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そのゲームは、人狼3、狂人1、占い師1、霊能者1、狩人1、共有者2、妖狐1、村人6の16人でのゲームだった。
狩人の連続ガード有り、初日占い無し、村騙り無しで進行された。
占いCO二人、霊能CO二人の俗に言う2-2進行で進み、初日はグレー吊りで美津子が無念の脱落。後ろのソファへと移って、進行を見守った。
二日目の襲撃は起こらず、それが誰を噛んだのか分からないので護衛成功なのか狐噛みなのか分からないままの進行だったが、人狼COした敦也によってCOしている忠彦を噛んだことが分かり、共有者の一人である憲二によって、狩人がそこを守って居なかったら出て来ないという進行を取った。狩人は出て来ず、その日はもう片方の占い師である、雄大が忠彦を占うという事になり、その日はまた、グレーから吊る事になった。吊られたのは、希美。敦也は、飼い狼にされていた。
三日目、二死体が出た。忠彦と共有者の憲二だった。それにより、忠彦を呪殺したとして雄大が真占い師と確定された。共有者の相方である啓子が出て来た。
霊能結果は、二人とも白。ここまで、二人の霊能者、奈津美と彰はどちらも黒を出していない。つまり、黒を吊れていないという事だ。狐が処理されたのでここで敦也は用済みとして吊られた。
四日目、共有者の啓子が襲撃された。霊能結果は両方とも黒。占い師の雄大は奈美を占って白と出した。黒を一人処理したので、もう一日グレーを精査することになった。投票の結果、この日は千夏が吊られた。
五日目。襲撃先は奈美。雄大は美子を占って白、霊能者は奈津美が白、彰が黒と出した。この時点で、残っているのは8人。後3縄だ。雄大のグレーは登、純次、彩芽、俊。霊能を処理しておくことになり、彰と接戦の上、奈津美が吊られた。
六日目。雄大が襲撃された。狩人は、恐らくもう残っていないと思われた。彰の霊能結果は白、奈津美は狂人だったということになった。グレーか霊能ローラーを完遂するかで揉めたが、彰本人の勧めで結局完遂を選ぶことに。彰が吊られた。
その日の夜、美子が襲撃された。
その時点で、ゲームは終了、人狼陣営の勝利が言い渡された。
「勝った!」登が叫んだ。「勝ったぞ、敦也!!」
人狼だった敦也は、飛んで行って登に抱き着いた。
「やったな!」と、隣りで苦笑している純次を見た。「純次、お前狼ばっかだな、さすがにバレるんじゃないかってひやひやしたぞ。」
純次は、肩をすくめた。
「途中で、彰さんが狂人だって分かった時の安心感は無かったね。敵に回したらアレだが、味方にしたらめちゃ心強い。」
彰が、歩いて来て言った。
「もうほとんど勝っていたものな。私が吊られたら勝ちだろうって知ってたし、だから私を吊るように言った。私が真だったとしての目線ではもう一日あったからな。本当は人狼は二人残っていたのだがな。」
要が、興奮冷めやらぬ人狼たちと、がっくりと肩を落としている村人たちを後目に、パンパンと手を叩いた。
「はい、では答え合わせしますー。人狼は、敦也さん、登さん、純次さん、狂人は、彰さんでしたー。」
皆は、パラパラと気の入っていない拍手をする。要は、続けた。
「次ー役職ですが、占い師は雄大さん、霊能者は奈津美さん、狩人は奈美さん。共有者は憲二さんと啓子さん。そして、妖狐は忠彦さんでしたー。」
奈津美が、椅子に座ったままで、地団駄を踏んだ。
「ひどーい!彰さん、また敵なんだもの!何であそこで村は私を吊るかな!散々騙されたんだからそこは彰さんじゃないの!」
「だからあの時点で人狼陣営三人居たんだし、村は誰か間違えたらそうなる運命だったんだって。」雄大が苦々しげに言った。「オレもバカだったんだよ。だって真置きされてるのに構えてしまって白ばっかり占ってたもの。一人でも占えてたら、風向きは違ったのに~。占っても占っても、要さんは人判定のサインしか出さないからマジで焦った!噛まれた日に登を占ってたんだよなー…。」
忠彦が、腕を組んでムッツリと言った。
「…オレなんか呪殺だぞ?なんでオレなんか噛むんだよ!」
敦也が、笑って言った。
「あれはさ、純次があいつは絶対狐だって言うから。彰さんがあからさまに登を庇ったりしてたから、ひょっとしたら狂人だって手で必死にオレ達に言ってて。さすがだよね。」
彰が、珍しく声を立てて笑った。
「ハハハ、君達は分かりやすいのだ。よく視線を交わすからこれは登と純次、敦也で繋がってるな、と焦った。バレてはいけないから注意を自分に引き付けようと、君達が怪しい動きをする度に口を開いて視線を自分に向けて、本当に疲れた。もう自分は吊られてもいいから何とかしなければ、とね。」
敦也が、それにはガッカリしたような顔をした。
「なんだ、バレてたんじゃないですか。味方じゃなかったらマジでヤバかった。」
純次が、不貞腐れた顔をした。
「あなたはこのゲームに向いてないですよ。みんな見えるんですから、おもしろくないでしょう。」
彰は、それには真面目な顔で頷いた。
「そうなのだ。行動心理学の論文を片っ端から読んで頭に入れて来たのが不味かった。推理だけで参加していたら、もっとおもしろかったのかもと、この記憶を消す事も考えてるぐらいだ。あれぐらいの視線の動き、前までなら気付かなかっただろうに。」
純次が、さすがに仰天した顔をした。そこまでしてこのゲームに備えていたのか。
彰なりに、楽しみにしていたのだと気付いた皆は、少し彰に親近感を持った。よく考えたら、かなりのお金をこれに突っ込んでいるのだ。彰にしたらそうでもない金額なのかもしれないが、それでも思い入れの強さは伝わって来た。ちょっとやり方は過激だったが。
「…じゃあ、もう一戦やります?」美津子が、手を叩いて立ち上がって言った。「議論時間も少ないし、今回も一時間ちょっとぐらいで終わりましたもの。私は初日に吊られちゃったし、やりたいです!」
彰は、苦笑した。
「さすがにもう、賞金は出そうとは思わないぞ?多分私の居る陣営が勝つんだ。仲間がへまをしない限りはな。ちなみにこれまで勝率は100%でね。」
「その鼻をへし折ってやりますよ?」純次が挑戦的に言った。「賞金なんて要りません。やりましょう。」
彰はフッと不敵に笑った。
「いい目だ。では次のゲームで私の居ない陣営が勝ったら、賞金を出そうじゃないか。初日に屁理屈で吊るとか無しだぞ?真っ当な勝負で勝つなら出してやろう。」
要がうんざりしたように言った。
「分かりました、今日は付き合いますけど、明日には帰るんですよ?仕事が溜まるんですから。」
彰は、途端に興ざめしたような顔をした。
「君はまた。わかったよ、確かにな。夜時間に論文の処理はして送信してたのに、まだ足りないのか、全く。」
仕事をしながらゲームをしていたのか。
それはそれで皆は驚いたが、要は息をついて、苦笑した。
「…彰さんの頭が必要なんです。だから、こうして我がままに付き合っているでしょう?」
彰は、じっと要を見て、真顔になった。
「…分かっている。もう少しだけだ。」
そうして、また皆に向き合うと、カードが配られて、ゲームを楽しんだのだった。
結局、昼までで三戦、昼食後に二戦した時点で皆が根を上げた。
彰が人外である時は、そこそこまで追い詰めるのだが村人となるともう、お手上げ状態だ。何しろ占い師でもないのに人外をピタ、ピタと当ててしまい、その理由がまた説得力があった。どんなに反論しても、議論では勝てないのだ。
信じずに置こうとしても信じてしまう雰囲気を持っていて、狐でも一度、勝利された。
もう、どうしようもなかった。
一日の終わり、夕食の席で彰は言った。
「…要は知っているが、私は元々、議論で信頼を得るのが難しい性格でな。」彰は、真面目な顔でそう、打ち明けた。「説明するのが面倒で、どうして分からないのだと見下していたし、そんなところが悪いのだと要に指摘された。それで、どうしたらいいのか私なりに試行錯誤して、それでまあ、こうなったわけだ。それが功を奏していることが分かっただけでも、今回の事は私は満足だよ。」
だが、何やらその言葉の色には哀愁が漂っている。
実は、皆が根を上げた後、純次だけは彰の鉄壁の牙城を崩そうと、みんなに危ないと言われながらも外へ出てバスケットボールに興じてみたり、部屋で卓球をしてみたりと挑戦していた。だが彰は、軽々とそれもこなした。
奈津美に至っては、それならカラオケだと曲など知らないという彰を巻き込み、アカペラで歌を歌わせたりした。スマホから流れる歌を一度聞いたら覚えるので、歌も難なくこなした。
まさに、何をさせても出来るのだ。
皆に称賛されても憧憬の目で見られても、彰自身は興味も無さげでそちらを見もしなかった。
純次が、言った。
「…もしかして、ですけど、あなたは何でも出来るんですね?これまで、出来なかった事はありますか。」
彰は、食後のコーヒーを飲みながら、答えた。
「無い。大抵の事は出来る。私に、出来ない事など無いのだ。」と、嫌味にしか聞こえない言葉だったが、本人の声色があまりに寂し気なので、誰もそうは思えなかった。彰は続けた。「皆は私を天才だと持ち上げ、時には妬みまでして私を目の敵にしたりするが、何かに憧れてそれを目指し、達成した時の興奮を何度も味わえる君達が羨ましい。こちらこそ妬ましいほどだ。知らない事に出会った時の高ぶりが、理解した瞬間消え去る失望を君達に理解できるか?理解するまでの時間が長ければ長いほど達成感もあるだろう。何でも簡単に出来たら、何も面白い事など無い。私が研究の道へ入ったのも、そのためだ。知らないことを追い求めてそれを知り尽くす。その過程の面白さを私は知っている。誰もが行きつけない道へと足を進めるのも、突き詰めれば自分のためなのだ。私は生きる意味を探しているのだろうな。」
彰は、遠い目をしていた。恐らくは長い間、そうやってもがいて来たのだろう。誰にも理解されることが無い悩みを持って、それを何とかして消し去ろうと知らない事を探し、追い求めているのだ。
玲が、困ったように笑った。
「僕も…彰さんの気持ち、分かるよー。僕、どう見てもアジア人でしょ?名前は日本人だし。なのに、どうしてアメリカで日本語無しに育ったと思う?」
言われて、そういえば、と思った。どうして玲は、日本語を知らずに育ったんだろう。両親が日本人なんじゃないのか。
「…片親だったから、そっちがアメリカ人だったとか?」
登が言うと、玲は首を振った。
「ううん。僕の両親は日本人。あっちの日本企業に勤務していたの。で、僕が生まれて…僕、小さい頃からめっちゃ何でも分かってね。回りの言ってることが、ほんとに、何でも。両親に気持ち悪いって言われるぐらい、はっきり話したらしいよー。よく覚えてないけど、その頃は英語と日本語、両方話してたみたい。近所のおばちゃんがスペイン人だったんだけど、その人とはスペイン語。すぐに分かるの。なんで分からないのって思うぐらい。で、気が付いたら、アメリカ人の夫婦に預けられてた。まだ3ヶ月ぐらいの赤ちゃんだっんだって。僕を怖がって母親が遠ざけるから、心配して国籍はそのままでいいから預からせてくれって、言ったらしい。それが大学の教授夫妻だったんだー。」
美津子が、あまりの事に、愕然としながら言った。
「それって…じゃあ、本当のご両親は?それから、面会とか?」
玲は、首を振った。
「居なかった事にしたかったんじゃないかな。一度も無いよ。正式に養子にしようかって教授夫妻は言ってくれたけど、僕は断った。だってさ、悔しいじゃん?いつか僕が何かを成し遂げたら、名前がそのままの方が分かるでしょう?あなた達が見捨てた子は、こんなことをやったよーって。どこに居るのか知らないけど。」
口調がおっとりゆっくりで穏やかなので暗くはないが、しかし内容は重いものだった。彰は言った。
「君はまだ理解者が傍に居て良かったのだ。私の両親は人に預けたりはしなかったが、遠巻きだったな。回りも私が手品のように何でも先を読むので、近寄らなかった。それだけなら良かったが、スポーツも出来た。教師ですら私を持て余した。なので、13の時単身海外へ渡った。しかしそこでも、アジア人の子供が偉そうなことを言うので、回りからは受け入れられなかった。そいつらが反論できないように知識を蓄えるために時間を使っていたな。人と円滑に接することなど、その時はもう、あきらめていたものだ。要に私にはそこが欠けていると指摘された時は、胸が躍ったよ…まだ、私に出来ていないことがあるのだとな。そして…。」
彰は、そこで黙った。そう、恐らくは今日、一通りのことをマスターしていることを学んだのだろう。初対面の相手にでも、信頼される振る舞いが出来るようになっていることを悟ったのだ。
空気が暗く淀んだことを感じ取った奈津美が、場違いな明るい甲高い声で言った。
「じゃあ!彰さん、ほら、次は恋愛しましょうよ!誰とも本気で付き合ったことないって言ってたでしょ?私はどうですか?ほら、若いし!」
彰は、驚いたような顔をしたが、ぐっと眉を寄せて、そしてハッと我に返ったように表情を何とか微笑に換えると、言った。
「その…君が私に新しい事の提案をしてくれているのは嬉しいが、あいにく私は恋愛というものに興味が無いのだ。ちなみに初日に35だと言ったが、実は39だしな。もうすぐ40になる。君にはもっと若い男の方が良いと思うが。」
今のは物凄く分かりやすかった。
敦也も、登も他の皆も思った。一瞬ムッとしたのか嫌悪したのか分からないが、ハッと我に返って取り繕ったのだ。恐らくは、心にもないことも言っているだろう。本当の彰は、恐らくさっきの眉を寄せた時の彰だ。
「ぷ」と、美津子が笑った。「フフフフ。彰さん、バレバレですって。奈津美さんが好みじゃないんでしょう?きっとほんとにそういうの、嫌いなんですよね。」
彰は、憮然とした顔をしている。頑張ったのにバレているのが分かって面白くないらしい。玲が頷いた。
「うん、そうなの。だってね、要から聞いたけど彰さんって昔女のひとに、結構酷い扱いしてたらしくて何度も殺しに来たりしてるんだってー。こんなだけどめっちゃモテるからさあーめんどくさいんだよ、そういうの。」
殺しに来るのか!それは大変だな!
男性達は震え上がった。
「もう!殺しに行ったりし・ま・せ・んー!一緒にしないでくださいー!」
奈津美はまだ言っていたが、もはやみんな笑い話に換えてしまっていて、聞いていない。
その日はそのまま、次の日の別れを思いながら、名残惜し気にみんなで会話を楽しんだのだった。




