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純次の顔色を見て、去って行った彰の背を見送ってから、登が純次に歩み寄った。

「なんだ、何を言われた?英語なんかさっぱりだ。」

敦也は、首を振った。

「多分英語じゃなかったと思うけど。耳慣れない言葉だったし。」

純次の隣りの雄大があからさまに不貞腐れた顔をして言った。

「なんか嫌な感じ。どうせオレ達には分かりませんよーだ。」

玲が、何やら複雑な顔をして、椅子に座ったままこちらを見ていた。そういえば、玲は英語が母国語みたいなもんだった。

「…玲?あれ、英語だったか?」

玲は、困ったように首を振った。

「ううん、違うよ。でも、僕高校で第二外国語はドイツ語だったから分かったよ。高校でロシア語とドイツ語、大学でフランス語とラテン語を習ったんだー。みんなは英語の他は知らないの?」

登は、顔をしかめた。

「英語もわからん。じゃ、あれはドイツ語だったんだな。純次は分かったのか?」

純次は、サッと立ち上がると、顔を赤くして、首を振った。

「分かるはずないだろ!」

そうして、その場を飛び出して行った。訳が分からず茫然としている登に、雄大が言った。

「なんか、悪口でも言われたんじゃない?純次だって頭が良いんだから、きっと聞き取れたんだって。それで、顔色が変わったんじゃないの?」

敦也は、そうは見えなかったと思った。そもそも彰は、別に悪口など言う必要はないのだ。純次を煽ってどうするのだ…もしも人狼だったら、噛まれてしまうじゃないか。

「…オレは悪口じゃないと思うけどなあ。もし純次が人狼だったら噛まれるじゃないか。まだ占ってないのに色なんか分からないだろ?黒だったら怖い。狩人が絶対守ってくれるなら分かるけど。」

登は、肩をすくめた。

「さっぱり分からん。玲は聞き取れたんだろ?なんて言ってたんだ?」

玲は、それこそ困って首を傾げた。

「『Du bist ein Werwolf?』だよ。それしか言えない。だって、個人間のことでしょー?ゲームには関係ないと思うから、心配しないで。悪口じゃなかったから、純次はなんか知られたくないことを知られてて、彰さんに指摘されたんじゃないかなって思う。医者は守秘義務があるんだー。」

雄大が、伸びをしながら椅子から立ち上がって、言った。

「ふーん?医者だからなあ。なんかコンプレックスか何かを気取られて指摘でもされて、恥ずかしかったのかもね。彰さんが精神科医とかだったらマジ、嫌だな。嘘ついたって見抜かれるんだよ、その足の動きが、とか、こう言った時の目の動きが、とか言われてさ。」

それを聞いて登は、やっと笑った。

「おいおい、やめてくれよー。オレ、そういうの無理なんだよーすぐ見抜かれちまう。」

そうして、機嫌を直した雄大と共に、笑いながらキッチンの方へと歩いて行く。どうやら、飲み物でも取りに行くようだ。

敦也もそちらへ向けて足を踏み出したが、玲がまだ椅子に座ったままだったので、振り返った。

「玲?なんか持って来ようか。」

玲は、苦笑しながら首を振った。

「ううん、いい。僕、部屋に持って行ってあるからー。」

敦也は、そんな玲に手を上げると、さっさと二人の背を追ってキッチンへと向かって行く。

それを見送って、玲の顔は真顔になった。

…君は人狼かね?

わざわざ皆に分からないようにドイツ語で言った彰の言葉に、その真意が分からず考え込んでいたのだ。

「彰さん、もしそうなら噛まれちゃうよ…それとも噛まれたいの…?」

玲は、ぽつりと呟いた。


夜の投票時間が近づいて来ると、さすがに緊張して来た敦也だったが、それでも今日は自分が吊られる可能性は限りなく低い。

なので、高揚してくる気持ちを落ち着けて、夕飯をとキッチンへと入った。

するとそこには、やけ食いと言った方がいいほど大量に食べ物を抱え込んだ奈津美と、それから対角線上になるべく離れた彰と、隣に登、玲、雄大と憲二が見えた。

敦也は、五人の方へと寄って行って言った。

「よお。…飯食いに来たんだが、取り込み中か?」

登が、頷いた。

「そうなんだよ。今日吊られるって言って、待機部屋へ連れて行かれたらこんなに食べ物の種類が無いかもしれないからって、食べられるだけ食べとくらしい。」

すると、奈津美が顔を上げて敦也を睨んだ。

「なに?いいじゃないの、せっかくここまで来たのにもう吊られるのよ?みんな私が偽物で一致してるんでしょ?いいわよ、それならそれで。村がさっさと負けたらいいんだわ。そしたらまた新しいゲームが始まるかもしれないじゃない。仕切り直しよ!」

品よく食べていた彰が、ため息をついて箸を置いた。

「村陣営ならもっと頑張ってほしかったものだな。しかし、私はそうではないと思っているから、そう簡単には負けないと思うぞ。自分の陣営が負けるのを見守っていてくれ。」

奈津美は、彰にイーだと歯を見せた。

「なによ!彰さんたら意地悪なんだもの!かっこいいと思ってたのに損した!そんなんじゃ女の子にもてないでしょ!」

彰は、立ち上がってトレーを手にして、言った。

「そう思っていればいい。私は別に誰かに好かれたいなどと思わない。私は私だ。自分を殺してまで他人と接するのは苦で仕方がない。」

彰は、またトレーをさっさと流しに置くと、キッチンの出口へと向かう。登も、立ち上がった。

「オレも。もう食い終わったしさ。お前は何か食うだろ?じゃあな。」

登は、彰を追って出て行った。仕方なく敦也は、棚からカップラーメンを引っ張り出して選ぶと、それにポットから湯を注いで今まで登が座っていた席へと座った。すると、隣に座っておっとりとココアをすすっていた玲が、言った。

「そんなのでいいの?冷蔵庫にはいろいろあったよー?お刺身とかもあるの。しっかり食べないと頭が働かないから。」

すると、憲二が向こう側から言った。

「いいんだって、そいつは人外だから頭が回らなくても。」

敦也は、むっとして憲二を見た。

「仕方ないだろ、オレは真だし憲二を黒って見たんだから。絶対明日証明して見せるからな。」

憲二は、肩をすくめて両手を上げた。

「はいはい、出来たらやってみたらいいって。オレは白だからな。お前じゃ呪殺は出せないよー。」

敦也が言い返そうとしたら、玲が割り込んだ。

「もう、やめてよー二人とも。これはゲームなんだからねー?どっちかが嘘ついてるのは当然なんだからさあ。ご飯は落ち着いて食べなきゃ。」と、奈津美の方を見た。「ほら、なっちゃんも。やけ食いは美容によくないよー?僕、そういうの研究してるから、これほんとなの。」

奈津美は、ピタと食べる手を止めた。

「え、玲くんは美容整形とかやってるの?」

玲は、苦笑した。

「そんなことやってないよぉ。僕は研究医だって言ったでしょう?ヒトの細胞とか研究してるんだよー。そうだねえ、いい化粧品とか開発出来たらいいねぇ。今の研究所じゃ、多分化粧品なんて作らせてはくれないだろうけど。」

敦也は、玲が白衣を着て試験管を振っている姿が、どうしても想像できなかった。どう見ても、普通の学生ぐらいにしか見えないのだ。

「玲が医者って…なんか実感湧かないな。白衣着て実験とかしてるんだろ?」

玲は、意外にも首を振った。

「別にどっちでもいいの。白衣は着てもいいし着なくてもいいし。でも、着なかったら試薬とか飛んで来て服がすぐに駄目になるから、着た方がいいけどねぇ。うちは自由だからねぇ…。」

何やら、遠い目をしている。

いったいどんな研究所なんだろう。

敦也が思っていると、それを聞いていた雄大も思ったようで、先に言った。

「どんな研究所なんだい?お堅い感じ?」

玲は、小首を傾げてから頷いた。

「うん、そうだねー。やりたいことをやらせてくれるけど…結果が出せなきゃ駄目なんだよねえ。みんなすっごく優秀でさあ、僕、ええっと、井の中の蛙?だったって思ったよぉ。いろんな国の人が居るの…だから僕は、そこではセシルって呼ばれてるのー。友達になった他の研究員が付けてくれたんだあ。それぞれに、英語の名前がついてるんだよー。日本人でもなのー。」

こんな感じだが頭が良いらしい玲がそういうのだから、きっとみんなほんとに優秀なんだろう。

そんな中で揉まれている玲を思うと少し、気の毒になった。

「へえ…。大変だな。オレ達も大概大変だと思ってたけど、玲に比べたらいいのかもしれないな。回りを頭が良い連中ばっかに囲まれたら、憤死しそう。」

敦也が言うと、雄大が苦笑して何度も頷いた。

「人狼でも時々すごい奴に出会うけど、そんな時は口も開けないもんなあ。そんな気分なのかな。」

玲は、笑った。

「そうかもねえ。すっごく論理的な人、居るもんねぇ。論理だけなら負けないけど、戦略とか、凄いよねえ。勝てないって思うの、分かる~。」

玲でもそうなのか。

そう思うと、敦也は玲に親近感を持った。数か国語を操る医者の玲も、人狼ゲームの場では負けることがあるのだ。確かに人狼は、時の運もあるし、機転も利かせなければならない。その時その時の対応力を問われるし、信用を勝ち取るゲームなので、頭が良いだけでは確かに乗り切れないだろう。

憲二が、息をついた。

「…その点を言うと、彰さんは人狼ゲームじゃあんまりなのかな。」敦也が憲二を見ると、憲二は困ったように笑った。「純次がさ。なんか知らんがえらい剣幕で暴れてたぞ。様子がおかしかったから部屋へ行ってみて来たんだが、彰さんをなんとしても論破してやるとか言って。」

それには、敦也は顔をしかめた。確かに彰さんは、敵を作るタイプだ。味方として信頼してついて行けばこれほど心強い味方は居ないのだが、敵に回すと恐ろしい。同陣営でも、疑われたら徹底的に潰される怖さがあるのだ。

「彰さんは…ほんと、諸刃の剣だよね。」雄大が、言った。「味方ならいいんだけど、信じるには怖すぎて。信じてしまえば、きっと楽なんだろうなって思うんだけどさ。」

それは、みんな同じだった。玲は、占っているので怖くはないのだろう。だが、占い師はあの中で二人。彰が真なら玲は偽。玲が真なら彰は偽。敦也目線はそうなのだ。本当に、誰を信じたらいいのか分からない。

黙り込んだ一同に、玲が、口を開いた。

「さ、そろそろ行かない?時間だよ。」

腕にはめられた時計を見ると、そこにはデジタル式で18:55と表示されていた。

最後の会議の時間だった。

敦也は急いでカップラーメンをすすり終えると、慌ててリビングへと出て行った。

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