13 クリス王子殿下の願い事
ある晴れた穏やかな良い日に、クラレンス王太子殿下とキャロルの婚礼の儀が、華やかに行なわれた。各国の王族・首脳陣まで招待して国挙げての一大事業だ。
成婚パレードなんかもあって、あちらこちらから、『おめでとう』の声が聞える。
裏では、めでたいどころの騒ぎでは無かったのだけれども……いや、『おめでた』というくらいだから、めでたいのか……? 珍しく、クリスの思考は混乱していた。
「ク……クリス。もう一回魔法かけて……気分が……吐きそう」
「キャロル様。吐いてはいけません。ドレスが……」
花嫁の世話役の侍女達が、慌てて濡れタオルやら、吐くための容器やら持って来ている。
顔色は、化粧で誤魔化してるけど。キャロルは悪阻で苦しんでいた。
「これ……大丈夫なの? 僕の魔法って賢者の石の能力なんだけど……」
お腹の赤ちゃんに影響ない? って、クリスは心配になってきてる。
もう、朝から何度目だろう。身体……と言うより、中の胎児を気遣って弱めの魔法を施している。
なんで、クラレンスは毎回毎回、何かある度に問題起こすかな。
クリスは、キャロルの側にいるクラレンスを睨んでいた。
当のクラレンスは、キャロルの側でオロオロして、何も出来ないでいる。
その様子を見て、クリスは文句を言い出した。
「この節操なし。何やってんだよ。婚礼の儀まで我慢出来なかったのか」
「返す言葉も無い……だけど」
広間の方から、ロザリーがやってくる。
「キャロル様 そろそろ、皆様の前に……って、大丈夫ですか?」
キャロルの青ざめて今にも吐きそうな様子に、ロザリーは慌てている。
婚礼の儀ではロザリーがキャロルとお揃いの衣装で、一生懸命ブライズ・メイドを務めていた。
今はキャロルとは違う衣装に着替えて、そのまま世話役を務めている。
「ロザリー、僕はちゃんと待つからね。こんな無様な婚礼の儀はごめんだ」
「……よく分からないですけど。ちゃんと、キャロル様に魔法かけて上げて下さい」
ロザリーの方は、『この非常時に何訳の分からないこと言ってるの?』って感じで、クリスに魔法の催促だけしてくる。
「……はい」
クリスはもう『魔法使いが生まれても知らない』って思って、能力を使い出した。
クラレンス王太子殿下とキャロルの婚礼の儀及び披露の晩餐会は、こんな感じで終わったのだったが……。
次は、ダグラス王子とシルヴィア。最後にクリス王子とロザリーの婚礼の儀が待っている。
王太子殿下ほど、派手な式では無いだろうけど、王室はしばらくお祝い続きだ。
こんな平和が長く続くと良い……とは、思う。
キャロル達の婚礼の儀と夜会が終わって、クリスとロザリーは自分たちの部屋に戻っていた。慌ただしく、とんでもない婚礼の儀だったけど、これも時が経てば良い思い出になるのだろう。
お互い正装から寝間着に着替えて、人心地着いた時には、もう真夜中になっていた。普段なら、夜会の後でもロザリーはもう眠っている時間だ。
今日くらいは良いか、とクリスも思う。
ロザリーは、頑張ってお役目をこなしてたのだから……。
そういう感じで、ソファーでクリスは紅茶、ロザリーはホットミルクを飲んで、寝る前の一時を楽しんでいた。
クリスは、紅茶を置いてロザリーの方を向く。
それに気付いたかのように、ロザリーもクリスの方に顔を向けた。
婚約して、半年経ったけどロザリーはまだ10歳、幼い子どもだ。
それでも、人間の寿命はあっという間だと、クリスは思う。
賢者が言った通り、魂が輪廻の中に戻ってしまったら、もう探しようも無いのだと言う事をクリスも知っていた。
「クリス様?」
唯一、方法はあるけどロザリーはなんて言うかな。
「ねぇ、ロザリー。牢屋では、君の運命に付き合うって言ったけど、僕の運命にも付き合ってくれるかな」
「いいですよ」
ロザリーは即答した。クリスが言う運命の内容も聞かずに。
「そんなに軽く約束していいの?」
だから、クリスは思わずロザリーに確認してしまった。
「だって、クリス様は私が処刑されてしまうような運命にも付き合ってくれる、って言ったんですよ」
ロザリーはにこやかにそう言う。
「そうだったね」
(そういえば、そうだった。先に、僕が約束したんだっけ)
「じゃ、お願いがあるのだけど……」
クリスは、ロザリーの耳元で願い事を言った。
その願いを聞いて、ロザリーは一瞬ビックリしたような顔になったけど、次の瞬間幸せそうな笑顔でうなずいた。
おしまい
ここまでお付き合い下さった方には、感謝しかありません。
ありがとうございました。
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