33
次の日の朝、ぐっすりと寝ていた登は、ガチンという鍵が開く音に、びっくりして目を開いた。
そうだ、朝…!外へ、出ないと!
弾かれたようにベッドから起き上がった登は、フラフラしながら扉へと駆け寄り、そこを開いた。
すると、もう目の前には彰が立っていて、出て来た登に頷いた。
「…居る。登は生きている。ということは、上だな。」
登がまだはっきりしない頭で廊下に出ている皆を見回すと、最初に美津子が目に入った。そして、彩芽、啓子、彰。
この階には、もうこの5人しか残っていない。
「じゃあ…三階ですか。」
登が何とかそう言うと、彰は頷いて上へと足を向けた。
「ああ、確認に行こう。」
彰は、また昨日の同じく素早い動きで三階へと駆け上がって行った。
その後ろを、まだ寝起きで血圧が低い中でやっと追いかけて行った登は、美津子の後ろで息を切らせながら登り切った。
三階では、純次、忠彦、雄大の三人がしかめっ面で立っていた。
…千夏か。
登は、瞬時に思った。千夏が居ない。三階は、更に少なくなって4人しかいなかったからだ。
彰が、先に言った。
「ちなみに先に言うが、私が昨日占ったのは忠彦だった。白だ。」と、登を見た。「千夏さんが出て来てないようだぞ。確認に行ってくれ。女性だから、女性が同行した方がいいのでは?」
美津子が、手を上げた。
「私が。一緒に行きますわ。」と、登を促した。「さ、行きましょう。」
千夏は14番だった。14の部屋へと、美津子に付き添われた登が入って行くのを見送りながら、雄大が言った。
「…これで、彰さんのグレーはオレと美津子さんだけになったってことですか。」
彰は、それに頷いた。
「そういう事になるな。だが、私は霊能の真贋もここらではっきりさせておかねばならないのではと思っている。まだ狂人が居たなら、面倒だからだ。私としては君は占って、吊りは大事を取って霊能か、とも思っているのだ。どちらにしろ、霊能はもう仕事を終えていると思っている。霊能が真ならもう狼はあと一人なのだからな。」
彩芽が、今日はもう涙を流しながら、懇願するように言った。
「確かに普通のゲームなら、もう私は用済みかもしれません。私も安全策だとローラーを完遂させようとしたでしょう。でも、このゲームは命が懸かっているんです!私が本物なのに、吊られるなんて理不尽です…!」
彰は、泣いている彩芽に真顔で言った。
「君がいったい何なのか、村には判断する術がないのだ。村人を一人でも多く助けるためには、どうしても分からない所は消して行くよりない。私もそうだろう…最後には、私か純次かで村は悩むことになる。村に貢献してきた私ですらそうして対象に挙げられるような状況で、何もしてこなかった君が挙げられるのは仕方のないことだろう。泣く前に、自分のしてきた中で村にアピール出来る事を探した方がいいのではないか?」
あまりにも正論過ぎて、誰も口出しすることが出来なかった。純次すら黙る中、美津子が顔を覗かせた。
「見たところ、息もしてないし脈もありません。千夏さんは、亡くなっているようです。」
純次が、言った。
「だったら死んでいるんだろう。オレ達が確認することもない。死亡確認は、もう真っ平だ。」
彰が頷いて美津子を見た。
「登に、議論をしようと言ってくれ。今朝でもう、半数になってしまった。これ以上の犠牲は避けたいのだ。」
美津子は、神妙な顔をして、頷いた。そして、登を呼びにまた中へと入って行った。
それを見送った彰は、皆を見回した。
「さあ、議論だ。私目線ではもう、狼を吊ってもいいかと思うほど狭まっているが、村目線では違うだろう。一階へ降りよう。」
純次は険しい顔をしているが、ただ黙っていた。そんな純次を、雄大と忠彦が避けるように遠巻きにしながら階段へと向かう。
彰は、そんな純次を一瞥してから、その不必要に大きな階段を降りて、一階へと向かった。
椅子の数は半数になった。
啓子と登の間が広く空き、忠彦と彰の間が広く空いている状態なので、そこに犠牲者が集中しているのが嫌でも分かった。
その中に何人の村人が居たのだろうと思うと、登は心を痛めたが、それでも何でもないように、ホワイトボードの前に立った。
「今日は、千夏さんが犠牲になった。彼女は、人狼でも狐でもなかったという事だ。彰さんは忠彦を占って白。彩芽さん、昨日の結果は?」
彩芽は、まだ泣いている状態で、震えながらか細い声で言った。
「白。希美さんは、人狼ではないと出たわ…。」
登はそれを無表情にホワイトボードに書き加えながら、希美が狐であった可能性を考えた。そうであって欲しいが、しかしこればかりは分からない。
雄大が、幾分緊張気味に言った。
「これでグレーはオレと美津子さんになった。彰さんは最終日に向けて霊能の精査をするべきだと言っていたが、村はどう思っているのか知りたいんだ。」
登は、腕を組んで立ったまま答えた。
「どうだろうな。忠彦は狐でも狼でも無かったと彰さん目線確定して、美津子さんと雄大が残った。彰さん真としてもし彩芽さんが狂人だった場合、今日一人吊って襲撃があって明日6人…呪殺なんか起こっていたら5人。確かに雄大か美津子さんが吊られて白だったら、明日はヤバいって事になるな。とりあえず狂人っぽい所は潰してグレーは占った方が、明日は安泰だ。霊能結果を鵜のみに出来たら心配は無いんだが、もしもということがあるから。」
彰が、それを聞きながら顎に手を置いてじっと考え込んでいる。登は、彰を見た。
「彰さん、どう思われますか。」
彰は、登を見てから、皆を見回した。
「今登が言ってくれたから気付いたんだが、もしグレーに狐や狼が混じっているとしたら、私目線雄大と美津子さんのうちのどちらかになる。彩芽さん吊りの目的は何だ?…狐か狼である可能性を考えてという事になる。私目線で彩芽さんはグレー。占っていない位置なのだ。つまり、今日は美津子さん、雄大、彩芽さんの三択で吊り、明日残った所を占う。そうしたら、その中に狼が居ようが狂人が居ようが必ず吊れる。狐が居たら呪殺か吊りで処理できる。明日全てが分かる…そして、ラストウルフを吊ることが出来るだろう。」
純次が、眉を寄せて言った。
「オレは狼じゃない。何度も言っているが、彰さん目線でいくら狐や狼が居なくなっても、意味はないんだ。彰さんは偽だ。どうしてこんなにあからさまに村の議論を支配されてるのに、みんな疑問を持たないんだよ?彰さん本人も言ってたけど、彩芽さんが疑われるなら、彰さんだって疑われるべきだ。呪殺を出したわけでもないのに、そんなに信じられるのはなぜなんだ?」
忠彦が、純次を睨んで言った。
「村の総意で真だと思うから残したんじゃないか。今までしっかり意見を出してそこにおかしい所は無かった。昨日の噛み先は何だよ。お前しか千夏さんなんか噛まないだろうが。彰さんを背徳者かもしれないって主張してたお前が、囲い先として千夏さんか啓子さんを狐だと疑ってたのはみんな知ってる。試しに噛んだんじゃないのか?でも、死んだんだろ?彰さんが偽であって欲しいから、その材料を探してるようにも見える。じゃあ今夜は啓子さんか?噛めたらどうするつもりだ。もう後はないぞ。」
純次は激しい様で睨み返して、言った。
「うるさい!オレが噛んだんじゃない!オレを陥れるための噛みだ!オレだったら絶対に彰さんが生き延びるのを許したりしないからな!あれだけ衝突して来たんだぞ!オレが狼なら、黒出しされる前に消そうと護衛が入ってそうでも絶対に噛んだ!何回でもな!」
彰が、息をついた。
「もういい。忠彦、純次から見たらそう言うしかないのだ。私が真ではないと主張しなければ自分が狼だと認めることになる。村目線、私が真占い師だと確たる証拠が無いのも確かだ。そしてそれを主張するためにも、黒を打たれてしまった今私を噛むわけにも行かないのだ。それに、狼だって黒を打たれたからと、簡単に真占い師だと信じる訳にも行かない。狼にとっての敵は、村だけでなく狐もだからだ。私を真だと思いたいが、もし狐陣営だったらどうあっても負けることになる。たった一人でいろいろなことを考えねばならないのだから、もう追い詰められた状態だ。これ以上責めるのではない。」
純次は、飛び上がるように立ち上がると、彰に言った。
「お前が!お前が村を騙してるんだろう!オレを吊ってもゲームは終わらないぞ!」
彰は、目を細めて純次を見た。
「それは、雄大か美津子さんが狼だということか?ならば今日君を吊っても問題はないな。今夜私がどちらかを占って黒い方を吊れば済む。ああ、しかし彩芽さんが狐の可能性もあるのか。今日の吊り先も、では考えねばならないな。」
純次は、立ち上がったまま叫んだ。
「うるさい!オレは人狼じゃない!オレを狼だと思うなら吊って負けちまえばいい!オレはもうどうでもいい!」
純次は、そう言い捨てると、走ってリビングから出て行ってしまった。彰が、それを無表情に眺めている。
登が、困ったように言った。
「…どうしましょうか、彰さん。彰さん目線は、純次が狼なんですよね?」
彰は、頷いた。
「占って黒だったからな。私目線では純次は確定狼だ。だが、狼が必死に狐を探している様子から、ああは言ったが私は純次がラストウルフだと思っている。昨日の噛みを見ただろう?私諸共殺せる方法が、唯一私が背徳者で私の白に狐が居る事だからだ。私が狐と共に死ねば、私が偽だとなるし、純次の色は分からなくなる。そうであることに賭けた噛みだと言えるだろう。そうして狐の位置を知った後、そこを吊り押して処理するためにな。だが、純次にとっては残念だが、私は死なない。私は背徳者などではないからな。このままだと、明日は純次を吊って…という事になるか。ちなみに、あくまでもこれは私目線だ。村には生き残るために信じて欲しいと思っているが、しかし皆の判断だろう?」
彰は困ったように微笑むが、誰もそれを疑ってはいなかった。純次は、狼なので彰が狐でなければもう、勝ちようがない。黒を出した彰を偽物に仕立て上げない事には、もう勝ち目がないのだろう。
村からは、そういう風に見えていたのだ。
「さて」しばらく黙ってから、彰は立ち上がった。「では、私としてはさっき言ったように、私のグレーにカウントされる彩芽さんと、雄大、美津子さんの三人から吊って、そして残った誰かを占うということを提案しておく。後は皆で話し合ってくれ。そして、決まったことを次の会合で言ってもらいたい。役職の中からと言うなら理由がしっかりしていたら飲もう。私が誘導していると言われたら、私もそんなつもりは無かったと言うよりないからな。今夜は、君達が考えて私に提案して欲しい。ではな。」
そうして、足を扉へと向ける。登が、急いでその背に言った。
「彰さん!そもそも、偽だと思っていたら残していないんですから!意見を頂いてもいいんですが。」
彰は、出て行きながら微笑んだ。
「確証の無いものを妄信しては勝てないのだ。君達は君達の意思として、今夜の吊り先を決めねば。私も呪殺さえ出せていたら、ここまで言わなかったのだが仕方がない。ここは君達が考えて、決めてくれ。では…私は、次は夜の議論から参加しよう。」
彰は、そこを出て行った。
残された残りの6人は、彰から見捨てられたような気持になり、不安げに顔を見合わせた。しかし、確かに妄信するのは間違いだ。だからこそ彩芽を疑い始め、それでも彰は村への貢献度から信じていた。
彰が突き放す意味は分からなかったが、しかし村に、自分が襲撃を受けても議論する力を持たせるためかもしれない、と登は思い、残った6人で議論を続けたのだった。




