯にするか」

「わーい、ゆぅちゃんのとろとろオムライスー!」

「ホントおいしそうだよね」

「じゃあみぃちゃんもゆぅちゃんに感謝して、いただきまーす」

「「いただきます」」

「んー、やっぱりおいしー。えへへー」

「駄々漏れすぎるわ。まぁ作り手冥利に尽きるけどな、そんなに喜んでもらえると」

「うんうん。すっごいおいしい。ユウリ君が家庭的なのってやっぱり意外だけどすごいねぇ」

「ゆぅちゃんってばかわいいんだよ?わたしだけにがんばらせるの嫌だから俺もやるって言っていろいろ覚えてくれたんだよー」

「二人しかいないのに俺がなんもしないで姉貴ばっかがんばるなんて変じゃないか。家族なんだし」

「男の子は結構やらない人のほうが多いよ?うちの弟も何もやらなかったし」

「人はどうでもいいんだよ。俺が納得できないだけ」

「ゆぅちゃんはやさしいんだよ」

「そうでもないだろ」

「いや、ユウリ君はやさしくていい人だよー」

「変なこと言ってないで食え」

「食べてるよー。あ、カフェオレもおいしい。て言うかなんであたしの味の好みわかってるの?何も足さなくても十分あたしの好きな加減なんだけど」

「部室で飲むだろ。そのときに見てただけだ」

「何故それだけでわかるの!?ユウリ君って何気にそういうところすっごい見てるよね……」

「味の好みは重要だろ。まぁ部室で入れるときは全員分もって行かないといけないから早めにするために先に入れたりはしないが」

「ゆぅちゃん料理とかもわたしの好みで作ってくれるしすごいよねぇ」

「一緒に暮らしてれば料理の好みくらいわかる」

「まぁわたしもゆぅちゃんのならわかるけど」

「いいよね、そうやって好みがわかるくらい大切に想い合える姉弟って。素敵なことだよ」

「お前のとこは違うのか?」

「んー、やっぱり恥ずかしいのかあんまり仲良くはしてないかなー。わたしが何かすると嫌がる感じ。けど嫌われてはないかなー。なんだかんだでやっぱり独り暮らしのこと心配してくれてる」

「いい弟だな」

「みぃちゃんの弟くん見たことないんだけど何歳なの?」

「十四歳だよ。中二、中央に行ってるの」

「ふむ。お前の実家って中心街だっけ」

「うん。アパートは橋の向こうだけど」

「なんだ、結構近いな。そりゃスーパーで見るわけだ」

「今度みぃちゃんち行ってもいい?」

「いいよー。事前に言ってくれればご馳走するよ」

「うー、でもご飯はあたしが帰らないとゆぅちゃん一人になっちゃう」

「俺は構わないぞ。行ってくればいい」

「ううん、ユウリ君も来ればいいよ。二人にご馳走する」

「いいのか?」

「いいの?」

「もちろん♪今日もご馳走になっちゃったし、気にしなくていいよ」

「なら今度二人で行くね」

「はーい、待ってるね」

「ミナギの料理は興味あるな。どれほどなのか」

「え、期待しないで、よ?自信あるわけじゃないから……」

「あれだけ弁当がしっかりしてるやつが料理下手なわけがないだろ」

「残り物だよー」

「うちも残り物がほとんどだよー?あと玉子焼きとウインナーさん入れるくらい」

「弁当はそんなもんだろ」

「う、うぅ、まぁ、期待しないで待ってて?」



 そんな風に他愛のない話をしながらゆっくり朝食を取る。

みんな食べ終わった頃には九時を回っていた。

姉貴は準備をするからと二階へ上がっている。


「ユウリ君の料理は初めてだったけど思ってたよりもっとすごかった」

「光栄だがもっとってことは元々うまいとは思ってたのか?」

「だって夜はユウリ君が作ってるわけでしょ?で、弁当は残り物が入ってるわけで」

「あぁ、そう言えばお前たまに姉貴とおかず交換してたっけ」

「そーそー。すっごくおいしかったから料理がうまいって言うのは知ってたの」

「まぁけど弁当に入ってるやつは冷たくて硬くなってるからな、大体」

「あったかい方がやっぱりおいしいもんね。だから、思ってたよりもっと、ね」

「まぁ普段からやってればこんなもんだろ」

「そうかもしれないけど、男の子ができるって言うのはやっぱりポイント高いよ?」

「だからなんのポイントだよ」

「モテポイント!」

「モテたことねぇっつの!」

「モテたいの?」

「いや、それは別に」

「だよね。ユウリ君別に女の子に興味ないでしょ」

「それはそれで嫌だけどな。そういうことでもないし」

「んー、じゃあ言い方を変えるよ。好きな人がいるから他の人に興味ないよね」

「その方が近いかもしれん」

「だよねー」

「まぁ、はっきりとそうとは言えないんだけどな。結構あいまいな気持ちだから」

「その割りに一途だよねぇ」

「そうなのか?俺はよくわからんが」

 俺自身正直これが恋愛感情なのかどうか、いまいちわかっていない。

けどミナギから見たらはっきりわかるってことか。

そうはっきり表したことないと思ってるんだがなぁ。

 何せヘタレだし。恋愛とかには臆病だと思うからその辺は本当にヘタレだと思う。

 とは言え、その辺は姉貴とか指フェチ、先端恐怖症は関係ない気がするので元々だろう。


「ユウリ君は見てれば簡単にわかっちゃうよ。アギトくんだってわかってるから引いてるんだろうし」

「あ?アギトがなんで出てくるんだ?」

「え?気付いてなかった?アギト君もユウリ君と一緒だよ?」

「なんだって?それは全く気付かなかったな」

「本人から聞いたもん」

「は?え?お前アギトにこ――」

「おまたせ~」

「あ、おかえり、しぃちゃん」

「おかえり、姉貴」

 姉貴が帰ってきて話は中断となる。

いやはや、意外な話だったからまだ聞きたいがアギトのプライバシーもあるし姉貴には聞かせない方がいい。


 結構しゃべっちゃうタイプだしなぁ。

 そんな姉貴は出かけるときにはよくしているお気に入りのコーディネートだった。

かわいい物好きな姉貴だが外に出るときは何故かパンツルックが多い。

 今日も黒いジーンズに銀のアクセがついた凝ったデザインのジャケットにウェストポーチ。どちらかと言えばかっこいいデザインなわけだが。


「しぃちゃんって相変わらずラインが綺麗だからパンツルックも決まってるよねぇ。すごくかっこいい」

「ありがとー♪みぃちゃんもかわいいよー」

「そうだな二人ともよく似合ってる」

「ユウリ君はいろいろ持ってるよね、ホントに」

「今日はパンク?」

「まぁそうだな。気に入るとどんなジャンルでも手を出してしまう」

「どんなジャンルでもセンスがいいのは羨ましい限りだよー」

「ゆぅちゃん背も高いしすっごいかっこいいよねー」

「センスとかはよくわからん。背は普通だろ、たぶん」

「褒めるとすぐ照れるよね、ユウリ君って」

「慣れてないんだよ」

「なんにしろみんなあんまり図書館に行く格好ではないねー」

「しぃちゃん、言ってはならないことをっ」

「まぁ、気にするな。じゃあ行くか」

 探す内容が内容だがなんだかこのメンバーだといつも通りな感じになってしまう。

まぁ、アギトがいないだけネタ要素は少ないか。

 けど妙に暗くなってしまうよかこれくらいでいいんだろう。


 だってこれはこれから俺と姉貴が前に進んでいくための儀式みたいなものだ。

知ったからといって変わってしまうわけではないだろう。

知ることで待つことをやめ、しっかりと両親にお別れを告げるためだ。


 このときはまだ、真実を知るということがどれほどの意味を持つのか、俺たちはわかっていなかった。

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