青の章 第71話 スフレと木の実
青の章 第71話 スフレと木の実
「はぁ、やっと休める場所が見つかったな」
「もぐもぐ~」
声色に隠しきれない疲労感が籠っている事を自分でも意識が出来る程だ。それもその筈で、俺は絶え間なく襲い来る鈍い痛みと失血による倦怠感に随分と多くの体力を奪われているのだ。精神的な疲れも無視する事は出来ない。
片足(右足の膝から下)を失った俺は、スフレと一緒に暫く休める狩りの住処を探していた。探し始めた頃は太陽が真上に輝いていたが、今はほぼ見えない。
数時間スフレに肩……ではなく脚に掴りながら歩き回り、やっとの思いで見つけたのが立派な木々が多い森の中でもひと際に存在感のある巨木。そんな巨木に開いた洞だった。
日本にあればご神木として神社に祀られていそうなほど立派な巨木は、俺とスフレが入っても少し狭い程度の広さの洞が開いており、暫くの間身を隠すにはうってつけだ。
脚を失って、不味い等と言う次元ではない異常な味の生物を食べて、流石に疲労で瞼が重くなって来た。今日はもう大人しく寝るのが良いだろう。
「今日はもう寝るか……」
「もぐもぐ~」
「むぅ? スフレ、何を食べているんだ?」
口をリスの様に膨らませて、何かを咀嚼しているスフレに気が付いて尋ねてみる。
アメーバ(?)を狩ってから此処に来るまで、何かを狩るという事はしていない。ではスフレが何を食べているのか。先の躊躇なく正体不明の生物を口に入れるという暴挙に出たスフレに一抹の不安を覚える。
「これ~、あまつのぶんもあるよ~」
そう言ってスフレが取り出したのは……なんだ?
一見すると形は瓢箪の様なくびれのある木の実と言った表現が正しいだろう。ヘタらしき物もある。
少しばかり異様な所があり、それは苔の様な緑の体毛(?)の様な物が生えている事だ。スフレの糸で数個が一括りにされているそれを受け取って観察してみるが、どうやらコケやカビが生えているのではなく、キウイの様な果実事態に体毛が生えている物の様だ。キウイでもこんなにびっしりと生えていないけどな。
ヘタがあるという事は木か何かになっていたのだろうが、これが木にぶら下がっている姿を想像するとかなりシュールだ。
爪で果実の皮を剥いて見ると、鮮やかな黄色の果肉が見えた。恐る恐る口に入れて見ると甘い桃の様な味が広がる。食感は意外に堅くリンゴや梨に近い。……美味しいな。
果肉は無臭に近いが、皮はうっすらとハーブの様な香りがするので、一旦食えるものと認識すればいろいろな用途が頭を過る。
「スフレ、これはどこに生っていたいだ? ああ、どこで見つけたんだ?」
「あっち」
そう言って歩いて来た方向を指さすスフレに苦笑しながら、次に見つけたら俺に教える様に言いつける。
ヘルシーな夕飯を済ませた俺達は木の洞の中で眠りについた。洞の入り口にはスフレに糸で網戸の様な幕を作ってもらったので、少しは安心して眠れるだろう。
夜中、何か獣の遠吠えの様な物で一瞬目を覚ましたが、それ以外は問題なく夜が明けた。
木の洞の中は意外にも保温性に優れているらしく、朝になっても身体が冷え切って動けないという事態は回避された。これは思わぬ幸運だな。
それも晴れていてとてもいい天気だが、残念ながら片足を失った俺は外を歩き回る事は危険で好ましくない。安静にして回復を図るしかないのが現状だ。
まあ、四肢を一部失って数日で回復するというのも、俺の中の感覚で言えばおかしな話だ。前世の地球では自然界の野生動物は四肢どころか虫歯になっただけで食事が出来なくて死んでしまう。骨折でも命取りだ。
俺は千切れた四肢すら生やす事の出来る『再生』の上、『高速再生』のスキルを持っている為ある程度安心できるが、これが無ければ絶望的状況だろう。
一緒に行動してくれるスフレと言う友の存在も大きい。未だに言葉遣いは拙いが、それでも驚異的なスピードで語彙を増やし、また知能も高くなっている様子だ。これからの成長が楽しみだな。
その内俺より賢くなって、馬鹿な俺に呆れて離れて行くかもしれないなんて益体も無い想像してしまう。
「あまつ~」
「むぅ? なんだ?」
「それ、たべないの~?」
それ、とスフレが指を指す先には、俺が昨日食べた木の実の種が地面に転がっている。
「いや、種は食べない。……あ~、スフレは食べたのか。まあ身体に悪い物でもないし大丈夫だろうが……」
「たね~? あまつ~たねってなに~?」
「種……、あ~スフレは昨日食べた木の実が初めての果実か……。種と言うのは、あ~、昨日食べた木の実の様に果肉の中に存在したり、まあ植物が繁殖するための子供の様な物か……か? 種を地面に植えると、新しい木が生えてきてまた実を付けるのだ」
「うえる~?」
「あー、植えるっていうのは、種を地面に埋める事を言うのだ」
スフレは頭がいいが、生まれてから間もないからか、洞窟育ちだからか、あまり物を知らない。見る物全てが新しいのかも知れない。俺の母にある程度教えを説いて貰った様子だが、細かい言葉や物はこうして教え中ればいけない。
この辺は前世の知識がある俺が教えれば問題ないが、俺も学業はあまり達者な方では無いので完全に教える事は難しい。語彙の少ないスフレの理解できる言葉で説明するのはそこそこ難しいのだ。
こうやって人にモノを教えるのがこんなにも難しいとは、教師とは偉大な職業だったのだな、なんて事を考えてしまう。教師でなくても、頭の良い桐香さんが居ればもっと効率的に分かりやすくモノを教える事も出来るのだろうが、居ない者は仕方ない。
記憶にある白衣姿の美女を思い返していると、スフレが地面に種を植えている姿を捉えた。早速実践してみる辺り、行動力のある子供らしい姿だ。実に微笑ましい。
できれば蜘蛛の脚ではなく人間の方の手で埋めていればもっと微笑ましかったが。
「………………あまつ~、き、でてこないよ~?」
「……まあ、木が生えて実が生るまでに早くても数年はかかるからな~。直ぐには生えてこないさ」
そう言うとスフレは少し残念そうに眉を顰める。直ぐに新しい木が生えてまた木の実が食べれると思っていたのだろう。微笑ましい。
すぐさま掘り起こした種を齧りださなければもっと微笑ましい。
土の付いた物をそのまま口に運ぶ事は良くないと俺は思うが、野生の動物としては自然な事だ。この辺を俺の感性で正すかそのままにするか、悩みどころだ。
……まったく、相手も居ないのに子供が出来た気分だな。
「スフレ、俺は脚が治るまで暫く移動が難しい。今日は近場で狩りをして食料を確保しよう」
「ごはん~」
「さて、今日は新しい獲物は居るかな? あんまり大物が来ても困るのだが……」
周囲に合った適当な木の枝を折り、杖代わりにして俺はゆっくりと歩きだした。
俺の真似をしてスフレも木の枝を手にしていたが、数分後にはスフレの両手は空いていた。
スフレ曰く「おいしくなかった」らしい。
申し訳程度の日常(?)回です




