青の章 第45話 母の試練
今話も母視点です。
青の章 第45話 母の試練
初めて直接会う蜥蜴人は、長い時を生きて来た私から見ても……理解する事の出来ない存在だった。
私の姿を見たと思えば、せっかく来た道を走って戻りおった。危うく逃がす所で通路に魔法で水晶の壁を張り、そのおかげで蜥蜴人は再び私の部屋に足を踏み入れた。……余計な魔力を使わせおって。
言葉を交わせば、まだ拙い言葉からもある程度の知性を感じる事が出来た。
しかも母を前にしても警戒を解かない姿勢は実に好感が持てる。他の子は母と分かると安心して気を緩めるからな。別に私の子供だからと言って、弱い子を私が害さない理由はない。弱い子はどうせ他の生物の糧となるだけ、ならば私の眷属の食料とでもした方が余程役に立つ。
私は、この|蜥蜴人(我が子)が私の暇つぶしの相手足り得るのか試す事にした。無論相手と言っても、ただ私が満足するまで力試しに付き合って貰うだけだ。本気で戦う訳ではない。本気どころか軽く小突いただけで殺してしまう程実力に差が有るのだから当然だ。私の目的は殺しではない。
―――手始めに私の定石となっている戦闘パターンを試してやろう。
まず【水晶の宮殿】を発動。この魔法は単体では何の意味もない。
私の使う水晶を操る魔法、ソレの発動速度を上げ、威力も上げ、更には生み出された水晶の強度も上げる。魔法を強化する魔法とでもいった所だ。
蜥蜴人は警戒心故か、迂闊には動けなくなっている。慎重すぎるのも時には仇となるものだ。突撃でもして来れば、こちらも少しはそちらに対応に動かなければなかったが、これではいくらでも準備をしてくれと言っている様なものだ。
いや、魔法の発動に驚いていた事から魔法を使う相手は初めてか? いや、恐らくそうだろうな。
まあいい、来ないなら準備を進めるだけだ。【水晶宮の柱】を発動、この魔法は私が好んで使用する魔法の一つだ。幾つかの条件があるが、私の周囲で私以外に動くものを地面の振動で探知し、自動で水晶によって作られた尖った柱が地面から伸びるという効果がある。初めに込めた魔力の量で出現する水晶の柱の太さや堅さ、魔法の継続時間が変わる魔法だが今回に関してはそれほど魔力を込めなかった。あまり早く決着を着けても目的は達せられない故に気を使ったのだ。
次に【水晶宮の鏃】を発動。
【水晶宮の鏃】は私の周囲に小さな水晶を生み出し、発射する遠距離攻撃手段の一つ。威力は低いが連射が効き、魔力の消耗も少ない。様子見・牽制の攻撃として私が好んで使う魔法だ。私が初めて覚えた魔法でもある。
予想通りと言うべきか蜥蜴人は【水晶宮の鏃】は軽々と避けた。まあわざわざ一つしか放たなかったので避けて貰わなければ期待外れもよい所なのだがな。
そしてこちらも予想通り、【水晶宮の鏃】を避けた先で【水晶宮の柱】の一撃で脚を負傷した様子だ。傷は深くはないだろう。まだ始まったばかりだ、私は直ぐに次の攻撃に移る。
恐らく何が起こったのか分からず、更に痛みで硬直しているであろう蜥蜴人に再び【水晶宮の鏃】を放つ。
蜥蜴人は【水晶宮の鏃】を躱しきれず、両の腕で防御する。並みの蜥蜴人ならば腕で防ごうが腕を貫き胴体にも刺さる一撃だが、硬質な音を立てて【水晶宮の鏃】が蜥蜴人の鱗に突き刺さる。
……これは面白い。いくら防御力の高い堅鱗蜥蜴から進化した蜥蜴人とは言え、殆ど無傷で済む威力では無いはず。一体どんなスキルを持っているのだ?
ふふふ、しかし疑問は疑問で面白い。ならば少しずつ【水晶宮の鏃】の数を増やして見るか。蜥蜴人がどの様に対応するのか見ものだ。
五つ放った【水晶宮の鏃】を避けた蜥蜴人を、【水晶宮の柱】が襲うが、今度はそれすらも避けて見せる。しかも蜥蜴人は避けた直後尻尾で【水晶宮の柱】の柱を折って見せた。
ほほう……なるほど、水晶の強度を確かめたのか。確かに込めた魔力が少ないため【水晶宮の柱】の柱の強度は低い。だが戦闘中にそれを確かめるまで頭が回るとは、蜥蜴人は知性だけでなく相手を見極める知恵も持っておる様だ。
ふむ、このままでは単調な遊び……戦闘になってしまうな。
もう少し蜥蜴人を追い詰めるのもいい。そう考えるや否や、【眷属生成・水晶蟹】で蜥蜴人の周りに水晶蟹を生み出してやった。私が水晶蟹を生み出した事に驚いた様な言葉を発していたが、別に蜥蜴人なら水晶蟹ごとき最早相手にならんだろう。せいぜいが時間稼ぎ程度。
しかし、私の遠距離攻撃、足元の罠、そして邪魔な眷属共、これらをどの様に潜り抜けるのか。
水晶蟹の対応に追われると思っていた蜥蜴人は、突然周りの水晶蟹を無視し咆哮を上げながら私の元へ突き進んできた。なるほど、一瞬で自身が時間を掛ければ掛ける程不利になる事を察して短期決戦を考えた訳か。悪くない判断だ。
【水晶宮の鏃】の数を増やして放つが、時には回避し時にはダメージを覚悟で防御したまま距離を詰めて来た。更に、全く移動速度を落とさないので【水晶宮の柱】の柱は蜥蜴人を捉えきれない。
【水晶宮の柱】の欠点は、一度水晶の柱を形成すると次の発動までに少しばかり時間が掛かる事だろう。しかも自動的に発動する性質の為、ここまで動き回られてはその発動までの時間を知られてしまっているだろう。
明らかに【水晶宮の柱】の回避に余裕が出ている。
そして蜥蜴人は私に自身の攻撃出来る範囲まで接近して来た。
……が、直ぐに攻撃を仕掛けては来ない? 蜥蜴人は私の身体の周りをうろちょろと回り始めた。
―――これは晶甲羅蟹に使った、小回りの利かない巨体相手に攪乱しながら遊撃する策か。やはり知恵はある。がしかし、時折尻尾を使って私の身体を打つ力は、悲しいほど少ない。
私の鱗はそこらの岩よりも余程堅い。その程度では撫でられているのと変わらないのだ。
あえて反撃はせずに、蜥蜴人の出方を伺ってみる。通常の相手なら攻撃が通じない私の鱗に絶望し、逃げるだろうが……。
蜥蜴人は私の正面で走るのをやめると、私の頭部目掛けて跳躍した。
やはりこの蜥蜴人は頭がいいな。鱗に攻撃が効かないと分かれば、次は鼻や目と言った急所の多い頭部に攻撃対象を移すとは。しかし、残念ながら私にとって蜥蜴人の行動は欠伸が出る程鈍足だ。
やはり、知恵があっても力が無ければ無力と変わらない……か。
確かに防御力や思い切りの良さ、痛みや恐怖で怯まない姿勢は良い。しかしやはり私を驚かせる様な力はなかったな。思えば偶然が重なってゴブリンや大骨蛇を倒して進化し、その力で水晶蟹や晶甲殻蟹を倒せるまでに至ったのかもしれん。
蜥蜴人の拳が私の鼻先まで迫る。流石に非力―――といえど急所を攻撃されれば私とて傷位は負うだろう。流石にそこまでさせる気はない。どれ、少しは暇つぶしになったのだ。敬意を表して一口で喰らって……?
しかし、私は気が付いた。余りにも蜥蜴人の攻撃は遅い。
確かに私にとっては蜥蜴人程度の攻撃、遅すぎて話にならない程度だ。しかし、それでもこれは遅すぎるのではないか? これでは攻撃と言うより、ただ拳を突き出しているだけ……。
すると私の文字通り目の前で、蜥蜴人の拳が開かれた。……なぜここで拳を開く? ……そう言えばこの蜥蜴人、再び私の部屋に訪れた時からずっと拳を作っていた様な?……―――ぐっ!?
私は両目に走った痛みに目を閉じてしまった。目に入った異物を取り除こうと、涙があふれそれでも痛みは引かない。
目の痛みの原因ははっきりしている。蜥蜴人が拳を開いた直後目にしたのだ。あの蜥蜴人、最初からこれが狙いだったのか!
油断した。まさか蜥蜴人が砂利を使って目つぶしをしてくるとは!
今作品では魔法の表現に【 】を使用しています。
スキル『 』との差別化の為です。




