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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第73話 大鬼

青の章 第73話 大鬼 


「うぅううううあぁあああああ!? 無理無理無理!」

「フウタ、落ち着け、俺だ。天月だ」


パニックを起こして明後日の方向へ走り去ろうと身を翻した風太郎フウタと思われる狼の首根っこを掴むと、胸の高さまで持ち上げる。むぅ、見た目通り大分軽いな。

聞き取りやすい様にと一言一言区切って発音するが、しかし狼はジタバタと暴れるばかりで一向に落ち着く気配が無い。


「ぎゃあ!? つ、掴った!? 掴った! オワタ!? 俺の理想の異世界生活がオワコンになった! いやいや、まだワンチャンある筈! ネバーギブアップ俺!」


……一瞬人違いの可能性も考えたが、間違いないだろう。この特徴的な言葉選び、パニックになると考えている事がダダ漏れになる所も俺の記憶にある鎧塚風太郎と一致する。流石にこんな変人はそうそう居ない筈だ。


「話を聞け、天月だと言っているだろうに」

「アマツキ!? AMATUKI!? ……はぁ!? 天月ってアマツか!?」


ギョッとした様子で俺の方を振り向く狼。俺をあだ名で呼ぶと言う事は間違いなく風太郎だな。風太郎は俺の身体を上から下まで見回して「はぁえ~」と気の抜けた声を出した。落ち着いた様なので俺も風太郎を下ろしてやる。あまりにも気の抜けた風太郎の姿に久しぶりの再会を喜ぶ気持ちが殆ど沸いてこない。


「久しぶりだなフウタ」

「……あ、おう。久しぶり雰囲気変わったね、髪切った―――じゃねぇ!? 逃げろ! 此処から直ぐに逃げるんだよ! やべぇ化け物が追いかけて来るんだ」


風太郎の言葉が引き金になったかの様に、森の中から濃い緑色の腕がとてつもない速さで伸びて来る。話をしつつ、しっかりとこちらに近づく重音に聞き耳を立てていた俺は風太郎に伸びた腕より先に、尻尾を使って彼の身体をすくい上げるように後方に投げ飛ばす。同時に俺も四足の態勢で後方へ跳躍した。


丸太の様な腕から生えた指はその勢いのまま地面を抉る。腕に続き薄暗い木々の間から覗いた全身。成程、風太郎が化け物と呼ぶのも頷ける。

鬼だ、大きな鬼。良く日本神話等に登場する鬼。この森でよく見かける小鬼が餓鬼だとするなら目の前の大鬼は地獄の獄卒の様な力強さと畏怖を感じる。


全身を覆う筋肉は分厚くまるで鎧の様な強靭さを感じさせる。濃い緑色の表皮だが掌や足の裏周辺は薄い黄緑色になっている所が妙にリアリティーがあるな。

身長は恐らく三mを超えるだろう。森の木々の方が余程背が高いが威圧感は比べものにならない。身長に比べて異様に長い腕は恐らく二mを超え、何も持っていなくとも腕そのものが十分引きになる事だろう。身体に比べやや小ぶりな頭から髪は無いが代わりに二本の小さな角が生え、口元からは二対の長い牙が覗いている。更にはその瞳は血走り視線だけで人が殺せそうなほど怒りや憎悪を感じさせる。むぅ、顔立ちだけで既に友好的な雰囲気では無いな。本当に地獄に鬼が居るならこの様な顔立ちなのだろうか?


「オォオオオオオオオオオオ!!!」

「下がれフウタ!」


風太郎へ発した警告は雄叫びを上げる大鬼の声量にかき消されて伝わらなかったかもしれない。だが俺を睨みつけ文字通り鬼の形相な大鬼の双眸が俺を捉えて離さない様子を見て、既に俺は余裕を失いつつあった。

風太郎が何か叫んだ気がするが、再び雄叫びを上げ俺に向かって迫りくる大鬼に意識を向けている俺には意味は伝わらない。


拳を握りしめた大鬼は、その巨体からは想像できない程の俊敏さで距離を詰める。振り上げられた巨碗は明確な殺意と共に俺の身体を潰さんと唸りを上げて迫りくる。

少し前までの俺であれば大きく距離を取り、走り回って大鬼を攪乱しただろう。しかし、今の俺に持久戦をする程の余裕は存在しない。走って逃げる余裕も無く、空腹で身体が動かなくなる前に、更に大きな怪我を負うことなく勝たねばならない。


俺は振り下ろされる拳を注視し、二歩だけ横に動き更に滑らかな動きで腕を振るう。

鼻先をかすめる様に目の前を通過した大鬼の拳は大地に直撃すると地面を揺るがす程の衝撃と土煙を撒き散らす。地面から僅かに見えていた巨木の根を砕き、拳の形に地面を凹ませてなお傷一つ付かなかった大鬼の巨碗は、しかし手首に四つの切り傷を付けていた。それは拳を避ける際に俺が自身の爪で付けたものだが、大鬼の勢いも利用して付けた切り傷は思いの外浅い物で出血すらしていない。本当にただ皮膚を切り裂いたと言うだけだ。


直後、大鬼は腕の傷なんて知った事かとばかりに地面から跳ね上がった腕が迫る。後ろに下がりながら身体を前に倒し、二足から四足の体勢で回避を試みる。しかし完全に回避する事は叶わず拳が通り過ぎた後、自身の背中の一部が焼ける様に熱く感じ、生暖かい何かが滴るのを知覚する。

どうやら大鬼の攻撃がかすった様だと言う事を悟る。だが動く事に支障が出る程の負傷では無い。

大鬼の追撃の手は緩むことは無く四つん這いの俺を踏みつぶそうと大きな足を持ちあげる。そしてそれを俺の上に下ろす僅かな時間、四足の体勢のまま大鬼の股下を走り抜ける。

更に股下をくぐる際に勢いの付いた尻尾で大鬼の股間を打つ。案の定と言うか、一拍を置いて背後で先程の咆哮とは比べものにならない情けない叫び声が響く。むぅ、男なら誰しも共感できる激痛なだけに僅かな憐れみを感じたが、雑念と割り切ってチャンスを生かす。

 

股間を両手で押さえて跪いている大鬼の背後に爪、蹴り、尻尾を叩き込めるだけ叩き込む。しかし、手応えはまるでない。爪は皮を裂けど肉は殆ど断ち切れず、蹴りはまるで岩を相手にしている様で逆にこちらが足を痛めそうだ。辛うじて尻尾の攻撃が一番効いている様で、蚯蚓ミミズ腫れを幾つか作ることには成功した。しかしこれではいつまで経っても決着がつかないな。

跪いていた大鬼が俺を捕まえようと振り向いて腕を伸ばすが、既に俺は退いた後。大鬼は伸ばした腕が空を切ると両の拳を何度も何度も地面に叩き付け、苛立たし気な鳴き声を上げる。相当ストレスを受けている様だな。

どうやら大鬼も小鬼と変わらない、二足歩行が出来るだけの獣と変わらぬ知能しか持たないと言う事か。


だが大鬼の厄介な所は単純に強いと言う所だ。地面を穿つ『力強さ』、鎧の様な筋肉による『硬さ』、俺と同等の『素早さ』。力があり硬く素早い。この三つの要素は単純シンプルだがだからこそ厄介だ。小手先だけの特技や武器、技術に頼らない分それらを上回るしか対処のしようがない。


辛うじて今までの戦闘では、表面上は・・・・俺の方が素早さだけは上回っている。しかしそれは俺の方が大鬼よりも圧倒的に体躯が小さく小回りが利く、そして相手の動きを冷静に先読みしているだけに過ぎない。もし仮に俺が背中を向けて大鬼から逃走を図っても直ぐに追いつかれるだろう。まずもって歩幅が違うのだ。人間がどんなに頑張った所で熊に足で叶わないのと同じ理屈だ。


俺の目の前では大鬼が怒りに任せその剛力を暴風の様に振るって辺りを破壊していた。


大鬼にとってそれは策でもなんでもなく、軽度とは言え度重なる痛み、自分の思い通りに行かない苛立ちからの衝動的行動だったのかもしれない。しかし、それは有効的な行動だった。

舞い上がる土埃の中、大鬼は抑えきれない怒りを吐き出す様に自身が砕いた地面・・を掴むと粉砕された土くれを俺に向かって投擲する。当然の様に空中で拡散したそれらは俺の視界を一時的に封じる。原始的な目潰し攻撃だが、相手の動きを呼んでこれまで回避をしていた優位が一瞬で奪われる。


そして重音と共に再び大鬼による突進の気配を感じ、俺はその場から飛び去る。しかし、土煙の中から飛び出した横なぎの掌は、飛び退いた俺に合わせたかの様に正確な狙いで俺の胴体に食い込んだ。

まるで亜竜の母の一撃の如く重く鋭い一撃は、一瞬にして俺の身体を地面と水平に・・・吹き飛ばした。


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