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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第68話 散策

青の章 第68話 散策

 

 夜を明かした木から歩き始めて一時間ほど。

 長らく生活していた洞窟がどれほど閉塞的な物であったのか。壁も天井も無く、太陽の光と鮮やかな空の蒼と木々の緑(正確には四割は木々とは思えない奇抜な色合いだが)によって開放的な気分を楽しんだ。昨日はこの世界で初めての旅路と言う事で無意識に緊張していたのかもしれない。

森の中で一日過ごした結果、周りの景色に目を向ける程度の精神的余裕が出て来たのだろう。昨日とは違い今日は出来るだけ周囲の植物や生物に目を向けて歩を進める事にした。


因みに昨日加工した戦馬の革は完全に一晩で完全に乾燥していたので少し夜更かしをして加工をしようと思う。移動に伴って革は折り畳んでスフレの下半身にあたる蜘蛛の腹部分に糸で巻き付けて貰った。戦闘になったら前で戦う俺よりも当分は後方で援護に専念するスフレに持たせた方が、苦労して加工した革が損傷又は紛失する可能性が低いだろうと言う考えからの対処だ。


今日森の中を歩き回った限りでは、この森には地球上には存在しないような生物が多く確認できた。

 

 この一時間で三度も確認できた小鬼は、どうやら以前洞窟に出た時に遭遇した成体・・が集団で行動していた。

三度の目撃の内、二度は遠目から他の生物と戦っている姿を、残りの一度は偶然集団から逸れたであろう一匹を見つけただけだ。集団の方はわざわざ戦闘に乱入する気も起きなかったので手出しはしていない。

逸れ者の一匹は既にスフレのおやつとして食べられてしまっている。スフレ曰く小鬼ゴブリンの味は美味しくないが歯ごたえが好きらしい。俺にはただ筋張った肉にしか感じないが、スフレの好物という事で覚えておこうと思った。

 骨蛇の骨といい、小鬼といい、スフレは歯ごたえのある物が好きなのだろうな。

 

 小鬼の他にも、地球のサイを倍の大きさにして皮膚をゴムの様な弾力に変えた様な角獣ホーンビースト、狼の身体にハリネズミの針を生やしたような針狼ニードルウルフ、見た目はニホンザルに近いが毛並みが緑色の汚猿バンテッド・グリーンを確認した。

 

 角獣ホーンビーストは森の中少し開けた場所で小鬼達の集団十匹に囲まれていた。

武器を振り回す小鬼達を意に返さず草を食み続けていたが、小鬼の振り回す石槍が偶然口の中に入り僅かな血が口から垂れた。その瞬間どういう仕組か身体が一回り大きく・・・なり、やたらめったらと突進を繰り返し、周りの木々と小鬼達を駆逐していた。

恐らく角獣は食事の邪魔をされて怒ったのだろうが、突進で俺の身体より太い木をなぎ倒す様子を見て俺達は早々に角獣を狩るのは諦めた。と言うか何故小鬼達はアレを狩ろうとしたのだろうか? 明らかに手に余る獣だが、小鬼は俺が思っているより更に知性が低いのかも知れないな。

因みにゴムの様な皮膚と言うのは風船の様に膨らんだ様子を見て、恐らくゴムに近い弾性でも持っているのかなと言う俺の勝手な判断だ。

 

 針狼ニードルウルフは突然木の上から俺に飛びかかって来たので反射的にスキルを使って反撃してしまった・・・・・・・・。身体を丸めて巨大なウニの様な物体へと変わり落ちて来た針狼を、俺は【尾の瞬撃(ライト・テイル)】を使って撃墜した。

 当然俺の尻尾には針狼の身体に生えた針が何本も突き刺さり、柄にもなく金切声の如き悲鳴を上げてしまった。針狼の針は俺の鱗よりも堅かった様だ。しかし、針狼の方も無事では済まず、運よく俺の鱗を貫通しなかった自身の針が逆に自身の身体を突き破り、吐血をして倒れていた。瀕死の針狼はスフレが針の生えていない頭部を噛みちぎった事で息絶え、俺達は百本以上の針狼の針を手に入れた。

 

 実はこの針狼、俺が昨日出来れば狩りたいと狙っていた得物だ。この針があれば昨日狩った戦馬の皮を縫う事が出来る。糸は勿論スフレが出してくれる糸を使うつもりだ。これは道中スフレが歩きながら適当な木の枝に糸を巻き付けて貰っておいた。

 材料がそろったので、今晩リュックでも作ってみようかと思う。

 持ち運べるものが少ない現状は中々に厳しい物があるからな。昨日作った石の器も、持ち運ぶ訳にもいかず置いて来てしまった。リュックがあれば持ち運べたかもしれなかったのに……、勿論食料やその他の道具も持ち運べると言う理由もある。

 因みに針狼の肉は美味くも不味くも無い味で、食べても特にスキルは得られなかった。残念だ。

 

 汚猿バンテッド・グリーンは、緑色の体毛を保護色としている様で常に木の上に居た。始めは小鬼と見間違えたが、意外にも長い体毛と尻尾が見えたので猿だと分かったのだ。汚猿は偶に木々の陰からこちらを観察している様子が見えるが、常に移動している上に中々近寄ってこないので直ぐに見失ってしまう。

 何故俺達が観察されているのかは分からないが、単に俺達がこの森の中で目立っていると言う事かもしれない。何と言っても真っ青な二足歩行の蜥蜴に上半身幼女のピンク色蜘蛛だからな。さぞ目立つ事だろう。敵対行動をするわけでも友好的に歩み寄ってくる訳でもなかったので放置していたらいつの間にか姿を現さなくなった。

 

 これらの生物は全て母から事前に教えて貰っていた生き物だった。

 やはり情報と言うのは大事だな。何も知らなければ場合によっては|角獣(肉の塊)辺りに無謀にも挑んでいたかもしれない。

 母によれば角獣は大人しい草食の獣で、怒らせなければ他の生物と争う事は無いらしい。ただし怒らせた生物は大半が後悔する事になるらしいな。

 その為角獣の周りには力の無い小動物や草食動物が集まるのだとか。味が気になる所だが、角獣は明らかに今の俺には手に余る。もう少し力を付けたら挑戦してみるとしよう。

 


 歩き続け更に一時間、そろそろ何か成果が欲しいところだ。手ごろな獲物はいないだろうか? と辺りを見渡すが、視界に映るのは木々だけ。今歩いている周囲は木々の間隔が広くなり背の高い雑草も少なくなってきた場所であり、よほど小さな動物で無ければ見逃す事は無いだろう。

 だがここ数十分見た生物と言えば小さな昆虫や空を飛ぶ鳥だけだ。気が付けば朝は快晴だった空が重苦しい灰色の雲に覆われ、今にも雨が降ってきそうな空模様に変容している。

 辺りが薄暗くなろうとも俺やスフレには関係ないが、雨に打たれると俺は急激に弱体化するだろう。特に収穫はないが雨宿り出来そうな木でも探す方が良いのかもしれない。そんな事を考えながら空から森の中へ意識を戻した時、つま先に硬質な物がぶつかった感覚と共に僅かに身体のバランスが崩れる。

 

 「おっと」

 

 周囲を警戒しすぎて足元を疎かにしていた結果、小石に躓いてしまった。改めて地面に意識を向ければ、この辺りは何故か小石が多い事に気が付く。

……拳大の石も結構転がっているな。やけに草も少ないし、土が悪いのだろうか?

 

 「スフレ、足元に気を付けろ」

 「は~い」

 

 注意して置いて何だが、スフレは石に躓いてコケたりはしないだろう。立派な八本の蜘蛛の脚が付いているのだから滅多な事ではバランスを崩す事は考えられない。

 

 「……? むぅ?」

 

 暫く獲物を探して歩いていると、何やら妙なものが木の影にある事に気が付いた。

 近寄ってみると拳大と指先程の石が組合せられ、器用に積み上げられている。明らかに自然の物ではないだろう。

 

 「墓か?」

 

 一見すると粗雑な墓の様にも見える。が、あまりにも隙間なく積み上げられたそれに少し違和感を抱いた。

 ……そもそも、誰がこんな森の中に墓を建てるのだろう? 俺は巣から出発前に亡くなった兄弟たちの墓を作ったが、それは俺が人間だった頃の知識を持っていたからで、母には俺が何をしていたのか意味が分からなかったらしい。まあ、野生の生物が墓など知っているわけもない。エルフ達ならもしかしたら死んだ同族を墓に埋める弔いの習慣があるかもしれないが、母はその様な習慣は知らないと言っていた。

 

 積み上がった石に近寄ってみるが、それは俺の膝下あたりまでの高さしかなく、非常に小さなものだ。

 角度を変えて見て見ても特に変わった様子は無い。

 

 「アマツ~?」

 「……ああ、いや、何でもない。先を―――お?」

 

 スフレの声に反応し視線を石からそらした直後、何か生暖かい物に脚が包まれるような感覚に襲われ、視線を足元に向ける。そこには積み上がった石に突っ込まれた俺の右足の姿があった。

 

 「むぅ?」

 

 勿論俺はわざわざ積み上がった石を踏みつけてなどいない。目を離した隙に脚が石に包まれていたのだ。

 俺は突然の事態に驚きながらも、足を引き抜こうとした。しかし直後俺の脚は膝から下を無くした・・・・

 万力の様な力によって一瞬にして脚が潰されたのだ。あまりに一瞬の出来事だった為、全く痛みを感じなかった。

 

 「ギャウゥ!?」

 

 後ろにひっくり返った俺はそのまま這うようにして石から距離を取る。そのうち思い出したかの様に千切れた膝下から血が噴き出る。それから少しずつ痛みも感じて来た。

 

 「スフレ! 俺の脚に糸! 止血頼む!」

 

 俺の叫びに近い言葉を聞いて、スフレが返事もせず急いで俺の千切れた脚を縛る。真っ白な糸が真紅に染まっていくが、一先ず止血の役割は果たしている。そして遅れてやって来た激痛に歯を食いしばって耐える。

戦闘中であれば脳内で分泌されるアドレナリン等の作用で感じる痛みを軽減する事も出来ただろう。しかし平常の状態で追った深手は時間が経過するごとに冷静な思考を維持するのも難しくなる。もし俺に人間の頃の様に汗を掻く事が可能だったなら俺は全身を脂汗で濡らした事だろう。

 乱れる呼吸を整え、涙で歪む視界が元に戻るのを待つ。

 

 スフレが俺の隣まで来て「だいじょうぶ~?」と聞いてくるが、大丈夫な訳がない。何が起こったのか全く理解出来ていない。

 

 積み上がった石は、始め見た位置とは少しズレた位置にあるがそれ以外は全く変わらない。そのまま全ての石を移動させたかのように同じ形で積み上がっている。

 

 物は試しと近くにあった石を拾い上げ、積み上がった石に投げつけて見る。しかし石が当たってもびくともしない。

 他に投げるものを探すと、針狼の針があった事を思い出す。試しに一本投げて見る。

 

 針が触れる直前、積み上げられた石達がまるで生き物の様に針を包み込む様に動き、一瞬にして針を飲み込んだ。針が発したであろう硬質なものが弾ける音が鳴る頃には石達は再び元の状態へ戻っていた。

 

 「むぅ……」

 「おー」

 

 厄介な物を目の当たりにして唸る俺と、呑気に感心したような声を上げるスフレ。

 母から学んだこの辺りの生物に、この様な存在は無かった。母が伝え忘れたのか、それとも母ですら見た事の無いかなり珍しい生物なのかは分からない。

 

 だが、重度のファンタジーマニアの友人を持つ俺には、何となくそれに近い生物の見当が付いてしまった。

 

 無機物が意思を、生命を持った様に動く存在。

 友人の風太郎フウタによれば……、石で出来た生物―――「ゴーレム」と呼ばれている存在が、目の前の存在の答えの様な気がした。

 


尻尾に針が刺さったり、片足を失ったりと踏んだり蹴ったりの天月。

正体不明の生物ゴーレム(仮)を負傷した天月はどうするつもりなのか。

……やっと冒険らしい展開になって安心している作者です。

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