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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
黄の章 憧れの異世界 編
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黄の章 第10話 鬱屈

黄の章 第10話 鬱屈

 

 「ああ、キツイ。しんどい~。もう駄目だ。ああ~ああ~」

 

 気を抜くとフラッシュバックする惨劇の光景。いや、光景だけじゃない。血の匂いや恐ろしい咆哮までも鮮明に蘇る。その間にこの世界で出来た家族との何でもない思い出が不意に過るものだからたちが悪い。

 なんでもいいから気を紛らわせないと涙が溢れて止まらない。だから先程から愚痴を零しているのだが、その愚痴すら地味に声が震えて情けなくなる。自分の心はこんなにも脆かったのかと嫌でも思い知らされるのだ。

 

 「うめいている所悪いのだけれどね。先ずは情報のすり合わせを行いたいのだ。話せるかい?」

 「……無理。無理です」

 

 霧崎原さん……下の名前で呼んでいいと先程言われたので桐香さんと呼ぶ事にするが(呼び捨ては許されなかった)なんとも抑揚のない声色で話し掛けて来る。

 正直この人と殆ど話した事無いし、友達の友達みたいな微妙に気まずい感じがするんだよな。ぶっちゃけ距離が測り難い。

しかも今の彼女は見た目が薄紫のわらびもちだ。多分ファンタジーの定番であるスライムとかその辺の不思議生物なのだろうが表情が読めないので更に冷淡な印象になっている。

 口も無いのに普通に会話が出来ていると言う事実に関しては、今更微塵も戸惑わない。魔法やら伝説の生物やらが存在する時点で俺の中に有った物理法則と言う概念は、とっくの昔に頭の隅っこの方で膝を抱えて小さくなっているのだ。今更スライムモドキに驚く事等無いのだ。

 

 「何をそんなに取り乱しているのだい? 肩の傷は塞いだ。感染症の心配はほぼ無いと見て良いだろう。先程の鳥に似た獣達も周囲には居ない。大型の肉食生物もこの周辺には確認できない。……安全なのだけれどね」

 

 確かに、グリフォンに食い千切られた肩の傷は桐香さんが処置? をしてくれたおかげで血は出ていない。ちらりと見れば桐香さんの体色よりも少し濃い紫の何かが傷を覆っている。水絆創膏みたいなものなのか? 鈍い痛みは続いているが傷口が何かで覆われていると言うのは大いに安心できる要素だ。その点は感謝している。

 周囲の状況は今の俺では判断できない。鼻水がめちゃくちゃ出ているので自慢の嗅覚が機能していないのだ。まあ彼女が安全と言うのなら安全なのだろう。疑う理由は無い。

 だけど、なあ。

普通ここまで落ち込んでいる奴が居たら慰めるとかするモノじゃないか? いや、別に慰めて欲しい訳じゃないさ。ただ、もう少し落ち着くまで待って欲しいと言うか、空気を読んでほしいと言うか。

 

 「……。お父様達……家族が、死んだ。かなり強かったのに。あっさり死んだ。寝て、起きたら血の海で、昨日話していた奴も、子供も、皆死んだ」

 「? 何度も繰り返す様だが、その脅威はもう周囲には無いと言っているのだよ? 君に危害を与えるあの獣は周囲には居ない」

 

 震える声で俺の心中の苦痛を吐露するがいまいち伝わらない様子。全く共感されないこの感じ、この人も変人なんだなぁと思う。まあ、俺と一緒に転生した全員が全員、もれなくどこか頭がおかしい奴等ばかりなのだが。多分俺が一番まともと言うか、一般的な人間なんじゃないだろうか? 

 

 「いや、いや、そう言う意味じゃなくて……。目の前で家族が死んだから、何と言うか。悲しいとかそう言う気分だよ……。分からないか……ですか?」

 「ふむ……。親しい存在を失った喪失感、若しくは焦り、不安。それらによってストレスを受けて精神的に不安定になっていると言った所か。ああ、それと私に対して無理に敬語を使う事は無いよ。君は私の部下ではないし、年齢が上だから偉いと言う論理は嫌いだね。人は優秀である者こそ敬われるべきだ」

 

 妙に理屈的な事をペラペラと述べる桐香さん。色々な事が致命的にずれている気はするものの、別に全く会話の趣旨を無視している訳では無いのだから厄介だ。

 

 「そんな小難しい話じゃなくて、家族が死んだら悲しいってだけの話だろ。分からないか? たった三カ月の付き合いだし、傍から見たら落ち込み過ぎだとは思う……けどよ。俺にとってアイツらは完全に家族だった」

 「成程。理解は出来ないが納得は出来る。愛情の深さと一緒に過ごした時間の長さは比例しないと言う訳だね。そうか、では落ち着いたら教えてくれ。私としてはなるべく早めに他の者達と合流したいからね」

 

 つまるところ、「お前の言い分は理解した。時間はくれてやるからとっとと落ち着け」って事ですねわかりました。

 そうですか。まあこの人に共感とか同情とか求めた俺が馬鹿だったよ。まったく、天月アマツの奴よくこんな人と同じ家で暮らせてたよな。普通にすごいと思うわ。

 気持ちの整理が出来るまで。せめて五分だけ待っていてくれと言ったらその場でカウントダウンし始めた。

 マジでやりずらいわこの人!

 

 ―――――

 

 「―――と言う訳で魔法を覚えた俺は辺りが真っ暗になった頃に眠りについて、朝起きたら辺り一面血の海。必死の抵抗虚しくグリフォンに食われかけていた所、桐香さんに助けられたと言う訳ですよ。ああ、そうだ。遅くなりましたが助けてくれてありがとうございました」

 

 三か月と言う、思い返してみると意外に短い時間。俺が生まれてから今に至るまでに起きた事をかいつまんで説明するのにそう時間は掛からなかった。主観的には随分色々な出来事イベントがあった様に感じていたのだが、こうして言葉にしてみると随分と盛り上がりに欠ける日々であった様に思えてしまう。客観的に見ればラノベのプロローグぐらいのボリュームしかなさそうだ。別の意味で泣ける。

 因みに家族を失った悲しみは消えてはいないが、一応気持ちは落ち着いている。正直些細なきっかけで先程の悲しみがぶり返しそうではあったが、今は話す事に意識を集中させる事で何とか普通を装えている状態だ。

 

「うん? ああ構わないよ。うん、礼は不要だ。君は天月くんの友人なのだろう?」

 「あ、はい。友人……親友ですね。俺とアマツとジン。学生時代から三人でつるんでいましたね」

 「そう。そこだ」

 「はい?」

 

 プルプルと震える楕円の身体からにゅるりと触手的な物が生えて来て、その先っぽが俺の鼻先に突き付けられる。唐突な変化……変形? に色々と便利そうな身体だなと妙な所に関心を持ってしまう。

 あの身体変幻自在なのか、それとも意外と制限が厳しかったりするのか。滅茶苦茶気になる。正直、不定形の生物とか滅茶苦茶中二心をくすぐられるのだ。

 

 「君はたしか中学生時代から天月君と交流があったらしいね」

 「そうですね。ジンとは小学校からの付き合いで、アマツとは中学からです」

 

 思えば二人とは随分と長い付き合いをしている。ネットの世界には顔の見えないフレンドが多くいた俺だが、本気で心を許している人間は血縁者を除けばあの二人だけだったな。

 そんな風に少しだけ昔を懐かしもうとした。しかしその考えは目の前の人物がどことなくかしこまった雰囲気を出している事を察した事で霧散する。

 

若干コミュ障気味の俺だが目の前の人間が発する空気の変化を感じ取れない程では無い。いや、寧ろコミュ障だからこそ他人の発する雰囲気の変化には敏感なのである!

 

 「今から言う事は他言無用で頼みたいのだがね―――」

 

 頼み事として一層真剣さを帯びた声色。桐香さんの口から出た言葉は―――

 

 「実は私は天月君の事を慕っているのだよ」

 「……」

 

 ―――意外でもなんでもない言葉だった。

 

 「少し遠回しな表現だったかね? つまりは女として彼を求めていると言うか、……その、男女の関係になりたいのだ」

「あー、まあ言わんとしている事は分かります」

 

 何を言いだすのかと一瞬身構えた緊張を返せ。

 「霧崎原 桐香は倉井 天月の事が好きだ」これは、この世界に来る事となったあの日、あの店イーターに居たほぼ全員が随分と前から察していた事実である。ぶっちゃけ皆知ってる事だ。周知の事実と言う奴である。

 

 「そこでだ、風太郎君。君は天月君にかなり詳しいだろう? 同性同士でしかしない……わ、猥談の類等、私では知りえない情報も持っている。―――君は私にとって有益な存在になりえると思うのだよ」

 「……まあ、それは、多分?」

 「私の思いの成就に、協力してくれないかね?」

 

 最早真剣味どころか脅迫に感じる程の圧力を感じる。ここで否と言える程、俺は強者では無い。

 快く頷こうとした所で俺の脳裏に衝撃的事実が過った。

 

 「……あの、もしかしてなんですけど。俺を助けたのって」

 「うん? 君に利用価値があるからだけど?」

 「俺を助けた時、なんかハズレがどうとかって聞こえた気がするんですけど」

 「うん。私にとって大事なのはこの世界で……この世界でも・・天月君だけだからね。ああ彼の家族友人は勿論害するつもりはないよ? 天月君の大切にしているモノは私にとっても重要だからね。ああ、早く彼に会いたいよ」

 

 どこか熱に浮かされたかの様に思いを馳せるその声色に苦笑いを返すのが精いっぱいだ。

 わお、俺の命親友ダチの性癖情報以下の価値ですか、そうですか。ま、まあいいけどな! 俺はこの世界で俺だけのハーレムとか作る予定だし? 親友がモテる事ぐらいでガタガタ騒ぐほど狭量じゃないし? 全然、もう本当に全然、リア充爆発しろとか思ってないし? 全然悔しくなんか無いし!

 ……と言うか今更気が付いたのだが。

なんかこの人、微妙に病んでるって言うか。……偶に天月の家で会う時は知的でクールな印象だったんだが……。一皮剥いたらこんな人だったのか? 実はヤンデレヒロインとは想像できなかったぜ。ドSな紅流クルイといい、アイツ女難の相でも持っているのじゃないか? モテるっていうのは羨ましい事だと思っていたが、何だか哀れに思えて来たぞ。うん、そう思うとアイツに対して湧き出ていたどす黒い感情も霧散していくな。悪かったよ天月。もう爆発しろなんて言わない。

 

 「それで? 私に協力してくれるかね?」

 「あ、はい」

 

 すまん天月、俺はお前の情報をゲロるが生きる為だ。許せ!

 んでもって強く生きろよ!

 


風太郎は落ち込むと面倒くさいですが切り替えは早いです。

これは様々な鬼畜ゲームを経験している事で鍛えられた長所ですが、流石に身内の不幸対する免疫は無いので、冒頭部分でかなりぶちぶち情けない発言があったのですが無駄に長くなってしまうので割愛させて頂きました。

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