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13時、皆疲れ切った様子でバラバラにリビングへとやって来た。
敦也は、いろいろ考えたが決定的な事が出て来ず、まさに出たとこ勝負な感じでこの議論に挑んでいた。
自分が真なのだから、その目線からしっかり話して行けば、分かってもらえると自分を鼓舞していたが、顔色が悪くなっているのは自分でも分かった。何しろ、同じ占い師であるだろう、彰にすら信じてはもらえていないのだ。
みんなが座って並んだ後、登がさっきから置いたままのホワイトボードの横の椅子に座って、言った。
「じゃあ、議論を再開しよう。で、今日の投票をどこからするのか決めるために、グレーの人たちに話してもらおうか。現状、一番真に近い位置に居るのが彰さんなので、彰さんのグレーから選びたい。彰さんのグレーは美津子さん、希美さん、純次、雄大、忠彦の5人。彰さん目線、この中に二人、もしくは一人で占い師に一人狼が居る。どっちにしろここに居るのは確かだから、ここから選ぶのが効率がいいんだ。じゃあ、美津子さんから頼む。」
美津子が、緊張した様子で頷いた。
「私は俊さんの白だから、もし玲くんが言う通り俊さんが真だったら、私は白なんだけど。そんなわけで、私は玲くんが猫又で、彰さんが真で美子さんで呪殺を出したんだと思っているわ。初日から彰さんは真だと思って見ているの。今回も、呪殺だろうと猫又だろうと、彰さんは全然矛盾してないわ。でも、敦也さんは猫又でないと破綻だし、発言の内容も焦ってるのか役職COの数を読み誤ったりで信じられない。案外狼なのかもって、さっきの議論で思ったぐらいよ。それを庇った純次さんは…どちらなのかなって思ってるわね。狼が減って焦って庇わずにはいられなかったのか、彰さんへの不信感であからさまに庇う感じになってしまった村人なのか、分からない。狼だったら自分の命が惜しいから、あんなにみんなに対抗してまで庇うなんておかしいとも思うの…だから、分からないわ。私の視点からは以上よ。」
登は、頷いて希美を見た。
「次、希美さんは?」
希美は、ため息をついた。
「私は、少なくても玲くんが真だと思っていたから…私に白を出してくれたでしょう。あんまり意見を出せて無かったし、狐かもしれないし、黒出しするならいい位置だったのに、そんな私に白だもの。だから真だと思っていたわ。狼でも狐でも、村の私を白にしてしまうのは危ないと思うんだ。だから、玲くんは占い師でないなら猫又だと思う。村側だと思うから。だから、敦也さんは信じてないし、吊るなら敦也さんかなって思っていたところ。だって、もし玲くんが真猫又だったらどうするの?吊っちゃったら、誰が犠牲になるか分からないのよ。狼ならいいけど、村だったら最悪だわ。」
登は、まだ頷いて、淡々と次を促した。
「じゃあ、次、純次。」
純次は、来た時から険しい顔だったが、今も誰とも目を合わせない状態で、椅子の円の中心の、床を見つめたまま、言った。
「…今までの意見じゃ、敦也が偽って印象みたいだ。だが、彰さんが真だとしても、敦也が真の可能性はあるんだ。玲がここで猫又COして来るのも、オレには怪しく見えたけどな。とはいえ、人狼には真実が見えてるだろう。どこを襲撃したのか、人狼は知ってるからだ。騙っても人狼には分かる。だから、今夜呪殺が出なかったら、人狼が猫又でないと知っていたら、明日の夜は噛まれるんじゃないか。とはいえ、呪殺が出なかったら玲がいったい何なのかって事になるけどな。」
登は、頷いた。
「黒だったら彰さんがそれを知ることになるし処理はしやすいが、白で生き残ったら猫又ってこと以外説明が難しくなる。背徳者だとしたら狐が潜伏してて敦也が狼、狂人だったら…それこそ奈津美さんが狐、俊が背徳者って線が浮かんで来るよな。敦也が真だという線が薄れて来るように思うが。」
純次は、長い溜息をついた。
「そうだな。狼だとしたら辻褄が合うという事になるが、全ては明日、玲がどうなっているかで決めることだ。今日はここまでかな。」
登は、頷いて雄大を見た。
「じゃ、雄大。お前はどう思う?」
雄大は、待ってましたとばかりに口を開いた。
「オレは、素直に考えたらいいと思う。苦し紛れの理屈じゃなくて、見えたままの事だよ。彰さんが全く矛盾してないんだから、限りなく真に近いじゃないか。玲が猫又で騙ってたっていうのもおかしくない。オレは美子さん呪殺で憲二噛み、でいいんじゃないかって思うんだ。みんな疑ってるけど、玲が狐で今さらスライドする必要なんかなかったじゃないか。このまま占い師で押し通したら、真目が高かったんだし投票対象に上がるとしても、もっと後になったはずだ。そうなると敦也が何かってことだが、オレは人狼が敦也を破綻させようと憲二を噛んだことから、狐だと思われたんじゃないかと思う。少なくても狼じゃない。だから、オレは今日占うなら敦也じゃないかって思ってる。玲は本当に猫又だと思うよ。」
忠彦が、横から雄大を小突いて言った。
「おい、思考ロックは危ないぞ。あくまでも両方見て無いと、手遅れになっちまう。着実に人数は減ってるし、明日は呪殺が出なくても10人だ。彰さんの呪殺だったとして人狼は二人、敦也が狂人だったら今日、明日か明後日で誰かひとり吊っておかないと、パワープレイで村が勝てない。よく考えて結論を出さないと。オレは、あくまでも両方を考えてる。だから、今日はグレーからが一番だと思ってるんだ。狩人が居たら、彰さんをとにかく守ってもらって、毎日結果を出してもらおう。」
雄大は、顔をしかめた。
「敦也が明らかに偽物だってわかってるのに?真要素が少なすぎるじゃないか。狩人がどこまで無事で頑張れるか分からないのに、占いだけに頼るのは無理だ。要素を掴んで偽目のところは積極的に吊って行かないと。」
忠彦は、雄大をじっと見つめて、探るように言った。
「なあ…どうして偽物だって断定できるんだ?それが分かるのは、恐らく人狼だけだ。美津子さんも希美さんも、断定まではしてなかったぞ?純次でさえそうだ。どうしてお前は断定するんだ?」
そう言われて、雄大はハッとしたように目を開いた。断定?
「いや…断定っていうか、見るからに分かるだろってことだよ!むしろ庇う方がおかしいだろ、怪しいんだし!」
忠彦は、しかし怪訝な顔をしている。登が、割り込んだ。
「まあ、雄大の気持ちも分かるんだ。オレだって現状、こじつけ感があるって敦也を疑ってる。確かに断定はおかしい。彰さんだってまだ敦也が真の可能性があるってそれも追って考えてるからな。雄大の気持ちも分かるし、忠彦の気持ちも分かるって感じだな。」
希美は、困り切ったように言った。
「確かに断定するのはおかしいわ。でも、私達が見てるのは敦也さんの真の要素とかだけじゃなくて、玲くんの事とかも考えた上で総合的に言ってるのよ。占いとか襲撃の事実だけを見てなら、確かに真かもしれない可能性は残っているけど、白い玲くんが事実上対抗として出て来たことで、私達の印象はどこまでも敦也さんが黒いの。だから、忠彦さんの言うことは分かるんだけど、雄大さんの気持ちの方が私の気持ちに近いかな。」
美津子も、それには控えめにだが頷いている。彰の白の啓子も、それには頷いていた。
そうなって来ると、今度は忠彦の方が少数派の意見になって来るので、忠彦が慌てたように言った。
「だからオレは、思考ロックが危ないって言ってるだけだって!断定できるってことは、それだけ情報を持ってるって考えるのはおかしくないだろうが!」
忠彦が言うと、彰がそれに割って入って来た。
「忠彦は間違ったことは言っていない。確かに両方の可能性を追っておかないと数が減って来る今、間に合わなくなってしまう危険性があるんだ。片方に固執するのは危険だ。だからこそ、私も自分の呪殺かと思いながらも、猫又の可能性も必ず心に留めておくようにしている。どちらも追っておかないと、何かが起こった時にそちらの道筋へすんなりと移行出来ないからな。今日はもう、結構な情報が落ちている。情報は飽和しているから、今日の吊りと、明日の占った結果が欲しい所だ。それぞれの目線の話はもういいだろう。」
登は、驚いたように彰を見た
「え、彰さんは今日はもうそっちは議論し尽くしたと思ってるんですか?」
彰は、あっさり頷いた。
「皆の意見は聞いたし、当事者の考えはさっきの議論で聞いた。もうこれ以上は聞けることは無いと思うし、同じことだ。同じことを堂々巡りしていても、逆に深読みし過ぎておかしなことになるものだ。私はこの辺りで、今日の吊り先をどこにするのか決めて良いと思っている。そのための話をするべきだ。」
皆が顔を見合わせる。敦也が急いで言った。
「待ってください、オレだって話したい。みんなに疑われたまま議論が進むのは納得行かない。」
彰は、敦也を見た。
「君目線の話は先ほど聞いたのが全てだ。私もいろいろ考えたが、明日にならないとあれ以上は判断しようがない。ただの推測だ。君は今日、もし自分が投票対象になったら話せばいい。村の総意に従う。まだ、別の事を話さねばならない。」と、登を見た。「登、君はどう思う?」
登は、ホワイトボードを見上げて唸った。
「うーん、そうですね…。確かに敦也がこれ見よがしに怪し過ぎて、逆に今日は置いておいた方が良いように思ってます。明日の結果次第で考えるとして、今一番怖いのはグレーでしょう。彰さん目線でもまだ5人も居る。仮に呪殺が起こっていなかったとしても、確実にこの中に狼が居ます。呪殺が起こっていたら二人、起こっていないなら一人…いや待て、ということは起こって無かったら狐処理が出来ているか分からないのにラストウルフを吊ってしまう可能性があるのか。」
彰は、頷いた。
「その通りだ。私が初日からうるさいほど言っていたのはこのためだ。狐が面倒になるのだ…はっきり分からないと罪もない村人を吊って行って最後に狼ということになる。私が呪殺を出していたならただの無駄な作業なのだが、まずは敦也の主張を考えて、その場合の狐の場所を探さねばならない。玲は今夜私が占うが、だからこそ敦也の真の可能性があるなら、彼にはグレーを精査して欲しいと思うのだ。だが…もし、村がどうしても敦也を信じられないと言うのなら、今日は狐の可能性がある玲と、どちらか分からないが人外らしい敦也で吊り、私はグレーを占う事にするがな。」
登は、黙った。
狐…敦也は狐の可能性はあるのか。確かにあるが、しかしそれなら呪殺が起こったと主張した方が村の進行が狐は処理された、で固定して狐にとっては楽なはずだ。しかし、敦也は間の悪い事に狼に黒を出してしまっていて、死んだので猫又だと言うよりなかったのか。そうしないと、吊られるからだ。
だが、狐が初日から黒を打つだろうか…そんな目立つことをして、破綻したらどうする。一発アウトでゲームオーバーなのではないか。
「…敦也は、狐ではないでしょう。」登は言った。「狼や狂人の可能性はありますが、初日に黒を出すリスクを考えると考えられません。狂人か、狂人に見られたい狼だとしたら納得が行く動きだと思います。」
雄大が頷いた。
「彰さん目線呪殺が起こっていたら狼が二人なんだ。ということは敦也がそのうちの一人だとしてもおかしくない。彰さんには明日からの吊り先のためにグレーを精査して欲しいから、さっきも話していたが、オレは今日は、敦也と玲のうち一人にした方がいいと思う。」
彰は、息をついた。
「そうだな…これが呪殺で無かった時、敦也の真の可能性もあるが、それより何より、人狼があと一人しかいないということだ。グレーを闇雲に吊って狼に当たり、その中に狐も居たらアウトだ。あくまでも、狐を先に処理をせねばならない。占いもせず吊るのは危険だ…とはいえ、今夜必ず一人吊らねばならない。となると、役職の中から吊るのが安全なのは確かだ。まして、玲と敦也なら対抗しているのだから、どちらかが間違いなく偽物。それを見抜いて、吊るのが一番いいかもしれない。」
雄大は、不服そうだった。だが、頷いた。
「…そうですね。彩芽さんの例がある。信じていたのに、奈美さんは黒だった。だから、もしかしたらということもある。呪殺でなければ、敦也は狐ではないと見えるから、玲しかない。この二人で、決めましょう。」
登は、安全策としたらそれしかないのだと、立ち上がって言った。
「じゃあ、今日は敦也と玲のうちどちらかを吊ることにする。二人の弁明を聞こう。」
敦也は、やっと話が出来ると、覚悟を決めて口を開いた。




