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一階のリビングに集まったが、皆の疲れた様子はもう隠しようもなかった。
これが、隠しカメラで撮られている事実さえ、もう何でもよかった。人が次々に死んで逝くこの状況を、受け止めるのに無感動で無ければ耐えられなかったのだ。
登が、もうホワイトボードに書くのすら億劫そうにして脇に立つと、言った。
「では…彰さんは誰を占いましたか?」
彰は、むっつりと登を見た。
「私は、狼を見つけた。先に霊能者の結果を聞きたい。」
美津子が、彰の隣りでホッとした顔をした。その向こう側、啓子を挟んで隣りの彩芽が、言った。
「敦也さんは、白でした…。」彩芽は、苦悶の表情で言った。「玲くんがどうせ死ぬなら、玲くんにしたらよかったのに!私は、昨日玲くんに入れたんですよ!敦也さんは白かった。真だったんじゃないですか!」
登が、無感動にその結果をホワイトボードに書き記している。彰が、答えた。
「昨日それを皆に言ったのか?今言っても取り返しなど付かないのだ。君が強くそう思っていたなら昨日そう強く主張したら、敦也は生き延びていたかもしれないぞ。なぜそれをしなかった?今さらそんなことを言ってもしようがない。君が昨日誰に入れていようとも、何も言わずに敦也を弁護もしなかった時点で、君も皆と同罪だ。敦也に入れた皆を責める権利は無い。」
彩芽は、ぐっと黙った。昨日、何が正解なのか分からなかったのは、彩芽も同じだったからだ。今朝になって、こうして敦也が白だと知ったが、昨日の時点では分からなかった。だから自分の保身のために、敦也を庇うような発言も出来なかったのだ。
登は、彰を見た。
「それで、彰さん。誰が狼だったんですか?」
彰は、頷いて純次を見た。
「純次。最初からずっと私が疑っていた先だ。純次は黒、人狼だ。」と、純次から視線を外して、皆を見た。「今日はその事実を置いておいて、彼は議論に加えないが、今日は吊らずに残しておこう。それとも、狼として私達に協力すると言うのなら、話を聞くが?」
純次は、苦々し気に彰を見ると、フンと鼻を鳴らした。
「あなたがオレに黒を打って来るのは想定内だった。最初からずっとオレを怪しんでいる風を装っていたし、何を言っても突っかかって来るような感じだったしな。これで、オレは村が絶望なんだと思ったよ。あなたが真ではないとオレには分かったから。」
彰は、相手にしないように純次から視線を逸らすと、皆を見た。
「では、人狼は協力する気が無いと分かったので、私がこの状況を説明しよう。今日、玲が死んだ。彼が彼自身が言った通り猫又であったなら、死んだはずの他の誰かの遺体は出なかった。つまり、彼は猫又では無かったのだ。」
皆が、真剣な顔で頷く。登も、俄かに目に力が湧いて来たようで、じっと彰の顔を見ていた。
彰は続けた。
「そして、人狼が玲を噛んで来たことから、人狼目線で彼が偽物だと分かっていたということだ。ということは、その両方を考え合わせても、昨日の二人死には敦也が言っていた通り猫又噛みで、片一方が人狼だった。人狼は、もう後一匹。私目線、純次で終わりということだ。そして、純次が玲を噛んだのは、恐らく狐を探しての事だと思われる。玲はしかし襲撃で死んだので、狐でもなかった。玲の正体は現在、分かっては居ないが狂人の線が堅いかと思う。そうなると、本当なら敦也を真だと思いたいところだが、数の論理から考えて狐であった可能性もあると思っている。敦也が狐の場合、数は合う。とは言え、初日から黒を打つ理由が分からないので、確信は無い。よって本日は、純次を除いた私のグレーから吊ることを提案したいと思う。」
登は、頷きながらも皆を見回した。
人狼が玲を噛んだ。本当なら吊り縄消費に使いたいだろうところをわざわざ噛んだ事から、狐ではないかと疑って試したのだと考えられる。しかし玲は死に、襲撃が成功した事から玲は狐ではなかった事がわかった。
そうなると、狐がまだ処理されていないと狼が考えていると思われるので、まだ占われていないグレーに狐が居る可能性がある。
彰が真だとしたら彰目線、敦也、奈津美が狐でない限り自分のグレーである忠彦、雄大、希美、美津子の中に狐が居ると考えられた。
この中で一人を吊って今夜一人占えば、明日には狐の心配は無くなり、明後日には人狼だと知った純次を吊って村が勝つと思えた。
しかしそうなると、数はどうなるのだろう。
村も混乱している中、純次が言った。
「申し訳ないが、誰も信じてないだろうがオレ目線、彰さんは偽だ。村は盲信しているようだが、彰さんは誰にも占われていないんだぞ?玲は自ら偽だと言った。黙っていた方が、狂人であれ背徳者であれ有利なはずだ。わざわざ出て来たのは、彰さん真を村に確定させるためじゃないのか。呪殺だと思われたらどちらも生き残れる。占い師でこれまで死んだのはみんな白だった。彰さんは狼なんじゃないのか?そして玲は、それを気取って庇った狂人なんじゃないか。ここまで噛まれないのは、初日から真置きされているのに不自然だ。」
玲は、黙っていた方が安全だった。
それは、昨日みんなが迷った一因だった。猫又としても偽だとわかった今、確かに出て来た意味が分からなかった。純次が言うことは、そんな皆にもっともだと思わせた。
彰が、眉を上げた。
「私が、猫又の位置も分からないのに敦也の白だった美子さんを占うふりをして襲撃したと言うのか?君の話だと、真占い師は俊と敦也ということになる。玲が私に白を出した事から真ではないと初日に知っていたという事だ。それなのにわざわざグレーではなく昨夜玲を噛み、吊り縄消費に使わずに狐かどうか確かめたと。たった一人なのにそんなことをしている暇は無いのではないか?狂人の可能性があるのだからギリギリまで残して置くだろう。玲は狐なら昨日のあれが呪殺ではないと知っていた。敦也が真だと思っていただろうし、あそこまで私を真だと押す必要はなかったではないか。だから私はその可能性を考えて玲は狐ではないと思って、昨日占わなかったし、狼ならそこは噛まない。霊能もしくは狩人だと思う位置を噛んだだろうと思う。村にあれは呪殺ではなかったという情報を落としたくないからな。私から見たら狼は、馬鹿な位置を噛んだなという感想だ。村にわざわざ情報を落としたのだからな。」
皆の顔が、再び苦悩の色を宿した。彰なら、確かにそうだろうと思えたからだ。こんなヘマはしなかった…猫又かもしれない位置をわざわざ噛むはずもない。役職ばかりを狙って行ったように思えた…それで護衛成功が出ても、仲間や自分が犠牲になることを考えたら、リスクは低いからだ。
昨夜も、恐らく狩人は彰を守っただろう。彩芽は噛めたはずだった。敦也白が村に落ちず、狼だったと主張するのも可能だったはずだった。
どちらももっともなことを言っていて、村人は迷ったのだ。
「…彰さんは狼ではないと思う。」登が、迷いながらも口を開いた。「狼らしい所がない。噛み先も、あれだけ自分を真置きしている村なんだから、護衛が自分に引き寄せられているのはわかっただろうしいくらでも役職を噛めただろう。狼だったら真占い師に呪殺を出して欲しかっただろうし、残したにしても霊能者やパン屋のオレは噛めた。猫又を噛むようなヘマは、しなかったと思う。何より彰さんは、ここまで生き残ったのに、何も間違っていないし破綻していないんだ。自分に不利でも村の間違いは指摘していた。猫又と呪殺、両方の線を追い続けていたしな。」
美津子が憤慨したように頷いた。
「人狼の無駄なあがきだわ!彰さんは村のためを思って発言してくれてた。最初から呪殺にこだわっていたし、安易に誰かを信じたりもしなかった。玲くんは、自分の真を上げるために彰さんにすり寄っていた狂人だったんじゃないの?それを人狼は気付けなくて狐ではないかって噛んだのよ。だいたい狂人は人狼を知らないのに、なんで最初から彰さんに白を打つの?自分が怪しまれないために、発言の強そうな彰さんに信じてもらいたかったからじゃないの?」
彰が、それこそ他人事のように、考え込みながら口を開いた。
「…狼目線…どう見えてるんだ?」と、宙を見つめた。「占い師には狼は居なかった。猫又も居ない。ということは背徳者と狂人か、狂人と狐が出ていたことになる。昨日の敦也が間違っていなかった事を考えると、偶然とも考えられるが限りなく真だろう。ということは、残りは俊と私。俊が背徳者なら狐は奈津美さんだ。そうすると玲は狂人。しかし狼は俊が狂人であった可能性を考えた。そうしたら玲は狐。だが、そうではないと今日わかった。とすると、前者が有力だ。しかし今日、村の意見を私に持っていこうとしている…確かに黒を打たれたのだからそれしかないだろうが、飼われるのが分かっているのだから時間はある。ゆっくり荒を探せば隙も見つかるかもしれない。なぜ急ぐ?…私が狐という疑念もあるのか。そうか、狼目線、奈津美さんが背徳者で俊が真、私が狐という構図もあるのか。」
登が、それを聞いて顔をしかめた。
「彰さんが奈津美さんを追い詰めた気がしますけど。初日の議論で口火を切ったのはあなたでしょう。いくらなんでもそれは無いかと。それならむしろ玲でしょう。彰さんを最後まで真置きしようとしていたし。」
彰は、眉を寄せた。
「同じ占い師に出ているのに?狼と狂人ならわかるが、狐と背徳者はお互いに知っているのだぞ?それなら玲は霊能に出ていただろう。一緒に出て庇うなど、あまりにあからさま過ぎるではないか。」
雄大が、ため息をついた。
「もう、彰さんからそんな話が出ること自体がその可能性が無いって事だと思いますよ。ここに居る誰もがそんなこと考えても居なかったんですし。狼がそう考えるかもしれないってのは分かりますけど、奈津美さんへの彰さんの対応を見ていたらあり得ない感じですし、玲が背徳者も考えられないし、今考えられるのは、狐の敦也がたまたま黒を打った憲二が狼、美子さんか猫又で噛まれて、死んだ、という事か、俊が背徳者で奈津美さんが狐だったか、グレーに狐が…。」雄大は、顔をしかめて首を傾げた。「あれ…?でもこれ、数で言ったら確かに彰さんが言った感じでないとおかしいかな。人外が占い師に二人、霊能者に一人、占い師に狼が居ないとなると…狐、背徳者、狂人で構成されてたことになるね。だって、役職の中じゃ白結果と襲撃死しか居ないんだもの。としたら、彰さんが一人になった時点で、もう狐はどこかで処理されてるってことになるんじゃない?彰さんはなぜ、狐を探そうとするの?」
数のことは、彰が何度も言っていたことだ。彰がそれに気付かないはずはないのだ。それとも、疑われて焦ったのだろうか?…いや、彰には焦るような様子は欠片もなかった。それなのに、グレーに狐を探して占いつつ狼を飼う?
彰は、それを聞いて雄大を見た。
「…私は、全ての可能性を考えているんだ。狼は今朝予想外に多くの情報を私にくれた。まだ整理している最中だ。こうなったという事は、少なくとも人外は何人か死んでいる。霊能者は、確かに奈津美さんが怪しかっただろう。彼女は言葉を間違えていたし、反論も稚拙ですぐにあきらめた。だからこそ、偽であろうと思い、彩芽さんを真としてここまで来た。だが、私が村に真置きされては居るがそれが印象だけで確たる証拠が無いように、彼女もまた、村に真置きされているにも関わらず、真霊能者とは限らないのだと思った。敦也だって、あれだけ昨日まで疑われ続けた。それなのに、今日になって真かもしれないと思ったのは白結果が出たからだった。我々が占い師、霊能者の内訳を霊能の結果と襲撃先で判断していたのは皆も知っている通りだ。もし、霊能の結果が偽だとしたら、どうなる?」
彩芽が、跳ねるように体を硬くした。美津子が、驚いたように彰を見た。
「ちょっと待ってください彰さん、彰さんは、彩芽さんが偽かもしれないと?」
彰は、頷いた。
「その可能性もあるということだ。もちろん私は自分が真だと知っているが、村から見たら偽かもしれないと思うのだろう。ならば、霊能者も同じだ。あの時はまだ、命が懸かっているなど知らなかった。奈津美さんが軽い気持ちで諦めていた真霊能者でもおかしくはないのだ。誰かこの中に、彩芽さんが真霊能者なのだと言える者が居るか?彼女は、村に何の意見も落としていないのではないか。これまで村に貢献したのは、霊能結果だけだ。だが、それすら偽だったら?真なら、結果から考察を伸ばさねばならないのではないのか。少なくとも私はそうしているがな。皆、私には先を先をと望むのに、彩芽さんに求めて来なかったのはなぜだ?真霊能者だと思っていたのだろう?」
全員の視線が、彩芽に向いた。
言われてみたら、そうなのだ。彩芽を真置きしていたが、本当にそれで良かったのか。確かに状況証拠だけで真だと思い込んでいた…では、役職を全て一から考え直さなければならないのか…!




