青の章 第60話 珍味
青の章 第60話 珍味
「……美味い」
魔蠍の毒は即効性だが効果が切れるのも早くそれほど時間は掛からなかった。
魔蠍を仕留めてから数時間。やっと麻痺毒の影響が完全に無くなり身体の自由を取り戻した俺は、待ちに待った魔蠍の実食タイム中だ。
母が言っていた、魔蠍の肉は珍味と言う言葉を聞いてからずっと味が気になっていた。蠍自体は人間だった頃食べた経験はあるが、魔蠍の肉は蠍とは比べ物にならない程美味かった。
肉(と言うか筋)自体はかなり堅い。何というか食感はイカの一夜干しの様に堅い。俺の牙が肉食動物特有の鋭い物で無ければ一m弱ある身体全てを食べきるのに何日いや、何か月も掛かるだろう。
だが今の俺には少し火の通り過ぎたステーキ位の感覚で食べる事が出来る。少し今の蜥蜴人の身体に感謝した。
肝心の魔蠍の肉のお味は絶品と言ってもいい代物だった。
味はホタテ等貝類を燻製にした様な独特の旨味を数倍にした様な味が強く出ている。噛むほどに味が滲み出てきて、後からどんどんほのかな甘味が顔を出す。甘味と同時に少しだけ苦味が出て来るが、それほど気になる事も無い。因みにかなりさらさらとした体液は肉の味を数倍希釈した様な風味だ。
確かに珍味と言うほどあって好き嫌いの分かれる味ではあるが、俺はかなり好きな味だ。多分酒ととても相性のいい食材になるだろう。出汁をとっても美味いと見た。
「美味い。美味いな。(この世界に)生まれてから食った物の中で一番美味い」
しかも食べていく内に癖になってくる。食べる手が止まらない。気が付けばバラバラになった魔蠍も残り半分以下だが、それでも止まらない。
魔蠍の甲殻は食べる上で邪魔になると初めは思っていたが、何故か魔蠍の甲殻は魔蠍が死んだ後何故か柔らかくなっており、寧ろ肉の方が硬いのではと言う程だ。なので甲殻と肉を一緒に食べても問題ない。わざわざ甲殻を剥がさなくてもいいと言うのは魅力的だ。まあ甲殻には例の如く味は無いのだが。
ああ、ついでに切り離した俺の触手も食べて見たが、そちらは味の無いガムの様な微妙な肉の味だった。
『どうやら気に入った様だな』
丸々一匹、魔蠍を完食した俺に母が語り掛けて来る。丸々一匹と言っても尻尾の毒針付近は食べていない。尻尾は母の胃の中だ。
「ああ。いくらでも食べれそうだった。流石に毎日魔蠍では飽きるだろうが、たまに食うと滅茶苦茶美味い類の味だった。甲殻が柔らかくなっていたのもポイントが高い」
『甲殻が柔らかくなったのは、死んでスキルの効果が無くなったからだな。大抵の生物は死ぬとスキルの効果が無くなる。アンデットになればまた別だが、まあそういう事だ』
ふぅん。そう言うものか。食べるのに夢中であまり話が頭に入ってこない。
『【位】によりスキル【高速再生】【甲殻変形】【尾の刺撃】を獲得しました』
『≪最適化しますか?≫』
ああ、そういえば【位】の存在を忘れていた。魔蠍の肉が美味すぎて細かい事は気にならなくなっていた様だ。まあ取りあえずここはいつも通り「はい」だ。
『最適化が完了しました』
『【再生】は【高速再生】に統合されました。【高速再生】は【超速再生】になりました』
『【甲殻変形】は【蜥蜴人の堅鱗】に統合されました。【蜥蜴人の堅鱗】は【蜥蜴人の自在鱗】になりました』
おお、また「ちーと」っぽいスキルが増えたなぁ。どれ。
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【超速再生】
自身の身体の損傷を超速で回復する。
部位欠損も回復する。
傷を治すのに大量のスタミナを消費する。
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……【超速再生】は【再生】と【高速再生】の上位互換と言う認識でいいのだろうか?
説明文が殆ど変わっていないからあまり良く分からない。
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【蜥蜴人の自在鱗】
硬質な鱗を自在に変形する事が出来る。
変形出来る鱗は一枚単位で、鱗同士を結合する事は出来ない。
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簡素だな~説明が。
これは魔蠍の甲殻を変形させていたスキルの鱗バージョンだろう。甲殻を持たない俺が【甲殻変形】を持っていても意味が無いから鱗を変形させるスキルになったのだろう。鱗同士を結合できないって事は、鱗一枚分の質量の変形しか出来ないのだろう。そう言えば魔蠍の鋏を変形させていた時も、鋏以上の質量を持っていなかった様子だった。俺が魔蠍の様に腕をチェーンソー状にする事は不可能なのだろう。
試しに使ってみたが、やはり鱗の一枚を尖らせたり、細くしたり薄く延ばしたりする事は出来るが、それだけだ。その上数枚の鱗を同じ形には出来るが、違う形にしようとすれば鱗の一枚一枚順番に意識しなければならないし、複雑な形には出来ない。複雑な形に出来ないのは俺の練習が足りないからかもしれないが。
これどんな時に使うのだ? 鱗の形変えたところで別に大した変化は無いと思うが?
まあ、殴る、蹴る時に鱗を棘の様に変形させて地味な追加ダメージを与える事は出来るだろうし、【悪食】を使う際に【硬質鱗】を変形させてより凶悪な触手に変化させる事も出来るだろう。使い方次第では便利なスキルなのかもな。あとで他のスキルと合わせて使えるか考えて、練習もしなければ。
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【尾の刺撃】
尻尾による精密な突き。貫通力・精密性がある。
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ほう、尻尾で突きか! 考えてもみなかった。なるほど。魔蠍が尻尾で毒針を突き刺して来る様な動きが出来る訳か。尻尾による攻撃手段がまた増えた。出来れば尻尾以外の攻撃手段が欲しいが、贅沢は言うまい。
【尾の刺撃】が触手でも出来れば、戦闘の幅が広がる。
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新たなスキルを三つも手に入れた俺のステータスは、これだ。
ネーム-クライ アマツキ
種族 堅鱗蜥蜴 堅牢青蜥蜴人
レベル 39
スキル-パッシブ
【強化向上】
蜥蜴人の自在鱗
蜥蜴人の鋭爪
筋力上昇
超速再生
【作成】
器用
【特殊】
暗視
【耐性】
痛覚耐性
恐怖耐性
自殺志願
【脆弱】
水氷冷脆弱
【固有】
青ノ魂(覚醒)
位
スキル-アクティブ
【尾】
尾の重撃
尾の瞬撃
尾の転撃
尾の刺撃
悪食
【牙】
咢の一撃
【鱗】
硬質鱗
【咆哮】
水泡流咆哮
【生態】
自切
脱皮
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おお……、母の生み出した水晶蟹、晶甲羅蟹、魔蠍の戦いでレベルが30も上がっている。
やはり格上相手ではレベルの上りが速いな。ついでに【蜥蜴の触手】が無くなって代わりに【悪食】のスキルが増えている。まあ、【蜥蜴の触手】単体では使わないだろうから【悪食】の方が都合が良い。
この調子なら、次の進化ももうすぐではないか?
やはり格上ばかりと戦っているから、こうまで進化するペースが速いのだろうな。
―――俺と同じ様に地球からこの異世界に来た家族や友人は、今頃どうしているだろうか? しっかり飯を食っているといいのだが……。
飯と言えば、今更ながら俺の食欲がすごい事になっている。
今しがた完食した魔蠍だが、一mもある蠍だ。少なく見積もっても三~四十kgはあるだろう。
それを全て食ってなお、腹に空きがある感覚がある。もう数匹は食べられそうな感じだ。
晶甲羅蟹を食べた時もそうだ。大体二日ほどで完食したが、冷静に考えれば少なくとも一t近くはあるであろう晶甲羅蟹を普通に完食した。【再生】による大量のエネルギー消費があったとしても食い過ぎだろう。借り俺の今の体重が五十kg程だとして、体重の二十倍以上の食料を喰う生物とは……。
『鱗族は尻尾に栄養を蓄える性質がある。食える時に食って、それを無駄にしないための造りだ。……元人間と言うお前に教えておくと、鱗族は基本尻尾の太さで強さを測る。尻尾が太いという事は餌を豊富に食えている証、【再生】等で無駄にエネルギーを消費しない狩りの上手さ、強さの証明にもなる。どういうことかと言うと、尻尾が太い方が子供を作る相手として優秀という事だ』
……つまり尻尾の太さが、人間の男の背の高さとか、女の胸部や臀部の大きさの様な物として、他の鱗族は見ると?
なるほど面白い話だな。餌を上手く取れる相手と種を残そうとする行為自体はごく自然な発想だ。
俺は自分の尻尾に目を向ける。そこには今までで一番太くなった尻尾の姿がある。まあ飯は食えているし、傷を負った分を考えてもプラスマイナスでプラスという事だろう。
『お前も一応は優秀な雌なのだ。これから子を成す事もあるだろう。自分の種族の事を一応は頭に入れておけ。私の知る限りのことを教えてやるから、それも頭に入れておけ』
それもそうだ。俺は元人間、他の蜥蜴や蜥蜴人の生態など知らない。勉強はあまり得意ではないし、俺は頭が良くは無いが、それでも覚えるしかないか。まあ、教えてくれるだけあり難いしここは素直……に?
……………優秀な……雌? 雄ではなく?
「誰が雌だ、ぶっ飛ばすぞ!」
『おや? てっきり雌だと思ったが……雄だったのか?』
人間だった頃だけじゃなく、蜥蜴になってまで女扱いされるのかよ!?
なんだと言うのだ!?
俺は食後の満足感も吹き飛び、母に食って掛かった。
生まれ変わってもこの扱いか! 納得できるか!




