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皆は、黙って辺りを見回している。しかし敦也は、それを見て思っていた…昨日、怪しいと思った先の一つだ。彰も、同じように思っているはず。敦也からしたら、奈津美は騙りの霊能者だと思えた。

だが、いつまで待っても、誰も他に出て来なかった。

登がとっくりと3分ぐらい待ってから、言った。

「…じゃあ、奈津美さんが霊能者って事でいいんだな?確定か。」

しかし、美津子が釘を刺すように言った。

「分からないわよ。真霊能者が出てないだけかもしれないし。ここは、あくまでも暫定霊能者って事にした方がいいと思うわ。慎重にしなきゃ。」

登は、それに頷いた。

「そうだな。だが、結果があるからもし今日出ないと決めて出て来てない霊能者が居ても、明日には出て来て欲しい。噛まれたらどうしようもないからよ。ほんとは今日出て来て欲しかったが、そうも行かねぇのかもな。とはいえ、奈津美さんが今のところ真霊能者だ。狩人には、なるべく彼女を守ってくれと言っておく。もちろん、誰を守ってくれてもいいんだが、そこは狩人任せって事にするよ。」

しかし、奈津美は不服なようで、腰に手を当てて抗議した。

「ちょっと、私が一人しか出てないのに、守ってくれないってどういうこと?鉄板守りするって言ってたじゃない。だから出て来たのに、じゃあ私が出るメリットって何?」

それには、彰が答えた。

「少なくとも今日の時点では君だけ、君以外には今のところ出るつもりが無いと分かったことがメリットじゃないか?これで確定するならそれで良し、そうでないなら明日からまた考えるってことでいいんじゃないか。」

奈津美は、不貞腐れた顔を彰に向けた。

「でも、私が真霊能者なんです!それなのに、噛まれたら今日黒を吊っても意味が無いでしょう?明日出て来る霊能者は絶対騙りなのに。ここは私を守るところだと思う!」

敦也は、それを聞いて奈津美がもし人外なら、狂人か背徳者だと思った。自分が噛まれる可能性があるのを知っているから守れと言っていると思ったからだ。

なので、敦也が言った。

「…オレは、奈津美さんを信用してないな。」それには、皆が敦也を見た。敦也は続けた。「ここで霊能者を守ると言ってしまったら、人狼は他の所を噛み放題なのに、護衛を固定したがるのが分からない。自分を真霊能者だと勘違いした人狼に、噛まれるのを心配している狂人か背徳者に見えて来る。真霊能者は、他に居るんじゃないか。それを奈津美さんは知ってるんじゃ。」

彩芽が、それには頷いて同意した。

「そうね、私もそう思った。奈津美さんの護衛に固執する言い方って、なんだか人狼に自分を噛むなってアピールしている狂人みたいに見えちゃうわ。」

彰が、ふふんと笑った。登がそれに気づいて、彰を見た。

「…彰さん?何かおかしいですか。」

彰は、腕を組んでいたがクックと肩を震わせて、言った。

「そうだな。この子は少し、言葉に対して無頓着なのかもしれない。私も敦也に同意する。真霊能者は、他に居る。」

奈津美が、キャンキャンと吠えるように、耳障りな声で叫んだ。

「彰さんまで!私は真霊能者なのに!占ってくれてもいいです、絶対白だもの!」

彰は、笑ったまま頷いた。

「そうだな、君の結果は白だろう。人狼同士だとしたら、もっとお互いに注意するから発言も考えるものだ。昨日から君の発言を聞いていると、どうも村目線ではないのだ。言葉の選び方は、考えた方がいいぞ。そして今も君は、明日出て来る霊能者は、と言った。なぜ明日霊能者が出て来ると知っているのだ。自分が騙りであるからではないのか。明日もしかしたら出て来るかもしれない霊能者は、と言うべきだった。浅はかだったな。」

他の皆が、息を飲んだ。確かにそう言った…そうだったはずだ。彰に指摘されるまで、奈津美が勢い話すので気づかなかったが、言われてみたらそうなのだ。明日誰かが霊能者に出て来るのを確実に知っているのは、騙りに出ている本人だけだ。奈津美は、それを露呈してしまったのだ。

「そ、そんな…!ただ慌てて言い間違えただけです!」

奈津美は弁解したが、彰は首を振った。

「なぜ慌てるのだ。真役職ならどんと構えていれば狩人の信用を得られて護衛が来る。まして一人しか出ていないのだから、君は我々より遥かに有利だったはずだ。昨日からの失言も、ここでは言わないが人外目線だと私に思わせるのに十分な材料だったぞ。ま、いい。どちらにしろ、占うことはない。生き残って他に誰も居なければ考えるが、それはその時のことだ。」

奈津美は、もう何も言い返すことが出来なかった。皆の疑惑の視線は、痛いほどだったが、それでも騙りがばれた時はこんなものだ。とはいえ、真役職だったなら、もっと頑張るものなのだが、奈津美はそこであきらめてしまった。それが一層、村にとって疑惑を裏付ける事として浸透してしまった。

「…ええっと、じゃあまあ、ここは真霊能者に出てもらうしかないかもしれないな。すまないが、出てくれねぇか。居るんだろう?それで複数だったら、今日は霊能者から行く。」

すると、盛大にため息をついて、彩芽が手を上げた。

「…はい。」彩芽は、本当に嫌そうな顔をした。「私、うまく潜伏していたつもり。噛まれ位置でもないなって思ってたから、今日は奈津美が襲撃されてくれたら、ぐらいに思ってたの…。人狼はローラーされたら嫌だから出て来ないって思ってて、出てても占い師だろうなって考えがあったから。狂人かなあ、背徳者かなあって。狐は噛まれるのを怖がったりしないもんね。」

登は、それでも慎重に皆の顔を一人一人見て、言った。

「他には?無いな?」全員が、ただ黙って他の誰かを見ている。まあ吊られるのが分かっていて、出て来るのは真霊能者ぐらいだろう。登は、息をついて頷いた。「じゃあ、彩芽さんが霊能者だ。多分真。それでも、奈津美さんの真だって追うのを忘れないようにしよう。彰さんがもし人狼だったら、真を言いくるめてしまったのかもしれないし。…ま、理由がしっかりしてるし、そうは思えないけど…。」

全員が、同じ意見なのか何も言わなかった。奈津美も、もはやあきらめたのか、今は不貞腐れた顔でただ、横を向いている。ここから真を取るのは難しいが、それでもこんな形でゲームを投げてしまうなんて、と敦也は、残念だった。せっかくのこんな大がかりなゲームに参加できたのに、あまりにお粗末だと思ったのだ。

「…なあ、ちょっとは頑張って真を取りに行けよ。」敦也は、イライラとして、奈津美に言った。「オレの友達だって、これに参加したいって言ってたのに選ばれなくて残念そうにしてたんだ。そんなお粗末なプレイをするために、ここに来たんじゃないだろう?オレ、結構これに懸けて来てたんだけどな。」

それを聞いた、奈津美の横の、彩芽が庇うように言った。

「ちょっと、仕方ないじゃないの。私達は、女子枠で来たんだって運営から聞いてるわ。男性がやっぱり多くて、泊まりだしなかなか女子は応募が少なかったみたいで。男性はガチの人が多いから怖いよって聞いたけど、私達は楽しめたらいいからって思って来たの。だから、奈津美を責めないであげて。男性達からあんな風に言われたら、私でも萎えちゃうよ。」

しかし、それを聞いた美津子が顔を険しくした。

「それでも、ここへ来たからにはしっかりしなきゃ。男女平等だからって、女性と男性を同じぐらいの人数にしないとってこうなったと聞いてるわ。昨日からあなた達と一緒に居たけど、人狼がほんとに好きな人も居るけど、そんなのどうでもいいって公言してる子も居たじゃないの。私だって昨日は緩んでたけど、今日はしっかり考えてるわ。ゲームが始まったら、それなりの役割をしっかり担わないと。お気軽過ぎるのも考え物よ?運営は結構これにお金使ってる感じじゃない。録画されてるのに。」

言われてみたら、録画されていたのだった。

敦也は、今さらながらそう思った。それから、美津子たち女性の話で女性枠があったのだと初めて知った。こちらは、そんな話は全く聞いていなかったからだ。

彰が、息をついた。

「…まあ、これは遊びだ。とはいえ、確かに金がかかっていそうだし、しっかりしたゲームを見せるという義務はあると私は思っている。昨夜は私も占い先を選ぶのに話を聞くために降りて行ったが、女子達が私に聞くのは私が妻帯者なのかという事と、私の収入の話だった。うんざりしたのも事実だ。」

登は知らなかったようで、目を丸くした。

「え、昨日そんなことを?そういえば彰さんは結婚してるんですか。」

彰は、呆れたように登を見た。

「君まで聞くのか。ゲームにそれがどう関係あるのだ。」

登は、そう言われてバツが悪くなり、困って大きな体をもじもじと動かして横を向いた。

「すみません。ちょっと興味があっただけで。」

皆が見ている。彰は、ため息をついた。

「そうか、皆そんなことが気になるのか。雑念が入って判断を誤ってはいけないので、ならば言うが私は独身だ。パートナーも居ない。収入は一般的だと自分で思う。ついでに昨日聞かれたことに答えると、好みのタイプなど、無い。私が気になるのは遺伝子の相性であって本人の人格には興味は無い。誰かと生活を共にするなど考えられない。興味があればこちらから言うので放って置いて欲しい。以上だ。」

遺伝子の相性って。

敦也は思ったが、口に出来なかった。皆が同じように思ったのか、ただ茫然と彰を見ている。頭が良い人は変わっていると聞いたことがあったが、ここまで極端に変わった人は見たことが無かった。

昨日は彰彰と言っていた奈津美も、言い負かされたばかりなのでむっつりとそれを聞いている。しかし、脇に居た美子が言った。

「…でも、昨日は控えめな女性は好ましいとおっしゃっていませんでしたか?」

それには、彰は眉を寄せて答えた。

「私に構わないで居てくれる女性の方が良いと言っただけ。あくまで、知りたいことがあればこちらから言うのでうるさくしないで欲しいというのが本音だ。」と、他の男性を見た。「それで?私だけがプライベートを公開するのか。他の男性の事はどうなのだ。」

最後に目が合った登は、ぐっと黙ったが、仕方なく言った。

「誰も、オレの事なんか知りたくないと思いましたんで。」と彰に言ってから、皆を見た。「オレも独身。歳は30。女性に興味がない訳じゃないが、面倒だなってのが本音で。だからこのまま独身でいいと思ってる。オレの収入なんざ知らなくてもいいだろう。以上だ。」

どうしてこんなことになったのかと敦也は思っていたが、皆の目が彰の隣りの、俊に向いた。どうやら、このまま番号順に来るようだ。

「オレも?」俊は、戸惑ったようだったが、言った。「別に彰さんほど女性には興味を持たれてないと思うけど。オレも独身、32歳。登が年下だったのがちょっと驚いた。普通の会社員だよ。」

32歳。

言われてみたら、少し落ち着いているようにも見えて来た。仕方なく、そこから女性を飛ばして憲二が口を開いた。

「オレは31歳。思ったよりみんな歳が近くて驚いたよ。っていうか、みんな彰さんだから興味があっただけじゃないのか?オレ達みんな言う必要あるのか?」

同感だったが、それでも彰にだけ言わせるのも気が退ける。

仕方なく、敦也が次に続いた。

「確かにオレになんか興味は無いだろうけど、彰さんにだけプライベートを言わせるのもだから、オレも言う。オレは29歳。独身で気ままに休みの日に人狼してる。平均的な会社員だよ。別に特別な所なんか何もない。」

隣りの純次が、うんざりしたように言った。

「オレもかよ。オレは24歳。落ち着いて見られるけど大学を出たばっかりの研修医。教授に散々文句を言われて休みを取って今回参加した。独身。」

すると、それを聞いた奈津美や彩芽、ショートカットの…調べたら千夏という名の子、その隣りの奈美という子も反応した。

「え、純次さんもお医者さんなの?」

すっかり元気の無くなっていたはずの奈津美が、いの一番に言った。純次は、嫌そうにそちらを見た。

「医者って言っても試験通っただけで今修行中だから。収入なんかないようなもんだっての。教科書とかめっちゃ高いんだからな。それに、オレ、医者だからってだけで前のめりになって来る女って苦手なんだよな。」

医者は、辛辣なのが多いんだろうか。

敦也は思って見ていたが、女子達はそれで黙った。純次もだが彰の様子を見ても、興味がない訳ではなくても、ここまであからさまに金に群がるような反応をされ続けると、確かに嫌になるのかもしれない。すると隣の、雄大が笑った。

「ははは、医者は大変だね!ちなみにオレ、29歳。会計士なんだ。」

敦也は、目を丸くした。会計士?!

「え、ちょっと待て、もしかしてお前も頭いい部類か。」

思わず言うと、雄大は笑ったまま答えた。

「ええ?そうかなあ。医者には敵わないと思うよ?確かにちょっと難しかったけどさあ。」

雄大のチャラそうな感じからは、想像もつかない職業だ。しかも同い年。

「ちょっとじゃないほど難しいって聞いてるのに。お前、なにげにすごいな。」

素直に感心する敦也を見て、雄大は照れたように笑った。

「そう?えへへ。」

女子達は、何も言わない。もしかしたら知らないのかもしれないし、また後でスマホで調べようとか思っているかもしれない。だが、かなりの難関で年収だって医者に負けないんじゃないだろうか。敦也はそれを知っていた。

すると、言いにくそうに次の忠彦が言った。

「ええっと、オレは30だよ。で、会社員。業種とか言わなくてもいいよな?っていうか、雄大がイケメンなのに会計士って嫉妬するわ。最近のイケメンは頭も良いのか。彰さんだって大概イケメンだしさ。神様は不平等だよまったく。」

敦也も同意見だったが、人狼ゲームをするのにイケメンとか高収入は関係ない。ただ、頭が良いと強敵なだけで。

「じゃあ、僕だよね?」玲が、間延びした独特の口調で言った。「僕は24歳。僕も彰さんと同じで海外に居たんだぁ。一応研究医なんだけどね…まだ今の研究所で始めたばっかりで回りの人が優秀過ぎて圧倒されてるんだー。日本ではまだ医師免許取ってないけど、わざわざ申請することもないかなと思って。あっちで生まれ育ったから、日本語も最近習ったんだよ。日本語ってひらがなカタカナ漢字って文字多いから面白いねぇ。」

それには、敦也ばかりかみんなが息を飲んだ。玲が、医者?!

「え、ちょっと待てお前もか?!」

玲は、恥ずかしそうに頷いた。

「そうなんだー。らしくないってよく言われるー。日本に来たのもまだ一年ほど前だからねぇ。」

登が、唖然としながらも言った。

「それってお前、日本語…その発音、一年だって?」

玲は赤い顔をした。

「あ、やっぱおかしい?だって難しいんだよー。アニメ見て覚えたの。」

いったいどんなアニメだ。

敦也は思ったが、忠彦が首を振った。

「違う、違和感無さすぎ!一年でそれ覚えたのか。というか、口調がゆっくりおっとりしてるのは、その見てたアニメのせい?」

すると、彰が急に英語で話した。

『…海外ってどこに居た?米国か?ヨーロッパか?私は最初米国だったが、最後に居たのはドイツの大学だ。』

何を言ったのか分からないが、何となくUSAとかジャーマニーとか聞こえて来たので場所を聞いてる気がした。

玲は彰のはっきりした英語ではなく、何となくおっとりした感じの英語で答えた。

『ボストンですぅ。両親はDCから離れられなかったから、僕一人で大学に行って大学院を終えて日本の研究所に就職しましたー。』

彰は頷いて、皆を見た。

「これは別に他からの影響とかではなく、玲自身が分かっていて使っている日本語だ。英語でも同じような印象の言葉使いだった。」

そうなのか。

ということは、玲はアニメで言葉を覚えて、その上自分のキャラに合った日本語を使っているのだ…たった一年で。

「すごいねえ…頭のいいひとが、いっぱい居る…。」

おとなしい啓子が、ぽつりと言った。美津子が、あまりにも意外過ぎて茫然としていたのを、ハッと我に返って、言った。

「でも、まあ、これで少しはみんなの距離が近くなったんじゃない?女性も言った方が良いなら、私も言うけど。」

それには、登が首を振った。

「いや、いい。そんなことに時間を割いてる暇は、本来無いしな。というか、女子から弁護士とかいろいろ出て来たらそれでまたオレ、へこみそうだわ。」

美津子が苦笑する。敦也も、登と同感だった。

彰が、立ち上がった。

「では、とりあえずは解散ということで。長時間座りっぱなしでは女性もつらいだろう。次は昼過ぎぐらいにどうか、登?」

登は、そう言われて慌てて時計を見た。

「そうですね。あ、もう一時間以上話してるな。じゃあ、次は13時にここで。今話したこと…プロフィールとかは別として…役職の事とか、考えて来て欲しい。次は、話してない人に重点的に話してもらうから。吊り先とか、実際どうしたらいいのか。黒を吊るのか霊能か、占い師かグレーか。理由も含めて考えて来てほしい。」

全員が、言われてバラバラと立ち上がった。

彰は何か考えているようだったが、さっさと飲み物を自分で準備すると、窓際の一人用ソファに座って、庭を眺めて考えに沈んでいた。

敦也は、それを見ながら一度サシで話がしたいと、彰に歩み寄って行った。

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