第5話 いざ出発
前置きが長すぎるぅ~
第5話 いざ出発
ヘルヘイム―ヘルの話が終わっても、天月達は誰も口を開かなかった。
話の内容が、あまりにもあまり立ったため、数人は自信の常識に当てはめるのに苦労していた。
しかしそれは常識が頭に存在するもの達だけ。
ヘルの説明が終わってから、一番最初に口を開けたのは狂歌だった。
「で、つまりどうゆうことだよ」
まさに傲慢不遜、言葉だけ捉えればただ話の内容が理解できていないだけだと言うのに、まるで当然の様に回りに説明を求める。
分からない所は分かりませんでしたと正直に言える社会人がどれだけいるだろうか。
狂歌の真っ直ぐな言葉を話すところは、大抵の場合相手を怒らせたり、呆れさせることが多いが、今回は理解の遅れているもの達を助けるものになった。
狂歌の疑問に答えたのは天月だ。
「むぅ、俺が理解できた範囲で簡単にまとめると、『疑う事を知らない奴が、騙されて全財産巻き上げられたから、どうにかしようと足掻いた挙げ句、無関係な人間に頭下げる事にした』……大体これと似た様な事か?」
自信無さげに出されたそのもともこもない、しかし的確に要点を押さえた結論を出した天月は、抱き抱えている桐香に確認をこめた視線を送り、桐香はその視線を受け問題ないと苦笑しながら頷いた。
「はっはっは、あーたんの話はわかりやすくていいねぇ。だけど、私様が聞いてんのはそう言うことじゃねえのさ」
そう言うと、狂歌はニヤニヤと笑いながらレイアの袖に捕まっているユグドラシルとその横で説明を終え、天月達を観察していたヘルヘイムの前に立ち、二人に目線を合わせる様に屈む――事はせず、そのまま俗に言うヤンキー座りの姿勢で二人の顔を覗きこむ。
恐らく本人は、少なくとも外見は子供の二人に、警戒心を与えないように気を使っているつもりなのかも知れないが、その姿は端から見れば凶悪な笑みを浮かべた不良が女子児童に絡んでいる様にしか見えない。ヘルヘイムは普通に目を合わせているが、ユグドラシルは俯いて涙目だ。
「私様達に頼みがあるんだろう? いいぜ、引き受けてやるよ」
「……え」「……ふぇ!」
狂歌の言葉に、思わずと言った様子で声を上げる二人の少女に、狂歌は更に言葉を続ける。
「今、お前らの目の前には、私様が認めた最高の奴等が居るんだ。こんな機会はもうないぜ? 私様達に出来ないことなんてねーよ? それこそ神だの天使だのをぶっ潰すぐらいわけないぜ」
「……ま、確かに俺の知る限りにおいても、まぁ変な部分も多々あるが、それでもいい奴等なのは確かだろうな。家族としても友人としても仲間としても、これ以上の奴等はいないさ。約一名を除いて」
「兄貴は恥ずかしいこと平気で言うなぁ」
「ふふ、自身がたっぷりな所と言葉を繕わない所、狂歌と天月くんの二人は意外と似た者同士だろうね」
「桐香さん、本気で勘弁してくれ」
「異世界~異世界~」
「幼女~幼女~」
「私としましては後二人ほど除きたいですね」
まるで緊張感もなにもあったものではない、シリアス? なにそれ美味しいの? と言った雰囲気の天月達。
ここ状況を楽しんでいる様な、ユグドラシルやヘルヘイムの出会った異界の人間達とは何処か決定的に違う雰囲気を二人の神は感じ取っていた。
「あ、あの、貴方達へのお願いは、私達の世界で封印されている私達の本体を解放――」
「よし引き受けた!」
「え? ちょっと! まだ話が!」
狂歌の早すぎる即決にユグドラシルが異議を発しようとすると、それまでユグドラシルとヘルヘイムを見守っていたレイアが、諦めを滲ませた表情で、二人の肩に手を置き諭すように言った。
「ごめんなさい、彼女は、何と言うか人の話をあまり聞かない人なの。まあ、でも、安心なさい。私達これでもそこそこ有名な集団ですのよ?」
「で、でも、貴方達が思っているより危険―――」
「危険、それを聞いて尻込みするような人、うちにはいません。でも、詳細は教えてくださいな。これは依頼と言う形にしましょう。内容や規約、報酬、それらを決めましょう。わたくし、白川レイアのこの集団での役割は、大部分が交渉ですのよ」
そう言って自分達のこれからの行動を起こすに当たっての内容を話合っていくレイアとユグドラシル、ヘルヘイム。まさかここにいたって細やかな交渉を持ちかけられるとは思わなかったユグドラシルとヘルヘイムは、先程の優しい雰囲気を残しつつも、彼女のもつ卓越した話術によって、本来話すつもりのなかった事まで、根掘り葉掘り聞かれてしまう。
一方、レイアが交渉作業に入ったのを見ていた天月達は、思い思いにこれからの事を話ていた。
「あっはっは、何気にメンバー全員で何かするって初めてじゃね?」
「ふむ、確かに。そもそも私はアウトドアで活動するのも久しいよ」
「最近引きこもり気味のなーにはちょうどいいかもな~」
「…………」
「兄貴、なーがむすっとしてるぜ」
「っく、目の前に極上の幼女が。しかし新たな幼女に出会う為には極上の幼女と別れなければ………。拙者は一体どうすれば………」
「師匠、お腹が減りました!」
「天月様、七星様だけでも此方で預かりましょうか? 流石にお疲れでしょう」
「あ、じゃあ拙者が変わりに………」
「止めとけジン、アマツとヨウとココロさんに殺されるぞ」
そんな会話から十数分後。
レイアから二人の女神からの『お願い』と言う名の依頼を聞き受けた天月ら十人は異世界へ降り立つ。
個性――と言うよりも、人間としての癖が強すぎる十人。
二人の女神は知らない。
これからこの十人の人間に頭を悩まされることに。
二人の女神はまだ知らない。
偶然とは言え、この十人の人間に出会えたことはとんでもない幸運だと言うことを。
次回から本格的に本編が始まります。
十人の主人公の内、最初の主軸は……倉井 天月!