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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 蒼鱗の蜥蜴人 編
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青の章 第56話 強み

青の章 第56話 強み

 

 「はぁ」

 

 意気消沈、俺の今の感情を言葉にするならこの四字熟語より適切な言葉は存在しないだろう。

 ため息が口から漏れるのも無理はない。刻まれた傷は癒えたが、身体の芯に巻き付いた鉛の様な疲労感が心と体を重くする。

 

 『随分落ち込んでいるな。まあ完全に敗北を喫したのだから当然と言えば当然だろうがな。途中まではなかなか良かったぞ、身体捌きも、戦い方もな。だがはやり私の予想通りの結果になった。だがこの結果は当然の結果だ。本来蜥蜴人では束になっても勝てない相手なのだから』

 「ご馳走を喰い損ねた……」

 『……そっちか』

 

 別に晶甲羅蟹を腹いっぱい食った後なので特別空腹と言う事も無い。

 だからと言ってお預けと言うのは、……楽しみにしていただけに、気落ちも大きい。

 

 まあ、収穫はいろいろとあったのでプラスマイナスゼロ……やっぱり少しマイナスだな。

 

 収穫と言うのは、魔蠍と戦って幾つかの事に気が付いた。

 一つ、スキルは腹が減るという事。今まであまり意識していなかったが、母の言葉通りスキルを何度も使ていると、かなりのエネルギーを消費すると言う言葉の意味が実感・・として理解できた。俺が降参した理由の一つが、これ以上魔蠍と戦っても俺の体力が持たないと感じたからという事もある。つまりはじり貧を確信したのだ。

 戦う前は満腹だったが、現在は腹三分目って所だ。空腹でもないが普通に食事が食えるくらいは腹が空いている。

 

 二つ、俺の力不足、攻撃手段不足だ。魔蠍の防御と再生能力と突破するには一撃の力がまず足りない。俺の攻撃力と攻撃間隔ペースでは、魔蠍の再生する速度に間に合わない。

 魔蠍を倒すには母がそうしてみた様に、一撃で倒せるほどの強力な攻撃手段。もしくは再生が間に合わない連続攻撃位しか思いつかない。

 魔蠍の様に毒や、それでなくても晶甲羅蟹がして見せた鋏を発射する等の遠距離攻撃手段があればまた違った戦い方が出来るのだが……、残念ながら晶甲羅蟹を喰ってもその様なスキルは得られなかった。

 回復が追いつかない様な連続攻撃も、今のところ出来そうにない。まあ地道な鍛錬を続ければ少しは完全出来るだろうが、この小さな体で戦う限りあまり大きな変化は望めそうにも無い。


 戦い続けて分かったが、魔蠍の甲殻は晶甲羅蟹よりも強固だ。爪ではかすり傷位しかつかず、蹴りを入れようものなら俺の脚が痛くなる程だ。噛みつきを強化するスキル【咢の一撃(ヂョー・バイト)】であれば一応尻尾を噛み千切る事も可能ではあったが、噛みついている最中は無防備な上に他の行動が殆ど取る事が出来ない。距離を取る事さえ出来ないのだから攻撃され放題だ。

 実質、尻尾でのスキルを使った攻撃以外魔蠍の甲殻にダメージを与える手段が無い。

 だが魔蠍は基本的に尻尾と両腕の鋏の三つも攻撃手段がある。それも無視できない威力。俺の鱗を持っても僅かに傷を負う威力を持っている。

さらに喰らってはいないが、口元の鋭い鋏状の牙を見る限り噛みつき攻撃も考えられる。

 

 そして更に絶望的な事に……

 

 『ふむ、どうやら気が付いている様だな』

 「魔蠍は、本気では無かったのだろう?」

 

 いくら俺でも流石に気が付く。

 確かに戦って見た感じ、魔蠍は強く感じた。だが何となく行動の端々に余裕の様な物を感じた。命のやり取りをしているのに全く危機感が感じられなかったのだ。

 それに負けておいて言うのもなんだが、あの程度で晶甲羅蟹四匹は無理だろう。精々二匹だ。

 これでは母の説明と魔蠍の実力が矛盾している。

 

 『お前に死なれたら私の楽しみが無くなるからな。本来魔蠍の主力となるアクティブスキルを二つ、使わない様に命じておいた。それらを使えば今のお前は簡単に死んでしまうからな』

 

 悪戯が成功した子供の様な雰囲気で饒舌に語る母。

 その姿に少しだけ、本当に少しだけ微笑ましい物を感じながら、俺は次の言葉を繋ぐ。出来るだけ母を持ちあげる様に。

 

 「それで、敗北者たる俺からすれば、強者たる母に強くなるための教えを乞いたいな」

 『そうかそうか。ならば可愛い我が子の為に私が一皮脱ごうではないか』

 

 肌じゃなくて皮なのか。まあ皮で正しいのだろうけど。

 


 晶甲羅蟹の残りを喰いながら、俺は母の言葉に耳を傾ける。

 

 『アマツキ、お前はスキルについてどの様に認識している?』

 「……どの様に? って、むぅ。便利な能力だとしか思っていないが」

 『まあ、間違いではない。スキルとは生物の持つ能力を形にした物。それがどんな物であると……自身の能力を向上させる物でも、低下させる物でも同じ。長寿な種族の間では「世界を想像した神からの恩恵」などと呼ばれてもいるが、それは別にどうでもいい。ではスキルを新たに得る時、何が大事だと思う?』

 「大事? むーぅ……レベルとか経験値か?」

 『それも大事だが、スキルを得る上で大事な者は基本的に三つだ』

 「三つ……」

 『一つは強さと経験。お前の言った通り、一定のレベルや経験値が大事となる。例えばレベル一の生物が【筋力強化】などのスキルを得る事は殆どない。【筋力強化】にはある程度身体を酷使する事が条件で、身体を鍛えれば自然と経験値が入りレベルも上がる。どの段階で手に入るかは種族によって違うが、例えば蜥蜴だと最低でもレベル十を超えねば獲得は出来ぬ。更に身体を酷使すると言う条件も同時にクリアする必要が在る』

 

 むぅ。これはその通りなのだろう。俺も体を鍛え始めてから【筋力強化】を手に入れた。

 

 『二つ目は種族。種族によって得られるスキルは異なる。分かりやすく言うと、アマツキは生まれつき【自切】のスキルは持っていたか?』

 「……あーあー、確かに生まれつき持っていたと思うぞ」

 『【自切】は尻尾や触手のある生物が持つスキルで、当然ながら子鬼ゴブリン等は獲得出来ない。鱗を生み出したり強化するスキルもそうだ。鱗を持たない生物が持つことは無い』

 

 なるほどな。まあ確かに子鬼が尻尾を切るスキルや鱗を強化するスキルを持っていても意味が無いだろうしな。

 

 『三つ目、それは個体の「心」だ。「魂」という事もあるな』

 「一気に具体的ではなくなったな」

 

 母は自分の中で考えをまとめている様子で首を左右に傾げる。

 

 『これは説明が難しいが。そうだな、例えば私は自身を強化するスキルが殆どだ。これはお前もそうだろう』

 「むぅ? スキルは自分を強化する物では無いのか? 俺はずっとそう認識していたが」

 『それは間違いではないが、正解でもない。例えば群れで生きる生物の中で長になる個体は【統率】などと言うスキルを持つらしい。これは他の個体に命令を伝えやすくなりまた連携を取りやすくなるスキルで、群れの個体が全て覚えるスキルではない。長たる「心」を持った個体が持つスキルだ』

 「うーん、つまりスキルには他者に影響を与える物もあるという事か?」

 『そうだ。他にも特定の種族の能力を上げたり下げたりするスキル等もある……らしい。私は持っていないので詳しくは分からないが』

 「「心」に「魂」ね……」

 『他者を労わる「心」を持つものは他者を癒すスキルを持つ事もあるが、群れを嫌ったり、自分の事しか考えない物は他者を癒すスキル等持つことは無い』

 

 何となくだが理解した。

 つまり性格……この場合「心」と言うらしいが、それにそぐわないスキルは基本獲得出来ないのだな。

 

 『お前は「魂」と名の付くスキルを持っている。もしかしたらそれは、この世界に生まれる前に居た異世界とやらでのお前の「心」なのかも知れないな』

 「むぅ?」

 

 あったか? そんなもの? ……あー、あった気がする。

 

 『実はな、スキルの種類には限りが無いのだ。スキルは新たに生まれる事もある。私は【ランクアップ】等と言うスキルは聞いたことが無い。恐らくお前が世界で初めて得たスキルなのだろうと私は思う』

 「俺が世界初?」

 「スキルは新たに生まれる事もある。生み出す事が出来るのだ。お前が考えた技術をスキルとして昇華する事も出来る。あくまで可能性の話だが、異世界から来たと言うお前なら思わぬスキルを生み出せるかも知れないな」

 「良く分からないが」

 『まだ理解をしなくてもいい。だが覚えておけ。新たにスキルは生み出せる事をな』

 

 その言葉を最後に母は寝息を立て始めた。

 

 俺は自身のステータスを確認しながら、母の言葉を思い返し、強くなる方法を探し続けた。

 幾つかのスキルを使いながら、それがどう応用できるかを考える。自分に何が足りないのか、何が必要なのかを考え続ける。


-----


 数時間後母が眠りから覚めた時、俺は血まみれの姿でこう言い放った

 

「手加減は抜きで、魔蠍と戦わせてくれ」


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