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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第72話 不穏

青の章 第72話 不穏


「むぅ、やっと治ったか……」

 

 久方ぶりに両足で大地を踏みしめた俺は、ようやく生えて来た脚の感覚を確かめていた。

 脚が生えるまでに掛かった時間、なんと丸五日間。これほどまでに回復に時間が掛かるとは少し予想外だった。

 考えてみれば前回腕を失った時には母に十分な食料エネルギーを貰っていた。対して今回はろくに狩りも出来ず、五日間で俺達の狩りの成果はゴブリン三匹と戦馬一匹のみ。

 

 一見十分な量に思える。しかし通常なら兎も角、大量のエネルギーを回復の為に使っている俺には心許ない量だ。スフレは一度腹が膨れてしまえば暫く絶食しても大丈夫な性質を持っている様だが、それでも五分の一程度はスフレの腹の中に収まった。

スフレの好みは骨や内臓などの噛み応えがあり食感が独特な物を好む。初めて食べた木の実で味を占めたのか、スフレはここ数日木の実や野草、木の枝や皮などを積極的に採取して試食している様子だ。雑食だな。お陰でカロリーの高い肉や脂を俺が食べる事が出来た。ある意味食事面での住み分けが出来たと言う事だな。

お陰で餓える様な事はギリギリ無かった。酷い空腹感には悩まされるが、一日二日歩く程度ならなんとかなる。


 スフレは自らが集めた食糧を俺にも分けてくれるのだが、流石に木の枝などは積極的に口にしたいとは思えない。スフレの手前食べてみたが、木の実以外は食えたものではなかったな。野草も旨味も何もない雑草の様な感じだった。灰汁抜きでもすれば違うのだろうが、そのままで食べられる野草はこの辺りには見つからなかった。

 まあ、その辺りは生活環境がある程度整ってから試せばいい。いざとなれば俺も木の根を齧り、泥を啜る位の覚悟は何時でも出来ている。

 

 「……むぅ。しかし腹が減ったなぁ」

 

 俺の今の種族である鱗族特有の尻尾に栄養を蓄え太くなる性質があり、逆を言えば栄養を使いきれば尻尾は細く頼りない物になる。今の俺の尻尾は骨と皮とまではいかないがかなり細くなってしまっている。少し前までの頼りになる姿の面影は全く無い。

 尻尾を武器としている身としては戦力半減だ。スキルを使い触手を出して戦うにも多くのエネルギーを必要とするため、今不用意に強敵に挑む訳には行かない。しかし、ゴブリンなどに殆ど肉が無いような物を幾ら食べても労力を考えるとあまりプラスにはならない。まあ無いよりはマシだが。

 

 「どこかに丁度いい獲物は居ないものか……」

 

 この五日間の間に一度だけ、運よくこちらが先に発見し先手を取る事で仕留められた戦馬。しかしそれ以外の日では全く見当たらなかった。

アレは食いでが有るので好ましいのだが、逃げ足が速いのが曲者だ。更には酷く臆病でこちらの気配を感じただけで逃げ出すのだから余程上手く狩りをしなければならない。


 むぅ、可能ならば新しいスキルでも試し、狩りの幅を広げたい。しかし、勿論それにもエネルギーが必要だ。……むぅ、何か効率のいい狩りの方法でも無い物か……。人手が二人では限界がある。

 ……罠でも仕掛けて見るか? 俺にはその手の知識はあまり無いが、落とし穴でも掘れば運よく手頃な獲物が手に入るかもしれない。

 試してみる価値はあるか……ああ、いや、落とし穴は旅路の途中では難しいか。

 

 「ん?……むぅ! スフレ! 木の上で待機! 俺がいいと言うまでじっとしてろ!」

 

 俺は木の洞から素早く飛び出し、スフレは俺の指示に従い蜘蛛特有の動きで洞のある木をスイスイと登っていく。

……やはり気のせいではない。様々な生物の鳴き声や気配、木々の枝や葉の擦れる音の中に断続的な音が近づいて来る。あまりに微かな音だが……むぅ、蜥蜴として生まれ進化を重ねた|今の俺(蜥蜴人)の聴覚なら確かに聞こえる。


……ハンマーで地面を打つ様な重い、これは足音か? 随分と音の間隔が速い。 予想だが二足歩行が走っているのではないだろうか。これが段々と近づいて来る。時折生木が折れた様な音も聞こえるな。少なくとも走るだけで鎚を打ち付ける様な音の出る巨大なモノが木々を薙ぎ倒しながら接近して来ると言う事実だけ。

逃げるか、それとも迎え撃つか選択は二つに一つ。向かって来るモノが友好的であると言う希望は持たない。


俺が対応を決めあぐねている内に新たな音が、重い足音と同じ方角から聞こえた。森の中に響き渡る様な獣の鳴き声。これは、聞き覚えのある鳴き声だ。昨夜に聞いた狼らしき遠吠えの音と酷似していると言う事に気が付く。


むぅ、少なくともこちらに向かって来るモノは複数か。大きな足音の主が狼らしき獣を追っているのか? いや、狼が群れだとすれば逆もあり得るか。

何にせよ俺達が標的と言う訳でもないなら逃げる方が良いだろう。正体不明の相手に病み上がりでスキルを使って戦う事が必要な相手ではエネルギー切れで押し負ける可能性が高い。


……いや、いやいや。


違うだろう。そうじゃないだろう。それは違う。その考えは間違っている。

一度それを意識すると悪寒を伴う吐き気の塊の様な、どうしようもなく気持ち悪い何かが心中に渦巻く。ああ、気持ち悪い。これは俺らしく・・・・ない。

俺は先程までスキルと言う物を行動の指針にしていた。スキルが通じるなら勝てる。スキルが通じない、使えないなら逃げる。新しいスキルを得て強くなろう。


吐き気がする考え方だ。確かに人間だった頃は使えなかったスキル、この世界特有の武器。確かに強力だろう。場を有利に運ぶ為には確かに良い物だ。それは認める。

だが俺はそれを信用していた。まるで長年使って来た得物の様に自身の身を預けていた。

 

 大して仕組みを知りもしない武器に自分の身を預ける。それは何時暴発するかも知れない銃を扱う様な物だ。

 それが使えなくなった時の事を考えていない。どうしてそんなものに身を預けられようか。今後自分より強いスキルを持った敵に殺されても良いのか? 多くのスキルを持った相手に翻弄されるのか? そんな訳も分からない物に殺される最後で納得が出来るのか? 悔いは残らないのか? バカバカしい。

 

 俺は獣に生まれ変わって心まで獣になったのか。人間だった頃を思い出せ。血が流れようと骨が折れようとナイフが砕けようと、|敵に向かって(死)突き進むのが俺の|戦い方(生き方)だよな。俺が自分で決めた、俺らしい納得できる|最期(死に方)だ。

 獣よりも浅ましく、誇りも持たず、手段を選ばず。不意打ちだろうがだまし討ちだろうが関係なく使って|勝ち残る(生き残る)。

 

 「スフレ、俺が死んだら構わず逃げろ」

 「う? にげる?」

 

 俺が死んだとしてこの世界の初の友人が巻き添えで死ぬ。それはあまり良く思えない。自殺は一人でする物だ。

 まあ、賢い彼女なら俺が死んでもそのままある程度生き残る事も可能だろう。母の元に帰るかもしれない。関係ない所で死ぬかもしれないが、絶対の保証など無いのが自然と言う物だ。

 だがそんな俺の心中などスフレは理解できない。首を傾げる彼女は、木の上から俺の姿を映す瞳には何の感情も浮かんではいない。ただのちっぽけな異形の命が映し出されるだけ。

 

 「俺が戦う。手を出すな。分かったか?」

 「……はい」

 

 彼女が今何を考えているのかは分からない。しかし、一応命令と言う名の忠告はした。これで彼女がこれからの戦闘に参入して来たとしてもそれは彼女自身の問題だ。

 

 一度大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。空気に溶けた吐息には俺の中に有った気持ち悪いモノが全て含まれていた様で、疲弊している筈の身体は軽い。空腹感も気にならないし、身体の無駄な力みが消えてなくなった。

 

 「さて、鬼が出るか蛇が出るか。何が出ようとも殺して食うだけ。単純シンプルだ」

 

 スフレに言葉を掛け、俺の中の覚悟がしっかりと固まった。その間に複数の生物は草木をかき分け見通しの悪い森の中から確実に近づいて来る。

 そしてついに俺の目の前に「獣」が姿を現した。狼に酷似した見た目の獣は濃い黄色の体毛に覆われ、俺の腰程までしかない体高だ。勢いよく背の高い草を踏み倒しながら飛び出した獣は俺にとっては運が良く、本当に文字通り俺の目の前に飛び出してきた。

 

 体色と同じ黄色い瞳が俺の姿を捉え、お互いの視線が交差する。獣はその場で四肢に備えた爪を大地に突き立て即座に身体に付いた勢いを振り落とす。

 大きく見開かれた瞳につられるように鋭い牙の並んだ真っ赤な口内を覗かせ―――

 

 「ぎゃぁああああああああああ!? 化け物ぉおおおおおおお!?」

 

 咆哮とは似ても似つかない情けない悲鳴ソレは、ケモノでは無く酷く聞きなれた変態ケダモノのソレだった。

 

 人間から蜥蜴として新たに生まれ落ちた異界の地、そこで初めて出会う同郷の友人。鎧塚 風太郎との再会は彼の悲鳴のせいで実にカッコ付かない物となってしまったのだった。

 

 

 


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