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投票時間がやって来た。

19時の話し合いは、特に荒れる事もなく進んだ。

登が彰の言った通りに、狩人が他にも居た事実を伝え、そして完全グレーの中の誰かを選んで投票しようと呼び掛けた。

奈美はそれで今日は吊られる事はないかと少し落ち着いたようで、わめく事はなかった。

しかし、村の空気は奈美吊りのような気がした。奈美は、それに気付いていないだけなのだ。

彩芽が仲がいいからか少し庇うように、今日は狩人は様子を見た方がいいかも、と言っただけで、他は誰も奈美を吊らないでおこうと口にはしなかった。むしろわざとそれを避けるように、明日からのこと、占い師の占い指定先の確認などをおこなっただけで、目立った動きはなかった。

奈美が人狼だったなら仲間は切っていて、狐だったなら背徳者は彩芽なのか、それとももう、居ないのだと敦也は思っていた。

そして、昨夜と同じようにモニターが着き、そうして機械的な女声に指示をされるままに皆は、粛々と投票した。

本当に殺すことになるその投票を、昨日よりも落ち着いておこなっている皮肉に敦也は一人、心の中で息をついた。

1→15

3→15

4→15

5→13

7→15

8→15

9→15

10→15

11→15

12→15

13→15

14→15

15→13

16→15

17→13

『No.15は、追放されます。』

「そんな!私は…私は狩人よ!何かの間違いだわ!」

奈美は、立ち上がって叫んだ。皆はこれから起こる事を知っている。なので、目を反らすもの。顔を手で覆って胸に埋める者と、それぞれが奈美と目を合わさない。

「やめて、死にたくな…!」

声は、中途半端に途切れた。

下を向いていた敦也は、どうと床に倒れる気配を、頭の先で感じた。

恐る恐る顔を上げると、彰が無表情に奈美に寄って行って、脈を探るのが見えた。奈美は顔から床へと倒れ、絨毯に顔を押し付けて四肢を投げ出している。

「…死んだ。玲、純次、確認を。」

二人も、仕方なく重い腰を上げた。そして彰と同じように脈を探って、体を仰向けにして瞳孔を確認すると、頷いた。

「…死んでます。」

「死んでるよ。」

二人が言い、機械的な声がそれに続いた。

『No.15は追放されました。夜時間に備えてください。』

登は、沈痛な表情で立ち上がって言った。

「…人狼か狐だったことを祈ろう。村人の数が多いんだ。人外を引いてしまった者達には悪いが、多数の命を助けなきゃならねぇ。占い師に期待しよう…明日こそ、呪殺が出るように。奈美さんが狐だったなら仕方がないが、今はどうしても真占い師を確定したい。」

彰は、頷いた。

「各々指定先の中で狐だと思う所を占うのだ。誰の白でも関係ない、自分が怪しいと思う所を村のために自分の真を証明するためにな。」

敦也は、身を固くした。彰は、やはり美子を占うつもりか。でも美子は白、自分が占ったのだ。人狼に意地があるというのなら、自分にだって意地がある。何としても、彰に、村に自分が真だと言わせてやる!

そう思って鋭い目で彰を見ていると、登が言った。

「…それで、今確認したいことがあるんでちょっとそのままでいて欲しいんだが。」と、涙を浮かべている女子も居るのに、登は言った。「三人が、忠彦に入れてるな。それが悪いと言ってるんじゃないが、理由を聞いていいか。」

言われて、モニターに表示されている数字を慌てて見上げると、そこには確かに、5と15と17が、13番の忠彦に入れている事実が表示されていた。他は、皆統一されたかのように15の奈美に入れている。

彩芽が、涙の滲んだ目で登をキッと睨んで言った。

「今話さなきゃならないこと?!その投票でたった今殺された奈美がここに転がされたままなのに?!」

登は、頷いた。

「奈津美さんだって俊だって同じように死んだんだ。君だって昨日投票したじゃないか。死にたくないのは皆同じだ。オレ達生き残った者たちは、どうしても明日からのことを考えなきゃならねぇんだよ。オレだって明日なんて悠長なことは言ってられねぇ。今夜殺されるかもしれねぇんだぞ!」

パン屋の登は、確かに襲撃対象としては好都合だった。猫又でもないし他の役職よりも、護衛が入っている確率が低いからだ。

純次が、険しい顔をしてそれに同意した。

「確かにな。パン屋が知りたいって言ってるんだから答える義務があるんじゃないか。15は本人だから分かるが、5の彩芽さんと17の美子さんは説明するべきだ。」

彩芽は、涙を流しながら言った。

「奈美が狩人だからよ!もう一人がCOしたからって、それが本物とは限らないじゃないの!一晩様子を見ても良かったんだわ!それで襲撃されなかったら、考えたら良かったじゃないの!奈美は本物だって必死に訴えてたわ…もう一人が誰だか知らないけど、奈美を吊ったなら次はそっちを吊るべきだわ!」

かなり取り乱している様子だったが、登はそれに冷静に答えた。

「君は明日、彼女の色を見ることが出来るはずだ。真霊能者ならな。それとも、違うのか?君の理論なら霊能者だと言っていた奈津美さんを吊ったんだから今日は君を吊るべきだったということだな。そうしたら、もう一日奈美さんは生き残れたかもしれない。でも、君はそれを言わなかったな?それなのに、奈美さんを吊ったから明日は他の狩人ってのは、おかしくないか。」

彩芽は、ぐ、と一瞬詰まったが、それでも首を振った。

「私は、私は真霊能者だもの!吊るのはおかしいわ!」

玲が、もう何も言いたくないという風に口をつぐんだまま横を向いた。純次が、彩芽を睨んで言った。

「おかしな話だ。感情でばかりものを言ってるな。で…美子さんは?」

美子は、困惑してそんなやり取りを聞いていたが、縋るように言った。

「私は、把握してなかったの。他に狩人が出て来たのに完全グレーから吊るというから、てっきり狩人Coしている人は残して他から選ぶんだと思って。色を見たいのは確かだけど、そもそも彩芽さんが奈美さんをあからさまに庇っているように見えたし、段々ほんとに真なのかって、思えて来て…。」

登は、それでもじっと美子を見つめた。美子の何かを探るような目だ。

「…だが、村の大部分が方針を理解して奈美さんに入れて色を見ようとしている。君は、村目線と違う考え方をしているのかと、思われても仕方がないぞ?朝からの議論を聞いていたら、村の意見は見えるだろう。それとも、別の事を考えていたのか…?」

美子は、首を振った。

「だから、私は本当に勘違いしていただけなの!私は村人よ!何でもかんでも疑うなんて間違ってるわ!」

奈美の遺体の前に立ったままだった彰が、腕を組んで言った。

「いい、登、私が今夜彼女を指定しているから、占おう。狐だったとしても狼だったとしても、それで色が出るだろう。敦也の真贋もそれで分かろうというものだ。敦也は彼女に、白を出しているからな。」

敦也は、それを聞いて顎を反らして彰を軽く睨んだ。言っていることは分かるが、どれだけ黒く見えても美子は白だ。呪殺されなかったのだから、狐でもないだろう。しかし狂人か、背徳者ということは、あるのか…?

「…背徳者ということは、あるんだろうか。美子さんは奈美さん狐を知っていて、守ろうとした?」

純次が、息をついた。

「狼がどこかに出ているとしたらあり得ないことは無いかもしれないが、数から考えて外に背徳者は居ないだろう。このCOの数だぞ?それに、奈美さんが狐で美子さんが背徳者ならもっと庇ってもおかしくない。自分の命も奈美さんの結果が握っているのに、議論の時はそう庇う様子も無かったんだから、おかしな話だ。」

言われてみたらそうだった。だったら、美子は完全に白だ。

「それなら、美子さんは白だ。占っても結果は出ないと思う。オレを疑うのは勝手だが、村のために結果を出したい真占い師なら、そこは占うべきじゃないと思う。今さらだが。」

美子は、何度も頷いた。

「私は白だし間違いなく村人なのに!占っても絶対白よ!それでもいいなら、占えばいいじゃないの。」

彰は、顔色を変える事なく頷いた。

「そうしよう。」と、登を見た。「君もそんなに悲観することは無いと思うぞ。人狼は今夜、何の害もないパン屋を噛んでる場合じゃないからな。それよりも、呪殺はして欲しいが真占い師が確定して欲しくないとジレンマに心の中ではのたうち回っているだろう。お手並み拝見と行こうじゃないか。狩人の頑張りにも期待しよう。ま、今日残ったのが真狩人であったならという事ではあるがな。」

彩芽が、それを聞いて目を見張ると、また耳障りな声で叫んだ。

「あなたは!奈美が真狩人かもしれないのに投票したっていうの!狩人だったら、自分が噛まれるのに!」

彰は、その叫び声にも冷ややかな視線を向けて、冷静に答えた。

「どちらか分からないが、色を見たいという気持ちがあったし、責められてのCOは何より偽に見えたのだ。君こそ色も見ないで決めつけるのはやめないか。それとも、奈美さんが狐で自分の命が危ない背徳者じゃないだろうな?」

ここまで奈美を庇うと、命が懸かっている背徳者にも、確かに見える。彩芽は、慌てて首を振った。

「ち、違う!私は真霊能者よ!明日生き残ってそれは証明するわ!」

彰は、頷いた。

「そうしてくれ。私は呪殺を出さねばならないのに、狐に吊り縄を使っている場合じゃないのだからな。」と、登を見た。「では登、情報は手に入っただろう。奈美さんを皆で部屋へ運ぼう。あまり時間を取ると10時を過ぎて皆追放になってしまう。要らぬ犠牲は出したくない。」

時計を見ると、もう夜9時近くになっている。

登は、急いで言った。

「ヤバい、部屋へこもる準備もしなきゃならねぇのに。じゃあ手伝ってくれ、奈美さんは…三階か。三階まで、運ぼう。」

純次と玲、憲二がまず肩、腰、足に分かれて持ち上げた。それだけではやはり重いようで、雄大と忠彦も背や太腿の辺りを支える。

そうして男五人で運び出して行くのを、彩芽と美子、啓子が後ろをついて上がって行った。登と彰、敦也はそれを見送った。

残った美津子や希美、千夏は、もうあきらめたようにただそこに立ち尽くしていた。

「千夏さん…奈美さんとは、仲が良かったよね?」

美津子が言うと、千夏は頷いた。

「ええ。でも、あの子を疑ったら無視されるようになって。彩芽さんが何か奈美に同情して急に仲良くなってたみたい。奈美は、正直分からないの…もし、彩芽さんと仲間だったら、多分ちゃんとした色を言わないように思ってて。でも、奈津美さんも人外っぽかったし彩芽さんが真だと思うんだけどなあ…。どうしちゃったんだろ…なんかもう、疲れたなあ…。」

美津子は、千夏の肩に手を置いた。

「もう、何も分からなくなっちゃったね。私も、誰が誰だが本当に分からない。明日の結果さえ見たらどうにかなるかと思ってたのに、彩芽さんがあんな様子じゃ…信じたくても、信じられないかもしれないわ。でも、奈津美さんもかなり黒かったし…。彩芽さんが、真だったらって祈るだけよ。」

彰は、それをチラと横目に見ていたが、何も言わずにキッチンへと入って行った。玲が、千夏に言った。

「千夏ちゃん、僕思うんだけど…明日、彩芽ちゃんが黒を出したら多分真だよ。でも、白を出したら、残念ながら偽物を疑った方がいいんじゃないかなって、思う。」

それには美津子が驚いた顔をして玲を見た。

「え、玲くんそれ、どういうこと?」

玲は、首をかしげた。

「あのね、今日の様子からだよー。彩芽ちゃん、あれだけ奈美ちゃんを庇ったでしょう。でも、なんかそれって人外だからって感じじゃないと思うんだ。だって、庇うのヤバイ雰囲気だったじゃない?本当に、友達を信じてたって感じだった。そもそも、彩芽ちゃんはほとんど真置きされてたのに、わざわざ怪しい動きをする必要なんてないんだ~。むしろこのまま、真のフリして次の日白を出して、みんな間違ってるよーって言った方が、村は混乱するよね。でも、庇った。なのに、明日黒を出したら、自分が怪しいってみんなに言う事になるんだよ。だから、黒を出したら僕は真だって信じる。でも、白だったら怪しい。どっちか分からないけど、でも偽物に近いって判断すると思う~。」

美津子は、それには少し考えて、頷いた。

「そうね。言われてみたらそうかもしれない。とにかく、本物だったら自分にとってどんな不都合な結果でも伝えなきゃならないものね。そうでなきゃ、村が負けて自分も犠牲になるしかないんだし。」と、千夏を見た。「千夏ちゃん、疲れてるのはみんな同じよ。自分も死ぬかもしれないって思って眠るのって、本当につらい。でも、自分が正しいと思って、頑張って人狼を探して吊って行こう?そうしないと、吊り縄や噛みが迫って来るよ。早く終わらせるように、努力しようよ。」

千夏は、その言葉で見る見る涙ぐんだが、寸でのところで涙を止めて、頷いた。

「分かった。頑張って考えるね。頑張らないと…生き残りたいから…。」

二人がそうやってしんみりとしている横を、さっさとキッチンから出て来た彰が、パンとペットボトル飲料を手に通り過ぎて行く。

登が、思わず声を掛けた。

「彰さん?部屋へ帰りますか。」

彰は、振り返って足を止めずに言った。

「ゆっくり考えたいのだ。君達も早く戻らないと、夜10時になったら容赦なく鍵がかかるのは知ってるだろう?話したければ、また明日だ。ではな。」

そうして、扉を出て行く。

それを聞いた残りの人たちも、急いでキッチンで飲み物を手にすると、自分の部屋へと戻って行ったのだった。

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