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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
黄の章 憧れの異世界 編
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黄の章 第8話 肉塊

残酷な描写があります。

黄の章 第8話 肉塊

 

 「――――――!? ――――――!!」

 

 パチリと目を開ける。数拍の後に自分が今目覚めた事を理解する。寝起きでほぼ機能していない脳内、しかし昨晩に生まれて初めて使った魔法の光景が鮮明に思い出される。すると不思議な事に騒音で無理矢理起きてしまって若干不機嫌だった思考が寝起きとは思えない程の興奮で染まる。前日の疲れもまとめて何処かへ飛んで行った様に感じる程良い気分だ。

 

 「ああー。……ああ?」

 

 心地よい高揚感、しかし寝ぼけ眼に映る景色は漸く日の光が辺りを照らし始めた早朝。未だ空の半分は夜色のその光景は前世で見られたものだが、しかしこの三カ月では初めて見る光景だ。

 それもその筈。俺、と言うかお父様以下この群れの全員は例外なく昼に狩りをして夜間は睡眠を取る。

狼の身体と言うのは視力も良いが嗅覚も聴覚も優れている。当然夜間の狩にも何ら問題なく行える性能スペックはあるものの、それは「出来る」と言う意味であって日の出ている内に十分な食料を得られるのであれば夜間は無理に動かなくとも問題ない。

 幸いにしてこの森は豊かであり獲物には事欠かない。よって俺はこんな早朝に目を覚ます事等今まで無かった。

 貴重な体験と言われればそうなのだが、昨晩はいつもより長く起きていた為身体は未だ睡眠不足を訴えている。あくびを噛み殺しながら、二度寝と言う魅力的な選択肢に身をゆだねようと瞼の幕を下ろそうとした瞬間。小さな疑問が浮かび上がる。

 

 騒音で・・・|無理矢理起きてしまって? ……はて?

 

 狼と言うと夜間に遠吠え等をしている印象が強い動物だ。しかし実際は殆どの狼は遠吠えどころか鳴き声すら滅多に聞く事は出来ない。現代のペットとして定番の犬は番犬としての役割もありよく吠える。しかし、野生でやたらめったら吠えていては獲物に逃げられ天敵に見つかると言うリスクしかない。よって狼は滅多に吠えないし、吠えたとしてもそれは群れへの警告や命令等が殆どだろう。

 この世界……まあ、この群れ以外の狼は知らないがそれでも俺以外の狼たちは滅多に大声を出さない。ペラペラと話す事はしても成体のお父様達が大声を出す姿は稀も稀。名前も知らない中古ゲームを買ってそれが意外にも名作だった、なんて確率よりも更に低いだろう。しかし聞こえて来るのは子供狼のモノでは無い。

 

 珍しい事もあるものだ、と思った。

 耳を澄ますとそれはお父様とお母様の声だ。内容は聞き取れないが中々の大声で、先程からずっと騒いでいる。

 痴話喧嘩か? そう思うと別にさしたる理由も無く、だが無性にその様子を見にしたくなる。そんな俺の中の野次馬やじうま根性に背中を押され、軽い気持ちで再び目を開け両親の声が響く方へ首を動かす。

 

 ―――地獄があった。

 

 昨日の夜まで狼達が思い思いに過ごしていた平和な光景は見る影も無い。

 積もりに積もって地面の冷たさから俺達を守っていた落ち葉は殆ど無くなり、むき出しの地面には真っ赤な鮮血と肉片が無造作に転がっていた。俺に最も近い肉片に目を向けると、それは昨日まで俺に魔法を教えてくれたいたクツさんだった。首から下がどこかへ無くなり濁った瞳でこちらを見る変わり果てた姿の彼女。そこにはどこか気品すら感じられた真っすぐな彼女の面影は無く、そこにはここ最近で何度も目にした死体達と同じ命が終わりを迎えたモノ特有の虚しさしか存在しない。

 ……意味が分からなかった。昨日まで色々と教えてくれていたのに。

 

 周辺には明らかに成体では無い、子供の狼のモノと思われる毛皮付きの肉片が転がっている。……昨日まであんなに楽しかったのに。

 

 一度現実を意識してしまうと起きた時からずっと漂っていた鉄臭い匂いが鼻の奥に突き刺さる。……昨日まであんなに平和だったのに。

 

 どんどん早くなる呼吸と心臓の鼓動。いつの間にか身体の芯から冷える様な感覚と共に身体が強張り、いつの間にか視界は涙に歪んでいた。

 目の前の現実を現実と受け入れられない。これが悪夢であればどれだけ救われるだろうか?

 足元が崩れ落ち、上下の感覚すら曖昧になる様な気持ち。恐らく、これは絶望。

 

 「……何で?」

 

 心の底から出た、誰に対する物でもない問いかけ。当然誰も答えてくれない。

 

 「……何でだよ」

 

 でも問わずにはいられない。口に出さずにはいられない。それしか考えられない。

 考えが、思考が、全くまとまらない。

 喉の奥から熱い物がこみ上げて、それは俺の口から地面に零れる。同時に目から零れ止まる事を知らない涙は苦しさが原因か、それとも悲しさが原因か。それすらも分からない。

 酷く苦い感情が、目を反らす事すら出来ない大きな感情が、どうやっても言葉にならない。言葉が出てこない。

 気分が悪い。頭からつま先までが痺れる。身体に力が入らない。

 

 「オォォォォオオオオン!」

 

 辺りに響き渡る咆哮。鼓膜を揺るがすその声量と含有される気迫。反射的に顔を上げれば凄惨な光景の広場、その対角線上でお父様とお母様が見えた。二匹は俺が今まで見て来た生き物の中で最も早い……そんな風に思えてしまう程の速度でもって広場の中を駆け回っている。二匹の通り過ぎた後は砂埃が舞い、転がっている肉片が吹き飛び、近くの木々の枝がざわめき木の葉が落ちる。そんな人間には到底不可能な、ともすれば目で追う事すら困難な圧倒的速度。

 そんな存在そのものが暴風と化した二匹の中心。二匹の爪を、牙を、スキルを、魔法を―――その全てをものともせず対等以上に渡り合っている信じ難い存在。

 初めて出会う生物であるが、しかし俺はその名を知っている。

 

 身体を覆う羽毛はくすんだ白と茶色。地面に突き立つ四足には狼のソレ以上に鋭く長い爪が顔を出している。だが四足獣の身体にはその巨躯に見合うだけの立派な翼が生えている。獅子の身体に鷲の頭と翼を有するその姿はグリフォンそのものだ。

 

 グリフォン。あいつが俺の家族を……殺した。恐らく俺と両親以外全ての狼を殺した。

 

 目の前で行われる、圧倒的な戦い。吹き荒れる砂埃の間から不意に飛んできた小石が顔に当たる。痛い。

 

 ……ああそうか。痛いのだ。

 小石が顔に当たれば痛い。噛み付かれたら痛い。当たり前の事だ。それは冒険譚の主人公だって、人間だって、獣だって、俺が今まで殺してきた生き物にだって訪れる当たり前。

 俺は今までどこか自分だけは特別だと、特別であって欲しいと願っていた。魔王を討つ勇者の様に強くなれると信じていた。多くの女性にちやほやされる存在になれると思っていた。自分は痛みなんか無縁だと、死なんかほど遠い所にあると、そんな希望とも呼べない哀れな妄想に捕われていた。

 自分だけは痛みが訪れないなんて都合の良い話、現実にあるわけが無かった。自分の近くでこんな惨劇が起こるなんて想定していなかった。馬鹿だった。当たり前の現実に今まで気が付かなかった。

 

 「ああ、くそ」

 

 ちらりと視界の端に移った影を目で追うと、そこには更に二匹……いや三匹以上のグリフォンが上空を旋回している。上空の見える範囲で三匹居ると言う事は見えない範囲にそれ以上の数が控えている可能性も十分あり得ると言う事。

 お父様とお母様の二匹掛でも押し切る事さえ出来ない相手が少なくとも追加で三匹。悪態が口を突いて出て来るのも仕方ないだろう。


 目の前で最初にお母様が死んだ。とんでもない速度で駆けまわっていたお母様だったが、攻撃しようとグリフォンの間合いに入った瞬間カウンターで前足の振り下ろしを受けて上半身がミンチになった。

 一匹になったお父様。圧倒的に不利な状況でも逃げずに戦い続けていたが、それで事態が好転する事は無かった。最後はボロボロになりながらも相手の首筋に噛みついたが、直ぐに振り払われてしまい前足で頭を押さえつけられた後、首筋を嘴で食い千切られて絶命した。

 

 両親が死に、その死体を前にしたグリフォンは雄叫びの如き咆哮をそれに放つ。それは仲間への号令だったのか。空中を旋回していた他のグリフォン達が一斉に辺りに降り立つ。四つの重低音と共に降り立つこれまた四つの影。合計で五匹のグリフォンが俺達の棲み処……俺達の棲み処だった場所に降り立った。

 我が物顔で闊歩するグリフォン達は両親たちの死体をついばみ、辺りに転がる肉塊を丸呑みにしていく。

 

 そしてついに俺の所までゆっくりと歩んでくる。当たり前だが未だに子供の狼である俺にグリフォン。一切警戒していない。

 そのお父様すら上回る巨体と尊大な姿を間近で見て俺の心はへし折れた。抵抗する気力どころか、もう目から溢れていた涙も枯れていた。

 

 目の前のグリフォンは生きているのに全く動く様子に首を傾げた……のだと思う。しかしそんな挙動も一瞬のこと。嘴が開かれ紫色の舌が俺の顔に迫って―――

 


グリフォンは頭と翼部分が茶色で、胴体部分がくすんだ白色です。個体によって四肢に茶色が含まれている事もあります。


今話は今年最後の投稿です。来年も皆様の人生・生活に少しでも彩を添えられる様に筆を走らせます。

皆様の新年にが鮮やかなものである事を心よりお祈りしております。では、良いお年を。


追伸、今年最後の投稿が鬱展開になってしまい申し訳ありませんでした。

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