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玄関ホールへ行くと、扉の前に純次が立ち尽くしていた。

何度も開こうと無理をしたのか、手のひらに赤くなっている箇所がある。

登が、それを見て黙って扉に歩み寄ると、両開きのその取っ手を両手で掴んで、引っ張った。

ガン!っと音がして、全く開く様子もない。扉が少しも浮く様子はなかった。

「…鍵らしい物は中には無いな。」

登は、扉を見回して言う。純次は頷いた。

「鍵も無いなんて無用心だなって最初は笑ってたんだ。それなのに、開けようとしたら、全く開かない。おかしいって憲二と二人で引っ張ったが、びくともしない。どういう事だ?」

敦也が、どういう事なのか混乱して理解出来ずにいると、女性達も来て不安そうに遠巻きにして立ち止まった。彰がその後ろから来て、言った。

「どういう事って、閉じ込められているのだろうな。それしか考えられまい。」

憲二が、振り返って睨むように彰を見た。

「どうしてそんなに落ち着いていられるんですか!」

彰は、息をつくと大股に歩いて来て、扉の前に立った。

「知っていたからだ。」憲二は、驚いた顔をした。彰は続けた。「昨日、君達は屋敷の中を見て回らなかったのか?あれから寝ただけか。」

言われて、皆を顔を見合わせた。そう言われたら、昨日はキッチンぐらいしか行かなかった。あれから自分の部屋へと帰り、自分たちが滞在するこの館の中を探索しようとはしなかった。すっかり忘れていたのだ。

「…オレ達は、昨日は飯食って寝ました。」

登が、そう言った。彰は、息をついた。

「そうではないかと思っていた。私は昨日の段階で、いろいろと見て回っていたのだ。建物の外観も見ておこうとここへ来て、正面の扉が開かないと知った時、裏口を探した。恐らくは使用人が使う場にあるかと思って、キッチンの奥にある使用人エリアを見に行った。その廊下の突き当りに、勝手口があった…だが、そちらも全く開かなかった。それを見て、自分がここに閉じ込められている事実に気付いたのだ。」

美津子が、取り乱すのではなく詰問するように、何とか落ち着こうという震える声で言った。

「それなら…どうして、知った時に教えてくれなかったんですの?!ここに、閉じ込められているというのに。」

彰は、美津子の方を見た。

「誰も出たいと言わなかったからだ。ならば無駄な不安は皆の混乱を招くだろうと、私は誰にも言わなかった。閉じ込められているからと言って、それが悪意を持っているとは限らない。何かから守るために閉じ込めている可能性もあるからだ。しかし、閉じ込めるという行為を当事者に知らせずおこなうこと自体が普通ではないので、この運営の者たちが普通ではない可能性がある。私がそれを皆に言うことで、皆が取り乱しておかしな行動を取れば、この運営の者たちがどう反応するのか分からないと思ったのだ。私達は今、この時も見られているのだぞ?ここに閉じ込められているとして、抗えるのか。無駄に暴れると怪我をするのではないか?」

敦也は、その事実がやっと頭に浸透して来て、思わずその場に凍り付いて天井のあの、ガラス玉を見た。

音もなく、それはこちらを見つめているようで、それがどういうことなのか全く分からないのだが、それがまた不安を煽る。

すると、ガクガクと震えていた女性達のうち、奈津美が膝から崩れて床に座り込んで言った。

「どういうこと…!?これ…私達、帰れないってことっ?!」

彰が、眉を寄せてそれを見下すように見た。

「今は帰れないということだ。もちろん、ゲームが終わったら帰してくれるだろう。この人数を拉致して、運営に何の利があるのだ。聞いていたらここにはそこそこ社会的地位がある者も居る。私はそれを聞いて、気付かないふりをしてゲームをしてさえいれば、帰されるだろうと期待していたのだ。…とはいえ、今も言ったように普通ではないことをする奴らであるから、普通の思考を期待するのは危険ではあると思っていはいる。」

登は、扉の前に立ち尽くしながら、途方に暮れたように彰を見た。

「じゃあ…どうしたらいいんですか。彰さん、オレ達はもしかしたら変なことに巻き込まれてるのか?」

彰は、ため息をついて目を伏せると、ゆっくりと首を振った。

「分からない。しかし、食べ物もあるし、環境は整えられている。少々手厚いぐらいだ。今は、あちらが思う通りにゲームに集中するしかないのではないか。どちらにしろ…私達には、ゲームをしないという選択肢はない。」

女性の中には、泣いている者も居た。しかし、いくら泣いてもこの状況を的確に説明してくれる者はいない。彰が言うのが恐らくは合っているのだろうが、しかし推測でしかない。まさか、命まで取ろうなんて思っては居ないだろうが…。

「…窓は?窓を割るとか、考えられませんか。」

敦也が言うと、彰は眉を寄せたまま敦也を見た。

「私がそれを考えなかったと思うのか。窓のガラス、あれは正確にはガラスではない。リビングの窓ですら、分厚いアクリル板で破ることは困難だ。それを見て、運営の連中が私達を閉じ込めている事実を確信したのだ。あちらが解放しようと思わない限り、私達がここを出ることは出来ない。」

絶望的な空気がそこを支配した。

誰もがあきらめて下を向く中、純次が言った。

「この目で見るまでは信用出来ない。確認して来る。」

そうして、足早にリビングに向かう。

「待て、オレも!」

登がそれを追った。

敦也もどこかに希望がほしくて、急いでそれに従う中、何人かが呼応してついて来るのが視界の端に見えた。

敦也は、そんなはずはないと思いたくて、登と純次の背を追ってキッチンから使用人部屋の方へと足を進めた。

挿絵(By みてみん)


使用人エリアは、とてもこじんまりとしていた。

入ってすぐの居間も、一般的な家庭のリビングといった広さで、そこから抜ける扉が向かって右側の端にある。

純次は一瞬迷ってそちらへと足を向け、戸を開く。登が、息を上げながらしおりを出して、図面を確認した。

「…勝手口の記載はないな。」

敦也も、もうヨレヨレになりつつあるしおりを見て、頷いた。

「確かに。でも、彰さんは廊下の突き当たりにあったと言っていた。」

二人で話しながら純次の入って行った戸を抜けて入ると、そこには真っ直ぐな廊下があり、確かに突き当たりに重そうな鉄の扉が見えた。

天井が手前の方がかくかくとした形状になっていて、この上が階段なのだと分かる。

もうそこへ到達していた純次が、それを開こうとノブを掴んで押したり引いたりしていたが、少しも動かなかった。

「…やっぱり、駄目か。」

登が、半ばあきらめたような色の声をかける。純次は、悔しそうに何度もノブを握ったが、うんともすんとも言わないのに遂に離すと、歯ぎしりした。

「駄目か…!窓は?」

敦也が、あまりに純次が必死なので、自分も同じ立場なのにも関わらず、気の毒な気持ちになりながらいたわるように言った。

「多分、彰さんに抜かりはないから、言う通りだと思う。でも、確認しに行くか?」

純次は、顔を上げてキッと敦也を見た。

「みんな彰さんを信じ切ってるが、確信もないのに信じるのは危険だぞ。自分の目で見て確認するべきだ。」

敦也は、分かっていたが顔をしかめた。

「いや、それはそうだけど。これはゲームとは関係ないことだし、彰さんは今の純次みたいに取り乱す人たちが多いだろうと予測してたんだ。間違ってなかっただろ?」

純次は、それでも敦也を睨んでいたが、背筋を伸ばすと、歩き出した。

「窓を確認する。」

そして、登と敦也の脇を抜けて、歩き出した。

顔を見合わせた登と敦也が困った顔で振り返ると、そこには彰以外の何人かが来ていて、そんなこちらの様子を覗いていた。

純次は、一瞬皆を見てひるんだ顔をしたが、すぐに持ち直して表情を険しくすると、間を割ってキッチンの方へと出て行った。

女性も混乱している風だったのが、今の純次の様子を見て反って冷静になったのか、幾分困惑した程度の様子になっている。美津子が、出て来た敦也と登に、行った。

「…開かないのね?」

登と敦也は、同時に頷いた。

「ああ。開かなかった。だから多分、リビングの窓とか他の窓も、彰さんが言う通り割れないヤツなんだと思う。純次は、見に行ったけど。」

美津子は、そちらを振り返りながら、落ち着いた様子で、しかし不安そうに言った。

「困ったわね…どういう意図でこんなことをするのか分からないから怖いと思うわ。でも、彰さんが言う通り、純次さんみたいに慌てて騒いでも、反って相手を刺激して良くないと思うの。顔も見せないし、ちょっと変な感じだなあって思ってたけど、ほんと、普通でない感じ。変なことをされないためにも、このままここでさっさとゲームをして、終われば満足して帰してくれるんじゃないかな、とは思ってる。だって、相手は何も嘘は言ってないわよね?私達は、ここでリアルな人狼ゲームをするために来たんだもの。数日ここに缶詰めになることは分かっていたはずよ。確かに鍵を掛けて出られないってのは考えもつかなかったけど、こんな山奥なんだもの、外へ出てどこに行けるわけでもないし。結局、ここに居るしかなかったでしょう。そう考えたら、このままゲームをやって様子を見るしかないみたい。」

美津子の意見は、とても冷静だった。じっと聞いていた美子が頷く。

「私も、美津子さんが言う通りだと思う…びっくりしたから慌てたけど、純次さんを見ていると、慌てても仕方ないなって。外に出られないのがどうって、別に今の時点ではないもの。ここってどの辺か分からないけど、結構山奥でしょ?熊とか出るとか、あるのかも。だからしっかり戸締りしてるのかも。」

熊は考えていなかった。

敦也は思ったが、確かに結構山奥まで来ていた。最寄り駅は普通の観光地の田舎といった感じのローカルな駅だったが、そこからここまで、二時間も山の中を来たのだ。そんな山深くなのだから、熊も出るかもしれない。

「あの…言わなかったけど。」希美が、おずおずと口を開いた。「私ね、昨日の夜暇だったから、スマホで友達と話そうとしたんだけど…ここって、圏外よね?」

敦也は、驚いた。そういえば昨日からスマートフォンを見ていないのだ。充電だけでもしておこうかと、充電器を差したのだけ覚えていたが、それからはほったらかしだった。

「え…知らなかったな。」

敦也が言うと、他の女子達が一様に首を振って言った。

「そうなのよ、圏外なの。基本的にスマートフォンは時間を見る以外には使ってはいけないって書いてあったし、それで疑われるのも嫌だったから言わなかったんだけど…もちろんWi-Fiだって無いわ。だから、閉じ込められたとしたら、完全に孤立してるなって、思っただけ。ほんとに大丈夫なのかな。」

全員が、顔を見合わせた。大丈夫かと言われたら、分からないのだ。ただ、今現在で言うと、特に不自由はしていない。運営が自分たちに求めているのは、ゲームをすること。それ以外のことは、出来るだけしないこと。なので、スマートフォンでも通信もしないで欲しいと書いてあった。人狼同士がそれで話したり、チート的なことをするのを防ぐためだと敦也は思っていた。だが、始めから出来ないようにしてあるとは思っていなかった。

「…とにかく、それも含めて一度リビングへ行こう。彰さんは、ここへ来てないみたいだし、リビングに居るんじゃないかな。意見を聞いてみよう。」

全員がバラバラに頷いて、そうして、敦也と登を先頭に、キッチンの扉を抜けて、リビングへと出て行った。

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