青の章 第43話 洞窟の主の魔法
青の章 第43話 洞窟の主の魔法
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
『さあ、来るがよい、抗うがよい。死力を尽くして、私にお前の全てを見せよ! 我が子よ!』
「……勘弁してくれよ」
いや、本当に勘弁してくれよ。
この世界に生まれ落ちてから、子鬼、大蝙蝠、骨蛇、水晶蟹、巨蟹と死闘を繰り広げ、何とかここまで生き残って来た。毎回毎回、楽な戦いではなかったし、寧ろ通常であれば非捕食者が捕食者に挑むようなもの。
何故その不利を覆し、俺が生き残ったのか? 答えは単純。俺には人間の知恵があったからだ。相手の行動を予測し、弱点を探し、経験と組み合わせて戦う。
相手は獣 (子鬼もたぶん思考は獣並みだろう)、ある程度相手の考えが読めれば事を有利に進める事が出来る。それは人間社会でも自然界でも変わらないかもな。弱者が強者に打ち勝つには知恵を持ち、隙を突くしかない。
まあ、偉そうに言った所で人間の中では俺は馬鹿なのだがな。
しかし、今回の相手は違う。
話した感じ、と言うか話せる時点で一定以上の知能を持っている。巨体の攻撃力、防御力は確実に向こうが上。知能は互角としても、蜥蜴としての経験は長く生きている向こうが上。
しかも、俺は白蜥蜴の生態は知らないのに、向こうは俺と同じ種類の生物をよく知っている様子だ。
俺が上回っている点がほとんどない。これは流石に無理だろう。
唯一幸運なのは、白蜥蜴の話しぶりでは俺が白蜥蜴を認めるだけの力を見せれば、命までは取らない様な事を言っていたな。
『まずは【水晶の宮殿】、発動』
「……? ナッ!?」
白蜥蜴の言葉と共に、部屋全体の地面が淡く白い光を帯び始める。いや、地面から数cmに霧の様な物が現れ光っているのか?
―――これは白蜥蜴のスキルか!?
『魔法を見るのは初めてか? だが、呆けている暇は与えんぞ? 【水晶宮の柱】』
……、今度は何も起きない?
何をしているのかも分からないのに、迂闊に動ける筈もない。後手に回るしかない。その事実が生む焦りを抑え込み、冷静に状況を観察する。
地面付近は相変わらず発光しているが、特に害はない様だ。むしろ【暗視】を発動させている時よりも、視界は良好だ。
白蜥蜴は魔法と言ったな。……嫌な予感しかないぞ。
『ふぅむ、突撃でもしてくるかと思ったが、……やはり警戒心が強い。しかし、今回はそれが裏目に出ておるわ。魔法を使う相手に時間を与えるのは、愚行だぞ【水晶宮の鏃】』
クリスタル・アローと言う言葉と共に、白蜥蜴の周りに白い石ころの様な物が現れたかと思うと、それらは俺に向かって凄まじい速度で飛んでくる。
しかし、速いとは言えたった一つ。それも直線的に飛んでくる物を避けるのは難しくない。
軽いサイドステップで難なく飛来するそれを躱す。やはりリザードマンに進化してから、人間の様な動きが出来る。蜥蜴の時よりも圧倒的に戦いやすいな。
「ンギャウ!?」
突如、脚……右脚のふくらはぎ辺りに鋭い痛みが走る。見れば細長い円錐状の白い水晶が、俺の脚を傷つけていた。勿論の事、クリスタル・アローとやらを避けた瞬間まで、そんなものは存在しなかった。
「まさか、地面から生えたのか!?」
先ほど、洞窟の通路を塞いだ水晶の壁が頭を過る。
もしかしたらこの白蜥蜴は魔法で地面から―――いや、好きな所に水晶を生み出せるのではないだろうか。
先ほどのクリスタル・アローとやらも、水晶を空中に生み出して発射したのではないだろうか?
……いやいやいや、なんだそれは。無茶苦茶な能力じゃないか。
『【水晶宮の鏃】』
また何もない空中から生み出された物が俺に向かって飛来する。
脚の傷に気を取られていたために反応が遅れたが、胴体目掛けて飛来したそれは腕をクロスガードの形にして防御する。腕を防御に使う、これも蜥蜴の時にはできなかった動きだ。
金属がぶつかり合う様な音を立てて、鈍く重い衝撃が腕を伝うが大きな怪我は無い。
見れば腕に鱗を割り肉に軽く刺さった鏃の様な形をした白い水晶があった。
これ飛ばしていたのか。いや、しかしこれ位の威力なら、余程当たり所が悪くない限り大怪我を負うことはなさそうだな。身体を覆う鱗の存在に感謝だな。
『ほう、腕を貫通しないとは、我が子の鱗はなかなかに優秀だな。鱗を強化するスキルか、身体自体を強化するスキルか?』
むぅ、向こうも俺を観察しているか。
あんまり手札を見せたくないのだが。と言うか、水晶蟹を食ってスキルが強化されたお陰で防げたのか。こんな事なら巨蟹も食っとけば良かったな。
『ふふふ、ならば気遣いは無用か。【水晶宮の鏃】』
言葉と共に何もない空間から鏃型の水晶が生まれる。しかし、先ほどと違いその数は五つ。
五つ全てが本物の矢の様な速度で襲い掛かってくる。どうやら白蜥蜴が生み出せる水晶の鏃は一つではないらしい。嫌な情報だな。しかも上限が不明なのも嫌だな。
余裕ではないが、回避に集中すれば何とか被弾する事は無い。俺は動体視力には自信があるのだ。
地を這う様に体制を低くして鏃を回避するが、直後地面から円錐状の水晶が急速に生えて来るのを視界に捉える。予め予想していた為に、走り抜ける形で円錐状の水晶を回避する。水晶は先端こそ尖っているものの、それ以外の部分は滑らかで、触れても問題ない。それに細い為、不意を打たれなければ致命傷にはならない。
円錐水晶をすり抜ける際に、尻尾の先が円錐水晶に偶然当たり、乾いた音を立てて折れた。
どうやら円柱水晶の耐久力はあまり無い様だ
『なかなかにすばしっこいな。ならばこれはどうする? 【眷属生成・水晶蟹】』
俺の周囲に、もはや見慣れた水晶を背負った蟹が突如地面から生えて(・・・)きた。
不思議なことに、水晶蟹が現れた地面には穴は無い。地面の下から出て来たのではないと言う事は……。
「おいおい、まさかとは思うが生物を生み出せるのか!?」
現れた水晶蟹の数は……三匹。
三匹だけならば問題ないが、ここに今戦っている白蜥蜴まで加わると―――一気に厄介な状況だ。
まさか白蜥蜴は巨蟹の様に水晶蟹に戦闘を任せる等しないだろうし、共闘されれば更に戦いが厳しくなる。
「ガァァァァァァァ!」
俺は周囲の水晶蟹を無視して、白蜥蜴に向かって走り出した。
みるみる縮む白蜥蜴との距離、俺は拳を握り直し、自分の使える手段を思い浮かべていた。
投稿数50話を超えてようやく魔法の登場!




