3 クリスとロザリー
国王陛下から、縁談の話があってから3ヶ月後、ようやくアルンティル王国から姫君が到着したと、クリスの元に連絡があった。
謁見の間で、現政権の王族、貴族を交えての対面があった。
クリスは謁見の直後、自分の私室出てロザリーの部屋に引っ越しをしていた。
「今日から、よろしくね。ロザリー」
クリスは、穏やかな笑顔でロザリーに挨拶をしているけど。
ロザリーの方は、戸惑っていた。
他国へ嫁ぐ場合、国家間で取り決めを行なっている場合を除いて、自分の年齢は考慮されないのは常識なので分かっていた。
慣例通りなら、婚姻を結ぶのは最短で1年後のはずである。
相手国の王族に嫁ぐのなら、婚礼の儀が初対面と言うことも少なくはない。
「知っているかも知れないけど、僕は第二王子だからね。我が国は、王太子以外は婚姻後は王宮を出て、準王族として公爵家を名乗らないといけないんだ。だから、お互いを知るために一緒にいようね」
ロザリーの困惑を読むように、クリスが言ってくる。
実際、彼女は婚姻後、否応なく公爵夫人として、社交と公務をし、子を成さねばならない。
年齢的に、子どもはまだ産めないけど。
クリスからの、説明でロザリ-は納得したようだった。
「クリス様。末永く、お可愛がりくださいませ」
ロザリーは、幼い仕草でこういう時の決まり文句を言った。意味は、分かってないんだろうなと思ってクリスは笑う。
「うん。そうだね。できればそうするよ」
君次第だけどね……と、言葉にはしないけど。
(本当に、僕には向かないこういうのは。クラレンスやダグラスの方が余程上手くやるだろう。二人とも頼られるの好きだから……。僕は、キャロルの中のユウキにすらイラついてた人間だからね)
クリスが、そういう事を考えていたら、部屋付きの侍女から声をかけられた。
「クリス王子殿下。ロザリー様のお召し替えをしますので……」
「ああ。もうそんな時間? どうぞ、着替えさせて上げて」
クリスは、興味なさげにソファーに座ってお茶を飲み始めた。
他の王族の部屋と違って、この部屋は召替えの為の部屋が無い。
かろうじて、寝室が別にあるだけだった。
お部屋自体は、広いのだが……。
しばらく、何か言いたげに侍女達がクリスの側にたたずんでいたけれど、クリスは知らん顔している。
侍女達相手に、不敬罪を持ち出すようなお方では無いと分かっていても、流石にクリス王子殿下に出て行ってくれとは言えない。
侍女達は、諦めてロザリーを自分たちの身体でなるべく隠しながら召替えさせていた。
程なくしてロザリーのお召し替えがすむ。
「女性は面倒くさいね。何かある度に着替えないといけないんだから。おいで。食事の間に案内するよ。多分、キャロル達も来ている」
ソファーから立ち上がりながら、クリスは言う。
「はい。クリス様」
ロザリーは力無く笑った。
食事の間に入ると、もうすでにクラレンスとキャロルが席に着いて待っていた。
二人が入って来た瞬間、キャロルはギョッとした様にロザリーを見た。
ロザリーは、クリスからエスコートされることも無く。ただ、クリスの後ろから付いて来ているという状態だった。
ロザリーは、にこやかにしているけど、キャロルには、ロザリーが緊張して顔色が悪く、怯えた子どもに見えた。
クリスがロザリーを手短に紹介しようとしたのだけど、キャロルは無視してロザリーに近づき、思いっきり抱きしめた。
いきなり抱きしめられて、何が何だか分からないロザリーは、されるがままになってしまっていた。
抱きしめられて固まっているロザリーに向かってキャロルが言う。
「大丈夫。もう大丈夫だからね。私が守ってあげる」
「あの……えっと?」
「それで、クリスに何されたの? 何か意地悪なこと言われた?」
「いえ……。あの……」
キャロルはロザリーを抱きしめて離さない。クリスはジト目になっていた。
「キャロル。君ねぇ、僕を何だと思っているの? 僕だって、さっき謁見の間で初めて会ったんだよ。それより、ロザリーが死にかけてる」
へ? と思って抱きしめてる女の子を見ると、キャロルの胸の中で、もがいていた。腕の中で、の間違いでは無い、キャロルの平均より大きい胸の中で……だ。
慌てて、腕の力を緩める。ロザリーは、ぷはーってなっていた。
「とりあえず、座ろうか。キャロル。その方が、アルンティル王国のロザリー・アルンティル姫なんだね」
クラレンスが冷静に、クリスに確認をしていた。
クリスが何か言うまでも無く、慌ててロザリーが挨拶をする。
「ロザリーと申します。よろしくお願い致します」
「よろしく。ハーボルト王国、王太子のクラレンスだ。それと、私の横にいるのが婚約者のキャロル・アシュフィールド。数日後には、身内でパーティーを開いて紹介があるだろうから、取りあえず名前と立場だけね」
さぁ、座ってとクラレンスはロザリーに促す。
クリスの方を見ると、ロザリーにかまわず、サッサと座って待っていた。