青の章 第 過去話 惨劇前日
前回の投稿からおおよそ三カ月、筆者の体とPCがぶっ壊れた為に投稿が出来なかった事をお詫びいたします。2000PV記念のSSの筈が気が付けば既に3000PVを超えている……嬉しいやら申し訳ないやらで複雑な心境です。
青の章 第 過去話 惨劇前日
「……」
「……」
「……」
「……」
情報ではテロリスト共のアジトがあるとされる場所から最も近い街へ向かう、最大八人乗りの大型車。部品の一つ一つが最高級とはいかないがそれでも高級品。シートの心地よさから乗り心地、外の騒音を遮断する防音性、更にはこれでもかと言う程の防弾仕様。
正直今回の仕事で得るだろう報酬を全て注ぎ込んでも買えないだろうこの高級車は驚くべき事にBSCから貸し出されたもの。それも二台も貸し出してくれると言う奮発具合。更には壊れても弁償しなくてもいいとまで言われているのだ。
そんな普段の傭兵生活からは考えられない程充実し安全の確保された空間。それなのに車内の会話は四つの沈黙で彩られている。
き、気まずいぜ……。いや、気まずく思ってるのは俺だけだろうな、多分。運転をしている俺以外の乗客三人は、思い思いに過ごしている。
運転席には俺、俺は勿論運転に集中している。隣には今回の依頼で急遽俺達に付いてくる事となったBSCの研究員、……名前はまだ分からん。
研究員と言うからにはベテラン風のおっさんが来るのかと勝手に想像していた所に、若い女性が来たときには正直驚いた。まあ、この女の不愛想具合には更に驚いたがね。この研究員今日会って車乗る前に「よろしくお願いします」以降今に至るまで一言も口を開かねぇでやがんの!
なに? なんか嫌な事でもあったのか? 気まずいんだけどなぁ! てかそもそも何で俺の隣座った!? 止めてくれよ、本当に! 俺口先から生まれた男って言われるくらいおしゃべり好きなんだからさ! コミュニケーションとか関係なく喋りたいんだよ~騒ぎたいんだよ~! 出来ればアマツキ辺りが隣に座ってればちょっと下品なジョークでも問題なく盛り上がれるのによ!
ミラー越しにチラリと後部座席を見れば、俺の後ろには貧乏ゆすりしながら窓の外を眺めるのはキョウカ。研究員の後ろの席にはアマツキが車に乗ってから約一時間、延々と飯を食っている。それも軍事用の高カロリーのバーをだ。お前一日に一体どれだけカロリー取るつもりだ? ソレ二本で一日分のカロリーだぞ? 何十本食った? 車内に充満する甘ったるい匂いに少し気持ち悪くなりそうだ。
「……腹減った。あーたん私様にも何本かくれよ~」
「むぅ」
「ん、何味?」
「チョコ」
―――これはチャンス! 二人の雑談の流れから会話を繋げる!
「あ~それにしてもよ、アマツキは良く食うな~」
「……むぅ? そうか? この後結構動く事になるだろうから軽くつまんでるだけなんだが?」
「それでかよ!? お前とはレストランなんて行けないな! 割り勘でも破産しそうだ!」
因みに今俺達は英語で話している。アマツキの胸ポケットに入っているスマートフォン型の翻訳機はアマツキの発した日本語を任意の言語に、そして右耳に付けられたイヤホンも聞き取ったあらゆる言語を日本語にするそうだが両方とも二十カ国以上の言語に対応しているハイスペックな物で、しかも一度の充電で九十六時間稼働するらしい。アマツキは知り合いから貰ったと言っていたが、機械に詳しくないからかいまいちその性能の凄さに気が付いていない様子だ。
そんな優秀な翻訳機を先日アレックスの説明の時付けていなかったのは、部屋に居る人数が多すぎて説明を聞くには不向きだったからだそうだ。文字なら余計な言葉が入って来てもある程度判別できるし、何より後から記録を読み直せるのが自分に合っていると言うのがアマツキの話だ。ま、俺にはどうでもいい話だけどな。
「そういやアマツキ、今回の作戦ちゃんと頭に入ってるか?」
「むぅ。小さい機械を探すのだろ?」
「ナノマシンな。俺達は馬鹿みたいにテロ組織のアジトに乗り込んでナノマシンを奪う……取り返す役だ。もう一つの車に乗ってるノーシュとカイト、それにロシア人二人はアジトの包囲で逃げ出す奴らの狙撃だなノーシュは兎も角、それ以外の三人の狙撃は一級品だぜ。そこは俺が保証する」
「むぅ? 説明の時あと三人いなかったか?」
「あ~、中国人どもは勝手に行動するそうだ。俺らに合わせるのが嫌なんだと。ディーは先にアジト近隣の街で情報収集だな」
普通は潜入やらなんやら考えるんだが、キョウカとアマツキが居るんだ、強襲が一番成功率の高い作戦なんだ。まあ確かに、あの二人の仕事ぶりは一度見て見ないと分からないよな。どうやら二人の事を殆ど知らなかったらしい中国人二人が、俺達と行動したくないと言うのも無理はないだろうな。向こうの視点で見れば俺達はわざわざ自分から危険に飛び込む馬鹿に見えるのだから。
そもそも傭兵なんて自分の身は自分で守る事が基本だ。無理に俺達に付き合わせる必要も無いだろうさ。因みにディーはいつの間にかアマツキと意気投合し、ノーシュとカイトは今回の傭兵の中では一番ベテランの俺に従うそうだ。ロシア人二人はキョウカの噂を知っていたそうで、キョウカと仕事が楽しみで仕方ない様子だったな。
「……到着まで後どの位だぁ~?」
「あ~ディーの居る街まで……ナビの表記だと一時間半程だな。寝るか?」
「私様は寝るぞ。トッド、車揺らしたら蹴っ飛ばすからな」
「無茶を言うなよ……、コンクリの舗装道路じゃないんだぞ?」
キョウカは言うだけ言ってこれまた真っ赤なサングラスを掛けると静かになった。まったく、本当に横暴な態度だなぁ。ま、慣れればこの言動もどうと言う事も無いな。さて、そろそろ研究員話を振ってみますかね。
「あ~、そろそろ名前を教えてはくれませんかね?」
出来るだけ優しく、俺は隣でスマホを弄っている研究員に話しかける。
研究員は一度目を閉じてから数秒後、深くため息を付くと俺を横目で見ると小さく「ソニア」と呟いた。
「ソニアか、今回は災難だったな。必要だったとは言えこんな危険な仕事に付いて来て。……俺はトッドだ」
俺が前を向きながらソニアに向けて片手を差し出すが、いつまで経ってもその手が取られる事は無かった。……ま、まあいい。
「後ろに座ってる赤い髪の奴はキョウカ、長髪でデカい奴はアマツキ。一応これからの仕事でソニアと共に行動するのはこの三人だ。まあ、名前だけでも覚えておいてくれな」
自分が紹介された事に気が付いたアマツキが「むぅ!」と顔の横で手を振るとソニアはミラー越しに頭を下げた。アマツキにはリアクションするのかよ!
「ま、まあ、よろしくな。ああそうだ、まだまだ到着まで時間がある事だし、ここは一つ身の上話でもしようじゃないか。少しでも仲良くなる為にな? な?」
「……それは必要なのですか? 私は奪われた会社の製品を取り戻す事が仕事。あなた方はそれを手伝うのが仕事。私情は必要ないのでは?」
こ、この女、可愛くねぇ……。
「むぅ、まあ必要と聞かれると首を傾げるが、それでもこの後命懸けの仕事をする上で、お互いの背中を守る必要もあるかも知れないだろう? その時にある程度仲間意識や連帯感が有ると言う事はいい方向に転ぶと思わないか? 少なくとも俺は無意味とは思わんし寧ろ有益であるとは思う。まあしかし、無理に話す必要も無いと思うがな」
「……成程、成功確率が上がるのであれば……いいでしょう。会社の守秘義務が及ばない範囲であれば会話をしましょう」
お、上手いなアマツキ。言葉選びは拙いが、それで素直な自分の考えを言う事でソニアの同意を得るとは。
俺がアマツキを気に入っている理由として、アマツキはあまり言葉を飾らない所にかなり好感を持っている。こういう仕事をしていると悪意ある同業者やこちらを欺こうとして来る依頼主に辟易させられる事も多い。
その点アマツキやキョウカは表裏が無い上にある程度芯がしっかりはっきりしている。やはり素直な日本人と言う事なのだろう。背中を預けるならこう言う奴等が望ましいと俺は思うね。
「じゃあ、先ずは俺達傭兵の雑談の定石。なんで今の仕事をしているのかだな。ソニアは何でBSCの研究員をしているのかだな」
「……別にBSCに特別な思い入れは有りません。大学を卒業後、BSCにスカウトを受けただけの話。……面白い話でもないでしょう」
「いやいや、そうでもないぜ? スカウトって事は優秀な学生だったんだろう?」
「まあ、勉学は嫌いではありませんでしたし」
「大学では彼氏とか作ったのか」
「……それを答える必要は有りません」
彼氏と言う言葉が出た瞬間鉄面皮の仏頂面が僅かに痙攣したソニア。それが質問の答えの様な気もするが、明らかに車内の空気が悪くなった事に反省する。流石に彼氏云々の話をするのは早すぎたな。くそぅ、距離感が難しいな。これがキョウカならアマツキの惚気で到着までマシンガントークなんだがなぁ。
「だ、大学って言えばアマツキは弟と妹をいい大学に入れる為に傭兵やっているんだぜ? なぁ?」
「むぅ。そうだな。弟の方はそこそこ良い大学に入れそうだな。まあ俺と違って頭の出来はいいのだ」
「あっはっは、まあ高学歴で傭兵なんてやっている訳無いからなぁ。頭が良かったらもっと賢く儲けてるだろうよ」
うんうん。ソニアもそこそこ興味を持っているみたいだな。まだスマホの画面に目を落とす事無く話を聞いている。
「……キョウカでしたっけ? そちらの女性は何故傭兵に? 女性の傭兵と言うのは個人的にかなり少ないと思っていましたが」
「むぅ~、この馬鹿はただ暴れたいだけだ。昔から喧嘩が好きで、危険が好きなどうしようもない馬鹿なのだよ、コイツは」
「……昔から、と言う事は傭兵になる以前からお知り合いで?」
「小学校時代からの幼馴染だな。まあ腐れ縁だよ。俺が傭兵になったのもコイツの紹介だ。まあ、その点は感謝しているよ」
「あっはっは、本人に言ってやれば良いのによ。喜ぶだろうに」
「かっはっは、調子に乗るから嫌だね。俺はこの馬鹿が嫌いなのだ」
嫌いと言いつつ同じ戦場に立ち背中を預ける奇妙な関係、それにソニアは若干怪訝な様子を見せるが、こればっかりは俺にも説明出来ない。その奇妙な関係こそがこの二人の特徴とも言えるな。
「あ、因みに俺は親父と喧嘩してその勢いで家出、そのまま傭兵になった。まあ、刺激があると言う意味では退屈しないいい仕事だよ。父親のやってたピザ屋でアルバイトするよりは楽しいね」
これは俺の心からの本音だ。昔から俺は家族の顔色を窺って窮屈な暮らしをしていた。アマツキの様に兄弟は居なかった上に年の近い友達も少なかった。学校には毎日通っていたが別段面白い事も無く、家に帰れば親父の店の手伝い。
ガールフレンドも無ければ熱中出来る趣味も無く、ただただ退屈な日々を送っていた俺は何かを変えようとし、父親と喧嘩をきっかけに実家を飛び出した。
傭兵と言う仕事を見つけるのにそう時間はかからなかったと思う。
昔の選択に後悔はしていないし、これからもしないだろう。俺にとって天職は傭兵、そう断言できる。何より退屈をしないと言うのが一番デカい。後ろの席の二人の様に、思いがけない様な面白い人間と出会う事が出来るのもこの魅力だ。
「……出来れば私はそんなスリルを味合わせないで欲しいわね」
「あ~、約束は出来ないな。今回はキョウカが居るから中々ハードな仕事になるしな」
「はぁ?」
片方の眉を吊り上げるソニアの顔をミラー越しに見て俺とアマツキは揃って首を傾けたが、俺は直ぐにある事実に気が付いた。ソニアには今回の作戦の内容を話していなかったのだ。俺とアマツキの会話である程度予測できるとしても、詳しい説明をしていない為ハードな仕事と言われてもピンと来ないだろう。いや、実戦を経験していなければ説明されても本当の意味では理解できないかも知れない。
それに今改めて意識したが、彼女は傭兵では無く研究者だ。そもそも傭兵の基礎知識も無いのだから話を聞いたとしてリアリティのある想像は出来ないかも知れないな。
「ソニアは銃を撃った事は?」
「会社の近くにBSCの系列である射撃場が有ります。職員はある程度武器の知識を深めるため実弾での射撃を全員がある程度経験しています。それ以外は有りません」
「あ~、つまり処女か~」
「はい?」
ソニアの顔が険しくなった事で己の失言を悟り、誤解を解こうとした所で後ろから援護が来る。
「トッド、それでは誤解を招く。……ソニアさん、この場合の「処女」とは性的経験の有無では無く、「殺し」の経験の有無だな。男の場合は「童貞」と言うそうだが、まあ覚える必要はないだろうな。……殺しの経験はないだろう?」
「ああ、そう言う意味でしたか。確かにその経験は有りませんが、その点で私に気を使う必要は有りません」
「むぅ、……武器は持っているのか?」
「はい、自前のハンドガンが一丁。まあ、あなた方が優秀なら使う事も無いでしょうが」
まあ、実際の所彼女に実戦経験があるかどうかなどは関係ない。なぜなら今回の仕事は俺達傭兵が彼女をテロリスト共のアジトの中まで連れて行って、目的の品を見つけて脱出すると言うだけ。
万が一の時に彼女が銃を使えると言うのは大きいが、実際彼女の出番はないだろう。
「そうか、じゃあ俺が今回の作戦の概要を説明するぜ。まあ、状況に応じて多少変更があるだろうけど、大まかな流れだけは覚えておいてくれ」
俺が今回の仕事の説明を改めてしようとすると、彼女は小さなメモ帳を取り出し「どうぞ」と促してきた。こういう所を見ると本当に研究者って感じだよな。
「先ず今回の仕事では三つの役割に分かれて行動する。先ずは俺、キョウカ、アマツキ、ソニアこれをA班としよう。次にノーシュ、カイト、ユー、モンドのB班、ディーがC班だな。誰がどんな奴かは分かるか?」
「資料を読みましたので顔と名前は」
ユーとモンドはロシア人の男女だ。正確にはハーフだそうだ。女がユーで男がモンドだ。
「先ず俺達A班が一番重要な突入班だ。まあ、ぶっちゃけ敵地に乗り込んで製品を奪取する役割だ。B班はそのサポート。B班の奴等は狙撃を軸に敵の主戦力や兵器を無効化する。事前に得た情報ではテロリスト共は重火器やヘリコプターを入手しているそうだからその辺の無力化だ。C班は……一人だけだが、オペレーターの様な役割だな。後方で待機しながら情報を共有、万が一撤退が必要になった時逃走手段を用意する等、まあ色々だ」
「……逃走手段?」
「一応BSCから貸し出された車以外に三台一般車を用意してある。これは作戦に参加している全員から必要経費として割り勘したものだな。何か質問は?」
俺の簡単な説明が終わると、ソニアは難しい顔をする。
「……質問なのですが、無理に戦闘に持ち込まず潜入し安全に奪取する事は出来ないのですか?」
「無理だな。まずテロリストのアジトは情報によれば山の奥、古い鉱山の後を改造しているらしい。ビルの様な建物じゃないから、外からは見ただけでは内部の構造が不明だ。隠し部屋なんぞ作って隠されたら短時間で見つける事は不可能。それに確認されているだけで五十人を超える人数が居る場所に侵入するのは容易くないし、それを得意とする奴も今回は居ない」
「……しかし、最低でも五倍以上人数差がある上に兵器……重火器との情報ですが、そんなものが待ち構えている場所へ突入となると、そちらも不可能では?」
「ああ、まあ、その辺は大丈夫だ。兵器ならこっちにもある」
「……ミサイルでも持参されているので?」
「まさか。万が一にも製品が壊れたら報酬が減るからな。……もっと強力な奴だよ」
俺はミラー越しに爆睡している女を顎で示す。ソニアの眉間に皺が寄り、疑念を露わにするが流石に今説明して納得させるのは難しい。実際に見せた方が速いだろうな。
どうにか誤魔化そうとして「俺の股間にも強力な兵器がある」と言ったら、まるで虫の死骸でも見る様な目で見られた。
うーん、他の奴なら爆笑もののギャグ何だが、コミュニケーションって奴は難しいねぇ
まあ、よほど大きな不測の事態がなければ、速ければ明日にでも作戦は開始される。
ソニアはその時この世には火器より理不尽に人の命を奪う物が存在する。そんな現実を目の当たりにするだろう。その時彼女はその鉄面皮を被ったままでいられるのかね。
余談だが数分後、道に転がっていた石をタイアが踏んだ振動でキョウカが目を覚まし、エアバックが作動するほど強烈な蹴りが後部座席から飛んできた。その事で到着予定よりも三十分遅れる事になった事を付け加えて置く。




