2 アルンティル王国からの姫君
ハーボルト王国へ向かって、アルンティル王国から一人の王女が旅立っていた。
名前はロザリー・アルンティル。アルンティル国王妃の第二王女である。
年の頃は10歳。小柄で可愛らしい顔立ちをしている。
多分、成長すればかなり美人になるのだろう。
金色の少し癖のある長い髪。まだ子どもなので結い上げることはせず、後ろに可愛らしいピンクのリボンを付けていた。
誰もいない馬車の中、彼女はかなり緊張して背筋をピンと伸ばしていた。
顔は少し青ざめているのかも知れない。
アルンティル王国独自の制度により、王子王女たちは本来どの母親から生まれたのか分からないようにしている。
だが、利用価値のある王妃から生まれた王女達は、その出生が分かるようにされていた。
戦争を避けたい他国に嫁がせる為である。
そのため、彼女たちは嫁ぎ先の国、夫に従順であれと教育される。例え、理不尽に殺されるようなことがあっても……。
ロザリーも、そのように教育されてきた。
ハーボルト王国は、ピクトリアン王国ほどでは無いにしろ、戦闘において不敗を誇る国である。
それ故に何千年もの間、独立国を貫いている。
成熟した大人しい国ではあるのだが、一端怒らせると殲滅戦も辞さないある種、恐ろしい国でもある。
今回の縁談は、姫と貢ぎ物をするので、アルンティル王国の所業をある程度見逃してくれとの嘆願、と言う事である。
ロザリーは、その旨を充分に理解してこの馬車に乗っている。
理解はしていても、そこは10歳の子どものこと、ある意味死刑宣告されてしまった我が身を思い涙が出てしまうのは、仕方が無い事だと思う。
ハーボルト王国に着いたら、ロザリーはすぐにお部屋に案内された。
可愛らしい部屋である。
お部屋は淡い桃色とベージュでまとめられており、ソファーにはクッションも置いてあった。
寝室はオレンジに近い落ち着いた茶系でまとめられており、抱き枕代わりの縫いぐるみまで置いてある。
ベッドは、3人くらい余裕で寝れらそうな大きさではあるが。
……実は、お部屋の支度は、次期王妃候補であるキャロルが指示をしていた。
だけど、あまりにも可愛くなり過ぎてクリスから、僕の居場所が無いと却下されまくっていた。
その結果、可愛いけれど男性がいても居たたまれないほどではない、というギリギリセーフ的なお部屋になっている。
他の王族の部屋より手狭なのは、1年居るかいないかの部屋だからだ。
侍女から、挨拶をされてすぐに部屋着に着替えさせられる。
ドレスや小物は、ある程度自分の物を持って来れていた。一週間後には、婚約者になる男性に挨拶をしなければならない。
そのためのドレスは、アルンティル王国が誇るデザイナーが手がけた逸品である。
アルンティル王国妃エイヴリルが、我が娘に出来る唯一の愛情表現であった。
※『お姫様の恋 ~アルンティル王国の王妃になった姫君の物語~』参照
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