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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
黄の章 憧れの異世界 編
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黄の章 第9話 粘塊

黄の章 第9話 粘塊

 

 『むぅ? どうやって弾丸を避けるのか? ……いや、真っ赤な馬鹿なら兎も角だ。俺は完全に避けられる訳では無いぞ。と言うか一発や二発避けた所で戦場では大した意味は無い。戦場しごとさきじゃあアサルトライフルやマシンガンなんかの連射性能が高い銃で、更に複数人に面制圧される事なんかざらだしな。…………ああ、そうだな。確かに俺はそう言う場面でも生き残っている。コツ? そうだな、相手の攻撃の性質を理解していれば更に冷静に対処できれば対応は可能だろう。例えば銃弾。銃弾は基本直線的にしか飛んでこないし、狙われる方から見れば所詮はだ。相手が銃口を向けた時その先に居なければいい。それに動き回っている相手を撃つと言うのは案外難しい物だぞ? 相手だって棒立ちなどしていれば言い的だからな。お互い動き回り物陰や塹壕に隠れ、簡単には当たらないから銃弾をばらまく様に撃つのだ。それだって銃口の動きを追っていればある程度対処できるし、相手が集団ならその中に突っ込めばいい。どんなに非情な奴でも同士討ちに構わず咄嗟に打てる奴は案外少ないのだ。仲間に撃たれるのは誰だって嫌だろうからな。仮に同士討ちすれば相手の士気も下が―――? うん? 銃を持っている奴に突っ込んでいく事は普通無理? それはそうだろう。俺はこの服があるから銃弾が当たっても骨折程度で済むが、普通はここまで高性能で全身を覆う防護服なんて着ないだろうしな。……まあそうだな。お前がどうしても戦場に行かなければならない時が来たとしたら、その時は体に守るべき優先順位を付けると良い。俺は優先順位が高い順に頭、胴体、右手、と言った感じだな。ああ右手はナイフを持つからな。生き延びても攻撃手段を失えば戦場ではどの道死ぬ。……そうそう、頭を左手で庇うとかな。多少の傷で生き延びる事が出来るなら安い買い物だろう。……むぅ? 戦争のゲームで生き残る? いや、それゲームは専門外だと言っているだろう―――』

 

 肩に冷たい物が通り過ぎる感覚が走る。

 痛い。痛い……痛い。熱い。痛い。でも生きている。

 

 諦めたと思った。死ぬ事を覚悟した。

 でも身体は動いていた。何がどうなったのかは分からない。右の肩口が死ぬほど痛い。多分そこはグリフォンの嘴が当たった場所なのだろう。だが、怖くて怪我の具合を見る気になれない。血ならまだしも骨でも出ていたら確実に正気じゃいられない。

 違う! 怪我なんてどうでもいい! どうにかして生き延びるんだ! 頭を食われてたら終わってた! 肩の傷がなんだ! せっかく躱せた、躱した! なら、まだ生きるチャンスはある!

 

 どすんと言う音と共に目の前に先程のグリフォンが回り込んで来た。グリフォンの表情なんか分からないが、目を細めて俺を睨むその顔は不快感や苛立ちを表している様に見える。怖い。超怖い!!

 気が付けばグリフォンの太い前足が高く上げられていた。脳裏に上半身を潰されたお母様の姿が映った。

 

 『土塊つちくれ!』

 

 俺の命を潰そうと振り下ろされた暴力は、しかし地面から突き出た土の山がグリフォンの胴体部分に衝突した事でその役割を果たす事は無かった。崩れた体勢を戻そうと四肢でがっちりと踏ん張る事を選んだグリフォンは、当然ながら無傷。お父様達が命をとしても仕留められなかった相手と同等の存在に、俺が傷の一つでも付けられる理由は無い。恐怖でパニックを起こしそうになるのを必死に抑える。だが頭の中がごちゃごちゃになって考えがまとまらない。この後どうすればいいのか直ぐに考えがまとまらない。

 

 『む? 戦の心得で御座るか? そうで御座るなぁ……やはり日頃の鍛錬や戦前の準備、敵方の情報収集が肝で御座ろうな。敢えてそこに付け加えるならば「相手の裏をかく事」で御座ろう。予想外の出来事と言うのはそれだけで相手に少なからず隙を作れるで御座る。まあ、規格外の強者や相手の出方を見てから行動する者には効果が薄いで御座るよ。ふむ、拙者であれば一見大人しそうな純白ワンピース幼女の下着が背伸びした大人物の黒いブツであったのならイチコロ―――』

 

 『土塊つちくれ!』『土塊つちくれ!』『土塊つちくれ!』『土塊つちくれ!』『土塊つちくれ!』『土塊つちくれ!』『土塊つちくれ!』

 「グルォオ!?」

 

 再び動き出そうとするグリフォン。だが俺の放ったやけくその魔法によって、突如自身の周りに飛び出た無数の土塊に驚きバイクのウィリーの様に後ろ足になってしまう。前足で宙を掻き、翼を羽ばたかせるその姿は確実に隙だらけである。よっしゃぁ!

 だがその代償に俺の中の魔力は空になっていた。もう魔法は使えない。切れる手札はもうゼロだ。

 一瞬の驚きから立ち直ったグリフォンは翼を一度羽ばたかせる。たったそれだけの動作で周囲に乱立した土塊は見えない何かに押しつぶされたかの如く一斉に崩壊した。

 

 ―――関係ない。だって俺は既に森の中に駆け出している。木々の間隔の狭い場所へ逃げてしまえばあの巨体の事だ追って来れない―――。

 

 影が俺の身体を覆った。木々の葉では無い。上を見る。首筋に僅かに血の滲んでいるグリフォン。お父様の付けた傷? あ、そうか。五匹居るのだった。完全に目の前の一匹に集中していた。ああ俺の馬鹿野郎。凡ミスだ!

 俺程度その質量だけで押しつぶせる巨体が、加速しながら迫ってくる。加速している筈なのにそれがやけにゆっくりに感じる。

 

 あ、終わっ―――

 

 「おや、どうやらハズレの様だね」

 

 聞き覚えのある声。

 

 「ゲェエ!? ゴォア!?」

 

 森の奥から飛んできたのだろうか。半透明で棒状の何かがグリフォンの身体に無数に刺さって―――。錐揉みしながら俺のすぐ傍に頭から墜落し、勢いのまま地面を転がって近くの大木に衝突するグリフォン。

 

 「グァア!?」「ガガァ!」「ァアア!!」

 「まあハズレとは言え足手まといマイナスにはなるまい。悪いが君達、彼は諦めて貰おうか」

 

 俺の後ろで重なる鳴き声。だがそれに構っている余裕は俺の中には無かった。走っている脚に更に力を籠め、文字通り全身の力を振り絞って走る事だけに集中した。

 後ろからどんな鳴き声がしても、どんな破壊音がしても関係ない。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 走り続けてどの位が経つのだろうか。もう後ろから恐ろしい音が聞こえ来ない事に気が付いた。

 自分の呼吸がうるさい。肺が痛い。脇腹も痛い。脚が限界を超えてい筈なのに、何故か変わらぬ速度で走り続けている。何処に向かっているのか。ここは何処なのか。周りの景色がぼんやりとしか認識できない。

 肩の傷が染みる。改めて感知した痛みに思わず怪我をした肩口を見てしまう。

 

 身体が何かで覆われていた。首から下、爪先から尻尾の先まで全部覆われている!? 全く気が付かなかったぞ!?

 

 薄い紫のそれは、前に食べたドドと言う生き物に酷似していたが、それより遥かに柔らかい気がする。

 予想外過ぎる事態に一瞬頭の中が空白になった。

 

 「な、え? なにこれ? は? いつの間に? は?」

 「レディに向かってコレとは失礼な。全く、彼とはえらい違いだね。これでも命の恩人だよ君」

 

 ぶるぶると震えながら聞き覚えのある声を発する物体X。だが俺の中でピンとその声の持ち主の姿が過った。そうか、俺が人間から狼になった様に、彼女・・も人間からコレになったと言う事か。

 

 「霧崎原 桐香さん、ですか?」

 「ああ、そうだ。取り敢えず適当に落ち着ける場所を探そうか。積もる話はその後だ」

 

 かくして俺はよりにもよって転生組で一番絡みの無い・・・・・人物と一番最初に出会う事になったのだった。

 


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