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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第59話 リベンジ

青の章 第59話 リベンジ

 

 『ふふふ、面白いな。面白い。腕から尻尾……? いや、触手か? そんな物を生やすとは。』

 

 母の声が聞こえるが、今の俺にはそれを気にする余裕はない。

 腕をチェーンソー型に変形させた魔蠍は、距離を詰めて来る。俺はその場にとどまり、魔蠍が間合いに入るのを待つ。

 

 突然加速した魔蠍は俺の首目掛けて腕を突き出す。俺はそれを棘の付いていない関節部分に触手を絡めて軌道を反らす。首の皮一枚切れ、血が流れるのを感じた。だが致命傷は避けた。

 だが魔蠍は腕に絡まる俺の触手を、もう一方の腕で半ばから切り落とす。鋭い痛みに顔を顰めながらも、残った触手で【尾の重撃(へヴィー・テイル)】を発動し、魔蠍の頭部を思いっきり強打する。魔蠍の頭部にヒビが入り、口元からは体液が噴き出ている。しかし、魔蠍は怯みながらも尻尾を俺の左肩に突き刺した。

 

 「ギャゥ!?」

 

 傷口から冷たい何かが体の中に入ってくるのを感じる。とっさに魔蠍の尻尾を掴み肩から引き抜く。魔蠍の尻尾の先端からは俺の血液と一緒に半透明な黄色い液体が滴っているのが見える。

 俺は【尾の転撃(ロール・テイル)】を使い、ダンスのターンの様な動きと共に振るった尻尾で魔蠍の身体を吹き飛ばした。

 魔蠍は脳でも揺れているのか、フラフラとしているが頭部の傷はみるみるうちに塞がっていく。

 ここは追撃したいが、肩口の傷の感覚が無い事に気が付く。【痛覚耐性】と言うスキルを俺は持っているが、【痛覚耐性】は痛みを和らげるだけの能力の筈であり、痛みが完全に消える事は無い。

 恐らく母が言っていた麻痺性の毒とやらなのだろう。麻酔に似た効果があるらしく、少しずつ感覚の無い部分が広がっているので、そのうち全身が痺れるのだろう。そうして動かなくなった俺を魔蠍が捕食すると。

 

 これで俺には制限時間が出来た。限られた時間内に頑丈な甲殻と驚異的な再生能力を併せ持つ魔蠍を倒さなければならない。更には時間が過ぎてゆく毎に麻痺により行動に制限が掛かり追いつめられると言う事も理解した。

 

 魔蠍はおぼつかない足取りで俺がいる方向とは別の方へ歩いて行った。何を、と思ったが束の間、魔蠍は先ほど切り飛ばされた俺の触手を貪り始めた。直ぐに食べ終えた魔蠍は与えた筈の傷は完全に回復していた。

 なるほど、スキルで消費したエネルギーを補充したと言う訳か。

 

 対して俺は左肩から左腕の感覚が既になく、かろうじて腕を動かす事は出来るが力は殆ど入らない。

 

 誰がどう見ても絶体絶命だろう。実際頭の中に『降参するなら今の内だ』と言う声が響く。しかし俺はその声を無視する。

 

 今の魔蠍の行動で一つ、いい事を思い付いた。

 

 俺はゆっくりと膝を付き、身体を横にした。

 

『おい! 降参か!? 負けを認めるのか? 止めるぞ?』

 

 母の焦った声が聞こえるが、俺は母を睨みつけて黙らせる。

 

 魔蠍は暫く俺の事を眺めた後、ゆっくりと俺に近づいてくる。俺の狙い通りだ。魔蠍は俺が毒で立っていられない程弱っていると思っているに違いない。

 腕をチェーンソー状から元の団扇状にして、頭部を守れるように構えている。どうやら俺がまだ動けるかもしれないと警戒しているのだろう。

 

 じりじりと魔蠍は時間を掛けて、距離を詰める。その間にも毒は俺の身体を蝕み、頭すら少ししびれて来た感じがする。

 ―――魔蠍はあと少しで俺の触手の間合いと言う距離で歩を止めた。

 魔蠍にそれ以上動く気配が無い。俺に毒が完全に回るまで待つつもりなのだろう。成程、合理的だな。

 仕方なく俺は素早く立ち上がり、触手を振るう。少しは不意を付けた筈だが、既に脚にまで回っていた毒のせいで踏ん張りが効かず、ふらつきながらも頭部を狙った俺の攻撃は簡単に魔蠍の腕に防がれてしまう。

 攻撃が防がれ無防備になった俺の腹部に、毒の尻尾が突き刺さる。俺は尻尾を掴み引き抜こうとするが、上手く力が入らず、毒がどんどん体内へ入ってくるのを感じる。

 

 俺は立っている事も出来ず、今度は本当に倒れてしまった。

 もう体の感覚が殆ど無くなってしまった。意識も朦朧としている。

 

 魔蠍は駄目押しとばかりにもう一度俺の腹部に尻尾を突き立てると、三度目の毒を俺の身体に注入する。

 俺は全く感覚の無くなった右腕を振るうが、ただ魔蠍の頭部表面を撫でる程度の力しか出ない。


 魔蠍は好都合とばかりに自分の口元まで来た俺の触手に牙を突き立てる。そのまま凄まじい勢いで俺の触手が魔蠍の口の中に消えていく。一定間隔で肉が食い千切られ血が零れ落ちるが、麻痺毒のお陰で触手を食い千切られる痛みは全くない。

 これはあり難い。俺は痛いのが嫌いなのだ。

 

 「ガァ……ガァ……」

 

 とうとう俺の手首まで口に含み出した魔蠍に最後の言葉を発しようとしたが、毒のせいで舌が回らず掠れた声が響いただけだった。

 残念だ、最後に……予想通りに動いてくれてありがとう・・・・・と伝えたかったのだが。

 

 俺は手首が魔蠍の口内に入る。手首に牙が突き立てられ今まさに食い千切られる瞬間に、【悪食グロスイーター】を発動した。

 

 「ゴォ!?」

 

 魔蠍の声にならない嗚咽の様な音が漏れる。それと同時に魔蠍の口から半透明の液体が押し出される様に噴き出す。

 今俺の触手は、魔蠍の体内にみっちりと詰まった状態だ。元々俺より小柄な分、突如押し込まれた触手はさぞ苦しい事だろう。だが、これで終わりではない。俺はそのまま、【悪食グロスイーター】を何度も何度も発動する。魔蠍の口内にある俺の手から生えた触手から触手が生え、更に枝分かれする木の枝の様に新たな触手が次々に生え、魔蠍の体内を圧迫していく。

 魔蠍は苦しさからか、後退りして手と触手を吐き出そうとするがもう無駄だ。既に俺の手から生える触手は十を超え、魔蠍の小さな口から吐き出せる体積を物理的に超えている。噛み千切ろうにも鱗や筋肉は兎も角骨までは簡単にな砕けない。

 どれだけ肉が裂けようと血が零れようと、俺は【悪食グロスイーター】を発動する事をやめない。寧ろ、俺に残ったすべてのエネルギーをつぎ込んで、スキルを使い続ける。

俺を殺す事でしか現状を打破する方法が無いと気が付いたのだろう。魔蠍は身体を痙攣させながらも扇状の腕を振り下ろし、尻尾の毒針で俺を殺そうとするが一撃の威力が軽い為致命的にはならない。いや、仮に致命傷を与えられる威力があろうとも、不完全ながら全身に回った毒は俺に痛みを感じさせない。今なら仮に腹に穴が開こうとも痛みで気絶する事もショック死する事も無いだろう。

唯一魔蠍が助かる方法、それは俺の頭部を潰すか頸部を切断すると言った一瞬で俺の生命活動を停止させる手段しか無い、いや、無かった・・・・。魔蠍が今更腕をチェーンソー状に変形させるが、残念ながら時間切れだ。

 次第に風船の様にパンパンに膨らんだ魔蠍は、ピシリと甲殻が音を立てたと思うと胴体から大量の触手を出しながら身体を破裂させた。

 

 俺は切り落とされた自分の触手を喰う魔蠍の姿を見て、大量の触手で体内から・・・・魔蠍を倒す方法を思いついたのだ。

 何もわざわざ耐久力勝負に付き合う事は無い。外側が硬いなら内側を攻めればいい。単純な話だ。

 

 だが魔蠍の口に俺の手を入れるのは簡単な話ではなかった。戦いの中でそれを行うのは難しすぎる為、母に不意打ちを行った時の様に倒れて隙を伺ったのだ。

 何度か毒を打ち込んでくる事は想像できた。寧ろ麻痺性の毒を使うという事は獲物を生きたまま食うと言っている様なものだ。俺はわざと避けずに毒を受け入れ、予想通り魔蠍は俺の腕を口にした。いや、目の前に抵抗らしい抵抗も出来ず弱った得物……いや、があるにも関わらず、それを口にしない生物が居るだろうか? 俺は満腹以外の理由で目の前の餌を喰わない生物など、少なくとも俺の中の常識では存在する筈も無かった。

 

 流石にこれで魔蠍が死ななければ打つ手なしだったが、魔蠍は胴体がが破裂した後二度と動く事は無い。

 俺は完全に空腹になったが、麻痺毒のせいで身動きできず数時間もの間、目の前に魔蠍の肉と言うご馳走があるのにも関わらず腹を満たせないと言う地獄を味わった。

 

 戦いで傷つくよりも、空腹の方がよっぽど辛い。

 回復した後、母にその様に言った所呆れた目を向けられた。

 


やっとの事で魔蠍を打ち破った天月。さて魔蠍の味はいかほどか!?

因みに筆者は蠍の塩漬けを食べた事がありますが、正直独特な歯ごたえ以外に感想は有りませんでした。

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