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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第62話 繭

青の章 第62話 繭

 

 むぅ。

 見慣れた空間。僅かな熱を持つ砂の地面、岩の壁と天井。中央には数個の大きな卵。

 冷たい通路を歩んで冷たくなった身体を、ゆっくりと温めてくれる暖かな空気。

 

 ここは俺が生まれた場所。俺が「巣」と呼ぶ場所。最後に俺が出た時と何ら変わりはない。

 

 変わった事と言えば、以前俺が倒した骨蛇の死骸(?)の骨が殆ど無くなっている事。これは友である芋虫が食べてしまったに違いない。

 ……あとは、部屋の片隅に巨大なまゆの様な物体が鎮座している事か。

 

 全長三m以上、近づけば見上げる程大きな繭。純白の糸で覆われ、地面と壁にくっついているそれは恐らく、友のものであると想像できる。

 友の種族的な部分は知らないが、芋虫が眉を作って成体になるという事はこの世界でも変わらない、そういう事なのだろう。母が言っていた「面白い事」とはこの繭の事、もしくはこの繭から出て来る生物の事を指していたのだろうか。

 

 母は友を連れて来いと言った。

 それはつまり、もうじき繭の中から成体になった友が出て来るという事だろう。

 だが繭はピクリとも動かない。流石に今すぐに出て来る訳ではない様だ。

 

 俺は暫く繭の周りをウロウロと歩き回っていたが、別に繭の近くに居なければならない必要も無いので、落ちていた骨の残骸を拾い集め、それを口に運びながら適当な壁際に腰を下ろした。

 ガリガリと面白い様に削れる骨を見て、自分の成長を実感する。骨蛇を倒した頃はスキルで咬筋力を上げなければ削る事すら出来なかったが、―――俺は強くなったのだろう。

 今なら友の助け無しでも骨蛇を倒せるかも知れない。

 

 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ。

 骨が削れていく音をBGMにしながら、無心になって骨を噛み続ける。

 

 『【ランクアップ】によりスキル【強骨格ハードボーン】を獲得しました』

 『≪最適化しますか?≫』

 

 ……ああ、また新しいスキルか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

強骨格ハードボーン

 自身の骨の強度を上げる

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 文字通りの意味ね。分かりやすい説明ありがとう。

 最適化は……必要ない様だ。

 今はこのゆっくりした時間を楽しみたい。

 

―――――


 「……ん?」

 

 俺はいつの間にか眠ってしまっていた様で、地面に横になっており地面には俺の涎が染みついた跡が残っている。

 口元に付いた涎と砂を拭いながら身体を起こすと、カサカサと何かを引掻く様な音が聞こえた。音のする方へ顔を向けると、そこには微かに揺れる繭の姿。

 どうやら繭がもうすぐ孵るらしい。

 

 「さて、俺の中の常識では芋虫は蝶々か蛾になるが……、何が出てくるやら」

 

 そもそも三mサイズの芋虫が常識外れの存在なのだ。これで十cm程の蝶々が出てくればそれはそれで驚くが、流石にそんな事は無いだろう。

 カサカサと言う音が段々と大きくなり、遂にはガリガリと堅い物を削る音に変わる。どうやら繭は見た目に反して堅いらしい。

 俺が繭を切り裂いて出て来る手伝いをしようかと考えて始めた頃、遂に繭に亀裂が入り、中から何かが飛び出て見えた。

 

 それは鮮やかなピンク色の……すらりと長い昆虫の脚だった。

 水晶蟹や魔蠍の脚に似た形をしているが、うっすらと体毛が生えている事が確認できるため、蠍等が出て来る線は無いかもな。

 僅かに出ていた脚が、繭の罅が大きくなりにつれ少しずつ外に出て来る。別の場所からも脚が飛び出しはじめ、遂に繭はバラバラに弾けてしまった。

 弾け飛んだ繭の破片が俺の眼前に飛んできたので咄嗟に掴む。意外にも辞書並みの厚さを持つ破片ソレは、軽く握りしめただけで乾いた音と共に掌の中で砕ける。

 

 「……むぅ。やはりこの世界は俺の想像の上を行くな。この場合は斜め上か?」

 

 繭から出て来た者は、八本の脚を持ち、特徴的な体色を持った蜘蛛・・だった。

 八本の脚は鮮やかなピンクで統一されており、しかし胴体や腹部はこれまた鮮やかな緑やら赤やら白やら……まるで絵具セットの絵具を全色使って塗りました! ……と言った感じの色合いをしている。昔、博物館で見た抽象画の様だな。

 

 ―――まあ、ここまではいいさ。問題ない。理解できる。

 蜘蛛が繭から出て来た事もまあ、芋虫も蜘蛛も同じ糸を出す生物だし? まあ、共通点があるだけ理解できる。

 体色が鮮やかすぎる事も、芋虫の時点で色合いが極彩色だったので納得は出来る。

 体長が二m程ある事も、芋虫の頃に比べれば縮んだ位だ。

 

 問題はそこじゃない。

 

 蜘蛛には頭部が無かった。―――いや頭部に当たる部分から、人間・・が生えていたのだ。

 自分で言っていても理解できないが、近い物を上げるとすれば「ケンタウロス」だったか? 馬の首から上に人間の上半身がくっついた様な生物。それの馬部分を蜘蛛に入れ替えた様な姿の生物。

 俺の友人、風太郎フウタの持っていた漫画に似たような生物が載っていたが、名前は忘れた。

 

 まあ、漫画に載っていたと言うのは人間が想像できる範囲の生物という事だ。

 そこも問題は無い。

 

 問題は―――

 

 「また裸の女なのか……」

 

 蜘蛛から生えた人間部分は、間違いなく女性だった。

 いや、女性と言うのも語弊がありそうだ。正確には小学生低学年位の少女……幼女と言ってもいい見た目だ。

 恐らく肩甲骨辺りまで伸びたこれまたピンク色の毛髪。透き通る様な白い肌。瞳の色は青く、容姿はとても整っている。

 そんな幼女がすっぽんぽんで蜘蛛から生えているのだ。

 蜘蛛部分はまだいいが、人間部分の裸と言うのが不味い。

 俺は何も悪い事をしていない筈なのだが、何故か悪い事をしている気分になる。俺の友人であるジンならば、―――あの自他共に認める筋金入りのロリコンであるジンであれば狂喜乱舞していたであろう光景。しかし俺には妙な罪悪感を感じる光景であり、とてもジンの様に喜べない。

 俺は未発達の女性で興奮する様な性癖は持ち合わせていないのだ。それが血縁でもなければ、ただ気まずいだけだ。

 

 下半身が蜘蛛の少女……蜘蛛少女はゆっくりと辺りを見回し、その視線は俺を捉え固定される。

 

 じーーーーーーーーっと、穴が開くほど見られているのが分かる。

 ? 俺の姿がどうかしたのだろうか?

 

 「……ああ、もしかして俺が分からなかったりするのか?」

 

 考えてみれば、蜥蜴人に進化してから一度も友とは会っていない。最後に会った時は四足歩行だったものなぁ。

 初めて目にした蜥蜴人の姿に敵として見られている可能性は十分にあった。

 もしもその予想が正しければ、友と戦う事になる。それは避けたい。だが、誤解を解く手段も思いつかない。流石に友と言え襲い掛かって来る様なら手荒な真似をしなければならなくなる。さて、困った。

 

 蜘蛛少女はゆっくりと俺から視線を外し、自身の身体をまじまじと見まわしている。……蜘蛛少女の表情は無機質と言うか何と言うか、瞬き一つしない文字通り微動だにしない様子からは敵意も好意も感じられない。

まあ、妹の七星ナーの小学生の頃に匹敵する程整った容姿ではあるな。

 

 「……ああ、そう言えば土産……」

 

 友の為に取って来た苔の存在を思い出し、急いで手に取る。俺は砂を掃った苔を差し出すように持ち、ゆっくりと蜘蛛少女に近づいてみる。

 

 俺に視線を戻した蜘蛛少女は、魔蠍と同じような素早い動きで真っすぐ俺に向かって走り寄り、俺の持った苔を手に取ると迷うことなく口に入れた。……一瞬口が耳付近まで裂ける様に開いたのは見間違えだと思う事にした。

 蜘蛛少女は結構な量を一度に小さな口に詰めた為、リスの様に頬をパンパンに膨らませながら咀嚼する姿に、思わず頬が緩む……俺には頬が無いけどな。

 

 「……むぅ?」

 

 蜘蛛少女は気が付くとゆっくりと俺を上から下まで再度見回した後、俺の背後に回り込む。

 敵意は全く感じないので、好きにさせようと思い蜘蛛少女の行動を見回る。

 蜘蛛少女の両手が俺の両肩を掴むと、後頭部になんとも言えない堅い物が当たる感覚と湿った感覚が同時に感じる。

 

 これは―――友が芋虫の頃にさんざん味わった甘噛みだ。

 姿形は変わっても友は友のままだった。

 

 「あー、っと……ただいま?」

 

 何を言えばいいか迷った末に出た言葉に、友は俺の頭から口を離し暫く俺の顔を肩越しに覗き込んで、直ぐに俺の頭部に甘噛みを再開した。

 

 「本当に変わらないなぁ」

 

 奇妙な再会だが、それでも俺は蜘蛛少女と敵対せずに済んだ事を俺は心から嬉しく思った。

 

 

 ―――近くで見た友の顔、よくよく見れば目からこめかみに掛けて左右三つずつ、計六個の小さな昆虫の複眼の様な物が付いていた。目の数は蜘蛛と同じなのか~と、どうでもいい事に気が付いた。


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