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第4話 説明? いや暴走

第4話 説明? いや暴走


「つうとあれか? 俺たちは気づいたら知らない場所に居て、その場所がこんな意味不明な場所で寝転がっていて、今に至る、ってか?」

「まあ、そうだな」

「はぁ~、兄貴の周りでは色んなトラブルが起きるのは知ってるが、今回のは格別だな」

「おい、いつもトラブルを起こしているのは狂歌あのバカだ。俺は巻き込まれているだけだろうに」


 太陽に現状説明をする天月。正直、状況を飲み込むのは天月よりも断然早く、兄としてちょっぴり自信をなくした天月だった。

 そんな優秀な弟から、まるで自分が事の原因だという、心外な言葉に反論する天月。


「まあ、この状況じゃ原因なんてどうでもいいんだろうけどな。で、兄貴、そのバカ―――じゃなくて紅流さんは?」

「知らん、その辺で寝てるんじゃないか? ヨウも結構遠くで寝てたらしいぞ。後で連れてきた心にお礼言っとけ」

「……ふーん、ま、了解~」


――


数分後


 あらかた情報共有の終えた天月達は、今後の方針を決めかねていた。


「で、結局どうすればいいので御座ろう?」

「まずは探索からではないだろうか? 水も食料もない現状、行動しなければいずれ危ない状況に陥るだろうからね」


 桐香の提案に、少し思案顔の心が答える。


「いえ、ここまで見渡す限り何もない場所で、何の目印もなく歩きまわるのは危険です。まずはある程度、自分たちの行き来した道の痕跡を残す方法が最低限、必要かと」

「そもそも、歩き回って出口でも見つかればいいのですが、……ここはそもそも室内なのでしょうか? まるで終わりが見えませんわ。誰かこのような状況に心当たりはありませんの?」


 レイアの言葉に、その場の全員が首をひねる。因みに七星や藍はすでに目覚めているが、二人ともあまり状況についていけず、取りあえず考えているポーズをとっているだけだが。


「むう、キリカさんが前に作った、えーと、VR? とか言う物の可能性は? 俺は昔に、それも少しばかりしか経験がないが、今は現実と区別がつかない程だと聞くぞ? ここはもしかしたらそう言う物で出来た場所なのでは?」

「……それは私も考えたが、ないだろうね」

「理由は何ですの?」

「あれは確かに視覚情報だけ見れば現実と区別は難しいだろうね。でも、それだけなんだ。聴覚はともかく、触覚や嗅覚に働きかけることが出来るほどのものではないよ」


 そういって桐香は、自身の抱き着いている形の天月の首元に、顔を埋め、鼻で大きく息を吸う。


「こんな風に匂いまで感じることは不可能だよ。視覚だけ・・でも完全・・に現実と区別をつけられないとなるとスーパーコンピューター並みの処理能力があって、やっと出来るんだ。ここまでリアルに、さらに十人分の感覚を再現するには、仮に可能だとしても全世界のコンピューターの半分ぐらいの処理能力が必要だろうね。」

「むう、よくわからんが、出来なくはないが現実的でない、といったところだろうか?」


 天月のまとめに、桐香は「その認識でいいよ」と苦笑いした。桐香としては素人の彼らへの説明と言うことで、出来るだけ専門用語を使わずに、誰でもわかるようにかみ砕いて話したつもりだったが、機械に関してはからっきしの天月への説明には不十分だったらしい。


「だから異世界だって! 俺らこれから神様にチート能力もらって、異世界に転生するんだって!」


異様に高いテンションで主張を繰り返す風太郎に、皆の視線が集まる。


「ふむ、拙者も今回はフウタ殿の意見に同意で御座る。このような摩訶不思議な事は神の御業に違いないで御座る。因みに、拙者はケモミミ娘のいる世界へ転生をを希望するで御座る」

「エルフ、エルフは定番だろ! あとはダークエルフ! で、すっげー魔法使ってハーレムつくんだ!」


 明らかに周りと温度の違う風太郎と刃の二人。冷静に考えた結果、今の状況が二人の好むライトノベルなどに出てくる定番ともいえる空間が目の前にあるということで、テンションのリミッターが振り切れている様子だった。

 いつもであれば、心やレイアが「なにをバカな」とツッコむところだが、状況が状況だけに、彼らの意見を否定できずにいた。寧ろ、それこそが正解なのでは? と思い始めてすらいたのだ。

 なまじ頭の良い者たちは、答えの出ない状況にかなりのストレスを感じており、そこにやけに確信めいた意見が出るので、その意見に無意識にすがろうとしているのだ。溺れるものは何とやらである。


 ―――ドサリ


 「? っ!?」


 何か重いものが地面に落ちる音と共に、天月達の話している輪の、その中心に二つの何かが落ちて、いや、飛んできた。

 何となく、誰がそれを投げてきたのかは、大体、と言うか確信を持って、その場にいる全員が脳裏に同一人物を浮かべた。浮かべたが、自分達の足元にあるものが何なのか、それを確かめるために、何かが飛んできた方向ではなく、飛んできたものに目を向ける。


 最初に認識したのは大きさ、それは目測だが一メートル弱程だろう。

 次に認識したのは数、同等の大きさのそれらは二つあるということ。

 そして形、人形――人間だった。


 そう、人間。それも容姿が明らかに日本人とは異なるため、身長と体格だけで判断するなら、確実にランドセルを背負っているであろう、二人。更に言えば少女。

 一人はうつ伏せでピクリとも動かず、もう一人は仰向けで、幼いながらも美しさを感じる顔には、恐らく相当の恐怖を感じたのか涙の跡がついている。


「おーう、なんだなんだ、しけた顔してんな。つまんねーな、せっかく面白そうな奴らを持ってきて(・・・・・)やったのによ。おいフータ、一発ギャグ」

「む、無茶ぶり!? え、えーと」

「つまんねー」

「まだ何も言ってねーよ!?」


 理不尽にも程がある登場、この場にいる誰もがそれを望んでいなかった人物、紅流狂歌が現れた。

 これで、天月の店に居た全ての人間が揃った訳だ。


「……貴女、何をしているんですの? こんな子供を投げるなんて!」


二人の少女に駆け寄りながら、狂歌に対し声をあらげるレイヤ。彼女は普段、天月達に対しては毒舌が目立つが、本来の彼女は心優しく、理不尽な暴力等は絶対に許せない(たち)なのだ。


「ん? いや何かこいつらが面白そうな話をしてたから連れてきただけだろ? 何で私様が怒られるんだよ?」

「連れてきた事ではなく投げた事を言っているのです!」


 怒りの対象ではない天月や風太郎までもが驚くほどの剣幕で捲し立てるレイヤだが、当の狂歌はわかったわかったと聞き流す。


「……狂歌様、先程面白そうな話をしていたと仰っていましたが、この二人はどんな話を?」

「あん? だから面白そうな話だよ」

「話の内容は?」

「あー、何か面白そうな話だよ」


 狂歌の暴挙の理由を聞いた心だったが、結果はこの通り、情報零である。


「あ、あの」


 先程まで怯えていた方の少女が声を挙げる。そこ声は本当に恐る恐ると言った様子で、未だに恐怖が抜けないのか、震える手でレイヤの手を握っている。実に痛々しい光景だ。

 そんな少女の怯えを取り除こうと、レイヤは少女の背中を擦りながら少女を起こし手を優しく握り返す。

 怯える少女の髪はレイヤと同じ黄金の様な金髪であり、何も知らない者が見れば、悪夢を見た娘を慰める母親に見える事だろう。


「て、天使……」


 呆ける様に呟いたのは刃だ。その呟きを聞いた数人――天月と風太郎を除く皆が同意するように反応したが、刃と言う男を良く理解している二人は例外だった。

 この状況で先の刃の発言を聞いたのなら、慈愛に満ちた行いをしているレイヤを指した言葉だと解釈するだろう。しかし、それは刃以外の者の口から出た言葉なら、だ。

 天月と風太郎は素早くお互いに目配せすると、刃に飛び掛かり、体を押さえつける。


「な、何をするので御座る二人とも! 目の前に、拙者の目の前に、天使がいるで御座るよ! 離すで御座る!」

「落ち着けジン! っくっそなんて力だ。おいジン流石に不味いって」

「ああ、見たところなーよりも年下だろう。怯えているのに、更に病気(ロリコン)を近付ける訳にはいかんな」

「大丈夫で御座るよ! 拙者は至って冷静で御座る! あの怯えた天使を、ちょっと慰めるだけで御座る! 手を差しのべるだけで御座る! その手をちょっとペロペロするだけで御座る!」

「「いや、全然大丈夫に聞こえ (ねーよ)(ないが)!?」」

「ちょっとジン! この子が更に怖がってしまいましたわ! 貴方、いい加減になさい!」

「うはは、何か面白そうだな、ちょっとジンを放って見ようぜ」

「狂歌! いい加減な事を言うんじゃありません!」

「……天月様、この害虫(ゴキブリ)殺しいても構いませんか?」

「ちょっとだけ、ちょっとだけで御座る! せめて二の腕の内側だけでもペロペロ――」

「何の譲歩だよ!? いいから落ち着けー!」


この後、刃が正気(?)に戻り、少女の怯えが消えるまで十分以上の時間が掛かることとなった。


――


「えっと、私が、じゃなくて、私たちがあなた達を、ここに呼びました」


 レイヤの必死の慰めると、天月と心、そして後から加勢した藍によって組伏せられた刃を見せて安全性を示したところで(正直、普段から殆ど運動をしていない風太郎は戦力にはならなかった)、金髪の少女から爆弾発言である。

 因みに、うつ伏せでピクリとも動かなかった少女も既に目を覚ましており、恐らく狂歌に投げ捨てられた(本人は優しく下ろしたと言い張っている)時に打ち付けたのであろう、額には真っ赤な跡が出来ていた。


 二人の少女は対称的だった。

 レイヤが慰めている方の少女は、金髪の腰まで伸びたら長髪でその細い体に純白のワンピースを纏い、木の葉を模した髪飾りと腕輪をしている。何処と無く内気で人見知りな雰囲気を出している。何となく守りたくなるような雰囲気を持った少女だ。

 対してもう一人の少女は、女の子としては短めの黒髪で、へその見えるドレスを思わせる黒い上着に、かなり短めのの濃い紫のスカート、そしてそこから伸びる細い脚は黒いストッキングを履いている。少しつり目で何処かいたずらっ子でボーイッシュな雰囲気の少女。

 

 未だに金髪の少女はレイヤと手を繋いでおり、もう一方の手は黒髪の少女と繋いでいる。

 そんな頼りない少女の発言に、天月達はどう対応したら良いか迷っていた。


「まあまあ、そんなに話を急がないでさユーちゃん。この人達もいきなりそんな風に言われたら困っちゃうでしょ? ね?」


 人懐っこい笑みを浮かべた黒髪の少女が金髪の少女を宥める。


「最初は自己紹介でしょ! 私はヘルヘイム! ヘルって呼んで!」

「えっと、ゆ、ユグドラシルって言います。よ、よろしくおにぇがいします! ユグって、呼んで、ください!」


 空いている方の手でブイサインをしながら無い胸を張る黒髪の少女、ヘル。

 微妙に言葉をかみながら頭を下げる金髪の少女、ユグ。

 何やらユグの様子を見て「くっふーーぉぉぉおお!」と声を挙げている刃を無視しながら、天月達は、取り合えず害はないと判断し、彼等なり(・・・・)の自己紹介をする。


「おう、私様は紅流狂歌様だ! 特別に狂歌って呼ばしてやんよ! イメージカラーは赤! 真っ赤な炎の色だぜ!」

「先程からこいつらが失礼した、倉井天月と言う。アマツと呼んでくれ、親しい者はそう呼ぶ。イメージカラーまで言うのか? ……俺は青、らしい。この子は倉井七星、俺の妹だ、俺はなーって呼んでいる。イメージカラーは白らしいな、かっはっはっは」

「倉井太陽、ヨウでいい。イメージカラーは緑」

「ヘルちゃんにユグちゃんね! 私は藍! 藍って呼んで! 大丈夫! この人は私が押さえて置くから! ねえ! 良かったら友達になろ! あ、私のイメージカラーは銀色! 藍なのに銀色なんだ!」

「ご紹介に預かった紳士(変態)、刃と申す。イメージカラーは黒。お嬢さん、お菓子をあげるから拙者のお家にこ―――ごぁ!」

「黙れ変態。穢れる。――こほん、お初にお目にかかります、心、と申します。お好きな様にお呼びください。天月様に使えるごく普通のメイドです。イメージカラーは橙でございます。」

「こんな形で失礼、見ての通り脚が無くてね。霧崎原桐香だ。桐香でいい。イメージカラーは紫、と言ったところだ」

「ふははは、我こそは鎧塚風太郎、人呼んで《漆黒の紅虹(カオス・グリムゾン・レインボー)》!そして我魂の色は黄色だ!――うん、心さん、レイア、その拳を下ろして、フウタでいいです。そう呼んで下さいごめんなさい許して」

「最後、わたくし白石レイヤ、レイヤで構いませんわ。イメージカラーは金色。まあ、色に関しては、あまり気にしないでも良いですわ。いきなり十人も名前を覚えるのは大変でしょうから、男どもの名前は覚えなくても構いません」「「「「おい!」」」」


 自身の名前を各々口にする天月達。天月達がイメージカラーと呼んでいるものがどんな意味があるのか、対した理由ではないが、語るのは後にしよう。


 そしてやけに賑やかな自己紹介が終わったところで先の発言に戻る。かといって、全員で二人を問い詰める訳にもいかず、この中でまとめ役のレイヤが代表して話を聞く流になった。実はこれ、天月が交渉等を行うときに用いる方法である。

 常識と言うものに縁遠い天月達の中で、比較的マシなレイヤが話を聞き、気になったことを他のものが質問し、情報を共有する。それが彼等のやり方だ。ぶっちゃけ、大半がバカなので、まともに会話が成立しなかったりするだけなのだが。


「それで? ユグちゃん達がわたくし達をここに連れてきた、と言いましたわよね。良ければ、説明をお願いできます?」


 レイヤが諭すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。


「えっと、連れてきた、んじゃなくて、呼んだんです……」

「……そう、それは、どう言うこと? 本当にあなた達がわたくし達を?」

「はい、ごめんなさい……、私達が、私達の勝手な理由で、貴女達を、呼びました……」

「あなたは何者?」

「……神って、言ったら、信じますか?」


 ユグの言葉に、風太郎がやっぱり、とどや顔をするが気にさわった狂歌に足を踏まれて悶絶していた。


「それは……、わたくしは信じたい、のですけれど……」


 レイヤが困った様子で皆を見る。天月達は、取り合えず少女が嘘を言っている様な雰囲気ではなく、そうでなくとも、疑ってばかりでは話が進まないのでとにかく話を続けさせるようにと頷く。

 刃が「天使ではなく女神で御座ったか……」と呟いたが、誰も気に止めない。


「分かりました。信じます。 でも、それだけではわたくし達の疑問が増えただけ、しっかり説明を続けてくださいね?」

「あ、はい」

「では、次に此処は何処ですの?」

「えっと、異空間、です」

「……、そう、ではどうやってわたくし達を此処へ?」

「ま、魔法で」

「…………」


 助けを求める様に皆に視線を贈るレイヤ。少女の発言はあまりに要領を得ず、しかし簡潔すぎて何処から突っ込んでいいのか分からないのだ。常識がある分、レイヤは非常識に弱かった。

 かといって、天月や狂歌はふーんそうなんだ、と言った様子で話を聞いており、七星や藍はそもそも理解しようとしておらず、刃は少女二人の頬や二の腕、太股に視線を送り「理想郷(ユートピア)……」と呟いている。心は無表情に首を傾げる。

 困り果てたレイヤを助けたのは桐香だった。


「ふむ、彼女の話が本当だとすれば、異空間や魔法についての興味は尽きないね。しかし、今は私の好奇心は置いておこう。……そうだな、親しみを込めてユグくんとヘルくんと呼ばせてもらおうか。二人とも?」

「は、はい!」

「なーに?」

「キミ達の目的、それを教えてくれたまえ。まさかただのイタズラ、なんて言わないだろう?」


 桐香の質問に少女二人の顔に僅かに緊張が走る。

 

「は、はい、目的――理由はあります」

「それは?」

「それはね、皆さんにこのユグちゃんと、ついでに私ことヘルちゃんを助けてほしいんだよ!」

「ほう? この状況、助けてほしいのはこちらだと思うのだが……」

「桐香、意地悪はお止めなさい」

「ん、すまないね、責めているように聞こえたかい? まあ、安心したまえ、私達は別にこの場所に連れてこられて、怒っている訳じゃない。こんな場所に来るのは初めてだが、もっと理不尽な状況は、ここにいる全員が両手の指じゃ足りないくらいの回数、体験しているからね」


 そう言って桐香が視線を送る先には、話をつまらなそうに聞いている狂歌が居る。そして他の面々も狂歌に冷めた視線を送るが、狂歌は皆が自分を見ていると気が付くとニカッと、憎たらしいくらいいい笑顔を返す。


「はぁ、……それで、助けてほしいと言うことだけど、具体的には私達にどうして欲しいのだい?」

「それはねー、キミ達にはまず転生して欲しいんだ」

「キッタァァァァァァァ!!」


 それまで大人しく話を聞いていた風太郎が、突如雄叫びを挙げる。


「きたきたきたきたキター! 転・生! 異・世・界、異世界だろ!」


 勢いそのままヘルに掴みかかろうとする風太郎を、レイヤが首根っこを捕まえて止めるが、風太郎の熱は冷めず、そのまま捲し立てる。――ところで、同い年の女性に片手で捕まってしまう辺り、やはり風太郎の軟弱さが良くわかる。


「お、おお、そうだね、キミ達からすれば、異世界、と言う言葉が適切かなー?」

「おっしゃぁぁぁぁぁ!」


「天月くん、風太郎くんはいったいどうしたんだい」

「ああ、あいつ常日頃から異世界に行きたいって言ってたから」

「……ああ、彼の性癖は、エルフと言う種族だったか。それに会えるかもしれないから興奮しているのだね。いや、この場合は発情かな?」

「性癖って……、そんで騎士で巨乳だったらなお良いらしい」

「……そうかい」

「魔法も使いたいらしいしいな」


 己の性癖について暴露されている当の本人は、レイヤの細腕に捕まったまま、更に質問を重ねていた


「じゃあ、特典、特典は? いや、先ずは転生先の情報を……、は! もしかして俺を勇者として!? 打倒魔王か!?」

「さっわがしいな~。 ……殴るぞ」


 しかしその質問も、大声を挙げ続けた事にイラッとした狂歌の呟きで即座に鎮火した。


「え、えっと」

「先ずは、あたし達の事情から説明させてもらうね~。ちょっと長くなるけど、頑張って聞いてね~」

「よし、あーたん、布団」

「ねーよ」

「じゃあ膝枕」

「膝蹴りいれんぞ」

「狂歌くん、せめて話を聞く努力をしたまえよ。それではいつまでたっても、成長出来ないよ」

「あーん? ……よし、じゃあそこのガキ二人、私様に理解できる様に、わかりやすーく話せ。出来なかったら殴るぞー」

「うん、見事に努力の方向を間違えているね。努力と言うより暴力だ……我ながら今のは上手いな」

「キリカさんダメだって。このバカには下手に行動させるより、こっちが大人しくさせる努力しないと被害が広がる」

「あっはっはっは、キミ達ほんと面白いね!」


 狂歌の殴る発言で、ユグが再び目尻に涙を光らせ、両手でレイヤの手を必死に掴んでいるのに対し、腹を抱えて笑っているヘルに、天月は「こいつ、以外と肝が据わっている」と心のなかで呟いていた。


「まあ、取り合えず飽きない程度に面白おかしく話してみようか」



 昔々、あるところに二人の神様がいました。

 二人はある世界の神様で、その世界には二人の他にもたくさんの神様達がいて、神様達は自分の司る力を使って、より良い世界を創ろうと頑張っていました。

 神様にとって世界とは、例えるなら生涯を掛けて完成させる作品。存在意義と言っても良いものです。

 二人は生命を司る神様と死を司る神様。役割が近い神様二人はとても仲が良く、お互いの仕事を助け合っていました。

 

 あるとき、二人はとある天使に出会いました。


 天使とは、神様の仕事を手伝う存在。正確に説明するなら、神様は天使に仕事を手伝わせ、その対価として神様は天使を保護する。そんな関係ですね。神様の仕事はとても多く、それを手伝ってくれる天使は神様達にとても重宝されていました。


 出会った天使は二人に言いました。女神のお二方、どうか私達に力をお分けください。


 二人は天使にどうかしたのかと尋ねました。

 すると天使は涙を流しながらこう訴えました。私どもの使える主神様は我々にほとんど加護を下さらない。しかし仕事は他の神様の数倍命じられる。それはもう道具の様に。このままでは私たちも生活が出来ないと訴えたが、全く取り合ってくれない。どうかお二方に主神の与える仕事に耐えられるだけの力を貸して下さい、と。


 主神とは、神の中でも唯一、新たに世界を創ることの出来る神を差します。主神は作った世界をある程度弄った後、他の神々に与えます。神々はこの与えられた世界をより良くしようと世界を管理するのです。


 しかし世界を創る事が出来るほど強大な主神でも、欠点がありました。それは、とても面倒くさがり、ものぐさだったのです。ある程度世界を創った後は、ほぼ全ての管理を他の神々にさせ、自分が管理すべきシステムさえ、全て天使にさせていました。

 私達が主神の創る世界を管理するのも、主神の後片付けの様な意味もあります。それほど主神はものぐさでした。


 天使を哀れんだ私達は、自分達の力を少しだけ分け与える事にしました。

 私達に懇願していた天使は、その事を伝えると飛び上がらんばかりに喜びました。

 私達はその様子を微笑みながら眺めていました。そして天使に幸あれと願っていました。

 

 私達の力を分け与えた天使達はそれはもう物凄い勢いで主神の与える仕事をこなしたそうです。

 しかし暫くすると、また同じ天使が現れて私達に力を求めました。

 私達は力を与えました。

 しかしその後も、天使は幾度も私達の元を訪れました。


 そして、あるとき主神は別の世界を創るために、私達の管理する世界を去りました。

 残った神々に後の事は任せると言って。


 主神が居なくなった直後、天使達による反乱が起きました。

 なぜ、彼らが私達に矛を向けたのかは、分かりませんでした。

 しかし、私達二人には既に殆ど力は残されておらず、とてもあっさりと天使に敗北してしまいました。

 私達を降した天使は、私達を封印してしまいました。


 そして天使達は次々に他の神々を降し始め、大半の神々は彼らによって封印され、世界は残った神々と天使達とで戦争になりました。

 そして天使達は世界の半分を、自分達の影響下に置いてしまいました。


 このままでは、いずれ神々は、己の存在意義と言っても過言ではない世界を、世界の全てを奪われてしまいます。

 

 そこで私達二人は数百年間、考えに考えた策に打ってでる事にしました。

 何と、その策とは、別の世界から助っ人を呼んでどうにかしてもらおうと言う、他力本願極まりない物でした。


 まあ、追い詰められた末の思考なんてそんなもので、このときの私達にとっては天才的な閃きに思われました。


 しかし、実行に移して思い知らされたのです。私達の考えの甘さに。


 始めに別の世界から喚んだ人間は若い男でした。彼は私達に世界で生きるためにと、大きな力を欲しました。私達は自らの力を削り力を与えました。そして力を手に入れた後、自由に生きると、私達の頼みを無視して世界で好き勝手に暮らし始めました。


 次の人間は少し年老いた女性でした。彼女は自分が力になれるならと協力的でしたが、彼女の世界と比べて、余り文明が発達しているとは言えない世界のなかで不便さを嘆き、自ら命を絶ってしまいました。


 結局、呼び出した人数は百人に迫り、とうとう私達もこれ以上人間を召喚するのは限界になってきました。

 私達は最後の力を振り絞って、最後の人間達を呼び出しました。

 さてさて、彼らは私達の最後の希望となるのでしょうか?

 私達の運命やいかに!


 御清聴ありがとうございました!



――

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