6 お披露目パーティー
「ロザリー・アルンティルでございます。みなさま、よろしくお願い致します」
クリスが、自分の婚約者としてアルンティル王国からやって来た姫を紹介して、本人が、可愛らしく挨拶をした。
ロザリーの身内へのお披露目パーティーは、本人が幼いこともあり、王宮の中庭で、お茶会のようなホームパーティー形式で行なわれた。
キャロルは、元々のお節介な性格を遺憾なく発揮して、ロザリーのお世話をしている。
そこに、クリスとダグラスが、ダグラスの婚約者のシルヴィアと可愛らしい女の子二人を連れてやって来た。
シルヴィアは、キャロルの横にいるロザリーに向かって優雅に礼を執る。
「アーノルド・ムーアクロフト公爵が娘、シルヴィアと申します。ロザリー姫様にお目にかかれるのを、心待ちにしておりましたわ」
まるで、お手本のような、ついロザリーが見とれてしまうような、綺麗な所作で挨拶をした。
その横から、ロザリーと変わらない背丈の女の子達が出て来て挨拶をする。
「ハーボルト王国第二王女、エイミーでございます」
「同じく第三王女、ベティでございます」
「「お目にかかれて、光栄ですわ」」
「これから、私たちと一緒にお勉強、頑張りましょうね」
とエイミーが自分たちの挨拶を締めくくった。
ロザリーは、何が何だか分からずに、思わずクリスたちの方を見てしまう。
クリスは、知らん顔してたが、横にいたダグラスは、子ども向けの笑顔になって、ロザリーに言う。
「ロザリー姫はまだ10歳だろう。丁度うちのエイミーも同じ歳なんだ。ベティはまだ8歳だけど、一緒に勉強してくれるかな?」
「はい。ありがとうございます」
同じ歳頃の子達と交流が持てると思っていなかったロザリーは、嬉しくて笑顔でダグラスにお礼を言っていた。
ダグラスは、ロザリーの方に笑顔を向けたまま、横にいるクリスを肘でつつく。
何、俺に任せてるんだよって感じで……。
「ロザリー。これからお茶会や夜会にも出て貰うことになると思うけど。最初の内はシルヴィア嬢とキャロル嬢に色々教えて貰って、一緒に行動するといいよ」
そうクリスがロザリーに言っている。
「あら。最初はね、じゃ無いですわよね。ずっと仲良くしてましょう。ロザリー姫様」
シルヴィアが、心外とばかりに言っている。
「本当ですわ。夜会なんて、嫌なことが多い場所ですもの、ずっと一緒にいましょうね」
キャロルも、ロザリーを抱きしめんばかりに引き寄せて言っている。
「こらこら。あんまり甘やかさないでくれよ? 後で困るのはロザリーなんだから」
クリスが、やれやれって感じで言っているけど。
「皆様。ご指導よろしくお願い致します」
と言って、ロザリーは礼を執っていた。
そのロザリーの様子を確認してクリスはキャロルを呼ぶ。
「キャロル、ちょっと」
キャロルは、クリスに会場になっている中庭の端まで連れて来られた。
結界を張られたのを感じて、キャロルも二人だけの時の話し方になる。
「何の用? クリス」
「あのさぁ。キャロルのスキルの中に貴族の相関図あったよね。あれ、少しずつで良いから、ロザリーに教えてくれないかな」
「良いけど」
キャロルは、少し怪訝そうな顔になる。
「本当はね。僕がやらないといけないんだけど、時間なくてね。エイミー達の勉強のペースじゃ間に合わないから……」
「そっか……。一年しか無いもんね。いいわよ、任せて。公爵夫人としてやっていけるだけのスキルは、私だって、持っているもの」
キャロルは、クリスの頼みを快く引き受ける。
(公爵夫人どころか、王妃としてのスキルも持っているのだけどね、君は)
そう思いながら、クリスは結界を解いた。
翌日から、ロザリーは忙しくなった。
午前中は王宮内でエイミー達とお勉強。午後からはキャロル達とお茶会、それが無いときは、クリスに頼まれた貴族の相関図をキャロルが教えていた。
そして夜は、最低限に抑えているけど、クリスと夜会に出ている。
クリスは、ロザリーを預けられている間、公爵家の立ち上げのために奔走している。ダグラスが跡継ぎとして入るウィンゲート公爵家と、王室の橋渡しになる公爵家を設立しなければならない。
今回のような事件※は、起きないに超したことはない、キャロルで無くとも、令嬢があんな風に処刑される場面など、誰も見たくはなかったのだから。
昼間は、ダグラス達と会議し、会議が無いときはお屋敷候補を見に行っている。夜は、夜会もさることながら、色々な書類と格闘している。
流石のクリスも寝室に入るときには、クタクタになっていた。
寝室に入ってベッドを見ると、ロザリーが寝息を立てて寝ている。
初日に、震えながら泣いていた子どもとは思えない無防備さだ。
安心して眠っているロザリーを見ていると、なんだかホッとした気分になった。
そっと、起こさないように気を付けて、クリスはベッドに滑り込む。
「ん~。クリス様?」
気配を感じたのか、ロザリーは寝返りを打って、クリスの腕の中に入ってきた。
気持ちよさそうに、擦り寄ってくる。
なんか、ムニャムニャ言っているけど。
「ロザリー?」
クリスはチョイチョイとロザリーの頬を突いてみる。
もう何の反応もしないところを見ると、すっかりクリスの腕の中で安心して寝入ってしまってるようだった。
その様子を優しい穏やかな顔で、クリスは見ている。
「ダメだよ。僕の前でそんな無防備にしては。僕はね。君を死なせてしまっても何とも思わない……、賢者の石の欠片で出来ているのだからね」
クリスは、そんなことを言いながら、深くロザリーを抱き込んで一緒に眠ってしまった。
※ハーボルト王国 ウィンゲート公爵家事件
ウィンゲート公爵が、我が娘を王太子妃にするため、キャロル次期王妃候補に対抗し、『賢者死亡説』の噂を流した。
そして、実体の無い賢者の威光を笠に着て皇太子をその地位から降ろそうとした罪で、キャロルを処刑に追い込もうとした事件。
王子たち3人、次期宰相リオンとキャロルに反撃され、ウィンゲート公爵令嬢が賢者の手により現場処刑される。