3
敦也の部屋は、ぎりぎり二階だった。三階まで上がるのは面倒だと思っていた敦也は幸運だと思っていた。
二階へ上がってすぐの贅沢に広い廊下を挟んで部屋が並び、また重そうな木製の扉に金色のドアノブが付いていて、そしてちょうど目線の位置辺りに、番号の金色のプレートが付いている。
先に上がっていたあの男は、上って向かって右側の端へと歩いて行ったのが見えた。つまりは、1番、名簿によると神原彰という名前らしいと敦也はそっと確認した。
自分はちょうどそれの対角線上の端になるので、敦也は急いでその部屋へと向かった。
入って右側に、大きな天蓋付きのベッドが、正面にある窓へと頭を向ける形で置いてあるのが見えた。見た所ゆうに成人男性三人ぐらいは手足を伸ばして眠れそうなほど大きなベッドだった。
部屋の真ん中辺りには、窓を横に見て茶でも飲むような形に応接セットが置いてある。
ベッドと反対側の壁には、それに沿うように机が置いてあって、椅子もセットされてあった。
だが、どう探してもテレビなど文明的な物は見当たらなかった。
入った脇にはクローゼットとユニットバスのドアがあり、そこも一応確認してから、広すぎて落ち着かないな、と思いながらも、荷物をクローゼットへと放り込んで敦也はさっさと部屋を出た。
部屋の中など、これから散々見ることが出来る。だが、最初から村の話し合いにしっかり参加しておかないと、状況を把握しきれなくて村から信頼される占い師にはなれないだろうと思ったのだ。
敦也は、しおりをしっかりと握りしめ、廊下を歩いてまた、階段へと向かった。
すると、同じようにすぐに出て来たらしい先ほどの1番の男、神原彰という男が、もう階段を下りているのが見えた。
声を掛けようか迷っていると、あちらの方からこちらを見上げて、立ち止った。
「ああ、君は…?私は、1の神原彰という。彰と呼んでくれたらいい。」
敦也は、慌てて名乗りながら、彰に早足で寄った。
「オレは、10の野田敦也です。敦也と呼んでください。」
彰は、微笑んで頷いた。
「敦也。別に敬語を使わなくてもいいがな。」
彰は、階段を下りながら穏やかにそう言う。しかし、敦也はなぜかそれには気が退けた。話してみて思ったが、明らかに年上だし、きっと社会的地位もかなりありそうだからだ。
「いえ…年上のかただと思うんで。オレは、今29です。」
彰は、頷いた。
「私は35。ならば私の方が人生の先輩かな?」
先輩どころでないほど威厳を感じるけど。でも若いのか若く見えてるだけなのか分からなかったが、それぐらいの年なら納得できる感じだな。
敦也は思いながらも、彰と共に一階へと降り立った。見取り図によると、この脇の大扉がリビングへの入り口らしい。
彰は、その扉に手を掛けた。
「この見取り図通りなら、かなりの広さだと思うが、ここの温度が安定しているところを見ると、空調は利いていて特に心配することは無さそうだ。」
外は昼間は日差しがかなりきつく暑苦しく、夕方になって日が落ちて、やっと楽になるような季節だ。
とはいえここはかなりの山奥なので、夕刻になればかなり涼しくなるだろうと思われた。
その大きな両開きの扉を開くと、思った通り目の前には広い部屋が広がった。
向かって左側は建物正面の壁に面しているのだが、そこは高い窓が立ち並び、その窓にはカーテンが掛かっていて、脇に紐でまとめられてあった。
扉を入って正面になる壁には、こういう屋敷なら絶対にあるという一般庶民の期待を裏切ることなく暖炉があったが、しかしこの季節には使う事は無い。
しかし、あるだけでインテリアとしてかなりのインパクトがあった。
それなのにその上に、部屋には一台も無かったテレビのモニターらしきものが、天井からぶら下がる形であった。
ソファは、窓際からこちらに向けてたくさん並んでいて、座り心地は良さそうだ。しかし、かなりの広さなので、その応接セットだけでもあっちこっち4か所に分かれて設置されてあるのに、まだ余裕のある状態だった。
そして、なぜか壁際に隠すように、場に全くそぐわない、会議で使うようなホワイトボードが置いてあった。
そしてまた、なぜかパイプ椅子が折りたたまれたまま、その前にたくさん立てかけてあった。
彰は、奥へとゆったりと歩きながら、向かって右側にある扉を指した。
「あちらがキッチンへ続く扉だな。この様子だとキッチンもかなりの大きさのはずだが、あちらは皆と一緒に確認した方がいいか。我々はあちらのソファに座って、みんなが来るのを待とう。」
敦也は頷いて、窓に一番近い位置にある、応接セットのソファへと腰かける。彰も、同じ場所の敦也の正面に当たる一人掛けの椅子へと座った。その様子がなぜが優雅に見えて、敦也は思わず言った。
「彰さんは、どこかの会社の役員か何かですか?それにしてはまだ若いかなと思ったんですけど。」
彰は、驚いたように眉を上げる。敦也は、失礼だったか、と少しバツが悪そうな顔をしたが、彰はすぐにフッと頬を緩めて、答えた。
「小さな組織の責任者をやっている。海外で仕事をしていたのが長かったので、こちらでは少し、雰囲気がおかしいかもしれないな。今回は、あちらでもあった人狼ゲームが日本でも楽しめるというので、組織の若い者に誘ってもらったのだ。彼は選考で撥ねられたようだが、私は当選したと連絡があった。彼の分まで楽しんで帰りたいと思っているよ。」
話し方がはっきりしていて分かりやすいのはそのためか。
敦也は思った。海外に居て、恐らく日本語を日本人と話す機会も無かっただろう。そんな中、日本へ戻って来て、そうしてまた日本語を使っているのだとしたら、ハッキリとした言葉の使い方になるのも分かる気がした。
敦也が頷いて他にどうやって会話を続けようかと思っていると、開けたままだった扉から、ぞろぞろと女子達が数人、入って来るのが見えた。
思わずそちらを見ると、何人かがお互いにこの広いリビングの様子の感想をヒソヒソと言い合う中、気の強そうな真っ直ぐな黒髪に女が、こちらへと真っ直ぐに歩いて来て、言った。
「私は、3番の高橋美津子です。」
敦也が軽く頭を下げると、彰が言った。
「私は、1番の神原彰。まだ全員そろっていないようだが、もう自己紹介を始めるか?私はどちらでも良いが、あまり何度も名乗るのは面倒だと思っていたところなのだ。」
確かにそうだ。
敦也は思ったが、美津子は眉を寄せた。
「確かにそうかもしれませんけど、初めてお会いしたし名乗るのが礼儀かと思いましたの。」と、ぞろぞろ歩いてこちらへやって来る、明らかに若くて浮足立っている女子達を振り返って、息をついた。「それで…この人数ですし。皆がまとめて座れる場所はありませんか?ここでは応接セットが四つもありますし、全員座れはしますが向かい合って話し合うには向きませんわ。」
言われてみればそうだった。
敦也は、そういえば、と部屋の隅の、明らかに不釣り合いなパイプ椅子を思い出し、指さした。
「あれは?なんであんなものがここに置いてあるのか不思議だったが、このためだったのかもしれない。あれを輪にして置いて、話し合ったらどうだろう。」
美津子は、言われてそちらを見た。そして、頷いた。
「確かに。人数分ありそうね。あれを出して来て、自己紹介と、それからこれからの議論で使いましょう。その方がいいでしょう?」
彰は、頷いた。
「良いと思う。議論もするならあのホワイトボードも持って来ておいた方が良いんじゃないか?」
美津子は、そちらへと歩き出しながら、頷いた。
「ええ。そうしましょう。」
そうは言っても、彰は動く様子がない。
敦也は、さすがに手伝おうと思い、立ち上がった。そうしてパイプ椅子をまとめて持って移動させると、美津子も後ろから同じように運び始めた。それを見た女子達が、弾かれたように走って行って、各々持てる分を運び出す。
そうしていると、残りの男性も入って来て進んでいる事態を理解したのか、急いで椅子の移動と設置を手伝い始める。
そうして、気が付くと17脚の椅子は、きれいに丸く円を描いて、リビングのキッチン寄りのスペースに設置された。
ホワイトボードも、暖炉のある壁と同じ壁に並べるように置かれた。
終わったのを見てから、彰がスッと立ち上がると、歩み寄って来た。
「基本これで良いだろう。とはいえ、どうやって座るのだ?」
言われてみると、椅子を丸く置くことに一生懸命になり過ぎて、椅子の前に回り込んで座るための、スペースがない。
つまり、隣同士が近すぎるのだ。
急いで皆が椅子を引いて椅子同士の距離を広げると、彰は満足そうに頷いて、そのうちの一つへと座った。
「良い感じだ。では、自己紹介を始めよう。私は1、右でも左でもいいから、誰か2番はこちらへ。そうして、番号順の方が名簿もあるし分かりやすいのではないか?」
まるで、先生のようだ。
皆は思ったが、ここで何か言っても仕方がないので、言われた通りに彰の隣から、ぐるりと番号順に、座り始めた。ずらりと席に座ってみると、壮観だ。大人数村は久しぶりだったので、敦也がワクワクしていると、胸元からしおりを出した彰が、それを手に、言った。
「では、何事も番号順であった方が良いだろう。私から始める。私は、1、神原彰。彰と呼んでくれ。最近まで海外に居たので、君たちと言葉の常識などが違うかもしれないので、考慮してもらいたい。部下に教えられて応募したので、君たちとは違い、普段から人狼ゲームに興じているのではないので、一応セオリーなどは頭に入れて来たつもりではあるが、間違っていたら教えてもらえたらと思っている。よろしく頼む。」
彰が口を閉じると、緊張気味にそれを聞いていた、隣の男が言った。
「…オレは、2、田辺俊。俊と呼んでほしい。もっと知った顔があるかと思ったんだが、知らない人ばかりで少し驚いている。楽しめたらと思っているんで、数日だがよろしくお願いします。」
少し、人と目を合わせるのが苦手なような挙動だった。それでも、人見知りというほどでもないらしい。
そして、さっきの気の強そうな美津子が言った。
「私は、3、高橋美津子。いつも仕事帰りに寄る人狼ゲームのお店でこの催しを知ったの。楽しみにしていたので、いいゲームに出来たらと思ってます。あ、呼び方は統一した方がいいと思うんで、美津子と呼んでください。よろしくお願いします。」
その隣りは、肩上までの短いボブに緩くパーマのかかった髪型で、おとなしい雰囲気の女性だった。
「はじめまして。私は、4の真野啓子といいます。啓子と呼んでください。友達に誘われて参加したので、人狼ゲームは実はそんなに経験はありません。どうしてだか私が選ばれて友達は選ばれなくて…少し不安ですが、よろしくお願いします。」
選考基準はなんだったのだろう。
それを聞いて、敦也は思っていた。これに来たいと言っていた仲間は多かったのだ。それなのに、そんな初心者の女子が選ばれて、ガチで本当に行きたいと思っていた者が落とされている。
よくわからなかったが、しかしタダで来ているのだ。文句も言えなかった。
隣りも、女子だった。こちらは肩までの茶髪で下の方だけ緩くパーマの当たった髪型の、明るい雰囲気の女子だった。
「こんにちは。私は5、橘彩芽です。大学からずっと人狼サークルに入ってて、今もOBの集まりに出ています。今回はサークルの中で私だけが選ばれたので、みんなにうらやましがられました!一緒に楽しみましょう。よろしくお願いします。」
隣りは、長い茶髪に緩いパーマの当たった髪型の、何かきゃぴきゃぴした雰囲気の女子だ。待ってましたというように、元気に話し始めた。
「私は、6、道野奈津美です!知らない人と泊まりで人狼なんてとっても楽しみでここ数日しっかり眠れてません!でも、ここってすっごく雰囲気あっていいですよね。せっかくだから、めっちゃ楽しみたいと思ってます!よろしくお願いします!」
隣りは、男性だった。会社員風で、短い黒髪を失礼でない程度にセットして小ざっぱりとしていて、見た所とても好青年、といった感じだった。
「オレは、7、高原憲二です。ネットで人狼ゲームをするのが好きで、軽い気持ちで応募したら当選しました。出るからには活躍したいと思っていますので、よろしくお願いします。」
挨拶も、すっきりと爽やかだ。
隣りにはまた女性で、短いボブの茶髪で、大きな目が印象的な小柄な美人だった。
「こんにちは!私は8番の崎原希美です。人狼ゲームが大好きで、毎日ネットでやってます。時間がある時はお店にも行きます。自分が選ばれたのが夢のようです。よろしくお願いします。」
次に、敦也の隣りの、角刈りのガッツリとした体形の男が言った。
「オレは、12番の田原登。オレも人狼ゲームは好きだが、今回の配役は初めてなんで緊張してる。賞金が出るって聞いてるから、車でも買う足しにするかって応募したんだ。よろしくな。」
敦也の番だ。
少し緊張したが、ここへ来るまでで結構慣れて来ていた。皆の視線が自分に向いているのを感じながら、敦也は言った。
「はじめまして。オレは10番の野田敦也です。実は階段を三階まで上るのが億劫だったから、ギリ二階の部屋で良かったと思ってます。オレもネットで人狼をやってたんですが、今は全国の人狼の店へ出向いてゲーム三昧してます。この館の雰囲気も最高だし、絶対勝ちたいと思ってます。よろしくお願いします。」
皆が粛々と頷いて、隣の男の方へと視線を移す。思ったような反応は数人の女子からしか返ってこなかったが、今はみんな緊張しているからだろうと自分を慰めて、隣を見た。短いがサラサラの髪質で、しかし少し雰囲気は暗い感じの男だった。
「11番、荒井純次です。人狼はアプリでもネット通信でもいろいろやってます。対面は何回かしかやったことは無いんですが、ルールは把握してますので、同陣営の人たちの足を引っ張らないようにがんばりたいと思います。」
その隣り、茶髪で少し長めの髪をワックスで固めて少し立たせた髪型の、目がクリッとして大きい男だった。
「はじめまして。女子が多くて嬉しいなって思って見てました。オレは12番、渡辺雄大っていいます。人狼は対面ばっか、店で毎日やって磨いて来ました!よろしくお願いします。」
少し軽い感じか、と思って見ていると、どうも若い女子からは受けが良いようで、好意的な視線を受けているようだ。
少し面白くない気持ちで、敦也は次の男へと目をやった。
その男は、彰とは別の意味で年齢不詳な感じだった。腹は出ているが、服装は若い。無造作に短く切ってある髪は、そうおしゃれに気を付けているようでも無いが、それでも肌の張りは若そうだ。そして、生来のことだろうが、口元に浮かぶ笑みが、何やら胡散臭かった。
その男が、ニッと笑って言った。
「隣りの雄大がイケメンだからやだなって思ってたんだけど、さっき聞いたらオレと一歳しか変わらないって。オレ、これでも30だから。それで、こいつは29。ああ、オレは13番、内村忠彦です。見た通り胡散臭いんで初日吊りしょっちゅうでゲームに参加させてもらえないこと多いんですよね。今回はばっちり村人引いてるんで、初日吊りだけは勘弁です。よろしくお願いします。」
軽く笑いが起こった。どうやら、かなり明るい性格のようだ。
隣りのショートカットの茶髪の女子が、笑いながら言った。
「私は、14番の野中千夏です。隣りの忠彦さんが変な人だったらどうしようって思ってたんだけど、いいひとそうで良かった!私は、ネットでも対面でも週に二回ぐらい人狼をやってます。頑張りますのでよろしくお願いします!」
ぐるりと回って来たので1の彰に近くなって来た。次も、女性でショートのボブを金髪と銀髪に染めてある、ぱっちりとした目の活発そうな子だった。
「私は、15番岡田奈美です。隣りの千夏とはさっき話して知ったんですけどネットで何回か同村したことあるんです。すっごい偶然だなってさっき話してたの。頑張って勝ちたいと思ってます。よろしくお願いします。」
知り合いが居たのか。
敦也は、珍しいと思っていた。聞いていると、誰も皆知らない顔ばかりだと言っていたからだ。
この二人だけが知り合いとなると、また何か判断材料になるかもしれないし、しっかり見ておこう。
敦也はそう思っていた。
すると隣りの、サラサラの長めの髪をかき上げて、女子っぽい感じだが背が高くて骨格がしっかりしているので男子であろう人が言った。
「みんな、楽しそうな人だねぇ。僕は、16番の南玲。玲って呼んでね。この中では年下の方かなあ、24歳なんだ。僕は対面人狼は初めてなんだけど、ネットではちょくちょく遊んでるよ。いい機会だし今回はやってみようと応募したら当たったんだ。よろしくね~。」
話し方も、何やら間延びしたような感じだったが、女子達とは既に仲良くなっているのか、皆微笑みながら玲を見ている。
そして最後に、彰の隣りになる17番の女性が口を開いた。
「私は、17番、泉田美子です。人狼ゲームは観戦が好きで見てたんですけど、今回SNSで見かけて思い切って応募しました。そうしたら、当選して驚きました。頑張りますのでよろしくお願いします。」
落ち着いた感じで、肩までの黒髪に緩いパーマが掛かっていた。良識のある感じの話し方で、口調も淡々としていた。
そこまで終わったところで、彰が言った。
「では、これで全員が顔と名前を言ったな。この後はどうする?館を見るとしても一階はリビングとキッチン、使用人部屋ぐらいか。まあそれは各自やるとして、明日からどう進めて行く?話し合いを何時からする、とか決めておいた方が良いんじゃないか。」
美津子が、それに頷いた。
「そうですよね。でも、共有者が居ないんだったわね、誰に進行を任せたらいいのかしら。」
彰は、言った。
「パン屋だろうな。一番確定しやすいだろうし、人狼も狐も今なら騙るメリットが無いだろうし。」
美津子は、回りを見た。
「どうする?みんな、パン屋さんを出して一人だったら進行やってもらう?」
敦也が、顔をしかめた。
「明日でもいいと思うけど、パン屋に任せたらどうだろう。」
すると、あ~あと背伸びをするように、登が手を上げた。
「あ~もう、進行なんか面倒だけど、なぜかオレがパン屋だからやるわ。オレ、パンなんか焼けねぇのにさ~。」
ガテン系のパン屋だ。
敦也がそう思ってみていると、美津子が言った。
「他に対抗は居ないわね?」
パン屋に対抗。
確かに出るかもしれないが、この状況ではきっと出ないだろう、と思ったら、本当に誰も出ず、美津子は頷いた。
「そうよね、出ないわね。じゃあ、登さん、だっけ。あなたが明日から進行をお願い。で、議論時間はどうする?」
登は、うーんと腕を組んだ。
「そうだなあ。まず、明日の朝に一度議論して、その後のことはその時決めよう。夜8時に投票だろ?それまでに結論を出しておくわけだから、結構な時間があるよな。だから…まず、9時にここへ集合ってことで。それまでに飯でもなんでも食っちまっといてくれってことで。」
彰は、それを聞いて立ち上がった。
「よし、決まりだな。では、もう6時になるし腹も減った。皆でキッチンへ行くなりして食べ物を調達しないか。それとも、館の探索をしたいと言うなら止めはしない。しかし、私は食事をする。」
彰は、そう言い切るとサッとキッチンの方へと足を進めた。敦也は、その様子に苦笑した。個人主義なのか、それともそういう性格なのか。
隣りの登が、やれやれと立ち上がった。
「あの人、ちょっと変わってるが、オレも腹が減ったし言ってることは間違ってないよな。じゃ、オレもなんか食うもん探して来る。ええっと、敦也、だっけ。お前はどうする?」
敦也は、頷いた。
「オレも。実はここへ着いた時から腹が減って来てて。どんなものがあるのか見て来たいしな。インスタント麺ばっかりで数日とかだったら絶望だ。」
登は、ハッハと豪快に笑いながら歩き出した。
「違いねぇ。でも見取り図見たら結構大きなキッチンだ。きっといろいろあると思うぞ?ほら、高司の奴も新しいものが補充されるとか言ってたじゃないか。何があるんだろうな。」
敦也も少し、楽しみにしていた。とはいえ、思考の妨げになりそうならアルコールも我慢する覚悟だった。今回勝ち残る、しかも自分の活躍で陣営勝利する胸がすく瞬間を想うと、それぐらいのことは我慢できた。
だが、そもそもここにアルコールまであるかというと、無いだろうとは思っていた。
皆がぞろぞろと思い思いの方向へとぶらぶらと、それでも一様に他の誰かと話しながら歩き出すのを横目にみながら、敦也は歩き出した登と一緒にキッチンの方へと向かった。




