7
結局、リビングへ戻っても肝心なことは誰も話さなかった。
彰がそれを許さない雰囲気があって、表向きは登が、みんな平等に起きて来てからの話し合い、と方針を決めていたからだ。
9時までパラパラと皆が降りて来てはキッチンでパンを選ぶ、を繰り返し、そうして全員が朝食を終えたぐらいには、もう9時前になっていた。
登は、それを見ながら、うーんと伸びをした。
「なんか待ってるの面倒だなあ。8時ぐらいにしてもいいかもしれない。寝るの早いから目が覚めるのも早くってな。5時から鍵が開くのを起きて待ってたんだ。人狼だって夜じゅう起きて議論してるわけじゃないだろうし、8時でもいいんじゃね?」
隣りの忠彦が、それに頷いた。
「確かにそうかもなあ。オレも昨日はこんなに早く寝れるかよと思いながらベッドに横になったら爆睡してて、起きたら5時頃だった。腹が減って来て困ったから、今夜はなんか持って行っとこうと思ってるぐらいだよ。」
敦也は、自分は鍵が開いた時の音で起きたとは言えなかった。とはいえ、自分は必死に考えていたのだ。確かに占いに悩んだので、寝たのは11時頃だったが。
彰が、口を開いた。
「…そろそろいいのではないか。全員降りて来ている。」
あちこちのソファにばらけている人たちを確認するように見回しながら、立ち上がる。登は、急いで立ち上がった。
「ああ、じゃあみんな、議論を始めるから昨日と同じ椅子に座ってくれないか!」
登が声を上げると、全員がぞろぞろと椅子の方へと歩き出す。
彰は、いち早く自分の椅子へと座ると、足を組んだ。皆がそこから数えて自分の番号の場所を考え、各々座って行く。
敦也も、緊張しながら自分の椅子へと座った…そして、チラと7の憲二を見た。憲二は、自分が昨日占われているとも知らずに、隣の大きな目のボブの小柄女子と何やら笑いながら話して椅子へと座っていた。今日は、どうあっても憲二を吊りたい…。村が狐を優先するというならグレーかもしれないが、それでもそれで自分の真を認めさせたいという気持ちがあった。
全員が座ったのを見て、彰は黙ったままじっと登を見つめた。さっき、雄大と忠彦、敦也と共に雑談をしていた中で、登がしっかり進行して行くべきだとその段取りの話し合いをしていたのだ。
登は、緊張気味に咳ばらいをすると、口を開いた。
「じゃあ、ま、オレがパン屋なんで、進行をさせてもらう。で、役職なんだが、霊能者はまだ結果が無いから後から考えるとして、占い師の事だ。昨日、占ってるはずだな?結果を持ってるなら、出て来て欲しい。で、その結果からどうするかみんなで考えるべきだと思うんだが。」
敦也が頷いて、すぐに口を開こうとすると、先に彰が言った。
「私が占い師だ。」
全員が、驚いて彰を見た。もちろん、敦也も仰天して見た…彰さんが相方だったのか!
思わず息を飲んで口を開けずに居ると、彰は啓子を見た。
「私は、4番の啓子さんを占った。彼女は白、人狼ではない、と腕輪に出た。」
啓子…?昨日、おかしいと言っていた先じゃない。
敦也は怪訝な顔をした。
啓子は、ホッとしたような顔をしたが、何も言わなかった。彰は続けた。
「昨日キッチンに残っていた女性達と話したが、彼女は他の女性達のようにはしゃぐ様子もなく私に一度も話し掛けて来なかった。他に怪しいと思われる人は居たし、迷ったが、しかし初日は寡黙などちらか全く分からない所を占って置こうと考えたのだ。狐なら潜伏したがるかもとも思ったしな。」
確かに、怪しいとはいえ白が出たら今度は狂人かと疑うことになるし、もし狐なら占われたくないので警戒しておとなしくしているかもしれない。
敦也が少し納得していると、登が、言った。
「他には?占い師は二人居るだろう。」
「オレだ!」
敦也は、急いで言った。これ以上出遅れてはいけないと手を上げた。しかし、他にも二人、手を上げていた。
「え…?」
占い師が、四人。
つまり、この中の二人が偽物だ。
「オレが占い師だ。」俊が、彰の隣りで敦也をじっと見ながら、言った。「オレは3の美津子さんを占って人狼ではないと見た。占い理由は場を仕切ろうとしていたから、人狼か、もしかして狐なら呪殺できると思ったから。だが、白だった。」
16番の玲が、相変わらず間延びした言い方で言った。
「えー?なんで四人も居るのー?僕が占い師だよ。僕はめっちゃ頭が良さそうで敵だったら怖いから1の彰さんを占ったのー。白だよ。」
敦也は、愕然とした。誰が相方なんだ…というか、彰さんが相方だと思った瞬間は正直勝ったと思ったが、しかしこの数となると妄信も出来ない。
敦也は、しかし結果を言わなければと、口を開いた。
「オレは、黒を引いた。」皆が、驚いて敦也を見る。敦也は言った。「だから、朝一番に言いたかったんだ。オレは、7番の憲二を占って、人狼です、と表示されるのを見たんだ。昨日、オレが接したのはキッチンでたまたま会った女子達と、二階の男性だけだった。その中で、憲二は何か敵を作りたくない感じを受けた。もともとの性格だったらとは思ったが、白ならそれでいいと思って占った。そうしたら、黒だった。」
登は、眉を寄せた。
「ちょっと待て、じゃあ順に結果を言うと、彰さんが啓子さんを白、俊が美津子さんを白、玲が彰さん白で、敦也が憲二黒ってことか?」
彰が、頷いて自分の後ろのホワイトボードを指した。
「ここへ書いてはどうか?混乱するだろう。」
登は頷いて、ホワイトボードへと歩み寄ると、ペンを手に左上から書いて行った。
彰→啓子○
俊→美津子○
玲→彰○
敦也→憲二●
「…ということは、今日は黒を吊るか、占い師のランか、グレランか、まず決めなきゃならないって事か。」
忠彦が言うと、隣の雄大が言った。
「でもさ、狐が居ることを思ったら、占い師は重要だよね。黒を吊って今日は霊能者を出して狩人に守らせるのが一番いいんじゃないの?」
すると、雄大の隣りの髪がサラサラの11番…チラと名簿を見ると、純次とう名だった…が、淡々と言った。
「霊能者が二人出たら吊り損になりそうだがな。普通に考えたら占い師は一人残ればいいんだし、四人の中から二人が人外だと分かってるんだ、二分の一で吊れるだろう。オレは占い師から行った方がいいと思うけどな。」
しかし、それには美津子が考え込むような顔をして言った。
「でも…この様子だと、多分人狼も狐も出てないと思うのよ。だって四人でしょ?普通に考えて真占い師が二人で、狂人と背徳者でしょう。」
しかし、登が立ったまま腕を組んでペンを指先で振り回しながら、顔をしかめて言った。
「分からないぞ?狐が出てるかもしれねぇし、人狼が出てるかもしれねぇだろうが。真・真・狂・背なのか、真・真・狼・狂なのか真・真・狐・狂なのか真・真・狼・背なのかってさ。めっちゃあるじゃねぇか。」
すると、憲二の横の、確認したら希美という名前だった小柄のボブの女子が言った。
「そうね。でも、狼と狂人が両方出てしまったってことは考えられるけど、狐と背徳者は無いわね。だって、お互いに知ってるでしょ?って事は、今登さんが言った組み合わせの中にあるんじゃないかな…私も、この中に狐は混じってると思うの。占われたくないと思ってると思うから。だから、私は真・真・狐・狂か、真・真・狐・狼、が有力じゃないかって思うな。」
すると、彰が言った。
「ということは、皆今日は占い師を精査して行くということでいいのだな?確かにこの中から吊るのが一番人外に当たる確率が高いがな。それならば、我ら占い師が発言するべきだと思うが、皆はそれでいいか。」
全員が、顔を見合わせた。そう言われてみると、考えがまとまらないのだ。
登が、言った。
「まだ今の時点じゃ決められねぇな。というか、四人の中に二人の人外、残り13人の中に四人の人外ってことだろ?で、その13人の中には狩人と猫又と霊能者も混じってると。それを外したら10人の中に四人だから当たる率もそう変わらんか。」
彰が、言った。
「とはいえ狩人も猫又も出すわけには行かないし、率はもっと下がるだろう。この村は6人外で8縄だ。そうそう外すわけにはいかないのだ。私目線、敦也が真である可能性もあるので、もし黒の憲二を吊るというなら今日しかないとも思うが、そうでないなら占い師の中からが率が最も高いと思う。」
それには、玲が顔をしかめた。
「ええ~?占い師なのに吊られるなんてさあ、理不尽だよねえ。僕は自分が真だって知ってるけど、他は誰が真なのか分からないんだもの。でもさあ、いきなり黒出しって、狂人が自分のことを人狼にアピールする常套手段なんじゃないの?僕はだから、敦也が怪しいと思うなあ。」
敦也は、それを懸念していたので、むっとした顔をして玲を見た。
「オレもそう言われるのではないかと思ったが、黒を見つけたんだから仕方ないだろ。それに、狂人だったら昨日みたいに情報が少ない中で、誰が人狼か分からないのにいきなり黒を打ったりしないだろう。人狼は三人居るんだ、狐の事は置いておいても、見つけた黒は今日吊って置いた方がいいとオレは思っている。」
俊は、むっつりとした顔をしていたが、口を開いた。
「オレも、誰が自分の相方なのか分からないし、敦也が真の可能性だってあるから、憲二の黒は霊能者の判断を見てみたい。オレだって早く自分の相方を知って一緒に占って行きたいと思ってるからな。狐は呪殺、狼は吊りで処理するのが一番いいと思ってるから。」
それには、彰も頷いた。
「確かに狐は呪殺が一番だ。占い師の真贋もつくし、狐が処理されたのだとハッキリ見える。ただ、狩人との兼ね合いで分からない時もあるかもしれないがな。」
登は、うーんと唸った。
「困ったな。じゃあ午前中は黒を吊るか占い師の中から吊るか、そこをまず話し合うか。霊能者は明日まで出さずにおくか?」
それには、純次が言った。
「出しておいた方が良いんじゃないか?今夜襲撃先がたまたま霊能者だったら騙りが真置きされる可能性がある。占い師を吊るって話も出てるんだから、霊能者も出して、霊能者が複数出たら霊能者から吊った方が良いんじゃないか?もちろん、一人だったら万々歳だがな。」
美津子が言った。
「最もだけど、今日グレーに行かないなら霊能者は潜伏するべきじゃないかしら。この数の中で襲撃が霊能者に当たるのは難しいと思うわ。霊能者には生き延びてもらえると思う。今日は出すべきじゃないと思うわ。」
登は、頷きながら黒を出された憲二を見た。
「で、黒と言われたお前はどう思うんだ?憲二。」
憲二は、じっと黙って議論の推移を見ていたが、深い溜息をついた。
「オレ目線は、完全に敦也は偽だから、オレから見たら敦也を吊ってほしい。つまり、黒を吊ると決めたなら、オレと敦也を投票対象にしてほしい。占い師の中からって言うなら、オレが偽だと知ってるのが敦也だから敦也に投票するがな。ってことぐらいかな。オレは役職は無いから、オレから吊られても別にいいんだけど、そもそも、昨日あんまり接することが無かったオレと、ちょっと挨拶程度話したぐらいで怪しいって占うのも理由が弱い気がするんだ。オレが白いと思って思い切って白を打って来た狂人か、それとも何でもいいから黒を打った狐か背徳者ってのも考えられる。どっちにしろ、偽だよ。」
純次が言った。
「…占い師が四人も出てる時に初日の黒を吊るのはあまり賛成出来ないけどな。やっぱり占い師から吊って見て流れを見た方がいいんじゃないか?もし本物に当たってしまってもまだ一人残るんだから、狐の心配は今日はしなくて済む。明日以降の話になるだろう。誰かが明日にでも呪殺を出してくれたら見透しも良くなるしな。」
美津子が顎に手を添えて考え込んだ。
「確かに占い師は一人残ればいいけど…狐が居たとしても今日ならまだ背徳者が生きてるから一緒に死ぬし、処理出来た事が見えるわ。」
彰が首を傾げた。
「とはいえ猫又が居るから、人狼の襲撃がそこに当たったら分からないがな。判断がつかなくならないか。狐の点から見ると、呪殺が一番分かりやすいと言えばそうなのだ。指定占いにするのだろう?」
登は、頷いた。
「占いに関してはそうだけど、マジで難しいな。役職が多すぎてまとまらない。やっぱり見透しを良くするために、純次の言うように占い師から行く方がいいか。」
彰の横の、美子が口を開いた。
「猫又は出さないのね?狐ケアを考えるなら出しておいて、騙りが出たら間に合うぐらいで吊る方法もあるかもしれないけど。」
登は、それには顔をしかめた。
「まあなあ、もうちょい考えるよ。噛まれてくれたら人狼は処理出来るから。確かに狐の事を考えたら、どっかで出して置いた方が後々ラストウルフが噛んでしまって狐勝ち、ってのを防げるとは思うけどよ。」
それには彰が言った。
「猫又の事は明日以降で良いんじゃないか。人狼を連れて行ってくれる可能性もあるから、申し訳ないがこのまま潜伏していてもらった方が村利がある。それで、結論は占い師からか?ならば議論を進めるためには私達占い師が話すべきなのではないか?村のために結果を持って出て来たのに、投票対象としてあげられるとしたら、私達は自分が真だと証明するための時間をもらう権利があるだろう。君たちだって、占い師を精査するための情報が欲しいはずだ。無駄な議論を引き延ばす行為は人外と見て私は容赦なく疑うし占い先にする。」
彰は、ハッキリと意見を言う。
皆が思わず気を飲まれて黙り込む中、俊が言った。
「…そうだ。彰さんの言う通り、オレ達は占い師としてわざわざ出て来たのに、疑われて吊り対象に上げられる訳なんだから、意見を言う時間はもらわないとな。さっきからああじゃないこうじゃないって、全く進んでないじゃないか。人狼からは仲間が見えてるからこの中に居ないし狂人なら吊ってくれていい、ぐらいに思ってるのかもしれないし、人狼が出てるから引き延ばして正常な判断が出来ないように画策してるのかも知れないが、オレは真なんだ。殺されるいわれはないんだから、話がしたいんだよ。」
言われて登は、まとめなければと、頷いた。
「じゃあ、今日は占い師の中から一人ということにしよう。それでいいな?」
みんな、仕方なく頷く。まだハッキリと決めかねているようだったが、占い師の話を聞いてやっぱりやめようとなっても、まだまだ時間はあるのだ。
登は、それを見て頷いた。
「よし。じゃあ彰さんから意見を言ってもらおう。」
皆の視線が、彰に向いた。
彰は、落ち着いた様子で口を開いた。




