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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第63話 噛み噛み

青の章 第63話 噛み噛み

 

 ボディーランゲージは偉大だ。ボディーランゲージとは用は身振り手振りで言葉の通じない相手との意思疎通を図る方法、要するに身振り手振りだ。

 

 恐らく進化して蜘蛛少女となった友は、案の定と言うか、俺の言葉・・を理解していなかった。人間の上半身を持っているのだから、言葉を離せないという事は無いのだろうが、俺が何を言っても首を傾げるばかりで何も理解していない様子だった。

 そもそも友は初めて言葉に触れるのかもしれない。だとすれば言葉が通じないのは当然と言えるだろう。

 

 そこで俺は言葉が通じないならと意思疎通にボディーランゲージを使用したのだ。

 俺は真紅の馬鹿キョウカに戦場に引きずられて、傭兵として戦場を駆け回った経験がある。

 当然、日本国内で戦争が起こる事など俺が生まれてからは一度も無いので、必然的に戦場と言うのは国外、外国の話だが。

 そして日本国外では、当然日本語は通じない。全く通じない訳でもないし、日本語を使える外国人も居ない訳ではないが、やはり英語、もしくはその国の言語が戦場では飛び交う。

言うまでも無く頭の悪い俺は英語やましてやそれ以外の言語は理解できない。故に高性能の翻訳機が手に入るまでの期間に必要に駆られて覚えた技術ではあるが、まさか異世界で使う事になるとは思わなかった。

 こう言うのを「昔取った杵柄」って言うのだろうな。初めて使ったな……このことわざ。

 

 俺がまず友に全力のボディーランゲージを使って行ったのは、そのすっぽんぽんの姿をどうにかしろ、と言う事を伝えた。

 いかに今俺が居る場所が異世界と言えど、元人間としての良識が幼女を裸で放置するという事を良しとは出来なかったのだ。これが、以前あったハーピーの様な外見上は成人している成人女性、それも美人の裸体であれば眼福としてチラ見位はするのだがな。見た目が自分の妹よりも低い年齢に見える少女蜘蛛である友の裸体は、流石に見ていて痛々しい雰囲気なのだ。

 

 簡単な道のりではなかった。

 初めは俺の仕草に首を傾げるだけだった友も、次第に俺の仕草真似を始めたり、かと思えば苔を無心に貪ったりと、思ったように俺の言いたい事は伝わらなかった。

 やっとの思いで友の胸部にチューブトップの様に糸が巻き付いた頃には、俺もほぼ全身を糸で覆われていた。

 俺は衣服の代わりに友の糸で自身の身体を覆う様に伝えようとしたのだが、途中何かを勘違いした友が友自身の身体ではなく、俺の身体に糸を巻き付けて来た。その事がきっかけで何とか友の身体……具体的には胸部を糸で隠す様に伝える事に成功したのだ。

 結果俺の身体も糸で覆われたが、動きを阻害する部分以外は糸で覆われたまま放置し、動きを阻害する様な場所の糸は爪で切り取った。

 

 「……ああ、疲れた」

 

 およそ体感で一時間近く行われたボディーランゲージを用いたやり取りに、体力ではなく精神力を大量に消耗した俺は、地面に座り込んで、自分の目の前でウトウトと船を漕ぎ始めている友を眺めていた。

 

 見た目だけではなく、行動までも子供の様なその姿に何となく幼き日の弟や妹を重ねて見てしまっている自分が居る。元々子供は嫌いではない為に、無性に可愛がりたい衝動に駆られるな。

 

 「……俺の尻尾掴んだまま寝てるしな。そう言えば七星ナーも、寝る時俺の服を掴んでいたっけな。」

 

 妹の七星ナーは、頻繁に布団に潜り込み俺の上着を両手で掴んで眠っていた。七星が高校に上がる時に七星は自分の部屋を得たので機会は減ったが、それでも度々俺の部屋に忍び込んで寝ている俺の布団に入って同じ事をしていたな。

 弟の太陽ヨウは年が近いせいか、太陽が中学に上がった頃を境に目に見える形で甘えて来る様な事は無くなった事に、少し寂しさを思えた事も懐かしい思い出である。

 

 寝息を立て始めた友の頭を、妹にそうしていた様に撫でながら家族の思い出を思い出す。

 器用にも立ったまま寝ている(と言うか、恐らく体の構造上横になって寝る事が出来ないのだろう)友を見ていると、何だか俺も眠くなって来た。

 少しだけ、俺も眠るとするか。

 

―――――


 「ギャウゥ!?」

 

 静かな微睡の時間を楽しんでいた俺を襲ったのは、指先に襲う痛みだった。

 痛みの先に目を走らせてみればそこに居たのは見覚えのある生物。一見細い触手の集合体に見える蜥蜴、軟毛蜥蜴が俺の指先に噛みついているのだ。

 軟毛蜥蜴の歯は小さく、俺の鱗を貫通する事は出来ない様子だが、噛む力は肉食動物らしく地味に強い。例えるならつねられている痛みと言った感じだ。

 

 俺が噛まれている指を引き抜こうと腕を上げるが、掌サイズの軟毛蜥蜴はそのまま指から離れることなく俺の指先で宙ぶらりん状態になっている。

 

 「なんでコイツが……。ああ、もしかして母からの伝言見の様なものか? 早く帰ってこいと伝えたかったとか?」

 

 ならば納得できる。いつまで経っても帰ってこない俺……俺達を待ちくたびれて、軟毛蜥蜴を使いとして送って来たという事か。流石に寝るのはやりすぎたかかも知れない。母はどちらかと言えば気が短い性格だろうからな。

 

 「……むぅ?」

 

 何やら視線を感じたので軟毛蜥蜴から目を離すと、友が俺の指に噛みついている軟毛蜥蜴を凝視している。ああ、もしやこの珍妙な生き物に好奇心をくすぐられているのだろうか?

 

 「あーーーーーーーーーーー!!」

 「むぅ? ―――痛い痛い痛い痛い!?」

 

 ガブリと、奇声を上げた友は流れる様な動きで俺のもう片方の手に噛みついた。

 甘噛みとは明らかに違う、歯を突き立てる本気噛みだ。俺の鱗が友の歯と擦れて嫌な音が響く。

 

 「何だ何だ何なんだ!? 何で噛む!? ちょっと待て、離して離して本気で痛いから!?」

 

 友の視線は反対側の指を噛んでいる軟毛蜥蜴から動かず、軟毛蜥蜴も友を見る。

一瞬、両者が目を細めた。

 両者の俺を噛む力がさらに強まる。

 

 「何で張り合っているのだ!? 痛いから、友よお前どんだけ強くかんでいるのだ。ちょっと血が出ているぞ!?」

 

 友の歯はとうとう俺の鱗を貫き始め、俺の手からポタポタと数滴の血が滴っている。

 俺はどうすればいいのか分からず、足らない頭を全力で回転させてどうすればこの状況を打破できるのか考える。

 

 友を攻撃すると言う手段は無い。友の防御能力が分からないので、軽く殴ったり蹴っただけで怪我をする可能性が無くは無い。だがこのままでは俺の手が食い千切られる。

 【再生】があるとはいえ、無暗に怪我をしたいとは思わない故に放置は論外。考えろ、どうすればいい? なぜ友は俺に噛みついているのだ? 原因は?

 

 友は軟毛蜥蜴が俺に噛みついている様子を目撃して、それに対抗する様に、競う様に俺を噛みだした。

 もしや軟毛蜥蜴が原因なのだろうか? 頭を過ったそんな答えに、俺はそれが正解であるように思えた。

 

 半ば賭けの様な心持で、未だ指を噛み続ける軟毛蜥蜴の胴体を食い千切った。食いなれた味が口の中に広がり、胴体を失った軟毛蜥蜴の頭部と尻尾は力なく地面に落ちた。

 

 友はその様子を見てやっと口を離す。その後、キラキラした目で俺を見ながら少し身体を揺らしている。興奮している様だ。

 

 「まさかとは思うが……やはりと言うか、お前遊んでいるつもりだったのか?」

 「? うぅ?」

 

 言葉は伝わらなかったが、その楽しそうな様子から友が遊ぶと言う目的で俺に噛みついていたのだろうかと俺は予想した。もしかしたら軟毛蜥蜴と俺が遊んでいると思い、自分も遊びに参加したくてあのような暴挙と言うか凶行に及んだのかもしれない。

 ただ、加減を出来ていなかったと言うだけなのだろう。遊びで全力を出してしまった、そういう事だろう。子供が力加減を間違えて遊び相手を怪我させると言うのはよく聞く話ではある。そうであれば、悪意なくただ結果として相手を傷つけてしまった友を責めるのは躊躇われる。

注意程度に留めようとも、そもそも言葉が通じないのだから注意する方法も無い。

 

 俺は怒る気になれず、無事な方の手で友の頭を撫でる。もう噛まないでくれと言う期待を込めて。

 

 「ぐぅるる」

 

 初めて友は眩しい程の笑顔を咲かせながら、可愛らしく声を漏らす。友の声は見た目相応の幼い声音だった。耳まで裂けた口やその内から除く全てが刃物の様に鋭い歯に関しては意図的に目を反らす。

 

 「がぶぅー」

 「いや、がぶぅーじゃなくて。噛むなって」

 

 今度は本気噛みではなく甘噛みでわざわざ俺の頭部に噛みつく友の様子を見て、俺は嘆息した。まあ何にせよ、実際の歳は兎も角として友の精神年齢が低いのであろう事は明白だった。こちらが扱いを誤らなければ関係が険悪になる事は無いだろうと分かっただけでも収穫だな。

 


漸く青の章にてヒロインっぽいキャラクターが登場しました!

え? 母蜥蜴? なんのことですか?

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