黄の章 第7話 土塊
前話で致命的な誤字が御座いました。
そんな大分抜けている筆者ですがお陰様で「LEGEND COLLAR~色彩の英雄~」が一万PVを達成しました。筆者の綴る文章は依然として拙いですが、それでも皆様の生活に少しでも彩を添えられるようにこれからも筆を走らせて行きたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
黄の章 第7話 土塊
「魔法」、それは物理法則から外れた力。そんな理外の力を使い物質世界に何らかの変化を及ぼすモノだ。……と俺の愛読書に書いてあった。
まあ、俺がこの世界に来る前の人生二十年以上の期間で「魔法」なんて一度も目にした事は無い。
科学技術が発達する前。例えば江戸時代の日本や中世のヨーロッパ等なら存在する物と考えられていただろう。だが現代社会で成人した人間が「俺魔法使えるんですよね~」なんて言おうものなら妄想癖か精神病を疑われる。魔法なんて言葉は漫画やオカルト雑誌で描かれる程度の存在だ。
だが、今俺に居る場所は「異世界」。つまりは世界を形作る法則そのものが異なる世界に居るのだ。
そしてこの世界には「魔法」が実在する。……最高だろ?
誰もが一度は想像したことが有るだろう。もしも自分の身一つで大空を自由に飛翔出来たら? 渋滞など気にせず目的地へ一瞬で到着できる力があったら? 道端の石ころを黄金に変えられたら? 炎や水を自在に操れたら? 天候を好きな物に変えられるなら? 過去に戻れたら? 未来へ行けるなら?
不可能とは理解しては居ても出来たらいいなと言う想像上の「もしも」も「魔法」が存在する世界なら可能……かも知れない。そして、そんな理想を現実へと変貌させる可能性。魔法を使える才能が自分の中に有ると知った俺の喜びは前世で体感した喜びの感情を全てかき集めても到底足りないだろう。
……喜びのあまり嬉ションをしてしまった事でその喜びが半減してしまったのは今生初めての黒歴史だ。
ま、まあ、俺の黒歴史に付いて今は置いておこう。
俺が今集中しなければいけないのは現状絵に描いた餅である「魔法」を自分の力として扱えるようにする事だ。
「……集中出来ていないな。やる気が無いなら今日は止めるか」
「あ、いや……。すみませんでした。ちゃんと気を引き締めるので、もう少しだけ……」
おっと、ヤバいヤバい。気が散っているのがばれた。この狼はやると言ったらやる。シャキッとしないと本気で魔法の練習を切り上げられてしまう!
現在時刻は分からないが既に陽は傾き後一時間もしない内に夜の帳が降りるだろう。夕日色に染まった森林は一日の疲れを癒してくれるような温い雰囲気を醸し出し、その美しさは眺める物に明日への活力を注いでくれる様である。……まあ俺以外の狼や森の動物にとってはただ単に時間の区切りを示す指標でしかないのだけれどな。
そんな夕暮れ時にわざわざ俺に付き合ってくれるのは群れに三匹居る雌の成体狼。その中で最も魔法に長けているクツさんである。
彼女は群れの中でも飛びぬけて真面目な性格であり加えて面倒見がとても良い。狼らしく群れのボスに忠実で、俺が魔法を使える(と言うかステータスに魔法が存在する)と知るとクツに俺の指導を命じた。ボスの命令を即座に了承した彼女は実に二か月間、一切不平不満を口にする事無く、就寝前に必ずこうして魔法の指導を行ってくれている。
「私に謝る必要はない。お前の指導は私に下された命令。お前にやる気が無いならその気になるまで時間を空ける。やる気があるなら指導を続ける。ただそれだけだ」
「あ、はい」
こんな具合に頭が固すぎて全く面白味の無いので話すだけで若干疲れるが、話の内容だけ見ればまだ子供である俺に随分と配慮してくれている事が窺える。師事してくれる相手としてはなかなかに理想的な相手なのだ。
「……よし、では今一度見本を見せる。私に続けて魔法を扱え」
「サー、イエッサー!」
「……? ではいくぞ『土塊』」
クツさんはただ言葉を発しただけの様に見える。だが彼女の目の前では落ち葉を掻き分けまるで意思を持っているかの様に土が飛び出してくる。そしてみるみるうちにその高さを伸ばしついにはやけにほっそりとした院尿のある一m程の土の山が形成された。土の山の周囲は土がかき集められた反動で僅かに周りより窪んでいるので見た目より土の山は大きく見えるな。
まるでCGで合成された映像だが、それは間違いなく俺の目の前で実際に起こっている現実だ。目の前で起こった奇跡の様な出来事。何度目にしても腹の底が震える程興奮するそれを何とか押しとどめて自分のやるべきことに意識を集中させる。
この世界で「魔法」とは体内の魔力と呼ばれるエネルギーを使って様々な現象を発現させるモノだそうだ。スキルと違いスタミナを使わないが魔力もスタミナと同じく有限であり無限に行使できる物では無い。
ただ魔力はスタミナと違い時間が経過すれば自然と回復するらしい。
スキルと言うのは習得さえすれば使おうとするだけで発動する。しかし魔法は自身の思う通りの現象を起こすのに膨大な集中力と想像力を使う必要が有る。
例えばクツさんが見せた『土塊』は地面にある土をかき集め、積み上げ、形を形成する過程を明確にイメージしなければならない。クツさん曰く「魔法は一度発動させる事が最大の山場であり、何度も何度も反復して使っていくことでスキルよりも扱いやすく強力な武器になる可能性が秘められた力」との事。
俺のステータスで『土魔法』の説明がこれだ。
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土魔法
土系統の魔法が使用できる。
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はい、説明不足~。そんな説明でユーザーが納得すると思ってんのか。舐めんな。
せめて出来る事と出来ない事位示せ! この世界を作ったのはあの少女女神二人より位の高い神らしいが、説明書き手抜くとかふざけてるよな。ゲームっぽい世界観とシステムには感心したが細部で手を抜く事行為は感心できない。「優れたゲームとは細部まで作りこまれたやり込み要素満点の物を指すのだ!」(by俺)。
おっと、違う違う。今は魔法とはどのような物かって話だった。
スキルはスキルで練度を上げる事で新たなスキルに変化する事もあるらしいが、魔法は練度を上げる事により幾らでも応用が利くようになるらしい。例えばクツさんは『土塊』意外にも地面に自身の身体がすっぽりと入る穴を作り出し、そこに潜んで獲物に奇襲する狩りをしているらしい。この穴を掘る魔法はクツさんが自分で思いついた魔法の使い方だそうだが、『土塊』で土を操るイメージがしっかり出来る様になっていたので穴を掘る魔法は練習などしなくても一発で成功したそうだ。
つまり大変なのは最初だけなのだそうだが、その最初が問題なのだ。
うーん、難しい。
俺は自分の身体の中に有る魔力へと意識を集中させる。……ああ、やっぱり慣れないな。体内の魔力を感じる事が出来る様になったのが約一か月前。生後二か月の頃だった。あの頃は漸く魔法が使えると思い浮かれていたが、それからはや一カ月。まだ一度もクツさんの様に土の山を作ることが出来ない。……おっと、余計な事は考えるな。集中しろ集中。
体内の魔力は何と言うか普段意識しなければ全く感じないが、いざ意識しようとすると体内に明確に感知する事が出来る。ちょっと違うかも知れないが、例えるなら胃袋の中に冷たい水が大量に詰まっている様な感じか? 実際は胃袋より上、心臓辺りに感じる事が出来るのだがそんな細かい事はいいとして。
俺は瞼を閉じて。体内の魔力から魔法を発動するのに必要な分を掬い取る様子をイメージする。…………よし、するすると毛糸玉の糸を解く様に体の中の異物が小さくなり、体外に出て行く感覚が分かる。ここまでは結構慣れて来た。いいぞ俺。成長してる俺天才。マジえらい。
次に体の外に出て行く魔力を土にゆっくりと染み渡らせる。ここをちゃんとイメージしないと地面の表面部分の土しか利用できなかったり、そもそも何も動かせず魔力が空中に消えて無駄になってしまう。
……土の一粒一粒、その間に水が染みこむ様に……丁寧に……ゆっくり……。
……うん、ちょっと浅い感じがするが、今はこのぐらいでいい。
「……ぐっ」
おっと、危ない。集中し過ぎて息を止めている事に気が付かなかった。深呼吸しろ、……。よし、まだ地面に染みこんだ魔力は感じる。次は染みこんだ魔力ごと、土を集めて山を作る。
閉じていた目をゆっくりと開けて、自分の魔力が感じる地面を見る。落ち葉の間から覗く地面に変化はないが、焦る必要はない。落ち着け。
「どうやら上手くいっている様だな。その調子で……そうだな。自分の魔力が入り込んだ土は別物とイメージしろ。泥の様に柔らかく形が変わりやすいイメージだ」
……泥の様に。このアドバイスは昨日もその前も聞いた。でも失敗しているのだよなぁ。
形を変えるなら粘度とかの方がイメージしやすい気がするが……。うん、今日は粘土を捏ねるイメージで試してみよう。
頭の中で粘土を少しずつ、ゆっくりと、優しく捏ねる。すると地面がそれに呼応した様に蠢いた!
「……ん、いいぞ。気を抜かず、完成までイメージしろ。『土塊』と言葉に出せ。言葉にすればイメージが固まりやすい」
言葉。言葉に出して、イメージ。完成図をイメージ。
「……『土塊』、……『土塊』」
目の前で見えない手で捏ねられている様に地面がぐにぐにと変形し、やがて不格好ながらも俺の顎下まで届く土塊が出来上がった。
「……成功した?」
「ああ。まだまだだが一応発動はしたな。思ったより早かったな。後は頭の中のイメージとピッタリ同じ様に作る事が出来れば問題ないだろう」
思わず口をついて出た言葉。
それを肯定するクツさんの顔を見れば、彼女はどこか優しい目をしていた。
「まだ魔力が余っている様なら何度か練習して見ろ。多少小さくとも私が作って見せた様に素早く『土塊』が発動できれば私もボスに報告できる。……とは言えもう日も落ちる。そろそろ私は寝るぞ」
そう言ってもう既に横になって寝息を立てているお父様達の元へきびきびした足取りで歩み寄っていくクツさん。だがその途中、ふと彼女は立ち止まると「よくやった」と呟いた。こちらを見る事も無く呟かれたそれは狼の優れた聴力が無ければ聞き逃していただろう。だが、その言葉は確かに届いた。
僅かに尻尾を左右に揺らしながら遠ざかる彼女の背中を見送ると、俺は再び自分が作り出した……魔法で作り出した不格好な土塊に視線を落とす。
魔法、そう俺は魔法を使った。魔法を使えた! 物語の中で、ゲームの中で、テレビの向こうで、手を伸ばしても届かない場所に存在した、憧れに憧れた力が本当に俺の内に、今、存在している! ああ!
漸く来た実感と共に遅れて胸の中で濁流の様に暴れまわるのは、確かな喜びの感情。そして久しく感じていなかった達成感だった。
それらの感情は全身を震わせ、胸中からあふれ出し喉から歓喜の絶叫として噴き出した・
「やったぜぇぇぇぇ! ふぅうううううううううううしゃぁああああああああああああ!!」
俺の遠吠えばりの絶叫で跳び起きたお父様達に異口同音に「うるさい!!」と怒られたが、今の俺はそんなものでは止まらない。
成功を何度も確認するように魔法を使い続けた。ある種トランス状態になった俺は自分の中に有る魔力が空になり周囲が真っ暗になるまで小さな土塊を作り続けた。
クツさんの言う通り一度成功してからはどんどんと思い通りの速さで、精度で土塊を作り出せるようになった。
目に見えて成長していく感覚に得も言われぬ快感を感じ、魔力が空であるのに興奮して自分で作った土塊を壊してみたり無駄に走り回ったりととにかく騒いだ。
そしていつの間にか俺の背後に現れたお父様によって無言で頭部は地面に叩き付けられ、そこで俺の意識は暗転した。
翌朝俺を待っていたのは不機嫌な様子を隠そうともしない成体狼四匹による数時間に及ぶお説教と、兄弟達による可哀想なモノを見る様な冷めた視線だった。
次からは他の狼の迷惑にならない様にしよう……。そう心に誓いました。はい。
備考:風太郎は天月と異なり大分感情にふり幅があります。稀に読者様の共感性羞恥を刺激する場合がありますので、黄色の章を読む際は動物園の猿でも眺める感覚で読まれますと快適に物語を読み進められると思います。




