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青の章 第 過去話 卑怯者の戦い

『スナック菓子』感覚で楽しめる番外編を書こうと思ったら『三十分で食べきれたらタダになる系のラーメン』の様にボリュームがアップしてしまいました。

 文字数で言うと当初の三倍にまで膨れ上がっております……。申し訳ありません。

青の章 第 過去話 卑怯者の戦い


 「そんじゃ私様はこのまま外で適当に暴れてるから、お前らは洞窟探索でもして来いよ。あ、あーたんも連れてけよ~」

 

 そんな風に気軽に指示を出したキョウカが増援・・のテロリスト数十名に突撃する様を見届けてからおおよそ二十分。慎重にテロリストのアジトに潜入し、少しずつ少しずつ慎重に歩を進める。先頭を歩くのはアマツキ、最後尾で後方を警戒するのが俺。ソニアはアマツキと俺の間で守られる形だ。

 

 このアジトの構造は厄介な物で、基本的には一本道なのだがとにかく曲道が多い。

 俺も坑道なんてたった数度しか入った経験は無いが、鉱物を掘り起こすのだから普通は採掘面積を増やす為に枝分かれを繰り返す。つまり、恐らく敵は守りやすくする為にわざわざ改造工事でもしたのだろうが、これが嫌と言う程有効だった。

 厄介なのが曲がり角での待ち伏せ、更に罠として設置された全自動のタレットと中々に嫌らしい防衛方法だ。

 ―――だが今回に関しては相手が悪かった。

 

 先頭を歩くアマツキ。彼はそこそこ付き合いのある俺が贔屓目に見ても異様だった。―――キョウカ程ではないがな。

 まず、感が鋭い。今までに曲がった角は既に十二、そして敵が待ち伏せしていたのは二回だ。その二回ともがアマツキによって気付かれ、俺の持つ手榴弾によって抵抗する事さえ許されず処理された。

 驚くべきことにアマツキは「何となく嫌な予感がする」と言う理由だけで俺に手榴弾を投げる様に指示をし、見事に敵の罠を食い破って見せたのだ。まあ実際手榴弾を使ったのは四回で、敵の待ち伏せが二回、タレットが設置されていたのが一回、何も無い外れが一回だ。四分の三で罠を見破ったのだから天晴あっぱれな感だと言えよう。

 本人曰く野生の獣の感の様なものだそうだが、戦場で感が良いと言う事はどんなにいい装備よりも己の身を守る術と言う事だ。全く歴戦の軍人か傭兵並みの感の鋭さを、成人して間もない上に両手の指程しか戦場を経験していない青年が持っていると言うのは、全く悪い冗談の様だな。

 因みに待ち伏せしていたテロリストは数m間隔で作られた粗末な部屋を使って隠れていた。どうやら彼らの寝床らしき部屋だったが、本当に生活に必要な最低限の物しか置かれておらず彼らの生活の苦しさを物語っているかの様であった。悪臭が酷く漁る必要も無い為ろくに調べはしなかったが、この分だと十分な食事が出来ているかも怪しいな。

 連携して奇襲でも掛ければいいものを、自身の力を過信しているのか、若しくは自分の命を守る事しか頭にないのか、ここまで二人以上で固まっているテロリストは見ていない。

 

 「……むぅ」

 「……また嫌な予感か?」

 「だな。……トッド手榴弾を」

 

 俺が曲がり角の向こうにピンを抜いた手榴弾を投げ入れ、数秒の間を置いて炸裂音が通路に響き渡る。……がしかし悲鳴や怒声は聞こえない。……人の気配は一先ず無い。これは外れか? いや、タレットやそれ以外の罠の可能性もあるな。

 

 先頭のアマツキが慎重に通路の先を確認する、が直後連続した発砲音が鳴り響く。タレットか……。ここのテロリスト共のバックは金が有り余っているらしいな。こんな奴に使うなら俺に少しくらいくれよ。

つい先程突破したタレットも砲門が四つ、更には恐らく赤外線自動照準機能付きのかなり新しいタイプのタレットだった。強度も高く手榴弾程度では倒れもしないだろうな。

 

 「あー怖い怖い。さて、一応聞くがどうする?」

 「アマツキには悪いがここまで時間を掛け過ぎている。これ以上敵に時間を与えたくはないから、悪いが……」

 「むぅ、仕方ない。では言って来る―――ああ、悪いがコレ持っといてくれ。壊れたら困る」

 

 そう言ってソニアに翻訳機を渡すと、曲がり角の奥へと駆け出すアマツキ。

 先程よりも長くが、それも金属同士が激しく衝突する様な音と共にピタリと止まる。どうやらタレットの破壊に成功したらしい。

 

 「……トッド、こんな状況下で聞くのはどうかと思いますが……アマツキはどうして敵や罠が分かるのですか?」

 「感、らしいぞ」

 「…………はぁ。では彼はどうやってタレットを壊しているのですか?」

 

 おお、入口からここまでの間、青ざめた顔色で無言のまま歩いていたソニアも少しは余裕が出て来たらしいな。好奇心を満たす為に控えめながら俺に質問を繰り返す。いや、理解不能と言う消化しきれない恐怖をどうにかして自分の理解の範囲内に収めたいのか?

 俺からすれば味方である内は怖がるだけ無駄と言うものだが、ソニアの気持ちも分からなくはない。ここは俺が、戦友ともの誤解を解いてやりますかね。

 

 恐らく彼女は思いもよらない高度な技術、又はまるでヒーロー映画の主人公の様に特別な能力スキルを駆使してアマツキが敵の罠を食い破っていると想像しているのだろう。

 だが残念ながら彼女の想像している様なドラマチックな仕掛けトリック等存在しない。現実はいつだって単純シンプルなのだ。

 

 「簡単に説明すると、アマツキは馬鹿みたいに雨弾の中に突っ込んで、馬鹿みたいに力任せにタレットを壊したんだ」

 「…………え?」

 「アマツキはキョウカと違って弾丸を全て避けながら敵陣に飛び込むなんて真似は出来ないらしい。ま、当たり前だけどな。だがあいつはキョウカと組んで仕事している事から何となく想像できるかも知れないが―――あいつはあいつで頭のネジが数本外れてるんだ。勘違いするなよ? 傭兵って言ってもピンキリだからな。因みに俺は傭兵としては上の下って所かな!」

 「はぁ」

 『おい、聞こえているぞトッド。誰の頭のネジが外れているだと?』

 

 おっと、良い所に本人が帰って来たな。アマツキは一旦ソニアに預けていた翻訳機をどこか疲れの見える動作で付け直すと、半目で俺を睨みつける

 

 「首尾はどうだ?」

 「……むぅ。タルト―――じゃなくてタレットと言ったか? 頑丈だったが、多分もう動かないだろう。念のため銃口を壁に向けて倒しておいたし何カ所かコードを切った」

 「そりゃいいな」

 「―――全く、人の事を馬鹿だ何だと……。自分でも頭が悪い事は自覚している。しかし、他人に言われると少し気分が悪いぞ。それにあの真紅の馬鹿と比べられると更に気分が悪い。俺はあんなに理不尽じゃない」

 「悪かったって」

 

 どうやら馬鹿と呼ばれるよりキョウカと同類と呼ばれたことに気を悪くしたアマツの機嫌を取りつつ、先を急ぐ。途中俺の説明では理解が及ばなかったのか以下の会話が繰り広げられた。

 

 「あの、アマツキは本当に弾幕をかいくぐり二度もタレットを破壊したのですか?」

 「むぅ? 別にかいくぐった訳じゃないぞ? なんならほぼ全弾直撃したな」

 「……冗談ジョークですよね? パッと見た限り少なくとも防弾チョッキでも防ぎきる事は難しい代物でしたが?」

 「ああ、俺の来ているこの服、これが特別製でな。俺の友人が作った何とかと言う繊維で出来ててな。物凄く多機能何だ。確かスナイパーライフルとやらで撃たれても破けないし、日本刀でも切れない……と言う話だ。まあそんな物騒な物で撃たれた事も切られた事も今の所無いのだがな」

 「そんな物が……」

 

 どこか嬉しそうに、愛おしそうに自身の衣服を撫でるアマツキ。その光景を愕然とした様子で凝視するソニア。

 ああ、アマツキが傭兵として働きだした最初の頃、俺と同じように傭兵らしい装備で戦場を駆けていた。しかし、大体―――二年程前からか? あの燕尾服を身に付けていた。詳しく聞くと防弾チョキどころか防弾ガラスなどよりもよほど丈夫な繊維で出来た特注品らしい。そんなものがあるなら俺も買いたいと値段を聞いたところ、正気を疑う程馬鹿げた値段だった。

 と言うかそんな物を買う金があるなら傭兵何ぞしなくとも、どこかに豪邸でも建てて死ぬまで普通以上の生活が出来る。聞くところによると妹と知り合い数人による合同の誕生日プレゼントで貰ったらしいが、もはやどこからツッコめばいいのか分からず、俺はそれ以降アマツキとキョウカはベクトルが違うだけで同じような理不尽な存在であると認識するようになった。先程は口が滑ったが、滅多な事ではそんな台詞セリフは言えないけどな。

 

 「ではその服を着ている間は銃弾を無効化できると? 恐らくBSCでもその様な装備は開発されていない筈……」

 「……むぅ。どうやら勘違いしているみたいだが、そんなに便利なものじゃないぞ? いや、十分便利だが、流石に布は布だからな。弾丸の貫通は防げても衝撃はかなり通す。だから結構痛いのだ。因みに先程と今の銃弾の雨で肋骨一本完全に折れて腕やら足やら至る所にヒビが入っている状態だからな」

 

 アマツキがソニアに向けて上着を捲り己の腹部を見せる。すると良く鍛えられた腹筋は点描の様に夥しい鬱血した弾痕が浮かび上がっていた。それだけでは無く有刺鉄線に突っ込んだ時に付けたのか引掻き傷の様な物も確認できる。それを見たソニアは眉を顰めるが、それ以上アマツキに何かを聞く事は無かった。

 常識的に考えて防弾チョッキ着ていても銃弾が直撃すれば稀に骨折もあるし、銃の種類によっては死ぬ事だってあるんだ。あんな薄い布で防ぐのは無理と言う物だろうな。貫通を防いでいるだけでも十分驚異的な性能と言う物だ。

 因みに、仮に俺や他の傭兵がアマツキと同じ服を着ても同じような効果は発揮しない。第一普通はアレだけの負傷で平然としていられないし、銃弾の衝撃に構わず全身等とても出来ない。むき出しの頭部に弾丸が当たれば終わりだ。その点アマツキはどれほど傷を負っても苦痛で動けなくなることは無いし、服の及ばない頭部に飛んできた弾丸をナイフで弾く程度の芸当は平気でやる。

 耐久力と反射神経だけ見れば、彼は傭兵―――いや、人間としてかなり高いスペックを持っているのだ。

 

 「むぅ? 何やら他と違うドアがあるな。何だか頑丈そうだ」

 「おお、他の部屋のドアは大体開け放たれたままだったのに、ここだけしっかり閉まってるな……察するに、ただの兵士が寝泊まりする部屋ではなさそうだ」

 「どうする?」

 「……どうだろうか? この中に目的の製品が隠されているなんて可能性はあるか?」

 「ん~、ゼロではないだろうな。なんにしても敵にとって重要な部屋である可能性が高い。大分奥まで進んで来たし、念のため調べておくか」

 

 他に比べて見るからに頑丈そうな作りの扉は、指紋認証及び静脈認証式の電子ロックが掛かっていた。俺は腰のポケットに入れていた小型PCを取り出すと、電子ロックに接続し無線の電源を入れる。

 無線の先はアジトよりも近隣の街の近くに待機しているディーだ。

 

 「こちらトッド。ディー、いま俺のPCに接続されている機械の電子ロックを外してくれ。何分で出来る?」

 「こちらディー。……確認した。最低でも五分かかる」

 「了解した。外の連中はどうしてる?」

 「キョウカ以外の連中、仕事が無いって嘆いている。アジト周辺は死体の山だ。このまま増援が無ければ後二十分と掛からず殲滅が終わるだろう―――いや十分と掛からんか? 敵の全滅が確認でき次第、援軍数人をそちらに送る」

 「助かる。何かあったら連絡をくれ。―――通信終了」

 

 それから本当に五分で扉のロックが外れる。流石、ディーは出来る男だな。

 

 警戒を怠らず部屋に入るとそこには山積みになった木箱が確認できた。人の気配はない。

 半分程度の木箱は空で蓋が開けっ放しになっていた。試しに近くの木箱を開けると中にはアサルトライフルが入っていた。アマツキとソニアも手伝って幾つかの箱を開けたが中身はアサルトライフルの他にもハンドガンやミニガン、各種弾丸、時限式の爆弾に手榴弾。変わった所では閃光手榴弾なんてものまであった。

 だが問題は武器の種類では無い。木箱とほぼ全ての武器に記されたロゴだ。アサルトライフル等は此処に来るまでに確認したテロリスト共の装備と同じだ。ロゴまでは確認しなかったが、銃の形自体は見間違え様が無い。

 

 「BSC……、これ全部BCS製品か」

 「むぅ、ただ単に御用達って訳では無い……よな?」

 「ああ、これだけまとまった数があるって事は……考えられるのは、単にBCSの輸送車なんかを襲って奪ったとか」

 「それは無いだろう。もしそうならBCSがそれを俺達に伝えないのはおかしい。アジトの場所や大体の組織に所属するおおよその人数まで把握して使っている武器を見逃すか? 入口一つでこの量の物資を山奥に運び込むのだ。普通警戒してれば分かるだろうに」

 

 相手の装備の正確な情報が有れば作戦の成功率は僅かに出も上がるのだ。本当に依頼を成功させたいなら隠す必要も無いだろうしな。

 

 「後はBCS職員の誰かが製品の横流しして小遣い稼ぎをしているとか」

 「まあ、無くは無いだろうが前のと同じ理由で無いとは言えないが……可能性の話だと幾らでも憶測が立つからなぁ」

 「最後に、この作戦事態がBSCの罠である可能性」

 「実際その可能性が一番高いだろうな」

 「そ、そんな筈は有りません!」

 

 作戦が開始してから目に見えて疲弊していたソニアがここにきて大声を上げる。それはそうだろう。彼女からすれば俺達の予想では、最悪彼女は俺達の敵と言う事になってしまう。俺は兎も角キョウカやアマツキの仕事ぶりを見た後では、その力を自分に振るわれた時「死」以外の結末を迎える事は出来ないと分かる筈だ。

 

 「その予想は絶対間違っています! だって、なら、何故貴方達をこんな作戦に参加させたのですか!? BSCは盗まれた製品を取り戻そうとしているだけです! こ、こんな反社会的組織との繋がりなんて!」

 「むぅ、……トッドはどう見る?」

 「俺の予想としては、そうだな責任問題の回避が目的じゃないか? 例えば、BSCがテロリスト相手に新作製品を売った。しかし、テロリストがそれを使えば自分達の会社との繋がりが世間にばれる。なら盗まれた事にして、取り戻そうとした事実を作る。少数精鋭とか言って少人数を雇って、裏ではテロリストに大量の武器を流して更に警備も強化させる。思えば襲撃してから周辺から応援が来るのが多少速かった。もし俺達が襲撃する事を予想していたなら辻褄が合う」

 

 と言うか、製品が盗まれてテロリストの手に渡ったからと言って、真っ先に傭兵を頼るのは少しおかしい。

 警察や軍に知られれば不味い事があるのかもしれないが、そこまで考えるなら自分達の会社でどうにかすればいいのだ。世界トップクラスの軍事製品会社。装備も人材も充実した自前の警備組織まであると聞く。俺達に伝えた情報が合わされば、世間に知られる前にこのアジトを襲撃して事実をうやむやにする事も可能だろう。

 ソニアに関しては一応会社の人間を送り込んだ事実が有れば俺達が全滅しても、「会社側も人員を派遣して事態の改善に努めた」と世間からの非難は避けれるし、仮にソニアが作戦中に死ねば俺達が無能だったせいで職員が一人死んだと同情を買う事も出来る。スケープゴートって奴だな。卑怯者の考えそうな事だ。

 

 「むぅ、付け加えるなら腕試しと言った所じゃないか?」

 「腕試し? どういう意味だアマツキ?」

 「ほら、新しい武器等を本当に実戦で使えるかどうか確かめる事……腕試しじゃなくてなんて言うのだ?」

 「ああ戦闘証明済コンバットプルーフの事か。確かに、人で武器の性能を確かめるにはこの状況はこの上なく都合が良い訳だ。人体実験はよそでやって欲しいぜ」

 「仕事引き受けて実は実験目的でした……と言うのはこれで三回目だよ。二度あることは三度あると言うが、むぅ~あの馬鹿とする仕事はいつもろくでもない」

 「はっはっは、日本語で言うと『ご愁傷さま』って奴だな。ま、仕事が終わったらアレックスの糞野郎に慰謝料としてたんまりふんだくってやろうぜ。ただでさえ賃金の少ない傭兵業、稼げる時にしっかり稼ごうぜ」

 「女性の前で口が悪いぞ。全く、お前はその内俺より日本語が上手くなりそうだな。だがまあ、そうだな。家族の為、もう少し我慢するか」

 

 もはや顔色が蒼白を取り越して死人の様に血の気を失っているソニアを横目に、俺達は武器庫と思われる場所を出る。そしてすぐさま通信でディーに俺とアマツキの予想を伝える。そしてそれをディーから他の作戦中の者達に伝える様に頼む。これで万が一俺達がここで死んでも他の奴等が下手を打たなくて済む。

 まあ、罠と分かっていても突っ込んできそうな馬鹿が若干一名居るが、そこまでは面倒見れない。因みにアマツキは部屋を出る間際に箱の中身を幾つか盗―――鹵獲ろかくしていた。まあ敵の物資なのだからどうとも思わないが、戦場が初めての女性が一緒に居るのだ。あまり汚い現実を見せるのはどうかと思うぞ。

 俺は大分重くなったポーチやポケットから物がこぼれない様に直しながら、気を引き締めて辺りを再び警戒する。

 

 慎重に先を進むが、今度は数分と経たずに一枚の扉が現れた。扉がある事は問題ない。先に進む事が目的だからな。問題はまるで来てくださいと言わんばかりに扉が全開になっている事だ。

 更に言えば扉の奥、恐らくホールの様な真っ白な広い部屋の中央に白衣を着た中年の男が堂々とした様子でそこに立っているのも問題だ。

 どう良い様に解釈しても歓迎しているとは思えないしな。

 

 「どうしたのだい? 早く中へ入ってきたまえよ。大丈夫、罠は無い」

 

 どうするか迷うより先に向こうから声が掛かる。

 確かに小奇麗な姿は先ほどまで居たテロリスト共とは大違いだが、だからと言って一般人であると言う保証はない。と言うかほぼ百%罠だろうが、ここまで隠す気が無い罠も珍しい。

 

 だが引き返した所で目当ての製品モノは見つからないのだ。だから俺達は慎重に中に入―――。

 

 「むぅ、俺はアマツキと言う。イメージカラーは青。今は傭兵の仕事中だ。少しばかり質問してもいいか?」

 

 俺が動くより先にアマツキが部屋に足を踏み入れる。その際に手に持っていたナイフを手の内で二回転させながら腰のホルダーに仕舞う。

 これはアマツキが仕事で使うサインだ。一般的に使われるハンドサインもまさか敵の目の前で堂々と使うのは危険だ。そこでアマツキが独自に考えたたった数種類しかないサイン。今の所キョウカと俺、それにアマツキの友人しか分からないサインだ。

 ナイフを二回転させるのは「下がれ・後退しろ」、ナイフを仕舞うのは「時間を稼ぐ」と言う意味だ。

 つまりアマツキは自分が時間を稼ぐから隙を見て逃げろ―――と言いたいのだろう。アマツキばかりに嫌な役を押し付けてしまうのは心苦しいが、想像通り罠が張られて居るなら俺よりアマツキの方が生き残る可能性が高い。だが、最低限援護は出来る様に少し離れながら愛銃を構え、白衣の男の頭部に狙いを定めて置く。

 アマツキが警戒していると言う時点で、少なくとも見た目以上に危険が潜んでいる事は分かり切っているのだから。

 

 「うむ、何かね。残念ながらここはドレスコードをして来る様な所ではない。お帰りは回れ右だ」

 「かっはっは。ま、服装に付いては貴方も人の事は言えないだろう。貴方はテロリストの一員か?」

 「まさか。あんな低俗で野蛮な連中と一緒にしないでくれ」

 

 ゆっくりと勿体ぶる様に歩を進めるアマツキを、どこか見下した表情で見つめる白衣の男。男には目立った動きはない。武器を構える訳でも、逃げる訳でもなくただ立っているだけだ。

 

 「むぅ、では何者だ?」

 「……恐らくは君が、君達が探して居る物を持っている者さ。元BSCの研究員、一応は部長の地位を持っていたが、……今はフリーの科学者とでも名乗ろうか」

 

 ……やはりこの男がBSCから製品を持ち出した犯人か。まあ、管理が厳重な軍事会社から盗みを働けると言う時点で|会社(身内)の人間以外不可能だろう。ここまでは想定の範囲内だ。

 

 「じゃあ「ぐろすいーたー」とか言う小さい機械を盗んだのも貴方か?」

 「人聞きの悪い言い草だね。私は私の愛する作品達を自分達の利益しか頭にない、愚鈍で蒙昧な物たちから救い出しただけだよ」

 「むぅ、何でもいいが、出来れば小さな機会を渡してはくれないか? 見た所戦闘員ではなさそうだし、身体を鍛えている様には見えない。怪我をする前に……、むぅ? 作品・・……?」

 

 首を傾げたアマツキ、その足がホールらしき部屋に一歩踏み込む。

 瞬間、突風が俺の横を駆け抜けた。

 ―――いや突風の正体は吹き飛ばされたアマツキの身体だ。

 銃声も爆音も無く、突如として成人男性が数mもゴムボールの様に吹き飛ばされるそのその姿はどこか非現実的で、しかしどこかで見覚えのある光景だった。

 ああそうか、そう言えばつい先刻同じような光景を目にしたな。―――等と少しばかり現実逃避気味な方向に思考が逸れる。しかし身体は異常事態に反応して白衣の男の胴体部に銃口を向けていた。後数mm指を動かせば弾丸が発射されると言う所で背後からどこか呑気な声が聞こえる。

 

 「……ぐぁ、っう。一日に二回も飛ばされるとか、今日は厄日だな……あー、また肋骨折れた」

 

 若干苦しそうな声音ではあるが、どこか気楽な内容は恐らく自らの無事とまだやれると言う

 

 「トッド、援護はいい。ソニアさん連れて、隙を見て逃げろ。流石にあれの横を通って更に奥に行くのはかなり無理があるだろう」

 「おい! 大丈夫なのか!」

 「むぅ、時間稼ぐ程度なら余裕だ」

 

 すぐ傍をゆっくりとした足取りで横切るアマツキを横目で観察するが、その姿は堂々としたものだ。多少ぎこちなさは感じるが、既に抜き放った二振りのナイフをだらんと握り一歩一歩確実に前へ歩いている。

 

 「おやおや、今ので死なないとは、アレックス君も良い素材を寄越してくれたのだね。判断もいい。この先は他の屑共には入る事さえ許していない私の研究所だ。警備システムもしっかり引いているからね。私の許可なく侵入するのは無理だよ。まあ、だからと言って簡単に逃がすつもりも無いけどね」

 

 何やら芝居がかった口調と無駄な身振りで、明らかにこちらを見下す白衣の男は薄ら笑いでアマツキを眺めている。かと思えば次の瞬間天月の真横・・で金属同士が激突したような激しい音が生まれる。アマツキはいつの間にか側頭部の傍にナイフを構えており、僅かに態勢を崩した事から何らかの攻撃を防いだことは間違いない。

 注意がアマツキに向いている内に男を狙撃しようと試みたが、アマツキがよろけ射線上に居る為、狙うには一歩以上動かなければならず、そうなると相手の攻撃の正体が不明な以上俺の後ろのソニアが危険に晒される。

 

 「むぅ、会話の途中で攻撃とは―――」

 「はっはっは、まさか卑怯とは言うまい? 君たちの方がよほど野蛮な」

 「お互いさまだな」

 

 アマツキの言葉がスイッチとなったかの様に聞きなれた爆発音。咄嗟に頭部を守ったアマツキに、アマツキと爆発の直線状に居た俺とソニアは無事だったが、恐らく至近距離で爆発を受けたであろう白衣の男は―――。

 ああ、何となくそんな気はしていたが、傷一つ無い様子だった。ここまで化け物並みの奴等がポンポン出て来ると自分の非力が情けなく思えて来るぜ。

 

 「きっ貴様! この、この卑怯者が!」

 「不意打ちには自信があるのだ。機械を相手にするよりよっぽど得意と言う物だ。卑怯者? いい響きじゃないか。カッコいい」

 

 俺はふと先程の爆発の原因を悟る。恐らくアマツキは先程敵の武器庫からくすねた―――鹵獲した手榴弾を使ったのだろう。それも一度不意打ちを成功させて相手の油断を誘い、二度目の攻撃の際にわざと体勢を崩したふり・・をして防いだ際の金属音に紛れさせて手榴弾を投擲して置いたのだろう。敵の物資で敵を攻撃、それも不意打ちとは良い性格してるぜアマツキよ。

 だが相手を卑怯と罵るとは傭兵を何だと思っているのかね。戦場では生き残る事が全て。不意打ちだろうが何だろうが生き残る事も出来なければ意味が無いのだからいいのじゃないかと思ってしまうが、脳みそがまあぬるま湯に漬かった一般人にはその感覚は分かりずらいのかも知れないな。

 

 

 再びの金属音、しかし今度は完全に受けきったらしいアマツキが逆に挑発するように語り掛ける。続けざまに何度か金属音が響くが、構うものかと言う様子でアマツキはどこか気だるげな表情の口元だけ歪めると、ナイフの先をおもむろに白衣の男へ向けると、どこか普段より楽しそうな声音で言葉を紡ぐ。

 

 「これは俺の友人が考えてくれた決め台詞と言う奴なのだが、―――さあ食事の時間だ」

 

 これを仕事で言うのは久しぶりだ、そう呟いたアマツキは更に不敵に口元を歪めた。それが引き金となり、自称卑怯者の戦いが始まった。

 

 

 

 

 


過去話完結まで後一話。

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