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青の章 第 過去話 暴君と卑怯者

青の章 第 過去話 暴君と卑怯者

 

 「……科学とは、あらゆる現象を知り、未知を道理に落とし込む物だと個人的に認識しています。大昔には漠然とそう言う物だと思われていた、若しくは認識すらされなかった物―――それらを当時の科学者はそれがどういう物なのか、どういう現象なのか、地道等と言う言葉では到底表せない程膨大な研究の末今の科学が積み上げられた」

 

 昨日、白衣姿だったソニア。だが本日は迷彩柄のコートに身を包み、木々の中、俺の隣で独り言の様な声音で呟く。因みに迷彩柄コートの中には俺の予備の防弾チョッキも身に付けている。チョッキを受け取る際、|男(俺)の衣類を着る事に抵抗があったのか受け取る際にかなり深い皺が眉間に見られたが、もう一人の女性であるキョウカが防弾チョッキどころか裸じゃないだけましと言った服装の為渋々受け取ったらしい。

一応洗って消臭剤とかも使っているので臭くは無い筈だが、時折ソニアが自身の匂いを確かめる仕草をする度に俺の心が若干傷つくからやめてほしい。まだ加齢臭が出る年じゃないやい!

 俺はソニアに顔を向ける事無く、愛銃のアサルトライフルを手に前方に注意を向ける。

 

 「科学者と言う人種は、ある意味未知を求め未知に生かされている人種なのでしょう。未知に踏み込む勇気が無ければ科学者とは言えませんし、未知が存在しなければ科学者は必要ありません」

 

 ……今日はテロリストのアジトに突入する当日。それも件のアジトは目の前にあり、当然そこには武装したテロリスト共が居る。昨日の今日で突入するのは一般人たるソニアからすれば急性かと思われたらしいが、しかし敵も馬鹿では無い。周辺の地域には少なからず情報網を引いているだろう。

仮に俺達が突入すると言う情報がどこかから漏れれば危険リスクが増すと言うのは言うまでも無い。即日決行は今の俺達にはいいアドバンテージになる事も言うまでも無いだろう。

 

 「私もBSCの研究員として科学者となって数年、未知に触れる機会も少なくありませんでした。うぬぼれている積もり等はありませんでしたが、大抵の事では動揺する事は無くなりました。想定外の事態等、普通に生活していても無数に起こります。私達科学者はそう言った想定外に出会った際、どのように対応するかを即座に対応しなければなりません」

 

 ……本来、戦場では仲間同士の軽口程度なら兎も角、こうまで長々と話しをする事は稀だ。まして、敵に見つからない様に木々に紛れて隠密行動を取っている際は普通声を出す会話はしない。ハンドサインが殆どだろう。

 だが、まあ、今回は仕方ないかなぁと思う。少なくとも彼女は傭兵でも軍人でも無いのだから、こう言った本来冷静に考えれば馬鹿な行動に出る事も仕方ないだろう。馬鹿な行動をした場合直ぐにフォローする為に俺が彼女の脇に控えているんだが、目の前の光景は流石にフォロー出来ない。

 

 「……ですが、これはあまりにも―――」

 

 寧ろ目の前の光景を見てこの程度の動揺で済んでいる彼女を評価するべきだろう。並みの女なら悲鳴の一つでも上げそうな惨劇だ。

 

 テロリストのアジトは一瞥しただけでも厄介な代物だった。出入り口はたった一つ。まあ元は鉱山の坑道を改良したモノらしいから当然かも知れないが、出入り口が一つと言うのは攻め込む側には侵入経路が一つしか無いと言う理由で厄介、守る側からすれば敵の侵入経路が一つなのだから当然有利だ。

 更にテロリスト共は入口の脇に二丁のミニガンを設置。更に入口から半径数百m地点には高さ二m以上の有刺鉄線を使った柵が二重に張られている。常に入口には二名以上がアサルトライフルを持って見張りをしており、有刺鉄線の外には少なくとも四人が二人一組で更には犬を連れて見回りをしている。

 犬の嗅覚だけでも厄介なのに物資輸送の為か、上空をヘリコプターが不定期に行き来している。犬にせよヘリコプターにせよ装備にせよ、これ程潤沢に資金を得ているとなるとこれまた厄介事の匂いがするぜ。

 

 まあ、一言でいうと数人の傭兵がどうにか出来る規模の相手じゃない。―――普通なら、な。

 

 テロリスト共にしても予想外だっただろう。数分前、二m近い男が有刺鉄線の柵に吹っ飛んで・・・・・来るなんてな。

しかもその男はこんな山奥に相応しくない程立派な燕尾服を身に纏っており、縛っているとは言え腰まで伸びた長髪と合わさって、どう見ても警察やら特殊部隊では無い事は明らか。かと言って、こんな場所に居るからには見た目通り音楽家でもやっていると考えるのも難しい。目の前でピクリとも動かず物干しに掛かった洗濯物の様に垂れ下がる男の正体を掴み損ねている事だろう。

 

 

 

 

 数分前―――テロリストのアジト近くに俺達A班が到着して直ぐ、キョウカは半笑いの表情を浮かべ、流れ作業的に延々とプロテインバーを齧っていたアマツキの胸倉を掴むと、ソフトボールでも放る様に軽々とアマツキを数十m離れたアジト目掛けて放り投げたのだ。

 驚愕する俺とソニアをよそに放物線を描いて落下したアマツキは狙いすましたかの様に、犬を連れて見回りをしていた敵のすぐ傍の有刺鉄線に突っ込む。余談だがアマツキは胸倉を掴まれた瞬間何かを悟った様に諦めに近い表情を浮かべ、有刺鉄線に落ちるまで悲鳴一つ上げなかった。それはアマツキの日頃の苦労と仕事に対する意識の高さを物語っており、何故だか知らないが俺はアマツキに酒の一杯でも奢りたい気持ちになった。

 敵も連れていた犬でさえパニックになったであろう彼等(アマツキ含む)の災難は始まったばかりだった。

 

 事態の異常を要約認知した敵が入口の見張りに一言二言言葉を発するとすぐさま二十名近い敵が飛び出してきた。だが、アマツキを前にして困惑しただろう。アマツキを最初に見た見張りが何やら説明をしている様だがどれだけ身振り手振りを交えた言葉も彼らを納得させる事は出来ない様で。一先ず有刺鉄線に引っかかっている目の前の男の身柄を抑えようと近づいて行く。

 しかし彼らの手がアマツキに届く事は無かった。

 

 「あっはっはっはっはっは! いっぱい、いっぱい、いーーーっぱい! 良い感じのサンドバックがあるじゃんかぁーーー!」

 

 森の中で迷彩効果どころか物凄く目立つ真紅色の何かが、狂ったように叫びながらおおよそ人とは思えない速度で彼らの元へ駆けて行く。

 どこか嬉しそうな大声に気が付き、テロリスト共は各々銃を構える。一瞬自分たちに向かって来る者の正体が嫌に色気のある女性だと言う事を認識したため、発砲が遅れる。しかしとても友好的と思えないその姿勢に警告も無く一人が発砲。それに続くように全員が彼女、キョウカに向かって狙いをつけ鉛弾を放っていく。

 

 二十近い銃口から放たれた弾丸は、常人であればハチの巣どころか性別も分からない程ぐちゃぐちゃな死体が出来ただろう。しかし、不思議な事に彼女には一発の被弾も無い。いや、驚くべき事に彼女は被弾する前に全ての銃弾を避けて見せたのだ。

 その時点でテロリスト共は気が付いただろう。今まさに自分たちの元に駆け寄り、拳を振り上げているモノが化け物である事に。だが既に遅い。ほぼ全員が同時に弾切れを起こし、リロードをしなければならない。

 

 最初の犠牲者は顔面を思いっきり殴られた。二人目、三人目は胸部を強打された。

 一人また一人と殴られ、殴られた者は糸の切れた人形の様に倒れて行く。途中ハンドガンやナイフで反撃する物も居たが、ほぼ全てのテロリストは彼女が腕を振り上げた次の瞬間地面に倒れ伏した。

 ほぼ・・と形容したのは、数人のテロリストはいつの間にか背後に忍び寄ったアマツキによって殺された様だ。遠くから観察している為どの様な手段で殺したのかは分からないが、あいつの事だから頸動脈でも切ったのだろう。

 最初の犠牲者から見回りの全滅まで、僅か二分未満の出来事だ。

 キョウカはその勢いのまま曲芸師の様な動きで二丁のミニガンによる弾雨を交わしながら入口に突撃していく。

 

 「……あ、あれは、彼女は本当に人間ですか? いや、えっと」

 「あー、混乱するのも分かる。だが一応人間らしい。本人曰く身体に一度もメスを入れた事は無いし、ステロイドもやってないそうだ。ま、あの程度で驚いてちゃ仕事にならん。さっさと行くぜ~」

 

 なるべく流れ弾に気を付けながら多少迂回して森を歩く。まあ森と言っても頻繁に人が出入りしている為数本の車が通れる道の様な物は有るのだが、態々わざわざ的になりに来た訳では無いので木々の間を転ばない様に進む。

 いつの間にか止んだ戦闘音。周囲は血の海と壊れたミニガンやら有刺鉄線やらの残骸のみ。そしてその中心でイライラと足を揺らしながら腕を組む不機嫌そうなキョウカと、これまた微妙に機嫌が悪そうなアマツキが並び立っていた。

 

 「おせーぞ。なにちんたら歩いてんだよ。殺すぞ」

 「むぅ。俺はお前を殺したいのだが? 急に投げ飛ばされた上にこのトゲトゲに突っ込んだのだ。痛かったぞ」

 「悪かった。だが流石あーたんだぜ~……おいおい、大丈夫か~」

 

 チラリと後ろを見ると、ソニアが数歩分後ろで蹲り吐いていた。

 

 「うえ~」と舌を出して嫌がるキョウカと静かに歩み寄り背中を擦るアマツキ。視線を下に下げて見れば成程納得。

 顔面が陥没し目玉が飛び出している死体。陥没を通り越して胸部に大穴を開けている死体。死体。死体。死体。

 正直銃弾で殺された方がまだ綺麗な死体になるであろう見るも無残な死体が地面を赤く染めている。更には咽かえる様な血の匂い。まあ、戦場で見るにしてはまだましな方と言える状態の死体ではあるが、恐らくソニアは初めて見るであろう生の、スプラッター映画の様な作り物めいて居ない本物の死体。それは彼女の精神の許容を大きく超えてしまったのだろう。恐らくアマツキの仕業であろう首から血を流している死体等は戦場で見るにはまだ綺麗な方なのだが……、彼女の様な一般人にとっては大差ないのかも知れないな……。

 これが新米の兵士や傭兵であれば、何ともみっともないと笑ってやるのだが……。はぁ、これだから素人を連れて仕事するのは嫌だったんだ。

 

 「なんで吐いてんだよ汚ねぇな」

 「いや、キョウカのせいだと俺は思うがな」

 「は? 何でだよトッド?」

 

 心底不思議そうに首を傾げるキョウカ。どうやら自分の作り出した凄惨な殺人現場が今、一人の人間を苦しめている事に気が付く様子は無い。

 

 「死体を見慣れていない女性が、目の前にこんな血塗れの死体共を見せつけられて普通で居られる訳無いだろうに。まあ、泣き喚いたりしないだけ偉いと俺は思うぜ」

 「……え、それ私様全く悪くない? 私様に殴られたくらいで死ぬこいつ等が悪くね?」

 

 心底、本当に心底自覚無く暴論を展開するキョウカに、俺は沈黙する。ヤバいヤバいと思ってはいたが、ここまで頭のネジが外れているキョウカと会話を続けると、俺の方まで常識の在処が分からなくなりそうだったからだ。決して逃げたんじゃない! 戦略的撤退だ!


 因みにこの死体が転がる血の海で最も血塗れなのはキョウカ自身だったりする。特に彼女の肘から下はもはや肌色の部分が無い程真っ赤だ。もしかするとソニアは血濡れのキョウカを見て嘔吐しているのかもしれないが、今それを言うと自分を見て吐かれたと言う事実に怒った狂歌の真っ赤な腕が、ソニアを死体の仲間入りさせてしまうかもしれないので黙っておく事にした。決して巻き込まれまいと逃げたんじゃない! 後方に前進しただけだ!

 

 「ん~」

 

 未だぽたぽたと量の拳から血を垂らすキョウカ。彼女は何を思ったのか、胃が空になっても尚嗚咽し涙を流すソニアの前に回り込む。力なく座り込んでいるソニアに視線を合わせる様に屈むと今日一番の笑顔でこう言った。

 

 「あ~、何だ。なんか良く分からないけど元気出せ? な? 私様は全然悪くないけど、それでも今回の仕事はお前を連れてサンドバッ―――テロリスト共のアジトに殴りこまなきゃならないんだ。ここで倒れられると私様が困る。ほら、コレやるから元気出しな」

 

 そう言っていつまでも握っていた拳をソニアの前に突き出す。ソニアは思わずと言った様子で手を出し、キョウカの拳の中から出て来たそれを受け取ってしまった。

 

 「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 「……むぅ? 何だそれ?」

 「さっき私様が殴った奴からくすねた心臓ハツ。ほら、私様って美人だろ? 沢山のハートを奪っちゃうんだよなぁ~。なんて、あっはっはっはっはっは!」

 「むぅ~。ハートを奪った奴等は腑抜け・・・ばかりの様だが? そんなのにモテて嬉しいのか?」

 「お! 上手いねぇ。臓器が無いから腑抜けとは! 大丈夫! 私様の本命はあーたんだけだぜ?」

 「かっはっは、俺は心無い人間だからな。この胸こじ開けても中身が無いかも知れんぞ?」

 「でも私様の熱いハートはあーたんの物だぜ? 喜べよ!」

 「生ごみを人に押し付けるな。そんなもんごみ袋二重にして燃えるごみの日にでも捨てとけ」

 

 もはや発狂と言って良いレベルに取り乱しているソニアをよそに漫才を繰り広げている狂人共、だが忘れてはいけないのは此処が敵地である事と、敵はまだまだ残っていると言う事だ。

 

 「おいおい、いちゃつくのはいいがお二人さん。まだまだ仕事は終わってないぞ~」

 

 見張りで入り口付近に居た奴等は今姿を消し、入口の奥が騒がしく物々しい音が聞こえて来る。そして敵意に目を血走らせた敵がぞろぞろと湧き出してくる。

 

 「彼女は俺が守るからよ、お二人は存分に暴れてきてくれよ」

 「むぅ、分かった。……おい馬鹿、次俺を投げたら承知しないぞ」

 「あ~? 何だよ、別にいいじゃんか~。ま、いいや。それじゃあトッドはソニアだっけ? そのゲロ女のお守りな。あーたんは適当に援護。私様は突入。あーそれとトッド、狙撃の奴等には私様の周りのサンドバック共には手を出さない様に言っとけ。逃げ出す奴等だけ仕留めろってな」

 「はいはい、いってらっしゃい」

 

 虚ろな目で掌に乗った心臓だったらしい握りつぶされた肉塊を眺め、放心状態で座り込むソニアを眺めながら重くため息を付く。

 

 「久しぶりの大きな仕事だが、こんな場所まで来て女性のお守りリードとは……何と言うか……」

 「カッコ付かないなぁ、って感じか?」

 「アマツキ風に言うとそうだな」

 

 小さく笑い、背中に隠し持っていたホルダーから取り出した大振りなナイフを握りながら走り出すアマツキと、高笑いしながら悲鳴と死体を量産するキョウカを眺めながら、俺はもう一度思いため息を吐く。

 

 はぁ、ここまででも酷い状況何だが、俺の感では更に酷い状況になりそうだと変な確信を持っている自分がいる。しかもこういう時の感は確実に当たるのが嫌なんだよなぁ。

 

 ま、給料分は働きますか。

 

 

 


念のためここで補足しておきますが、タイトルにある卑怯者とは不意打ちで後ろから敵を倒す天月を指します。

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