27
「オレ目線では、絶対に狼はもう後一人だ。だから狐の位置が分からない限り、その狼を吊ってしまったら狐の思うツボだと思ってる。みんなの意見に賛成で、グレーから吊るのは狼に当たる可能性があるからマズいと思う。オレは、占って狼を探したい。そうしたらそれを残して狐を探してその位置を吊って行けばいいと思っているからだ。彰さんも占うから、ダブルでグレーを消して行けるしこっちは有利だと思うんだ。玲を今日吊ってくれたら、彰さんはグレーを占える。オレもグレーを占う。それで絶対消して行けるはずなんだ。」
玲が、睨むように敦也を見て言った。
「僕を吊ったら誰が死ぬか分からないんだよ?それが君か、最悪なのは彰さんだったらどうするのさ。村のみんなは、僕が本当に偽だと思わないと吊れないんだ。誰が犠牲になるのか分からないんだからね。」
敦也は、玲を睨み返した。
「だから、オレから見たら間違いなくお前は偽なんだ!お前が何か知らんが、死んでも誰も道連れにされないのはオレが知ってる!そもそも占い師を騙ってたお前が、猫又にスライドして誰が信じるんだよ!もっと早くに言わないと知らないで打った白先に狼や狐が居たら村にとって不利になるのは分かってただろうが!絶対、お前は猫又じゃない!」
敦也は、真として必死に叫んだ。その言葉は、思ったよりも村に影響を与えたようだ。これまで、敦也に対して不信感しかなかった村の雰囲気が、少し緩んだ感じがした。
驚いて皆を見回すと、その視線が困惑したように、敦也を玲を代わる代わる見ているのが見える。つまり、村は迷っているのだ…玲だって、真だという証拠はない。猫又は、騙るには最善の場所だ。吊られないし、噛まれないからだ。例えば狼が猫又を騙ることで噛まれなくても怪しまれることがなく最終日まで残ることも可能だ。狐でも同じだった。もし、美子が猫又だったなら、それを噛んだ人狼が一番、猫又が処理されているのを知っているので、騙り放題だった。
その上今回彰が占っていたので、呪殺の方向で処理することが可能だったのだ。
しかも、猫又は居ないかと問うた時、誰も出なかったのを見て、玲が出て来た。狐でも、出て来るには絶好だったはずなのだ。
皆の気持ちは、登が代弁して言った。
「…お前目線、人狼なら猫又に出るのは絶好の位置だ。誰も居ないんだから真置きもされやすい。だが、狐もそうだ。今回の場合、呪殺されたということにしたいのは、狐だ。呪殺が確定されたら、狐ケアも無しに狼を吊って生き残ることが可能だろう。つまり玲は、生き残りをかけて猫又スライドした狐の可能性があるってことか。」
敦也は、何度も頷いた。
「その可能性があるって思うんだ。でも、玲がオレと彰さんに占われても平気そうだったから、もしかして、背徳者なんじゃとか、数も考えずに思っちまった。でも、狐でも有り得る。自分が占われないように、この議論で何か玲なら言えるんじゃないかって思う。」敦也は、皆が前のめり気味に話を聞くので、段々に冷静になって来ながら続けた。「玲は、やっぱり頭が良い。あのタイミングでスライド出来るなんて、度胸もないと出来ないと思うし、場がしっかり見えてないと無理だと思う。どうしても、呪殺にしたくて、そして生き残りたかった狐なのかもしれない。占いを怖がると狐置きされるから、いくらでも占ってもいいと言って置いて、後で場を転がして占われないように持って行こうとしていたように思う。何しろオレ目線、玲は間違いなく偽物なんだ。」
敦也が言うことは、もっともだった。
そうすると、敦也が真実を言っていて、村が狐に踊らされているような気になって来る。
登が困って彰を見ると、彰はじっとそれを聞いていた。登は、彰に助けを求めるような視線を送った。彰は、それを見て苦笑して、首を振った。
「だから私にはどちらなのか特定する材料が無いんだ。とはいえ、今の敦也の説を聞くと、確かにその通りだと思えて来る。呪殺が起こったので無かったのなら、呪殺だと思わせたい役職というと狐しか居ない。狼も狐が残っていると思わせて自分が見つかった時吊られるのを回避するのに使えるかもしれないが、露出して目立つリスクは大きい…ましてもし、敦也が真でラストウルフになっているのなら、出て来ないはずだ。つまり、敦也が真なら玲は狐の可能性が高いという事だな。」
玲は、強い視線で彰を見た。
「彰さんまで!僕は、真猫又だ。敦也は吊り逃れをしようと思ってそう言ってるんだ。別に、占ってもらったらいいって言ってるじゃないか。僕は狐じゃない!占い先から外してもらおうなんて思ってないよ。敦也を吊って僕を占ったらいいでしょ?そしたら両方答えが出るんだから!」
「それがもったいないって言ってるんだ!」敦也が言った。「お前を吊ってグレーを二人で占った方がグレーが一気に狭まって吊り先を決めやすくなるんだよ!今日彰さんがお前を占ってオレが吊られたら、明日は占い結果がグレーに出ないから情報が少なくなるんだぞ!そんな中で誰を吊るんだよ!お前が呪殺されずに残ったとして、結局お前ってなったら、二度手間じゃないか!今日は明日のことも考えて行動しなきゃ駄目なんだぞ!」
玲が、ぐっと黙った。回りの皆が、ますます眉を寄せて困ったように隣の者たちを顔を見合わせたりして、どうしたらいいのかと迷っているようだ。
忠彦が、言った。
「…難しい。どうしたらいいんだ。敦也の意見は、聞けば聞くほどもっともに聞こえて来た。反対に玲の意見が、なんだか薄っぺらに見えて来たんだけど。これって、オレだけか?」
雄大が、隣りで首を振った。
「いいや、オレもだよ。だから困ってる。オレは敦也偽にロックしかかってたんだけど、そう言われてみたらそうなんだよな。村がどうもその日暮らしみたいになってしまってて、明日以降のこともしっかり考えて情報を収集しないと、吊り先に困ることになる。ロシアンルーレットだぞ。」
希美が、それに盛大に頷いた。
「そうよねえ。考えさせられるわ…今日はどっちかって事だけど、ほんと、どっちにしたらいいのか、混乱しちゃって分からない。判断を間違ったらまずい事になるし…でもまだ、縄に余裕があるんだったっけ?」
美津子が、首を振った。
「あんまり油断しない方がいいわ。呪殺だったとしたら二人人狼が残ってるんだし…玲くんのことは占ったらいいって思ってたの。もし狐でも呪殺で分かりやすいと思ったから。でも…そうも言っていられないわね。明日からの吊り先を考えても、少なくても彰さんにはグレー占って結果を残してもらわなきゃ。ってことは、占うつもりだった、玲くんを吊るって事になるのかな…でも、本当に真猫又だったらと思ったら怖い。」
敦也は、力を入れて言った。
「ほんとだ!オレはほんとに真占い師なんだよ!玲を吊ってくれ、それでどうしても怪しいなら、明日オレを吊ってくれてもいい。明日、誰も余分に死なないんだ。絶対破綻するのにこんなことは言わない。信じてくれ。」
玲が、首を振った。
「嘘だよ!破綻したって楽勝だと思ってるんだ!僕が吊られて明日誰かが一緒に死んで9人になったら、人狼は二人居るんだから敦也が吊られても生き残る術があるんだって思ってるんだ!それとも敦也は狂人で、その日吊られても次の日7人、二人の狼がその中に居る状況を作って陣営勝利を目指してるのかもしれないよ!」
しかし、敦也は玲を睨んで言った。
「オレがもし狂人だったとしても、普通のゲームだったら自分が吊られて陣営を勝たせようと思ったかもしれないけど、ほんとに死ぬんだぞ!今日逃れても明日は確実に死ぬってわかってるのに、こんなことは言わない!それに、お前が本当に猫又だったら、誰が死ぬか分からないって言ったのはお前じゃないか!村とは限らないんだぞ、人狼が二人居るとしたらその人狼か、自分かもしれないのに怖くてそんなこと言えるもんか!」
敦也の意見が説得力を増して行く。
村は完全に迷っていた。彰は情報がないから確かなことは言えないと言う。ほぼ真だろう彩芽も黙って事の推移を見ているだけで、おろおろと判断がつかないようだった。
たまらず、登が言った。
「もう、投票で決める!村の総意にならないかもしれない。判断が真っ二つに割れるかも。それでも、個人個人自分の票に責任を持ってくれ。オレが決めてどっちに入れろとは言えない…そこまでオレには責任を負う勇気がない。すまん。」
雄大が、同意するように頷いた。
「分かるよ。それがいい。みんな迷ってるんだ、登一人が責任を負う必要なんかないよ。」
登は、うなだれたまま、頷いた。彰が、言った。
「…では…私も、できる限り推測出来る事態を考えて来よう。敦也が真の場合と、玲が真の場合。リスクを考えて各々投票するのだ。次の議論の時までにな。」
もう、話し合いは終わるようだ。
敦也は、勝利出来るかもしれない、と希望を持った。自分が真なのだ。それを信じてもらえさえしたら、村は分かってくれる。現に今、圧倒的に自分を偽だと言っていた皆が、迷っているのだ。
とはいえ、玲には油断がならなかった。頭が良くて、筋道立てて考える事に長けていそうだった。何より、見事にスライドをやってのけ、村を迷わせているのだ。
敦也は、席を立って行く皆を眺めながら、もう一踏ん張りだと気持ちを奮い立たせていた。




