黄の章 第11話 三倍
暫く説明回が続きます。ご容赦ください。
黄の章 第11話 三倍
「早速天月君の話を聞かせて欲しい所だけれど。先ずはこの得体の知れない森で生き抜く事が優先だね。先程言った通り情報の交換から始めよう」
先程の熱に浮かされた声色から打って変わって機械音に近い事務的な声色に変わる桐香さん。まあ、それはそうだとここは頷いておく。
「とは言え、話し合って置く事は無数にある。重要度の高い物に絞って話し合おうじゃないか」
「まあ、そりゃそうです……だな。まあ、取り敢えずお互いのステータスの提示は第一として……。あー、種族的に得意な事とか? 後は……なんだ? 重要な事……重要? うーん」
「私はお互いにどの様な生物を確認したか。安全な生物と危険な生物は確認したいね。それに行動範囲、地形情報等も重要だろう」
ああ、確かに。モンスターとかサバイバルが関係するゲームで大事な事って考えれば、生き物の分布とマップの把握は鉄則だ。おお、そう考えると俺の現状はモンスターの徘徊する森でのサバイバルゲーム状態と言っても間違いでは無いのか。それはそれでわくわくする。
人間時代に攻略した数多くのゲームが脳裏を過る。しかし現状では今挙げられた情報を共有するのが先決だ。
だが、役立つ事とか見逃している事が分かるかもしれないし、後で記憶を掘り下げてその手のゲームの情報を引き出しておこうと決める。
「んじゃ、俺のステータス何ですが―――」
脳裏に浮かんだ俺自身のステータスを読み上げようとして一瞬固まる。昨日確認した時よりも随分様変わりしている。
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ネーム―ヨロイヅカ フウタロウ
種族 狼
レベル 8
スキル―パッシブ
【耐性】
恐怖耐性
混乱耐性
スキル―アクティブ
【牙】
咢の一撃
魔法
【土属性】
【土塊】
【闇属性】
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はぁ~。レベルが四も上がっている。それにスキルも増えてるじゃん!? マジかよ!? 産まれてから三カ月、レベル以外に変化しなかったステータスがこんな急に……。テンション上がるなぁ!
ああでも『恐怖耐性』と『混乱耐性』、それにレベルの上がり具合はやっぱりあのグリフォンとの戦闘が関係していると考えれば納得がいく。まあ、実際は戦闘とも呼べない醜態だったが、それは脇に置いておいて。
……『恐怖耐性』は文字通り恐怖に対する耐性を得るパッシブスキル。つまり恐慌状態に陥りにくくなるものらしい。『混乱耐性』はその混乱版だな。耐性はあって困るものじゃないが、どうにも対象が抽象的なせいか微妙に頼りなく感じてしまう。これが火に強くなるとかだったらかなり頼もしいのだけれどなぁ。まあ文句を言っても仕方がないか。あるだけあり難いのは確かだ。
土魔法の所に【土塊】が追加されているのは単純に習得出来た証と言う事なのだろう。
あの時は確かにグリフォンと言う脅威に恐怖し、突然の家族の死に混乱した。だが一応その後に恐怖も混乱も振り払って逃げようとしたし、その為に戦った。そこで二つの耐性を獲得し、更に明らかな格上相手との戦いで得た経験値を滅茶苦茶獲得したと。
「―――と、俺のステータスはこんな所だな。正直あれだけ怖い思いをして得たにしてはショボいよなぁ~。レベルアップで多少は身体能力上がっただろうけど、今回得た耐性二種類は直接的なパワーアップとは言えないしな。どうせなら攻撃手段とか増えて欲しかったぜ」
「それは高望みと言う物だろう。女神の話では私達の行動による経験の累積で新たな能力―――スキルを得られる。そう言っていた。攻撃手段を充実させたいのならそれは身体を鍛えるなり積極的に戦闘を行うなりするしかないのではないのかい?」
「ああー。そう言えばそうか。って事は別に俺のステータスがショボい訳じゃなくて、俺の今までの行動が大したことしてなかったって事か? うわぁ、そう考えるとスゲー情けないな」
確かに俺は生肉が食えないと言う理由で狩りは兄弟任せだった部分もある。最近でこそ狩りが終わったら魔法の練習なんかをしていたが、魔法の練習を始める前は帰って来て直ぐに横になってぐーたらしていた。
それに比べ兄弟達は遊びと称して走り回ったりじゃれ合ったりと常に動いていた。
……あれ? もしかして兄弟に比べて俺のレベルが低かったり身体が若干小柄なのって俺の怠け癖が原因か?
汗を流す事が出来ない身体なのに背中に冷や汗が流れる様な感覚に襲われる。何と言う盲点。おれはまんまとこの世界の罠に掛かっていた様だ。そこ、俺の性根が怠け者なだけとか言わない。
「ま、まあこれからしっかり鍛えるし? 決して怠けてた訳じゃなくて、鋭気を養っていたと言うか」
「誰に対して言い訳をしているんだい?」
「俺、明日から筋トレとかします!」
「そうかい」
「いや、そこは「それ、絶対やらない奴の言う事!」的なツッコミが欲しかった……」
「そうかい、では私のステータス何だが―――」
うーん。まあ、当たり前と言えば当たり前の事ではあるが、天月や刃、それにネット内の友人と同じような所謂予定調和的な会話を期待したのが馬鹿だった。身内では今のが鉄板ネタなんだけどなぁ。もう爆笑必至よ。いやマジで。
とは言え親戚や会社以外で女性と面と向かって話す機会など無い俺にとって、こういう何を考えているのか分からないタイプの女性と話すのは滅茶苦茶ハードルが高いのだ。ってかぶっちゃけある程度遊びを入れないとプレッシャーに押し潰されそうなんだよぉ!
正直桐香さんは俺と同じインドア派の香りがするから多少マシとは言え、これが思いっきりアウトドア派の狂歌や藍ちゃんとかだったらマジでコミュニケーションなど無理だった。そう言う意味ではこの状況はまだましな方とも言えるか……。バットかワーストかと言う違いでしかないが。
そんな俺の内心の焦りを知ってか知らずか桐香さんは淡々と自分のステータスを語る。
それをまとめるとこんな感じだ。
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ネーム―キリサキバラ キリカ
種族 擬態粘液
レベル 27
スキル―パッシブ
【耐性】
衝撃耐性
斬撃耐性
落下耐性
状態異常耐性
乾燥脆弱
【身体】
不定の身体
貯水の身体
【作成】
器用
【特殊】
紫ノ魂(覚醒)
スキル―アクティブ
締め付け(スリーパー)
【身体】
分裂体
千変万化
形状記憶
消化液
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え、強くね?
単純なレベルだけでも俺の三倍は強い強者のステータスがそこにはあった。
スキルの数も内容も、文字通り俺とはケタが違う。恐らく生まれてからの期間は俺と変わらないだろうが、それなのにこれほど隔絶した差を見せつけられると俺がどれだけ弱い存在か嫌でも思い知るぜ。
俺、マジで明日から本格的に鍛えなきゃならんかもしれん……。俺は何とも言えない危機感を感じるのであった。いやマジでやるから。嘘じゃないから。
補足ですが桐香の身体の大きさは風太郎とほぼ同じですが、体重で言うと桐香は風太郎の三倍あります。質量と言うより体積の問題でそうなります。




