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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第75話 天月

青の章 第75話 天月


「オオオオオオオオ!!」


 ソレ自体が物理的に質量を備えていると思いそうになる程、気迫かんじょうの込められた大鬼の咆哮。その咆哮を向けられた俺はつい数分前と同じ様に迫り来る大鬼の手足を躱しながら自身も手足、それに尻尾を振るいつつ応戦していた。

先程から変わった事と言えば―――


「おいおいオーガさんよ! そんなに小さなモブも倒せないとかその筋肉は飾りですか~? それとも舐めプですか? あ、もしかしてそれが本気? ああ、いやいやごめんなさいね~! 俺、オーガってもっと力強くてカッコいい物だと思っていたからさ~! そこまで弱いと最早ゴブリンと変わらないって言うか? まあ身体はデカいみたいだし見てくれは悪くないから弱くても気に病むことは無いぜ? あ、もしかして俺の言葉とか理解できない感じか? 飾りなのは筋肉じゃなくて頭だったりしてな! あれ? あれれ? 怒った? 怒っちゃった? もしかしてガラスのハートですか? あらま~力も無くて? 頭も悪くて? 心まで弱いの? 可愛そうでちゅね~? これなら赤ちゃんと変わらないでちゅね~? ばぶばぶでちゅね~? こんな大きな赤ちゃん初めて見たわ~!」


 交戦中の俺達の周りを遠巻きに走り回りながらこれでもかと言う程大鬼を煽り散らすフウタの姿があると言う事か。

 走りながらアレだけ舌を回して良く噛まないものだ等と感心しつつ大鬼の踏みつけを潜り抜け、ついでに膝裏に肘鉄をお見舞いした。全体重を乗せ、不意を突いたはずの肘鉄は微塵も大鬼の巨体を揺るがす事は出来なかった。とは言え予想の範疇である結果に驚きはない。ここまで体格が違う相手となると体勢一つ崩すのも容易ではないのだ。


 風太郎フウタが大鬼の気を散らしてくれているお陰でこうして大鬼攻略の為の手法を試していく余裕が生まれた。

俺も大鬼に対して何度か呼びかけをしてみたが俺の言葉を理解した様子は見られなかった。しかしどういう訳か風太郎の煽りに対しては明確な苛立ちや憎悪を向けている。その証拠に大鬼は俺が距離を取ろうとすると俺を無視して風太郎へ襲い掛かろうとする。やはり風太郎が最初に叫びながら挑発した時の大鬼の怒りは自分への侮りを理解しての事だった様だ。

 ……流石はわが友風太郎。人を怒らせることに関しては右に出る者はいないな。

 しかも嬉しい誤算だったのは風太郎の能力が俺より高かったと言う事だ。攻撃・防御に関しては分からないが移動速度と小回りの良さは俺を数段上回る程だ。冷静に考えれば四足獣、それも狼の様な生き物の足が遅い訳が無いのだ。現に風太郎はどれほどの距離かは不明だが俺と出会うまで大鬼に捕まらず逃げ切っていた。

 遠巻きに挑発行為を繰り返している程度なら風太郎もそれほど危険な目には合わないだろう。


 風太郎と打ち合わせる時間は長くは無かった。俺の知る限り風太郎は戦いに関しては本当に素人だ。難しい指示を出した所で成功するとは思えない。だから俺は風太郎に二つの指示を出した。その内の一つが「安全な場所から出来るだけ大鬼の意識を散らしてくれ」と言う物だった。自信満々に「任せてくれ!」と言った風太郎の言葉に嘘はなく、十分に役割を全うしていた。


 ……むぅ、やはりと言うか何と言うか。大鬼には通常の攻撃では殆ど効果は無い。スキルを使えば多少傷は付くだろうが焼け石に水だ。となると―――希望があるとするなら首から上だろうな。首を絞めるか口や鼻を塞いで窒息させる、若しくは眼球を潰して視界を封じる。有効ではあるな。

 しかし問題はどうやって首から上に行くかだ。相手は三m超えの巨体。対する俺は一m弱。ただの跳躍ではとても足りない。……ここは森だ、木に登って大鬼の頭部に飛び乗るのはどうだ? ……いやいや、大鬼は巨木ですら折る剛力がある。最悪登ろうとしたところを木と一緒に倒される可能性がある。


 となると、はぁ。大鬼の身体を直接よじ登るしかないか。

 我ながら頭のおかしい作戦だと思う。しかし、成功すれば効果は絶大だ。それにこれ以上考え事をするだけの時間的余裕は無い。既に脚は疲労で鉛そのものの様だし腰から下の全ての関節が痛むほど酷使されている。左腕の痺れと痛みは一向に取れないし、右腕の爪は何カ所か欠け初めている。呼吸も何とか整えてはいるが酸素を求める肺は呼吸を乱そうとしもっと酸素を寄越せと脇腹に激痛と言う名の催促通知をを送りつけて来る。

 まさに満身創痍。

 だがここが勝負どころでもある。

 

 「フウタ! 頼む!」

 「! 応よ!」

 

 風太郎に二つ目の指示、その開始を合図する。先程までよくもまあそれほど思いつく物だと思っていた悪口は途絶え、慌ただしく動き回っていた足音も消えた。

 大鬼もその事に気が付いた様子で辺りを見渡そうとしたが俺がそれを許さない。最後の意地とばかりに身体を酷使して猛攻を繰り広げる。驚きの声を上げながらも負けじと応戦する。

 

 そしてどれだけの時間が経ったのか。チャンスの時は訪れた。

 

 「百ぅ! おらぁ! こっちだウドの大木野郎! アオォォォォォン!!」

 

 俺が風太郎に頼んだ二つ目の指示。それは「俺が合図をした後、気配を消して木の影に隠れろ」そして「黙って心の中で百数えたら、先程の様に石像を、出来れば大鬼の背後に作ってくれ。そしてその後再び大鬼の注意を引いてくれ」だった。

 風太郎は「先程力を殆ど使ってしまった。作れて二体か三体だ」と言ったが俺は「相手の注意が一瞬でも逸れればそれでいい」と風太郎の心配を押し切った。

 そして今、恐らく完全に意識の外から聞こえただろう大声に気が付いた大鬼は忌々し気に風太郎の方を向くと今日何度目かの咆哮を上げる。何度も何度も間近で大音量の咆哮のせいで耳がおかしくなりそうだ。

 だが俺には自分の聴覚を心配する暇はない。

 

 ―――大鬼が風太郎と石像の存在を認識する。大鬼の心中は俺には計り知れないが恐らくは迷いの感情が少なくとも一瞬渦巻いたのだろう。俺の姿を捉えて離さなかった大鬼の瞳が風太郎の方へ一瞬逸れた。意識の外にあった風太郎の存在を認識し、どうすればいいのか迷った。のだと思う。

 確かな事、それは―――大鬼は戦いの最中に隙を見せ、俺はそれを見逃さなかったと言う事。

 

 腕と足に蔓延る痛みをねじ伏せ、大鬼の膝や腰に爪を引っ掛けながら巨体をよじ登る。そして胴体―――胸部に手の爪を、腹部に脚の爪を突き立てる。渾身の力を持って突き立てた爪は半分も刺さらなかったが、大鬼が身動ぎした程度では抜けはしないだろう。

 

 驚いた様子の大鬼が首を曲げ自分の胴体に張り付く俺を見た。そう、大鬼は自分の顔を俺に向けたのだ。今やあれほど高みに存在した大鬼の頭もお互いの鼻がぶつかりそうな程近くにある。

この状況こそ俺の待ち望んでいた瞬間だった。

 

 大鬼が張り付いた俺を引き剥がそうと動き始めるがもう遅い。血と脂で滑りそうになる爪を、四肢に力を入れる事で更に食い込ませる。もはや乾いた雑巾の様に何も絞り出せそうにない全身の力を振り絞り、己の尻尾を突き出した・・・・・。これが失敗すれば次の策は無い。

 俺の心中に僅かな緊張が走るが、そんな心とは裏腹に突き出された尻尾はスキルを使っていないと言うのにこれまでで一番の速度が出ているように感じた。

 そして狙いも違わず大鬼の右の眼球を貫いた。

 

 しかし、順調な快進撃もそこまでだった。

 意外、と言う他無いだろう。いや、この場合俺は未だに前の世界での常識に捕われていたのだ。

 

 大鬼の眼球は、想像よりもはるかに頑強だったのだ。尻尾の先端が突き刺さったと予感した瞬間に伝わって来たのは金属が擦れ合う様な嫌な音と、まるで大地に半ば埋まっている巨岩にでも衝突したような痛みすら伴う衝撃だった。

 

 俺の目の前では恐らく眼球の半分まで突き刺さった尻尾と、痛みに顔を顰める大鬼の顔。

……むぅ。大鬼の片目を封じたと言う結果は確かに大きい物だったが、俺の狙いは眼球を貫いた後に控えている脳の破壊だった。だがまさか眼球がこれ程硬い生物が居るとは。形だけは人型なので急所も人間と同じと考えたのがそもそもの間違いだったか。

 

 上半身に圧迫感を感じ視線を落とすと緑色の手が俺の身体を握りしめていた。抵抗虚しく大鬼から引き剥がされた。そして次の瞬間本日二度目の圧迫感と視界の高速な回転を感じる。しかも水平では無く真下に投げられたようで直ぐに地面が俺の勢いを止めてくれた。

 

 うつぶせに倒れている身体はもはやどこが痛いのかも分からない。咄嗟に頭部を庇ったつもりだがそれが成功したのかも分からない。しかし動いても居ないのに揺れ動く視界から察するに脳みそは揺れ動いているのだろう。

 視界の端にある腕に付いた爪は全て剥がれ落ちていた。中々に痛々しい傷だが今はどれだけ悲惨な傷を負っていても気にはならない。

 

 どちらにせよ、まだ意識があるなら、……戦える。

 

 気が付けば立ち上がっていた。どうやって立ち上がったのかは覚えていない。

 自分の意思とは関係なく閉じゆく瞼を気合いで開くと、何故か背を向けて走っている大鬼の姿が映る。意味が分からずその光景を暫く見ていると目の前に狼……ああ、風太郎か。風太郎がやって来て何やら飛び跳ね、口を激しく開閉している。その様子を呆然と見ながら、周囲の音が消えている事に気が付いた。「耳が聞こえない様だ」と呟いたつもりだが、それがちゃんとした言葉として発せられたかも不明だ。

 風太郎の視線が俺の尻尾に何度も向いている事に気が付き、くらくらと揺れる頭を傾けると尻尾の先端に眼球が突き刺さっていた。ああ、大鬼が勢いのままに俺の身体を引き剥がしたあの時に、一緒に引っこ抜けたのか。

 

 背中に軽い衝撃。


 何事かと思ったが、……なんだ。ただ単に俺が倒れただけだった。

 木々の間から指す木漏れ日が嫌に綺麗だと感じ、強烈な眠気に抗う事が出来ず目を瞑る。瞼の裏には太陽の光が焼き付き暗い世界にポツンと天に上った月の様な光景が映し出される。

 俺の意識は直ぐに暗転した。


青の章 蒼鱗の蜥蜴人編 完!

次回より黄の章が始まります!

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