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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第74話 自殺志願の真骨頂

大変申し訳ありません。

予約投稿の設定を間違えておりました。

青の章 第74話 自殺志願の真骨頂


自分の体内で骨が軋む音の後、自身の身体が高速で錐揉みしながら吹き飛ばされる。内臓の位置が入れ替わる様な気持ちの悪い感覚が身体を襲い、視界の景色が高速で入れ替わり上下左右の感覚が不明になる。

このままの何の対処をしなければ俺は木に身体を打ち付けるか、運が良くても地面と衝突して―――当たり所が悪ければ死ぬ。いや、この勢いではどれだけ運が良くてもこの後戦闘の継続は絶望的だ。まあ、幸い今の俺は随分と精神的な調子はいい。パニックを起こすどころか、心が氷塊になったかの様に冷たく動じなくなっている。


持ち前の動体視力で一瞬視界の端に移った木、そのままでは俺の身体はその木を通り過ぎるだろうそれに腕を伸ばし爪を突き立てる。

まるでまな板の上で包丁を扱った様な爽快な音。爪から指へ、指から肩へ、肩から全身へ衝撃が走ると同時に体の自由を支配していた勢いが消え去る。木の幹に食い込んだ爪が傷を残し通過する頃には身体の無茶苦茶な回転も止まり、足から地面に着地する。


むぅ、左腕は今の衝撃で痺れている。暫く使い物にならないが死ぬよりはマシだ。

度重なる回転で目が回り視界が歪む中でいつの間にか大鬼が両の拳を振り上げる姿が映る。咄嗟に横転し回避を試みる。ほんの数センチ横から来た衝撃に数mも吹き飛ばされた。先程俺を吹き飛ばしたあの攻撃が振り下ろしでは無く横なぎだったのは幸運だった。あんな爆撃の様な力で地面とサンドイッチされたら薄切りハムよりぺちゃんこになってしまう。


吹き飛ばされた身体の勢いを地面に脚の爪を突き刺す事で殺し、勢いのまま二足に立ち上がる。

忌々しそうに俺を睨みつける大鬼に向かって背筋をピンと伸ばす。そしてそのまま腕を突き出し手首だけを自分の方へ数回曲げる動作をした。単純な挑発行為だが、文化どころか世界・・も違う生き物相手。意味が通じるかは賭けだったが、どうやら思惑通りに大鬼は激高した。

先程まで苛立ちで彩られた大鬼の双眸は過剰なまでの赫怒に塗りつぶされ、大気を振るわせる咆哮は今までで最も感情を含んだものだった。大鬼の怒りを想定していた俺でさえ腹の底が震える程の迫力だ。


「正に鬼と言った所か。中々の迫力だ」


迫り来る大鬼の攻撃は苛烈であり、一撃一撃が致死の威力を込められている。それらを必死でしかし最低限の動きで躱しながらも、大鬼の身体に張り付く様な近距離で爪や尻尾を振るう。そして出来た小さな傷に怒った大鬼の攻撃が更に激しさを増す循環が出来上がっていた。

俺も馬鹿だが理由も無く相手を挑発する程愚かでは無い。


単純な話、俺も限界が近かった。

 元々は怪我が治ったばかりの病み上がりで体力は万全では無かった。そこへ息つく暇も無い攻防と怪我。既に俺の呼吸は乱れ、疲労感は鉛の様に身体に纏わりつく。肩の傷は既に止血してはいるが腕の痺れと痛みは一向に引かない。それは俺が回復に回せるエネルギーすら付きかけていると言う事実を物語っている。

 この分では使おうと思ってもスキルは使えないだろう。

 

 だからこその挑発行為だった。大鬼を怒らせることでスフレや風太郎に意識を向けない様、確実に意識を俺だけに向かせる。そして大鬼が自ら俺に向かって来るように仕向ければ、俺は大鬼に近づかずとも大鬼の方から俺に襲い掛かってくれる・・・・・・・・・のだから。それだけで俺は大鬼を追いかける・・・・・為のエネルギーを節約できるのだ。どうせ俺には遠距離攻撃なんて出来ないのだから近接戦に持ち込めばいい。

 そして思惑通りに事が運んだ今、残る要素は大鬼に勝てるかどうかと言う事なのだが……。

 

 「残念、ながら、無、理、そうなのだよ、なぁ!」

 

 人型ながら獣の様な動きの大鬼は、俺にとって相性がいいとは言えない。動体視力も反射神経も、その場しのぎに使えるだけで動きの先読みが出来ない。相手が動いてから回避するしかないならとてつもない不利が少しマシになるだけなのだから。

 更には俺の爪や尻尾では何度打っても大鬼に致命傷を与える事は出来ない。

 

 最も厄介なのは大鬼の傷が回復していると言う事。最初に腕に付けた傷は後も残さず治り、それ以降に付けた傷も時間と共に癒えている様に見られる。回復がスキルによるものか大鬼が生来保有している能力なのかは知らないが、これではいつまで経っても俺の攻撃は大鬼の命まで届かない。その上、後一発でも攻撃を受ければ俺は回復すら出来ずに殺されるだろう。

 

 

 

 こうまで接近した一対一の接近戦では俺以外に大鬼の意識を向ける事も難しく、辺りの物を使って小細工しようにもそんな余裕は無い。これでは十八番の不意打ちが出来ない。

 

 「むぅ」

 

 詰み、か。まあいい。幸いにして俺は先程風太郎に出会った。この世界でもあいつフウタが今まで生き残れたのだ。他の者達も生きている可能性が高い。

 更にここで俺が時間を稼ぐ事が出来れば風太郎の逃げる時間も稼げるだろう。そしてあの洞のある木から少しでも距離が取れればスフレも狙われる可能性も減らせる。

 

 ……せっかく洞窟の生活から外へ出られたと言うのに、数日で終わりか。母に時折帰ると言う約束もこの分では無理だな。

 かっはっは、まあ自然は弱肉強食だ。俺が殺されようと、俺が弱いと言うだけなのだから。

 

 「お、おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!! こっちだ! このでくの坊が!」

 

 っ!?

 

 「フウタ!?」

 

 気迫などまるでない、怯えに染まった声色の絶叫は一瞬だけ俺と大鬼の意識を奪う。そして俺が驚きに声を上げた時には目の前の大鬼は風太郎の声のした方向に走り出していた。

 

 大鬼の走り出した先に目をやれば、風太郎は俺達が戦うすぐ傍まで近づいて居た。だが震えながらも大鬼に向かい合うフウタの周囲には数体の石像の様な物が置いてあった。

 

 一m弱の高さの石像は人型に尻尾を生やしたような形をしており、まるで今の俺の種族である蜥蜴人の様であった。だが大雑把な形が似ていると言うだけで、のっぺらぼうの石像は小学生の粘土細工の様にどこか不格好だ。

 何故森の中にそんな石像があるのか。そんな疑問も怒れる大鬼には関係なかった様でまるで躊躇いも無く石像に拳を振り下ろした。そして簡単に砕かれる石像。

 巻き上がる土煙の中狼の姿の風太郎はとてつもない速度で俺の方に走り寄ってくる。風太郎の後ろでは蜥蜴人型の石像を執拗なまでに砕いて回る大鬼の姿がある。

 

 「アマツ!」

 「おい、逃げろと言った―――」

 「うるせぇよ! 逃げようと思ったよ! 馬鹿野郎が! でもよ、でも、逃げたってどうせ後で後悔するんだよ! 友達だち見捨てて逃げたらすげぇ嫌な思いするんだよ! 俺のせいでお前が死んだりしたら嫌だろうが! 俺の気持ちも考えろよ! せっかく久々に知り合いに出会ったのに、嬉しかったのによ! あんな一方的な別れ方で納得何か出来ねえよ!」

 

 涙を流しながら喚き散らす風太郎の勢いに押されそうになる。だが、風太郎の勘違いを正さねばならない。

 

 「別に、お前のせいなどでは無い。俺が俺の意思で戦って死んだならそれは俺の責任だ」

 「違う!! 違うだろ! お前、お前は、俺が巻き込んだんだ! 俺が巻き込んだって思ってるんだよ!」

 「……むぅ、時間が無い。簡潔に言え。どうすればお前は納得する」

 「俺も戦う!」

 

 俺はギョッとして思わず風太郎の顔を、その目を覗き込む。黄色いその瞳は真っすぐに俺を見詰めており、これ以上問答をしても無意味だと彼の決意を物語る。が、その四肢は震えており何とも情けない。

 

 「かっはっは。震えながら言ってもカッコ付かないなぁ」

 「うるせぇよ! お前と一緒にするな! こちとらこの世界コッチでいろんな化け物見て心折れかかっているんだよぉ! 逃げ回って来たんだよぉ! 憧れの異世界生活が過酷過ぎて、涙が止まらねぇよ! 誰か俺にスローライフを分けてくれ!」

 「むぅ。それでも戦うのか?」

 「はん! 別に今は一人じゃねぇ! あのオーガ相手にお前が互角に戦ってる姿を見たからな! 俺が加われば勝ったも同然! 天月と風太郎の『天鎧てんがい』コンビ復活だ!」

 「いや、その様なコンビを組んだ覚えはない」

 

 何故か急に強気になった風太郎を訝しげに思いながらも、先程までの不利な状況が好転した様な気分にさせられた。

風太郎には昔からこう言った一見不可思議な言動で他人を元気付ける事に長けていたのだったな。


「むぅ、仕方ない。共に戦う事にはもう反対しない。……で、何か作はあるのか?」

「フハハハ、ゲームの中じゃ俺は無敵だが現実(リアル)じゃ喧嘩の一つもしたこと無いからな! 作戦はアマツに任せた! 俺は指示通り動くからよ!」

「自信満々に人任せかよ。仕方ない、今のお前に何が出来るか教えろ。なぁに、少しばかり鬼に隙を作ってくれれば俺が何とかするさ」


お互いに歯を見せて笑うと、全ての石像を原型が失くなるまで砕いた大鬼に身体を向ける。さぁて、本当に勝てるかね。


 

 


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