表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

4 キャロルの憤慨 クリスの優しさ

「なんなの? クリスのあの態度、ロザリー姫が可哀想。あんなに幼いのに」

 クラレンスの私室で、キャロルが憤慨していた。

 食事の間での出来事を思い出す度に、キャロルは腹が立って仕方が無かった。

 ご婦人方のお茶会では、何かあったのかと皆様に心配させてしまったくらい、取り繕う事が出来ていない。


「よしよし。キャロル、落ち着いて……」

 クラレンスも公務が終わってやっと帰ってきたと思ったら、キャロルの機嫌が最悪状態で、一生懸命なだめていた。

 優しくキャロルを抱きしめ、ずっと背中を撫でて上げている。


 キャロルは、もうすぐ18歳だけれど、中味のユウキはまだ12歳だ。

 愛しい婚約者だと言っても、クラレンスは時々保護者役をしなければならない。 

 賢者とクリスは、あの事件以降、ユウキの教育係と保護者役を降りてしまっていた。


「だって、私より幼いのに。私だって、来たばかりの頃は、ずっと泣いてたのに」

 キャロルは、自分(ユウキ)がここに強制的に転移させられた時の事を思い出して、ロザリーに同情していた。

 クラレンスは、少し胸が痛い。

 知らなかったとはいえ、ユウキが入ったキャロルに辛く当たり、怯えさせ、泣かせていたのは自分だったのだから……。


「うん、そうだね。でもね、キャロルと違ってあの子は仕事をしに来ているんだよ」

「仕事?」

 腕の中から、キャロルは無防備にクラレンスを見上げて訊いてくる。

 中味の所為か、こういう時のキャロルは壮絶に可愛い。

 だけど、今この状況を説明をしなければ、キャロルは思い込みで暴走してしまうだろう。


「そう、仕事。あの幼い背にアルンティル王国を背負って来ているんだ。うちの国もそうだけど、無能な姫を国外に出したりしない。見ず知らずの国で、自分の目で敵味方を見分け、母国との和平を保つための外交が出来ると思われたからこそ、他国に行かされるんだ。そして、母国の為に死ぬ覚悟もちゃんと出来ている。ダグラスの妹も、随分前に8歳で他国に嫁いで行ったよ」


「そんな……」

「そんな世界なんだよ。ここは……。クリスも、今はあの子のことを見極めている最中だと思うよ。ここで諜報活動されても困るしね」

「あんなに幼いのに?」

「あんなに幼いから……だよ。子どもだと周りの大人は油断するからね」

「クラレンスも疑ってるんだ」

 怪訝そうにキャロルに言われて、クラレンスは穏やかに笑う。

 もう保護者から恋人に戻っても良いよな……と、そう思って。


「疑ってるよ……キャロルは、私なんかよりあの子が大切なのかな? とか、本当はクリスのことの方が好きなのかな? とか」

 クラレンスは、キャロルの顔を上に向けさせ軽いキスをする。

 もう、これ以上この話をする気は無いって事ね、とキャロルは理解する。

 そう理解して、キャロルもクラレンスの背中に手をまわした。





「おやすみなさい。クリス様」

 そう言って、ロザリーは一人で寝室に入っていった。


 仕事が終わるのを待とうとしたロザリーを、『もう遅いから寝室に行って先に寝るように』と、クリスは促した。

 なんだか、侍女達には誤解させてしまったようで、きっちり湯浴みまでさせられていたが……。

 まぁ、清潔を保つのは良いことだから、侍女達は誤解させたままでも良いけどね。

 だけど、幼いロザリーに、夜伽をさせるつもりは無いから、夜はちゃんと寝て欲しい。こっちも忙しい身なんだし。


 クリスは、部屋で書類に目を通している。

 幼い身で、他国に嫁いできたロザリーも大変だろうけど、一年で公爵家を起ち上げるのも一苦労だなと、クリスは思う。

 次代から『(から)の王妃』もいなくなると同時に、『(から)の第二王子』もいなくなるから、これで最後だろうけど。


 クリス王子は、結局賢者の能力(ちから)の劣化版程度の能力(ちから)は残して貰っている。何かあったときに、対応できるように。

 まぁ、そういう能力がなくても、隣の寝室の気配くらいは、丸わかりなんだけどね。

 何で、最後の最後にこんな役割が来るかなぁってクリスは溜息が出る。


 仕事をすることを諦め、書類を片付ける。

 寝室に入ると、 ひっく、えぐ……と、嗚咽を抑えきれず、肩を震わせてベッドで泣いている小さな子どもが見えた。

 その横に、スルッとクリスも入っていく。


 ロザリーの小さな背中が、ビクッとなった。クリスは、ロザリーの身体を自分の方に向ける。

「ク……ク……リスさ」

「ああ。何も言わなくて良い。おいで」

 そう言って、クリスは自分の方にロザリーを引き寄せ、抱きしめた。

 震えて泣いているロザリーの頭に口付ける。

「好きなだけ泣いて、疲れたらそのまま、お休み。ロザリー」

 そのまま、前にユウキ(キャロル)にしたように、背中をポンポンってしてあげてた。



 その内に、嗚咽が寝息に変わる。

 クリスは、泣き腫らした子どもの顔を見て、ソッと手をかざし泣いた(あと)を消してあげた。

 そして、ロザリーの心の中を覗かせてもらう。そっと、壊さないように気を付けて……。

『してあげたことに対する、対価をもらうね』そうクリスは心の中で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ