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しばらく沈黙。
皆が考えている中で、彰が口を開いた。
「…露出の数から見てそれは無いな。」皆が彰を見た。彰は続けた。「真役職占い霊能3人に対してCOが6人。3人の内訳は背徳者、狂人、狐か狼となるが、それなら狼が占いに出ていないと数が合わない。俊は襲撃で死んでいる。奈津美さんは白だったし、残り3人の中に狼が居るとして、君目線誰が狼だ?私か?」
言われてハッとした。確かに自分が真ならそうなるのだ。玲が背徳者だとして狐が潜伏しているのなら、この中に狼が居る。自分は違う、俊は襲撃で死んだ。俊が狼なのは敦也目線あり得ない…猫又は美子で狼の憲二が死んでいるからだ。そうなると、彰が人狼でないと辻褄が合わない。
「…彰さんが、人狼?」
登が、顔をしかめた。
「彰さんが?だからお前を陥れようと憲二を襲撃したって?…としても美子さんの呪殺はどう説明するんだ。というかお前目線、彰さんが狼で憲二に美子さんを襲撃させて殺して呪殺を演出して、ラストウルフに露出してる自分を残したっていうのか?確かに彰さんなら自信があるからやるかもしれないが、狐がまだ残っているかもしれないのに、どこか分からないグレーの中に白を出して囲う危険を冒してってのが、引っかかるな。もし自分を真置きさせても、狐に白を打ってしまっていたら、勝てないんだぞ?それどころか、噛まれないんだから疑われて吊られる可能性だってある。狩人の護衛が入ってるかもしれないから、っていう言い訳は、そうそう続かない。」
雄大が、うーんと唸って腕を組んだ。そうして、彰と敦也を見比べた。
「…確かに彰さんだったら、自分一人でも勝てると思ってそうする可能性はあるけど、美子さんが猫又だって知る術はないわけだし、それを呪殺だと言って自分を真置きするって考えるのは難しいよね。憲二だって本当に死ぬってわかってるのに、それを入力するかな?猫又だと分かったとして、猫又の呪いがどんな風になってるのか分からないから、入力したらランダムに殺されるかもしれないのに。彰さんが残らないと意味が無いからさあ。そんな博打みたいなこと、するかなあ。」
忠彦が、隣りで同じように困り切った様子で言った。
「どうだろうなあ。彰さんのこれまでの様子を見てたら、確実な方法しかとらないように思うんだよね。賭けに出なくても勝てるって自信を持ってそうに思うし。みんな、この感じだから人外だとしても狼だって思うだろ?だとしたら、賭けに出るとは到底思えないんだよ。」
彰は、何を考えているのか分からないが、ただ黙って議論の推移を見ている。登が、彰へと視線を移して、言った。
「彰さんは、どう思われますか?」
彰は、苦笑した。
「私の事について論じているのに私が発言するのか?まあいい。」と、背もたれにもたれかかって皆を見回した。「私目線、敦也が真である可能性はまだある。私が呪殺したのかしていないのかは状況だけを見て判断することは出来ないからだ。ただ、結果が白だった事実だけ。結果だけを見ると、そこは敦也と同じだ。猫又も白だから、そう出るだろうからだ。ただ、思考がおかしい。玲が背徳者という発想が、なぜ出て来るのだ。敦也の頭の中の占い師内訳が、狼込みであったからではないのか、とふと、思った。そうして、なぜそれを知っているのだ…狂人ではハッキリとは分からない。ほかならぬ、敦也自身が狼なのではないのか。初日からやたらと私にすり寄っていたのは、私が真だと思っていた狼なのではないか?と、いう考えが浮かんだ。あくまでも私の推測でしかないので、敦也がただ単に数を失念していただけかもしれないがな。」
敦也は、慌てて言った。
「失念していただけです。確かに狼も出ていないと、狐が潜伏していた場合は数が合いません。」
彰は、敦也に向けて眉を上げた。
「…そう願いたいね。私が懸念しているのは、もしこれが呪殺で狼が二人残っているのに、猫又噛みとして狼が一人とし、悠長な吊りをして占い師の中に狼が居た場合、狐を探して占っているうちにその一人が残ってしまうことだ。猫又置きしてあと一人だと思って、グレーの中に見つけた黒を飼って狐を探していたら、縄が足りなかった、ということにもなり兼ねない。今夜玲を占うことには賛成だが、それで呪殺が起こらなかった場合、占い師の中から吊る事を考えた方が良い。占い師の中に狐が居ないなら、狼は居る。この様子だと玲は狐かもしれないが狼ではない。私か、敦也。村が明日までによく考えて置くべきだろう。私は生きているギリギリまで自分のグレーを精査して占い続けるがな。ちなみに、噛まれてもどこかに結果を書き残して置く。登、生きていたら君が、誰かが私の部屋へ入る前に来て、それを確認してくれ。」
登は、真顔になって頷いた。敦也は、彰が真で自分の真である事に賭けたい、と思った。彰は白い…そして、自分は真占い師なのだ。
敦也は、言った。
「余計な心配をさせてしまって申し訳ありません、彰さん。彰さんは、狼じゃない。ということは、狼は占い師の中には居ないという事になる。だったら、玲は狐でしょう。オレ目線、そう思います。きっと明日は呪殺が起こると思います。」
雄大が言った。
「起こらなかったら君は破綻するんじゃない?数が合わなくなるでしょ?」
敦也は、首を振った。
「いいや。彰さんがさっき言っていた、奈津美さんが狐で俊が背徳者だったら、残りは狂人。玲が場を攪乱させようとしている狂人って考えもある。オレは真だし、彰さんも自分の呪殺を押して来ずに平等に見ているから真だと思う。どっちにしろオレ目線は人狼はグレーに一人だから、玲の占いは彰さんに任せてそこを探したい。」
玲が、肩をすくめた。
「僕から見たらその場合、君の方が狂人っぽいよぉ。それに、奈津美さん狐で俊が背徳者の場合って限りなく少ない可能性じゃないかな。だってさあ、俊が初日誰に投票していたか、知ってる?満場一致で奈津美さんだったんだよ?自分も終わりなのに普通入れる?その後、あの処刑を見て、自分がその夜を生き延びられないのを知ってるのに、次の日の占い先の事まで話して普通にしてられたの?命が懸かってるのに、それはおかしいんじゃない?普通のゲームなら分かるけどさあ…いくら明日になって破綻するのが分かってるからって、こじつけもいいところだと思うけどなあ。あ、そうだ、彰さんを占ったら?明日の吊り逃れにはそれが一番いいと思うよぉ。」
敦也は、むっとして玲を睨んだ。彰が、そんな様子を気にも留めずに、真面目に考えて顔をしかめた。
「うーん、別に私を占ってもいいが、私目線まだ敦也は真の可能性があるからなあ。偽なら呪殺が出来ないから狐置きは出来ないし、私に黒を出して来るだろう。つまり私のことを占うというのは、私に敦也の正体が何なのかを知らせるだけの事で、村にとってはあまり意味はない。真ならグレーが多いのだからそっちに色を付けて欲しい。ま、敦也に任せるがな。」
敦也は、まだ玲を睨んだまま言った。
「彰さんは、占う対象でなく明日以降に占い師に狼が居るとなったら吊る対象だと思ってる。今はグレーに色を付けるのが先だ。オレのグレーは美津子さん、啓子さん、希美さん、純次、雄大、忠彦。多いから、絶対この中から狼を見つけないと。」
彰が、椅子の背にそっくり返るようになりながら、言った。
「私のグレーは、美津子さん、希美さん、純次、雄大、忠彦。ほぼ同じだな。私目線、この中に二狼。二狼居ない時は占い師に一狼、この中に一狼。出来たらこの中から話を聞きたいものだな。」と、天井を仰いだ。「とはいえ疲れた。水分が欲しい。しばし休憩をもらえないか。私も考えをまとめて来るので、グレーの者達は自分の考えをまとめて来て欲しい。今夜はグレーを吊るのか占い師を吊るのか、それとも敦也か玲から行くのか村の考えを決めねばならないし、グレーの意見も重要だろう。私もそこから、狼の位置を予想したい。とはいえ、今夜は玲を占えと言われているようなので占えないが、考える情報が欲しい。」
登は、言われて時計を見た。もう、起きてすぐにここへ集まって、二時間以上話している。
確かにもじもじと体を動かす人も居るし、起きてトイレにも行っていない人も居たかもしれない。登は、慌てて言った。
「そうですね、体を壊したら大変だ。ちょっと時間を取って、みんなの頭の中を整理してから今日の吊り対象をどこからにするか決めよう。食事をして、考えて…いつものように、13時にまたここで。」
彰は、それを聞いてすぐに立ち上がった。
「水分を摂らないと血管に悪いからな。詰まったら大変だ。それでなくても寝て起きたばかりで脱水状態なのに。皆も何か飲んだ方がいいぞ。」
そうして、さっさとキッチンへ早足に向かった。女性達も、急いで部屋へと戻ろうとしている者、キッチンへ向かう者とバラバラに分かれていた。敦也もそういえばトイレに行きたいと、出口に向かって足を向けた。
すると、登が言った。
「敦也、彰さんはあくまでも平等に考えてるが、オレはあんまりお前を信じてないぞ。しっかり考えをまとめて来いよ。真だったら頑張らないと状況は不利だぞ。」
敦也は、頷きながら歩いて行きながら答えた。
「分かってる。誰がなんと言おうとオレは真だから、頑張ってまとめて来る。」
そうは言っても、今の議論で出し切った感じもあったのだが、他に何かみんなを納得させるようなことが無いかと考えて、階段を駆け上がって行った。




