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それからの時間は、皆びくびくと回りを見回しながらの数時間だった。

登も一人になりたいと言い、キッチンで食べ物だけ確保すると部屋へ戻ってしまった。

その空気に耐えられずに、リビングで座っている人数も少なくなった。

疑われるのは嫌なので部屋で考えて来るとみんな部屋に戻ってしまい、今ここに居るのは敦也と彰、玲だけだった。

この三人は占い師COしているので、狩人には用はない。というか、ウロウロして狩人を探していると間違われるのも嫌なので、ここで固まっている方がいいだろうと思ったのだ。

彰は、ソファの背もたれを倒して目の上にタオルを乗せて、ぐっすり寝入っている。こんな場所でこんな状況で、昼間っから寝ていられる神経が分からなかった。みんな占い師と名乗り出ているとはいえ、この中には少なくとも一人は絶対に人外が居るのだ。

「…どういう考え方をしていたらこんなに開放的な場所で寝てられるんだろうな。占い師は二人だから三人居るってことはこの中に一人は人外が居るってことだろう?まして村からこんなに真置きされてるんだから、人狼だって狙って来るとは思わないんだろうか。彰さんは、実は人狼なのか?」

小さな声で言うと、玲が困ったように微笑んだ。

「うーん、違うと思うよぉ。だってさあ、敦也はしおり全部読んだー?ルール違反はね、追放になるんだよ。もし人狼がここで彰さんに何かしたら、襲撃時間外だからルール違反でしょう?出来ないって、知ってるんだと思うよー。」

敦也は、それでも不審な顔をして姿勢よく上を向いて寝ている彰にちらりと視線を送ってから、声を潜めたまま言った。

「それは知ってるけど…もし、彰さんが人外だったらって思うと。狼だったら、他の狼に調べさせて自分は安全な位置に居るように見えても文句は言えないと思う。」

玲は、苦い顔をした。

「僕は彰さんが白だって知ってるから狼だとは思ってないよ。というか、敦也って初日は彰さんをめちゃ信じてる感じだったのに、今は疑ってるの?僕のことはどう?敦也は今誰が相方だと思ってるの?」

敦也は、確かに彰を妄信しそうになっていたし、現に今でも疑おうと意識しないと、信じてしまいそうになる。誰かが言っていたが、信じてしまった方が本当に楽だったからだ。

「…分からないんだ。彰さんを信じられたらって思うし、普通のゲームだったらきっと信じて、もし騙されたら凄いなあって言って終わり、だったと思う。でも、命が懸かってるとなると、怖い、って思うんだ。もし信じて、村が負けて自分も殺されたらって。」

玲は、それをふんふんと真剣に聞いて、親身になっているような様子で言った。

「それは分かるよー。僕だって誰が自分の相方なのか分からないもの。ただ、僕は偶然最初に彰さんを占ったからねえ。彰さんの感じは白人外のそれじゃあないし、そうなると、真だって思う。だから、必然的に敦也は敵陣営って事になるんだよ?僕の中じゃ、彰さん真が8割ぐらい、敦也真は2割ぐらいなんだ。だから…君の彰さんを疑う感じって、どうしても自分が怪しまれるのを避けるためみたいに見えちゃうんだよね…。だから、もし、だけど、真だったらあんまりそれ、しない方がいいかもしれないよ。僕、例え二割でも君が真だってことがあるかもだから言うんだけど…あんまりブレちゃうとさあ、村ってすぐ疑うから。狼にも、それをこじつけられて黒塗りされちゃうし。」

敦也は、それを聞いてむっとして顔を険しくした。

「それは、真占い師だって、自分が占った所以外は分からないんだから迷うじゃないか。あまりに筋が通り過ぎてるのも、見え過ぎてておかしいと思わないか?迷うのが村人じゃないのか。」

「…迷うからこそ僅かな疑念が疑念を呼んでさも大きな事のように騒ぎ立てるのだ。」寝ているはずの彰の声が、ソファの方からした。驚いてそちらを見ると、彰はスッと目の上に畳んで置いていたタオルを避け、ソファの背を起こして敦也と玲を見た。「占い師という役職は、村陣営にとって情報をくれる頼るべき存在だ。占った所しか分からないなどとあれらは思ってはいない。自分が思うように結果を出さず、思うような意見を出さなければ疑って来る。過度な期待をしているわけだが、あちらはそうは思っても居ないのだ。しかも今のように追い詰められた状態ではそれは顕著だろう。玲は間違ってはいない。現に君は私や玲より疑われ始めているだろう?あくまでも君のために言っているのだから、聞いておいた方がいいと思うがな。」

玲が、心配そうにそれを聞きながら敦也を見ていた。それは分かっている…だが、本当にどちらが自分の仲間なのか、それとも両方とも敵なのか、分からないのだ。

敦也は、下を向いた。

「…分かっています。期待が大きい事は。彰さんは、オレの味方なんですか?」

聞いても無駄なのは分かっている。それでも、聞かずにはいられなかった。

彰は、敦也の心情を読んで、苦笑した。

「さあな。君の陣営が分からないので、今は何とも言えない。お互いに、呪殺を目指そうじゃないか。」

やっぱりそれしかないか。

敦也があきらめて頷くと、リビングの扉が開いた。

三人がそちらを見ると、登が入って来て、三人がそこに居るのを見て少し、驚いたような顔をしたが、寄って来た。

「なんだ、三人ともここに居たのか。」

敦也は、登に頷いた。

「余計な疑いを持たれないためにな。そっちは?」

登は答えた。

「狩人が誰かを撹乱させるために、役職CO者以外一人ずつオレの部屋に来てくれって頼んで、順番にみんなと話して来たんでぇ。無事に聞けた…一人、奈美さんの他に狩人が居た。」

それを聞いた彰は、満足げに頷いた。

「そうか。なら、今日は奈美さんで明日の色を見る方向でいいな。疑われていない位置だっただろう。」

登は、頷いた。

「問題なく、オレはあっちが真狩人だと思ったよ。だから今夜は奈美さんになるかな…霊能者は生き残ってくれるだろう。」

彰は、立ち上がった。

「思った通りの進行だ。ただ、君は他に狩人が居た事実だけを村に示して、あくまでも完全グレーの中で投票するように言うべきだ。恐らくは彼女が狼でも、保身のために他の狼は切って来るだろうが、それまでの議論の中でどう発言するのかを見ることでこれからの情報が落ちる。彼女が狐としても、背徳者が居るのか居ないのかの判断材料が落ちる。少しでも庇う素振りを見せたり、攻撃しないものが居ないか目を光らせておくべきだろう。それで、個別の面談なら他の役職は出て来なかったか?」

登は、いちいち頷きながら、答えた。

「聞いたのは狩人の事だけだったし、誰も猫又の事には言及しませんでした。なので、それは明日以降でいいかって。出るか出ないかは、本人に決めてもらえばいいんじゃないですか。」

彰は、キッチンの方へと足を踏み出した。

「そうだな。私もそう思う。これで今夜の投票には迷わずに済みそうだ。水でも飲んで明日からの道筋を片っ端から考えておこう。仮説を立てるのは面白い。枝分かれの先を考えておけばおくほど対処がしやすくなって楽だからな。今のところ、私が考えていた道筋のどれかを確実に進んでいる…人狼は、恐らく私を噛んでは来まい。」

登も、敦也も玲も驚いた顔をした。村にほとんど真だと思われているのに?

「彰さんは真置きされてないと?」

登が言うと、彰は首を振った。

「いいや。意地だ。」訳が分からず三人が顔を見合わせると、彰は笑った。「私を負かしたいという気持ちが強いほど、そして自分に自信があるほど、私をあっさり殺すのではなく真っ向から対立して自分の勝利を相手に誇示したいもの。噛んでしまえばそれは出来ない。今頃人狼は、私を陥れるために必死に策を練っているだろう。命が懸かっているのなど関係ない、これは人狼の意地の問題なのだ。まあ、そのうちに分かる。」

そう言うと、彰はキッチンへと入って行った。

登と敦也が顔をしかめてその意味を考えている中、玲は一人、思っていた。だからあんなことを言ったのか…相手のプライドを刺激するために。

だが、今は玲以外の誰にもそれは分からなかった。

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