青の章 第 過去話 青い男と赤い女
遅くなりましたが2000PV達成記念SSです。
とある傭兵視点から始まります。数話続きます。
過去話は読まなくても本編とはそれほど関わりは有りません。
青の章 第 過去 話 青い男と赤い女
俺の名前はトッド。トッド・カーマン。歳は三十二で生粋のアメリカ人だ。
職業は傭兵。それも俺は個人で傭兵をやっている。
傭兵とは言うなれば戦場の何でも屋だ。金さえ貰えば戦場を駆け回り、又は後方で援助、場合によっては武器の扱いの指導等とにかく何でもやる。俺達に金を払うのは大抵軍隊や軍事組織だ。
最近では民間軍事会社なんて物が出来、要人や車両の警護や輸送の手伝いと一層仕事の幅が増えた。だが俺はそう言った組織には所属していない正真正銘フリーの傭兵だ。
そんな傭兵は本日某国の某企業、その企業の所有するビルの一室で糞不味いコーヒーを飲んでいた。
「おいおい、糞不味いコーヒーだなぁ。デカい会社なんだから奮発して酒でも出してくれればいいのによ~」
どうやら俺と同じ感想を抱いて更に口に出して文句を垂れているのは同じアメリカ人のノーシュ、隣で黙って本を読んでいるのはその兄カイト。兄弟で傭兵をしている珍しい奴等で、何かと弟の方が面倒を起こすが仕事ではしっかり結果を出すタイプ。俺が彼らと仕事をするのは三回目だ。兄とはあんまりだが、弟のノーシュとは結構いい関係を構築出来ている。何より酒の趣味が合う。
「……出されたモノに文句を言うな」
ぼそりと若干拙い英語を話すのは黒人のディー。一緒に仕事をするのは二回目だが、正直やりにくい男だ。真面目なんだろうが、それが原因で面倒を起こす、ノーシュとは違うタイプの厄介さがある。更に本人は面倒を起こしている自覚が無いから注意もしにくい。確かアフリカの方出身で三十歳を超えている事位しか知らないな。
「あーん? 黒人がなんか言ってんな?」
「……肌の色等に拘るのなら自分の国に引きこもっていろ」
「っち!」
あわや喧嘩になる寸前でノーシュの肩をカイトが掴み、ノーシュは矛を収める。は~、ハラハラするぜ。これから仕事するってのに、もう少し仲良くして欲しいもんだ。だが今のはノーシュが悪い。文句もそうだが、傭兵に肌の色は関係ない。極端に言えば仕事さえしっかり出来れば男だろうが女だろうが、子供だろうが老人だろうがなんだっていいんだから。
部屋には他にも中国人の男二人と、北欧系の男女二人が思い思いに過ごしていた。コイツ等とは仕事をしたことは無いが、今の所問題のある行動は無い。正直しっかり仕事をしてくれれば文句は無いのだが、中国人はあんまり信用ならないな。今までに数度、中国人傭兵の身勝手な行動で苦い経験をしている身としては、どうしても不安になってしまう。
だが同じ仕事を受ける以上、せめて背中を撃たれない程度に友好関係を気付きたい所だ。どこかでコミュニケーションを取らなければならないと、頭の中で「中国人と仲良し大作戦!」の計画を練る。
中国人に酒の話題でも振ろうかと思った所で、部屋のドアが開き新たに二人の男女が部屋に足を踏み入れる。
「おう! これは珍しい顔だな~」
見覚えのある顔を見つけ思わず声を掛ける。
先に入って来た女は扇情的な恰好で身に付ける全ての衣類、更には髪に瞳さえも真紅に彩られたその姿は部屋に居る俺を含めた全員の視線を集中させる。下手をすれば娼婦の様にさえ見えるその格好も、十回以上仕事を共にすれば慣れたもんだが、初めて見る奴には刺激が強すぎる。ノーシュの奴なんて女の豊満な胸に視線が釘付け、鼻の下を伸ばしたマヌケ面を晒している。スタイルだけじゃなく、顔もいいから無理も無い。
女の名前はキョウカ・クルイ。日本人で日本の呼び方だと紅流狂歌と言うらしい。俺より年下だが稼ぐ金は傭兵界一と言われている最強の傭兵だ。
一歩後ろを歩くのはアマツキ・クライ。日本の呼び方では倉井天月。
キョウカと違って露出が頭と手位しか見えない燕尾服を身に纏っている。落ち着いた黒に青が混じったその色合いは全身真紅のキョウカの隣に立つと地味な印象を受けるが、よく見れば顔立ちは男と思えない程整っている。東洋人にしては高いその背丈も俺からすれば別段普通。腰まで伸ばした髪を結んではいるが、髪を解き着物でも着せれば日本で言う大和撫子って感じになるだろう。そうじゃなくても女物の服を着せてその辺を歩かせれば街行く男共がナンパするに違いない。
この二人に合えたことは喜びと不安が同時に湧き上がるが、割合としては喜びが大きい。
キョウカは中々厄介な性格をしているが、気さくで仕事も出来るいい女。アマツキは変な所もあるがいい男だ。作る飯は美味いし、仲間思いだ。まあ、アマツキは日本語しか話せない欠点があるが、俺は日本語も話せるので問題は無い。
だがこの二人が来たって事は、今回の仕事はハードな物になりそうだぜ……。キョウカが居る時は大抵余計なハプニングが起こる。そこにアマツキが加わるとその確率と規模が倍になる。これは何度も二人と仕事を受けて来た俺が確信を持って言える事実だ。
「お~、トッドいるじゃん。喧嘩するか?」
「はっはっは! 残念だが仕事前に怪我する訳には行かないからな~。だが、夜のお供ならいつでもOKだぜぃ?」
「私様が寝るのはあーたんだけだ。お、私もコーヒーのも~」
コーヒーを注ぎに行ったキョウカを他の皆が目で追う。この調子だと何人かは本気で惚れそうだな。全く罪な女だぜ。
『ようアマツキ~。久しぶりだなぁ~』
『……むぅ、だいたい一年ぶりか? 調子はどうだ、えーっと、……マッド?』
『トッドだよ!? いい加減名前覚えてくれよ!』
『大丈夫、大丈夫。今覚えた。今回の仕事の間は忘れない』
『それ大丈夫じゃねぇよ!? 仕事終わったら忘れるって事だろう!? ……全く、全然変わらねえなお前』
アマツキと日本語で雑談をしていると、どうやら企業の人間らしい男が入室して来た。さてさて、今回の仕事はどんなものかね~。
どうやら今回の依頼主は企業のトップでは無く、一人の重役の様だ。何故それが分かるのかと言えば大抵の企業のトップの顔と名前を覚えるってのは大事だ。まあ依頼を受けた時点で調べれば済む話ではあるんだが、常日頃から企業の動向を調べていればいい判断材料になる。例えば、長年トップだった人物が突然変わって急成長している会社なんてヤバいにも程がある。そんな所から|傭兵(俺達)に仕事を頼むなんてとんでもなく危険な仕事か、後ろ暗い仕事の可能性が高い。特に何か不祥事やら何やらと事前に情報が|出回ってない(流出していない)時は危険な場合が多い。
……まキョウカやアマツキが来てる時点でヤバい仕事だってのは確定なんだけどな~。
「こんにちは皆さん。本日はお集まり頂きましてありがとうございます。私はブラック・ストーン・コーポレーション(BSC)開発部の部長アレックスです。早速ですがお仕事の話をさせて頂きましょう」
……BSCの……アレックス? アレックス・ボーンか! 一時期世界で最も優秀な三人の科学者と言われた一人、キリカ・キリサキバラとリュウ・ウォンに並んだ天才じゃないか!
確か二……いや三年前に所属していた企業の会長が変わったと同時にフリーになったと聞いていたが……、BSCがスカウトしたのか。
噂じゃアレックスに限らず優秀な科学者ってのは狂人がおおいからなぁ。少し嫌な予感がするぜ。
それのBSCと言えば今や世界の五指に入ると言われるホワイト・ストーン・コーポレーション(WSC)の姉妹企業で軍事分野に特化しているじゃないか。……嫌な組み合わせだな~。
「私は―――失礼、我が社では先日とある発明致しました。まあ近日中に公開しますのでここで話しますが、公開までは他言無用でお願いしますね?」
そう言って自身の唇に人差し指を当てる気障な男アレックス。確か四十代後半の筈だが無駄にイケメンなのが腹立つ。不愉快だ。イケメン死すべし。
因みに方向が違う美形アマツキは英語が分からないので自前の翻訳機器を使って内容を必死に追っている。
こういう明確な欠点がある奴は、どれだけ顔が良くても腹が立たないのはこの世の不思議だ。
「我が社が開発したのは軍事用ナノマシン。その名もグロスイーターと言う品です」
グロスイーター……悪食と言う意味だな。
「まあ、仕組み云々は企業秘密なので簡単に説明します。以前―――リュウ・ウォン氏が作り出した|ハード・ワーカー(過労者)と言う治療用のナノテクノロジーがありました。まあ皆さんに分かりやすく言うなら「治療」に特化したナノマシンですね。がん細胞等の、特定の「分解対象」をナノマシンに登録。ナノマシンは体内に注入され「分解対象」のみを限定的に攻撃すると言う物です。まあ、用は体内の不要な物質を除去できると言う技術です。傭兵の皆様がお世話になった方も居るやも知れませんが、これにより時間が掛かりますが手術の難しい部位にある銃弾の除去が出来る様にもなりましたね。認めるのはひじょ~~~うに不本意ですが、世界の医学レベルが一段階上がった事は、まあ、……認めましょう」
あ~、確かにそんなモノもあったなぁ。リュウ・ウォン作のハード・ワーカー、俺はまだお世話になった事は無いが何人かの知り合いの元傭兵が弾丸除去で復帰したと言う話も聞く。一時期世界中で話題になった技術だ。
……まあ、プライドが高いと評判のアレックスには不愉快な存在だと言う事は言葉の端々から分かる。頭は良いのに器は小さいのかよ。
「私のグロスイーターはそれを軍事利用目的に特化させたものです」
「……具体的には? どの様な場面を想定して作られたのですか?」
「おお、よくぞ聞いてくれましたトッドさん。グロスイーターはその名の通り悪食、何でも食べてしまいます。正確には分解で、それも対象をプログラムする必要がありますがね。その性能は小さな獣が獲物を貪る様。どんな場面で使うか? そんなモノ私が考える物ではありませんね。善人が手にすれば被災地での救助活動で人が埋まっている周りの障害物を除去するもよし、汚染物質たっぷりの海水に使えば無害化も可能でしょう。食品の毒素や農薬の除去をする事も出来ますね~~~。でも、悪人が使ったら~~~?」
ふん。様はアレか。「銃が人を殺すのではなく、使う者が人を殺す」って言いたい訳か。まあ、正論だが、明らかに悪人が使う事を想定したモノだって事は誰だって分かるだろうが!
それを使ってどれだけ多くの人が死ぬか。テロリストの手に渡ればどれほど大きな事件を起こすか!
『なあ、なあ』
『……ん? ああアマツキ、悪いな、少し考え事してた。なんだ?』
『なのましんってなんだ?』
……は?
『アマツキ? 今なんて?』
『なのましんってなんだ? アレか? マシンって事は機械なのか?』
嘘だろ。現代人でナノマシンが分からない奴がいるのか? 一般の医療でも使われている技術だぞ?
触れる機会は無くとも、名前ぐらいは知っていても不思議はないだろう?
『あー、何と言うか、ナノサイズの……小さい大きさの機械と言うか』
『むぅ、小さい機械。大丈夫だろうか? 俺間違って踏んだりしないだろうか? 壊したら弁償かな?』
『いや、それ以前の問題と言うか、多分アマツキが想像している更に数百倍以上小さいと思うぞ?』
『そうなのか? じゃあ無くしたら探すの大変だな』
……うん、取りあえずアマツキには後でしっかり説明しよう。一先ずはアレックスの説明を聞くように促す。視界の片隅で腹を抱えて笑いを堪えているキョウカを捉えたが、指摘するとアマツキと喧嘩しそうなので放っておく。
まあ、その後のアレックスの説明は予想通りと言うか、件のナノマシン「グロスイーター」が彼の研究室から流出。それがあるテロ組織に渡った、だから俺達傭兵に処分か可能なら回収をして欲しいそうだ。可能なら、と言うだけで処分でも全く構わないと言うのはアレックスが製品の悪用される事よりも技術の流出を嫌っていると言う事か。
「出発は今から、期限は一週間。報酬は一人二万ドル―――」
「少なねーぞおらぁ!」
「やめろノーシュ!」
「……ではそうですね、不満があるようですのでこうしましょう。報酬は一人二万ドル、これは変わりません。ですが件の製品を回収した人には追加で全員合わせて二万ドル。全て回収する事が出来れば追加で更に五万ドル。流石にこの辺りが会社内で私が動かせる資金はこれが限界です」
……会社内、自分の身は切らない辺り良い性格してるぜ。ま、ノーシュのお陰で思いがけず報酬が上がったし、後であいつには良い酒奢ってやろう。
「テロ組織の詳細、こちらから提供する武器や医療品等の詳細は後程、部下が説明し資料もお渡しします」
うん、今の所厄介な点は無いな。キョウカとアマツキが居るのに今回は随分と大人しい仕事―――
「ああ、それと貴方達ではグロスイーターが本物かどうか判断難しいでしょう。こちらから研究員を一人同行させますので、くれぐれもよろしくお願いいたしますね」
前言撤回、このイケメン……マジで撃ち殺したい。
今回の仕事も面倒事の予感がするぜ……。
隣で必死に翻訳機器を読み耽っている青い男と、アレックスがこの部屋に入って来て一分もしない内に居眠りしている赤い女が、一瞬疫病神に見えてしまった。
コイツ等と一緒に居ると毎度毎度退屈しないなこんちくしょう!
倉井天月は高校生から、紅流狂歌は中学から傭兵業を個人で行っています。
狂歌は喧嘩では物足りなくなり刺激を求めて、天月は下の兄弟二人の学費を捻出する為に狂歌誘われて始めました。
因みにトッドは十八歳の誕生日に親戚に居た元傭兵のおじさんに勧められ、傭兵に付いて調べて行く内に傭兵の魅力にハマってしまったのです。トッドは大の親日家で、将来は日本に移住して富士山が見える場所に家を建てる事が夢なのだそうです。




