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彰が言った通り、キッチンの広さは半端無かった。

入っていきなり目に入るのは、立ち並ぶ大きな業務用冷蔵庫だ。その銀色のフォルムはこのアンティーク調のキッチンには全くそぐわないのだが、しかしそれだけ多くの冷蔵庫を置いているにも関わらず、他に食器棚や食品棚なども幾つもあり、それらの木製の風合いが雰囲気が完全に壊れるのを辛うじて止めていた。

システムキッチンは木目調だったが現代風の造りで、使い方が分からないことは無かった。コンロは電気で、ガスのように直火での調理は出来ないようだった。

その他、電子レンジも三台あり、炊飯器、ポット、と、必要なものはそろっていた。

肝心の食材だが、それも豊富過ぎて目移りするほどだ。調理したいなら野菜も肉も調味料も一通りそろっていたし、もう調理された煮物や刺身、酢の物などが飯屋のように入っている、それ専用の冷蔵庫まであった。

食べる物には絶対に困らないな、とそれを見て敦也が感心していると、彰がさっさと傍のトレーを持って、その上に出来ている煮物などをさっさと乗せているのが見えた。

「彰さん、こんなにあるのに戸惑わないんですね。」

敦也が思わず言うと、彰は答えた。

「こんなに腹が減っているのに?私は決まった時間に食事をすると決めているのだ。食事は体調と直結するので、こんな知らない場所に来てそれが狂うリスクを冒したくない。思考の邪魔をするようなものは排除するように行動しているだけだ。」

そうして、取った総菜やパックのご飯を電子レンジに放り込むと、ポットで湯を沸かし始めた。その手際の良さには目を見張るものがある…もしかして、ここを知っているんじゃないかと思うほどだ。

しかし、恐らくはこの人は何をするのもそつがないのだろう。

敦也は、そういう印象を持った。

他の者たちが入って来てまた、驚きながら感想を述べあって無駄な時間を過ごしている間に、彰はさっさと自分の選んだものを手にキッチンに置いてある大層なダイニングテーブルへと歩み寄ると、そこへ座って黙々と食べ始めた。それを見て、自分こそ体調を万全に整えて村を勝利に導く立役者になりたいと思っている敦也は、急いで自分も食べ物を選んで、電子レンジで温めた。

彰の持つカリスマ性というか、頼りたいと思わせるような自信に満ちた振る舞いには、敦也が目指している形にぴったりとはまっていて、少し危険だな、と思った。とにかくは、彰を妄信しないようにしなければ、と敦也は思いながら、彰の近くへと座った。

すると、登もやって来て、敦也の隣りに座った。

「なあ、あっちにパンもあったしペットボトルの飲み物ばっか入ってる冷蔵庫もあったぞ。ビールもワインもチューハイもあった。オレ、寝る前は一杯やる癖があるんで助かった。お前は?」

敦也は、目の前のハンバーグに箸を入れながら、答えた。

「オレも普段だったら飲むんだけど、やめとくよ。明日から、どんな話し合いになるのか分からないし。ちょっと頭をクリアにしとこうかなって思ってる。リアルタイムで人狼するのって初めてだからな。」

登は、少しバツが悪そうな顔をした。

「まあ、確かにそうかもしれんが、オレ、パン屋だからな。そんなに考えなくても良さそうじゃないか。オレが生きてる限り、毎朝パンが供給されるみたいだけど、どんな風なのか分からないよなあ。朝、オレの部屋の前に置いてたら真だって言ってるようなもんだろ?まさか朝早く起きてパンを焼けってことじゃねぇと思うし、飲んでも問題ないかなってさ。」

敦也が、呆れたように登を見た。

「登、お前他に真パン屋が潜伏してない限りお前が真なんだと思うし、村はお前頼みで進行するんだからもっとしっかりしてくれよ。明日は役職も出て来るだろうし、しっかりしないと大変だぞ?この村、役職めっちゃ多いからな。飲むのはいいけど、一本だけにしとけよ。」

すると、彰が箸を置いて、きちんとトレーにセットしてあった、紙ナプキンで口元を拭いて、言った。

「…私も敦也の意見に賛成だ。アルコールは正常な判断を狂わせる。とはいえ、君が飲むのはビールか?」

登は、戸惑いながらも頷いた。

「ああ…350ml缶を一本でもいいんだが、それでも駄目か?」

彰は、首を傾げた。

「君の体重は?」

登は、何やら詰問されているような気分になりながら、答えた。

「ええっと、一昨日ジムで測ったら75キロだった。」

彰は、頷いた。

「350ml5%のアルコールとしてアルコール含有量は14g、君の体重なら体質にもよるが代謝に平均約1.87時間。目覚めの一杯なんかしなければ、寝る前に一本ぐらいなら問題ないだろう。ま、私はアルコールは飲まないのだがね。」

登は、唖然としながらも頷いた。敦也が、同じようにびっくりしながらも彰を見つめた。

「彰さん、管理栄養士か何かですか。」

彰は、顔をしかめた。

「栄養士?いいや。私は医師だ。臨床医ではなく研究医だがね。」と、立ち上がってトレーを持って流し台の方へと足を向けた。「置いておけばここの管理人が洗ってくれるだろう。片付けは私は好きでなくてな。では、君たちも明日に向けて準備しておいた方が良いぞ。私も部屋へ飲み物だけは持って行く。また明日な。」

そうして、彰は冷蔵庫へ歩み寄ると、さっさと水を手に取って、そこを出て行った。

登は、茫然とそれを見送っていたが、ハッとして言った。

「…医者だってよ。海外から帰って来た医者ってことは、やっぱりあの男、めっちゃ頭が切れるんじゃねぇか。どう思う。」

敦也は、頷いた。

「だろうな。同陣営だったら心強いけど。」

すると、美津子が寄って来た。

「ねえ、ちょっと聞こえたけど、誰が医者って?」

敦也は、噂話もあまり好きでなかったのだが、最初から敵を作るのもなんなので、答えるべきか迷った。だが、登があっさり答えた。

「彰さんだよ。海外から帰って来た医者だってよ。臨床医じゃなくて研究医とか言ってたけど違いなんか分からねぇなあ。」

美津子は、目を輝かせた。

「あら、臨床医っていうのは病院で私たちを見てくれるお医者様のことよ。研究医は治す方法とか、そんなことを文字通り研究してるんだと思うわ。そうなの、あの人医者なの。道理で頭がよさそうな話し方だったわね。」

すると、後ろでいろいろ食べ物を手に持った女子達がわらわらと寄って来始めた。

「えー?美津子さん、誰がお医者さんですか?もしかして、あのかっこいい人?」

このきゃぴきゃぴした感じは、確か奈津美とかいう名前だったと思う。敦也が必死に思い出している横で、また別の女が言った。

「えー嘘ーっ!確かに顔は綺麗だったけど、なんだか冷たそうな顔だなって思ったー。笑ったら優しそうかなって思ったけど、でも話し方がキツイんだもん。」

こいつは誰だったっけか。

敦也は、あまりに数が多いので、まだ覚えきれていなかった。しかし、サラサラヘアの背の高い姿の男がその後ろに見えて、その男の名前は憶えていた。確か、玲だ。

「えーなにー?彰さんのこと?確かにイケメンだけど、なっちゃんにはちょっとおじさんじゃない?」

なっちゃんとは誰だ、と思っていると、あのきゃぴきゃぴの奈津美が頬を膨らませた。

「えーおじさんじゃないよ!私22歳だけど、あの人30歳ぐらいでしょ?全然大丈夫!」

敦也が、あまりにうるさいので静かにしてほしい、と思いながら言った。

「あの人、35だって言ってたぞ。それに、そういえば独身なのか聞いてないし普通考えたら条件良い男ってもう相手が居るんじゃないのか?」

美津子が、軽く奈津美を睨んでから、敦也に言った。

「聞いてみてよ。私たちが聞いたら答えてくれないかもしれないじゃない。」

登が、庇うように言った。

「ちょっと待てって。何しに来たんだっての。お前ら全部が村陣営とは思ってねぇが、村だったら頼むから勝ってくれよ。オレ、車ほしいんだからよ。」

奈津美が、美津子を睨み返してから、身を乗り出して言った。

「勝負は村が勝っても何でもいいけど、彰さんの好みのタイプが知りたい!きっとお金も持ってると思うよ。だって着てる服もめっちゃいいやつだったし、動きがね、お金持ちの動きだったの!」

それは品があるということだろうか。

敦也は眉を寄せたが、しかしそれよりも、今の奈津美の言葉が気にかかった。今のこの、完全にゲームから離れて気が抜けた瞬間、奈津美は、勝負は村が勝っても何でもいいけど、と言った。村が勝っても何でもいい…どっちが勝ってもいいと言うなら分かるが、村が勝ってもとはどういう事だろう。

もし、これが敦也だったら、どうでもいい勝負だったらどう言うだろうか。自分が村陣営で、今の奈津美と同じ立場だったら…そうしたら、村が勝っても、とは言わない。恐らく狼が勝ってもどっちでもいいけど、と言うだろう。村陣営だったら、村が勝った方が良いからだ。

…こいつを占った方がいいのか。

敦也は、そう思いながら答えずに、じっと奈津美を睨むように見た。美津子が、ふふんと笑って割り込んで来た。

「ほら、お子様だから呆れてるのよ。そんなじゃ頭のいいひとには相手にされないと思うわ。」

何気に勝ち誇ったような顔をしているが、敦也や登から見たらどっちもどっちだった。

二人が険しい顔で困っていると、玲が脇から割り込んで来た。

「ねえねえ、もういいじゃん。明日、僕が聞いて来てあげるよー。それより、早くご飯にしようよー。僕、早くこれ食べちゃってあっちのスイーツ食べたいんだあ。マカロンがあったんだよ?イチゴのやつが食べたい~。」

すると、パッと明るい顔をした女子達が玲を囲んだ。

「え、え、ほんと?他にもあった?」

玲は、微笑んで頷いた。

「あったよ~。すっごくいっぱいあるの。ねえ、おなか空いたよー。食べようよー。」

他の、名前を覚えきれていない女子達がきゃあきゃあと玲を囲んでテーブルの椅子へと座って手にある食べ物を並べ出す。

それを見た美津子と奈津美は、仕方なく息をつくと、自分たちもそちらへと歩いて行った。

やっと解放されたことにホッとした登と敦也は、玲に感謝しながらも、そっとその場を出て、部屋へと急いだ。

ただのお祭り気分の女子達に邪魔をされてはたまらない。

敦也は、無理やり頭をゲームに向けて考え込んでいた。

何しろ、初日占いは、あるのだ。

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