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前の女子から黙って渡されたカードを手に取ると、敦也は一番上のカードをスッと抜いて、後ろへと回した。カードの感触は、紙ではなかった。かといって、プラスティックとも違う。まるで、金属のような感じだった。

そのカードを、そっと誰にも見えないようにと確認した。

そこには、美しい女性が教会のような場所で祈っているような絵が細い金色の線のみで描かれていて、占い師、と同じ金色の文字で書かれてあった。

…占い師だ…!

敦也は、一気に気分が高揚した。真をとって、目立ってやる!そうしたら、次のこんな催しの時はあちらから呼ばれるかもしれない。

後ろから、トントンと肩を叩かれた。そうして、後ろからカードが戻って来たのだと知った敦也は、急いで自分のカードも大切に他のカードを合わせると、前へと送った。

高司が、一番前でそれを受け取って、満足そうに言った。

「では、これで役職は決定しました。それでは、これから確認致しますので、皆様は全員、自分の腕時計の数字キーへと手を置いてください。」

全員が、戸惑いながらも、黙ってそれに従う。敦也も、皆に倣って右手首に着けた時計の上に、左手を乗せた。すると、高司が言った。

「それで皆様、目を閉じてください。そうして、こちらからの質問を待ってください。」

バスは、そんな間にも町を抜けて今は郊外の、どこかの山の中の広い道を走っている。

皆は、目を閉じた。

暗闇の中で、高司の声が言った。

「では、人狼のかた人狼のかた、目を閉じたまま時計のどのキーでも良いので押してください。」

しばらく、沈黙。

その後、また高司の声が言った。

「…確認できました。今から時計に仲間の番号をお送りします。目を開いて、時計の画面を見て、その番号を覚えてください。」

またしばらくの沈黙。

「では、目を閉じてそのままお待ちください。では、次に狂人のかた狂人のかた、目を閉じたまま時計のキーを押してください。」

暗闇の中、そうやって占い師、霊能者、狩人、猫又、パン屋と順に呼ばれては過ぎて行った。占い師は二人のはずだったが、お互いが誰なのかは知らせてはもらえなかった。

「…では、妖狐のかた妖狐のかた、時計のキーを押してください。…確認できました。背徳者のかた背徳者のかた、時計のキーを押してください。…はい、では、妖狐と背徳者はお互いに誰なのか知ることが出来ます。目を開いて、時計のディスプレイに表示される番号を見てください。」

…そうだった、妖狐と背徳者はお互いに知っているんだ。

敦也は、面倒だなと思っていた。早く占って妖狐は処理してしまいたいが、17人居ると誰が誰か分からない。早く議論したいというのが、本音だった。

敦也が目を閉じたまま考え込んでいると、高司の声が言った。

「…はい。では目を閉じてください。役職があるのに呼ばれていないというかたはいらっしゃいませんか?…居ませんね。では、皆様目を開いてください。」

敦也は、待ってましたと目を開いた。そして、初めてまじまじと回りを見回す…よく見ると、年齢も性別もいろいろな17人が居る。パッと見ただけでは、やはり全く分からなかった。

バスは、長いトンネルの中を走っているようだった。

「では、これで役職も確認できました。これで、私からの説明は以上となります。しおりには、役職についての説明などが詳しく書いてありますので、これからの数日のために、熟読してくださることを願います。それでは、まだ到着までしばらくありますので、皆様にはそれまで、バスの旅をお楽しみください。」

楽しもうにも、トンネルの中で景色は何も見えない。

それでも、もう慣れて来ている女子達は、キャッキャと何が嬉しいのが浮足立っているようだった。

敦也は、どうしてこんな女子達がこの人狼ゲームに選抜されたのかと息をついた。もしかしたら、女子は応募が少なくて大した事が無いレベルでも呼ばれたのだろうか。

見てみると、ここに居る半数ぐらいが女子のようだ。

運営が男女を調節したらしいことは、それで何となく分かった。

自分の隣の男も、通路を空けて向こう側の男も黙ってむっつりと窓の外のトンネルの壁を見つめていた。

敦也もそうやって外を見ているうちに、いつの間にかウトウトと、寝入ってしまったのだった。


そうして、気が付いたら森の奥深くにある、如何にもといった感じの洋館の前に到着していた。

古いが、がっしりとした重厚感のある造りで、遠目にはおどろおどろしいように見えたのだが、近くで見るとそれなりに趣のある美しい建物だった。

高い塀に囲まれたそこは、同じように高い鉄製の両開きの扉を開いて、中へと入る形になっている。

高司が、皆が降りたのを確認してから、言った。

「では、扉を開いて中へとお進みください。また、中ではご案内があるかと思います。では、皆様良いゲームを!」

そう言い置くと、さっさと今降りて来たバスへと乗り込んで、また来た道を戻って行った。

いきなりにこんな山の中へと放り出されてしまった17人は、顔を見合わせた。とはいえ、その中には誰一人として知っている顔は居なかった。あれだけあちこちで人狼ゲームをして来たのだから、一人ぐらい知っている人が居てもおかしくないと思っていたが、本当に誰一人見たことがある顔が居ない。

もしかしたら、中にはネットで共に人狼をした仲間も居るかもしれないが、フォローしているSNSにも何も書かれてはいなかった。

もちろん、敦也自身も今回のことは書いてはいなかった…運営から、その様子をネットの動画サイトに投稿したいと思っているので、情報解禁までは外部へ漏らさないようにと言われていたからだ。

それでも、漏らす奴が一人ぐらいは居ると思ってチェックしていたのだが、本当に誰も居なかった。

そういう性格の者しか、ここへは呼んでいないのではないかと思ったほどだ。

しかし、ここに棒立ちになっている場合ではない。

敦也は、思い切って言った。

「…その、ここに突っ立ってても日が暮れて来るし、中へ入ってゲームの準備をしないか?腹も減って来たし。」

すると、その中で一番背が高いすらりとした、年齢不詳のどことなく外国人のような顔立ちの男が、進み出て頷いた。

「私もそう思う。皆の顔と名前を一致させておきたい。そうしないと、明日からのゲームに差し支えるだろう。とりあえずは、中へと入ろう。」

その低い声には、回りを従わせる力があった。

何でもない事なのに、その男が言うと、皆が何の抵抗もなく頷き、その後に続いた。敦也は、自分もなぜかその男に従えば安心、のような気持になって、驚いた。まだ、役職も分かっていないのに。

そんな敦也の気持ちにも気づかず、その男は先頭に立って門の扉を開くと、目の前の重厚な屋敷へと向かって歩いて行った。

その後ろを、皆がぞろぞろと従ってついて行ったのだった。


木製の重厚な扉を開いた先頭の男は、中を伺うようにしたが、振り返った。

「誰かが待っているかもと思ったが、誰も居ないようだ。中へ入ろう。」

そうして、そこへ足を踏み入れて行く。

つられて全員がそこへと入った後、一番後ろの若い背のひょろりと高い男が、扉を閉めた。

背後でそれを感じながらも、敦也はその舞台に満足していた。正面には大きな、執事でも降りて来そうな二階へと続く階段が伸びており、床は全面赤いフカフカの絨毯敷だ。

天井からは大きなシャンデリアが吊り下げられてあり、黄色い電球色で辺りを照らしていた。

家具も脚が細い美しい流線形を描くもので、値段は分からなかった。

部屋の隅には大きな陶器の花瓶があり、花が生けられて良い香りを放っている。

全体的に中世の雰囲気で、どこか緊張させるような重苦しさもあり、それがまた人狼の館と言われるとしっくり来るようで、心が沸き立った。

運営は並々ならぬ力をあの、新しいカードに入れているのだろうな、と敦也は思った。

と、一人の男が言った。

「…動画を上げると聞いてたけど、誰も居ないな。カメラであちこちから撮られるのかと思ってた。」

そういえばそうだ、と敦也が思って頷くと、先頭に居た男がフッと笑った。どこか嘲るような感じかと一瞬思ったが、次の瞬間にはそれは優しげな雰囲気に変わった。

「…天井の隅を見てみるといい。」

言われて全員が見上げると、本当に小さな丸いガラス玉が、あちこちの天井の隅に丸で装飾の一部のように有るのが見えた。しかし、次の瞬間、それは皆の動きを追うように一斉にくるりと回った。

…隠しカメラのレンズか!

敦也がビックリして固まると、皆が同じように思ったようで一様に困惑した顔をしていた。

先頭の男は、困ったように笑った。

「私は入ってすぐに気が付いた。何かに見られているように思ったので、見上げてみたらあれが動いてこちらを見返したように思ったからだ。我々は監視されているんだよ…バスで高司という男は、説明があるようなことを言っていたが、誰も出てこないのではないかな。」

敦也は、浮かれて気付かなかった自分が恥ずかしかった。一見、他の装飾と混じって飾りか何かに見えるあれが、まさか動いてカメラのレンズであるなど、思いもしなかったからだ。

しかし、他の誰もそれに気付いていないようだったので、この男が見た目に違わず洞察力のある人なのだと分かっただけでも良かったと思うことにした。

戸惑っている皆をしり目に、その男は辺りを見回して何かを考えているような感じで言った。

「…そうだな、いつまでもここで突っ立っている場合ではないだろう。しおりの最後に、この館の見取り図があったのを見たか?一度皆で共有スペースの確認をした方がいいだろう。荷物を振り分けられた部屋へと持って行ってから、一度集まらないか?」

言われて皆、ハッと我に返ったような顔をした後、急いで手に持っていた袋からしおりを引っ張り出し始めた。上着の胸ポケットに縦半分に折りたたんで入れていたその男は、それをスッと出すと、自分の小さなスーツケースを片手に階段の方を向いた。

「…ええっと、これによると二階と三階が居室のようだ。二階に10室、三階に10室。番号が振られてあって二階の端から順に並んでいるようだ。それぞれ自分の番号の部屋へ荷物を入れてから、一階のリビングへ集まるということでどうだろう?」

この見るからに人の上に立つことに慣れていそうな男の言いなりになっていいのだろうかと敦也は少し、不安に思ったが、しかし異論を差しはさむ理由も無かった。

なので頷くと、全員が同じようにうなずいているのが見えた。

それを確認してから、その男はサッサとスーツケースを持って、正面の大きな階段を上がり始めた。

全員が、それを見て緊張気味にその後を追って行く。その背を追って見つめているだろうカメラのレンズを思うと落ち着かなかったが、敦也も思い切ってかばんを手に、階段に足を踏み出したのだった。

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