青の章 第69話 石の生物
青の章 第69話 石の生物
『ゴーレム』。原理は知らないがフウタの持つ本やゲームでは石像そのものが命を持って動いている生物。ならば石が集まって動く目の前の存在もゴーレムと呼んでいいだろう。……いいよな? 本当に石が動いているなら、そうでいいのだろう。取りあえずゴーレム(推定)と仮定しよう。その内いい仮名が思いつくかも知れない。
「どれ、正体を暴いてみようか」
勿論片足を失った今、この場を離れるという選択肢が一番正しいのだろう。だが、今後似たような生物に合うかもしれない。それに、目の前のゴーレム(推定)が俺達を追って来ないとも限らない。
今後の安心を得るためには、ゴーレム(推定)を倒すか、対処法を見つける必要が在るのだ。
「アマツ、あしない~?」
「ああ、足を失ったな。まあ【超速再生】のスキルがあるから、数日もあれば治るだろう。……そうだスフレ、糸であの―――石の集まりを攻撃してみてくれないか?」
「あれ?」
「そう、あの石を狙うのだ。十分注意しろよ? この前みたいに自分が糸に引っ張られない様に気を付けろ」
「はーい。【捕縛の糸】~」
スフレの指先から放たれた糸で相手を拘束するスキルは予想通りと言うべきか、触れた部分から石に飲み込まれる。しかも中々早いスピードで糸が石達の中へ引き込まれていく。
「直線的な攻撃は意味が無い様だな。……意外に俊敏だから多分俺の【尾の瞬撃】でも飲み込まれる可能性がある。……むぅ。スフレ、もう一つの――あー網の形で糸を出す方の【捕縛の糸巣】をやってみてくれないか?」
「あれ~おなかすくの~」
「後で小鬼か何かを見つけて食おう。ダメか?」
「……やる~。【捕縛の糸巣】~」
スフレの糸を出して相手を捕縛するスキルは二種類あり、一つが単純に一本の糸を指先から射出し相手に巻き付ける【捕縛の糸】、もう一つが投網の様に蜘蛛の巣状の糸を射出する【捕縛の糸巣】がある。何故かどちらも同じ発音なのだが俺がスフレに指示を出す時以外支障はない。その内指示を出しやすい様に適当な仮名でも付けよう。まあ俺の事だから「糸」とか「巣」なんて呼び方になるだろうけど。
スフレの頬がぷっくりと膨らむが、これはスフレが機嫌を悪くした訳ではない。「巣」の形状の【捕縛の糸巣】はスフレの口か臀部からしか出せないらしいのだ。今回は口から出すのだろう。因みに「糸」の形状なら指先からも出せる。
数拍の溜めの後、スフレの口から糸の塊が射出された。掌サイズの糸の塊は空中で解け、人間一人を軽く覆う程の網となって石に被さる。
「むぅ?」
恐らく糸状の物と同様に網状の糸も石達に飲み込まれてしまうのだろうと予測はした。確かにある意味予想通りに数秒と掛からず石達に網の糸は飲み込まれてしまった。しかし、今回は標的が大きかった為か、石同士の隙間が大きく開きその隙間からゴーレムの中身を見る事に成功した。
一瞬で分かり難かったが、何か粘度のある液体状の何かがゴーレムの中に見えた。
「むぅ? 完全に石で出来た生物じゃあないのか? 中に全く別の生き物が居て、石を操っている?」
そう考えると納得がいく。用は「擬態」なのだろう。イカやカメレオンが体色を変える様に、ナナフシが木の枝を装う様に、目の前の存在は石に擬態しているのだ。いや、あの石が身体の一部では無く自然の物を利用しているのだとすればミノムシに近いのかもしれないな。
幸いゴーレム(推定)はその場から殆ど動かない。獲物が近寄るのを待つ狩りをする生き物と言う事も考えられるな。
勿論事前にそう言った生物が居ると知っていれば近づく事は無いが、知能の低い小動物なら近寄るだろう。もしかしたら小鬼程度ならば容易に餌食になるかもしれない。
だが、それが分かった所で何が変わるわけでもない。石の中に別の生物が居るとして、結局の所不用意に近寄れば身体を食い千切られる事に変わりはないのだから。
どうしたものか。他に有効な策を思いつかないでいると、スフレが俺の肩に手を置いて来た。
「ん? どうした?」
「もういっかい? だす~?」
「【捕縛の糸巣】か? いやもういい、ありがとうな」
スフレの頭を撫でると、スフレは口を半開きにして焦点の合わない瞳で何とも言えない表情をする。非常に独特な感情表現だが、それが彼女の気持ち良い時の表現と思えば多少は心が癒される。
「……アマツ、べーってしないの~? べーって」
「べー? 何の事だ?」
スフレが何かを吐き出すジェスチャーをする。その仕草の意味を考えた時、俺の頭に一つのスキルが過る。
【水泡流咆哮】。俺の手持ちスキルの中で唯一遠距離攻撃とも呼べる物だが、威力は全くと言って良いほど無い。少し強めの水鉄砲……バケツに入った水をひっくり返したと言えば適切だろうか?
目くらましや不意を突いて相手を怯ませる事は出来ても、傷つける事は出来ない。せいぜいが目に入ったら少し痛いと言った所だ。
「いやあれは……、いや、やってみても良いかもしれないな?」
別にダメージを与える必要はない。撃退するだけでも十分なのだ。ならば水を掛けるという事も案外有効かもしれない。水を引っ掛けられて驚いて逃げるかもしれないしからな。
そうと決まれば、早速実践だ。
「【水泡流咆哮】!!」
俺の口から出た水泡は、緩やかな放物線を描き狙い違わず数m離れた場所に鎮座するゴーレムを濡らす。
…………、特に変化は見られない。
「効果なしか……」
「おそろい~」
「お揃いって……、ああ、口から吐き出す事か。糸と水では随分違う気がするが? まあ、別に強く否定する必要も無いか」
コツン、と小さな音が響く。
異音の発生源に目を向ければゴーレムの石の一つが剥がれ落ちている。するとその一つがきっかけだったかの様に次々に石が取れて行き、最後には薄い茶色の不定形な物体が蠢いていた。
ゴーレムの中身だった物体はしきりに落ちた石に触れているが、石は転がるばかりだ。
「……むぅ。気持ちが悪いな。中身は頭も無ければ手足も無い……アメーバとかに近い生物なのか?」
そう思って改めて観察すれば、ソレはアメーバの様な原始的な生物を大きくした様な見た目だな。学生時代、理科の教科書に載っていたアメーバを思い出した。
だが何故アメーバ? は石を落としたのだろうか? 見ているとアメーバは先ほど見せた獲物を食らう動きとは想像できない程ゆっくりとした動きで移動しだした。
……弱っているのか?
次々と湧き上がる疑問を解決する為に、石を拾って投げて見る。石はアメーバの柔らかそうな身体に当たると、地面に落ちる事無く身体にくっ付いた。
だが、一度剥がれ落ちた石はくっ付く事は無い。アメーバがのろのろと緩慢な動きで移動するとその近くの石を身体にくっ付けていった。
「……もしかして、接着剤みたいな身体しているのか? くっ付く物が濡れていると、粘着力が薄れるとか?」
次々と新しい石をその身に纏って行くアメーバに、俺は再度水を被せる。するとみるみるうちに石が剥がれ落ち、粘液状の身体が露わになる。
やはり、この生物は水に濡れた物は身体にくっ付くられないのか。
試しに水に濡れた石を拾って、アメーバの身体目掛けて放る。すると石はいとも簡単にアメーバの身体を貫いて地面に転がった。
「自身の身体はそれほど丈夫じゃあないのか。これなら仕留められるか?」
明らかに動きが弱弱しくなっているアメーバを眺めながら、考察をしているとふとアメーバの身体が持ち上げられた。いや、いつの間にかアメーバに近寄っていたスフレがその身体を無造作に掴みあげたのだ。それも素手で。
俺が彼女の行動の真意を問いただすよりも、彼女の行動は迅速だった。スフレは弱弱しく抵抗するアメーバの一部を口の中に入れて噛みちぎった。
……え?




